骰子の眼

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東京都 渋谷区

2019-09-27 21:00


同性婚合法化の台湾発!2組の同性カップルが妊活に奮闘『バオバオ フツウの家族』

「リスクを負ってでも冒険するのは、まさに未知の世界へ踏み出す勇気」監督語る
同性婚合法化の台湾発!2組の同性カップルが妊活に奮闘『バオバオ フツウの家族』
映画『バオバオ フツウの家族』謝光誠監督 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

2組の同性カップルが「赤ちゃんがほしい」と妊活を行う姿を描いた台湾映画『バオバオ フツウの家族』が9月28日(土)より公開。webDICEでは、この作品が長編第1作となる謝光誠(シエ・グアンチェン)監督のインタビューを掲載する。

主人公はロンドンの会社で働くジョアンと画家シンディの女性カップル、そしてジョアンの友人チャールズと彼の恋人ティムという男性カップル。2組が協力して妊活に奮闘する姿を描いている。2019年5月に同性婚が台湾で合法化される前に完成していた作品だが、アジアで一早く同性婚が認められた台湾社会のリアリティを感じられるだけでなく、挑戦を続ける主人公の心情のメタファーとして宇宙飛行士が登場させるなど、ファンタジックな演出も加えるている。また英国籍を得るための自らのキャリアと、パートナーへの思いの間で揺れ動くジョアンを始めとする4人の姿は、自分の意思で生きることの大切さを真摯にそしてユーモラスに伝える。日本でもこうしたゲイファーザー、レズビアンマザーがフツウに登場する社会に早くなることを願わずにはいられない。


「劇中で宇宙飛行士を登場させたのは、デビッド・ボウイが好きだからです。『スペイス・オディティ』で表されている“勇気ある人類の未知への探求”は、この映画にも通じるところがあります。2組のカップルが子供を持つにあたり、リスクを負ってでも冒険するというのは、まさに未知の世界へ踏み出す勇気と言えるでしょう」(謝光誠監督)


ロンドンから台湾へのロードムービーが最初の構想

──本作は優良劇本奨で入選した鄧依涵(デン・イーハン)の脚本『我親愛的遺腹子』がプロデューサーの林文義(リン・ウェンイー)の目にとまったことがきっかけということですが、監督が演出をすることになった経緯を教えて下さい。

プロデューサーは、まだ同性婚が台湾で合法化されていない時だったので、この脚本には話題性があると思ったそうです。そして脚本家と会った後に私に話が来て一緒に作っていこうということになりました。

映画『バオバオ フツウの家族』謝光誠監督 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
映画『バオバオ フツウの家族』謝光誠監督

──本作は妊婦のシンディがひとりロンドンから台湾に戻るところから始まり、彼女の心象を表す車窓の映像が印象的です。監督は最初ロードムービーにしようと思っていたということですが、どんな展開をお考えだったのですか?

そうですね、自分の思うままにセミ・ドキュメンタリーみたいなロードムービーを撮れれば良かったのですが、製作予算の制限もありますので、なかなかそうもいきません。文化部や桃園市政府などの補助金が約800万台湾ドルでしたので、製作会社はこれと同額の資金を集めて5:5でなければならないという規定があります。完成したら宣伝費などがかかりますから、製作費は1,000万台湾ドルに押さえなければなりません。

映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
映画『バオバオ フツウの家族』ジョアン役の柯奐如(クー・ファンルー)[写真左] シンディ役の雷艾美(エミー・レイズ)[写真右] ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

冒頭のシーンは主人公がロンドンに別れを告げるという心模様を描きたかったので、ヒースロー・エキスプレスで撮影しました。ただ、このロケ申請はとても厳しいもので、使える時間も制限があります。ですから自分が考える演出方法にするならば、シンディと車窓の風景は別撮りにして処理しないといけないと思いました。また、空港でひとり旅立つシンディのシーンも撮りかたったのですが、ヒースロー空港に申請したらものすごい高額だったので諦めました。予算がなければ、編集などで工夫するしかないですね。ヒースロー・エキスプレスも1時間しか使えないので、カメラマンが私の撮りたい映像をよく理解して効率よく撮ってくれました。

