骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2019-09-10 22:38


映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』1冊のノートが認知症の母と家族を繋ぐ

監督インタビュー「誰かのために誠を尽くす心、それは料理も映画も同じです」
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』1冊のノートが認知症の母と家族を繋ぐ
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

認知症になった母親と家族の絆の再生を描く韓国映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』が9月13日(金)よりアップリンク渋谷アップリンク吉祥寺にて公開。webDICEではキム・ソンホ監督のインタビューを掲載する。

女手ひとつで惣菜屋を営むエランにある日、認知症の症状が現れる。息子のギュヒョンは、エランを介護施設に預けることを決めるが、エランがレシピをしたためた1冊のノートを発見し、母から家族への思いに心動かされる。息子の顔さえ判別できなくなるエランに対し、自らの将来への不安を抱えるギュヒョンが、あらためて家族の絆を確認する過程が丁寧に描かれている。ソンホ監督はシンプルな物語のなかに、手を差し伸べることの大切さを伝える。また、ギュヒョンは母を“グループホーム”(住まいの近くで治療を受ける集団生活型介護)に入れることを決めるが、身近な人が認知症になったらどうするか、考えるきっかけとなる作品になっている。


「認知症は、国と社会が持続的に関心を持たなければならない病気です。すべての社会は国民の福祉を目指しますが、結局、社会的弱者として優先順位が低くなってしまったのはお年寄りで、それほど関心の薄い社会問題でした。私は映画を通じて韓国でも“グループホーム”のような社会的装置が用意され、拡散されることを願う気持ちで作りました」(キム・ソンホ監督)


自分の実経験をたくさんストーリーに入れた

──本作の制作のきっかけを教えてください。

前作品『犬どろぼう完全計画』は子どもたちと一緒に観ることのできる韓国映画をと思い、作りました。その後、親や年配の方々とも一緒に観ることのできる映画もあればという希望が出てきました。 ちょうどZOA FILMS(製作会社)で認知症に関する映画を作ろうという提案があり、良い機会だと思いました。

映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』キム・ソンホ監督 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』キム・ソンホ監督 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

──監督の実体験を元に脚色されているそうですが、具体的に映画のどのシーンにそれが表れていますか?

家族のエピソードを現実的に見せるために、自分の実経験をできるだけたくさんストーリーに入れたいと思いました。 具体的に言うと、非常勤講師である息子ギュヒョンの喜びや哀しみ、二人の兄弟と母の過去の話、おにぎりに関するお母さんのレシピなどはすべて私と私の家族の話でもあります。またスワンボートの場面は20年前に高速道路でトラックに積まれたスワンボートを見た時、いつか必ず映画に入れたいと思った場面でもあります。

映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

──監督とお母さんの一番印象に残っている想い出は?

映画で似ている話が出てきますが、幼い頃、夏の日に海辺で私と私の弟、そして母と一緒に日傘をさして大きなチューブの上に乗って、海の上に浮かんでいたことがありました。 時間がどれだけ経ったのも分からず、気が付いたら茫々たる大海に浮いていた思い出があります。 その時のことを母がいつも話していて、私にも大きな思い出になりました。 もちろん映画とは違い、私たちは無事に救助されましたが。

──お子さんや近しい方に残したい、お母さんの想い出の料理はありますか?

私の母の思い出の料理は、孫娘たちのために作ったおにぎりです。味にうるさい子どもたちのために、孫たちが好きな味と材料はおにぎりの外側に、子供があまり喜ばないけれど栄養と健康を考えた材料は密かに内側に入れて、孫たちが訪ねた時に出してくれました。子どもたちの名前を付けて作ったおにぎりをみると、母の愛と温かい心が感じられます。

映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

言葉より行動で感じられる愛情表現が、大きな感動を与える

──主演のイ・ジュシルさんにお母さんを演じてもらってどうでしたか?