映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

2組のカップルの子供を持つにあたっての冒険描く

──シンディ役の雷艾美(エミー・レイズ)は新人ですよね。

はい。シンディはもともとハーフという設定でしたので、ハーフの女優を探さなければなりません。ここでひとつ問題があって、政府の補助金の規定では1年以内に作品を完成させなければいけないので、キャスティングにかける時間が1ヵ月しかありませんでした。さらにロンドン側のプロデューサーから撮影する時期は5月しかないと言われていました。スケジュール的なことであまりたくさんの選択肢がない中で、雷艾美は純粋で可愛いだけでなく内面にこだわりを持った女性だったので、この役にピッタリだと思いました。彼女はテレビのバラエティ番組だけで映画出演の経験はありません。でも、それがかえって観客に新鮮に受け止められるのではないかということで決めました。

映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
映画『バオバオ フツウの家族』シンディ役の雷艾美(エミー・レイズ)[写真左]、ジョアン役の柯奐如(クー・ファンルー)[写真右] ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

──柯奐如(クー・ファンルー)のジョアンは適役でしたね。

そうですね、プロデューサーの推薦でしたが、ジョアンはしっかりしていて強い女性なので、会ってすぐにこの人しかいないと思いました。彼女は台湾では実力派で、これまでにも似たような役を演じたこともあります。そして今回あまり時間がない中で雷艾美のような新人もいますし、誰かひとりみんなをまとめて引っ張っていけるような俳優がいたら私も安心して演出に専念できると思っていました。ですから、彼女が引き受けてくれたことにとても感謝しています。

──男性カップルのひとりティムを演じた蔡力允(ツァイ・リーユン)は?

彼は可愛い部分が魅力なのですが、植物学者という落ち着いたタイプのキャラクターとはちょっとイメージが違います。でも、蔭山征彥が落ち着きといたずらっ子的な部分を合わせ持っているので、チャールズが引っ張っていくようにして、ティムは可愛い部分を強調するように台詞もあとで調整しました。

映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
映画『バオバオ フツウの家族』ティム役の蔡力允(ツァイ・リーユン)[写真左]、チャールズ役の蔭山征彥[写真右] ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

──4月に柯奐如が来日した時、劇中で宇宙飛行士が登場するのは、監督はデビッド・ボウイが好きだからだと言っていました。そのあたりを詳しく教えて下さい。

デビッド・ボウイが1969年に発表した有名な楽曲「スペイス・オディティ」では、架空の人物であるトム少佐という宇宙飛行士が宇宙船から外に出て漂流し戻って来ないという歌詞です。ここで表されている“勇気ある人類の未知への探求”というのは、この映画にも通じるところがあります。2組のカップルが子供を持つにあたり、リスクを負ってでも冒険するというのは、まさに未知の世界へ踏み出す勇気と言えるでしょう。

(オフィシャル・インタビューより)



謝光誠(シエ・グアンチェン)

1969年生まれ 台湾大学社会学部卒業、1999年ロンドン国際映画学校卒業。台湾へ戻ってCMや短編、ドキュメンタリーを撮る。短編『夏日酷暑的輓歌』が2004年にイタリアFANO映画祭のコンペティションで審査員賞を受賞。2015年、『進擊的煉乳』がアメリカFilm Crash international Film Festivalの短編部門のグランプリ獲得、台湾最大のインディペンデント映画祭「台灣城市遊牧影展(Urban Nomad Film Festival)」の大遊牧獎を受賞した。 本作が長編の第一作。




映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
映画『バオバオ フツウの家族』 ©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

映画『バオバオ フツウの家族』
9月28日(土)新宿K's cinema ほかにて全国順次公開

監督:謝光誠(シエ・グアンチェン)
出演:雷艾美(エミー・レイズ)、柯奐如(クー・ファンルー)、蔭山征彦(カゲヤマユキヒコ)、蔡力允(ツァイ・リーユン)、楊子儀(ヤン・ズーイ)
原題:親愛的卵男日記
英題:BAOBAO
配給:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER
2018年/台湾/97分/1:1.85

公式サイト


▼映画『バオバオ フツウの家族』予告編

キーワード:

台湾 / 同性婚


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