イ・ジュシルさんは、長い間演技生活をした俳優たちに良く見られる自慢や怠惰が全くなく、演技を始めたばかりの若い俳優のように演技への情熱が溢れる俳優です。いつも謙遜な態度で自身を見つめ、最善を尽くそうとする立派な俳優なので、私もイ・ジュシルさんから演技に関する多くのことを学ぶきっかけになりました。

──この映画のお母さんは、息子だけじゃなく、孫や周囲の人たちのことの未来も考えながら惣菜を作っていますね。監督の映画製作に対する姿勢に通ずるところがあるのでしょうか?

もちろんです。誰かのために何かを作るということは、それを享受するすべての人のために最善を尽くして誠を尽くす心を意味するし、それは食べ物だけでなく映画も同じだと思います。

──母エランは息子ギュヒョンに辛く当たっていましたが、言葉を料理に変えて愛情を注いでいたのだと思います。監督自身、言葉に出来ない気持ちがあった時に、どういう手段でそれを伝えますか?

人に対する愛情や感情をすべて言葉で表現することはできないと思います。むしろ言葉より行動で感じられる愛情表現が、より大きな感動を与えてくれると思います。 私は言葉で愛情表現をするのが下手な上に恥ずかしいとも思ってしまうので、相手の気持ちを配慮したり、小さな行動で愛情表現をするほうです。もちろんずっと分かってもらえないと寂しくなりますけれどね。

映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

認知症は、国と社会が持続的に関心を持たなければならない

──韓国と同様、日本でも認知症は大きな社会問題となっています。映画を通じてどのようなメッセージを込められましたか。

認知症は、国と社会が持続的に関心を持たなければならない病気です。すべての社会は国民の福祉を目指しますが、結局、社会的弱者として優先順位が低くなってしまったのはお年寄りで、それほど関心の薄い社会問題でした。 日本は高齢社会に入り、 認知症に対する多くの研究と配慮、社会的制度が用意されていると聞きました。 私は映画を通じて韓国でも“グループホーム”のような社会的装置が用意され、拡散されることを願う気持ちで作りました。

──監督にとって家族とはどんなものですか?また家族の料理とはどんなものでしょうか?

人間の赤ん坊は自力で生存するために、成人に頼る期間が一番長い動物です。それぐらい家族の愛情と支持がなければ生き残れない存在でもあります。 家族とは、そのような関係の中で一生お互いを頼り、力になれる人の集まりだと言えます。 そして料理は生存の形でもありますが、こういった心の表現でもあります。

(オフィシャル・インタビューより)



キム・ソンホ

第6回釜山国際映画祭や第21回ジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭など、多くの賞を受賞した長編映画デビュー作『Mirror~鏡の中』(2003)を始めとして、『黒い家』(2007)の脚色、オムニバスホラー映画『怖い話2』(2013)のうち 「絶壁」の演出を任されるなど、ホラー系ジャンル監督として活躍。以後、ドラマや恋愛系など様々なジャンルに挑戦し、演出から編集、脚色、プロデューサーに至る多方面で活躍しながら映画監督としての足固めをした。『犬どろぼう完全計画』(2015)が多くの映画祭で受賞及びノミネートされ、第52回大鐘賞の監督賞部門にノミネートされるなど、優れた演出力を認められた。




映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED
映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』 ©2017, ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』
9月13日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督:キム・ソンホ
出演:イ・ジュシル、イ・ジョンヒョク
プロデューサー:イ・ウンギョン
脚本:キム・ミンスク
撮影:ソン・サンジェ
音楽:カン・ミングク
プロダクション・デザイン:ウン・ヒサン
編集:オム・ユンジュ
制作:(株)映画社チョア
原題:Notebook from My Mother
配給:アーク・フィルムズ、シネマスコーレ
2018年/韓国/16:9/104分

公式サイト


▼映画『お料理帖~息子に遺す記憶のレシピ~』予告編

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