映画『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』 © 2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.
『君の名前で僕を呼んで』『ビューティフル・ボーイ』のティモシー・シャラメが主演を務める青春映画『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』が8月16日(金)より新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほかにて公開。webDICEでは、本作が長編デビュー作となるイライジャ・バイナムのインタビューを掲載する。
舞台は1991年、マサチューセッツ州の海辺の小さな町ケープコッド。夏を叔母の家で過ごすためにやってきたダニエルは、地元の不良少年ハンター・ストロベリーとつるむようになる。ハンターの妹のマッケイラと恋に落ちたダニエルだが、一方でハンターを手伝う形で一緒に大麻を売りさばき始める。今回のインタビューでバイナム監督が語っているように、ドラッグ売買に次第にのめり込んでいく主人公ダニエルの姿を通して、自分だけの世界を抜け出し、外の世界に向き合わざるを得ないティーンの姿と、何かに熱狂的に打ち込んでいた自分自信を取り戻そうとする大人の感情の双方を描こうとする。父親の不在による空白を抱えながら、降って湧いた金儲けの際どい魅力や好きな女の子への情熱を物憂げな表情で表現するティモシー・シャラメの存在感だけでなく、いわゆるミュージック・ビデオ的な演出からも距離を置き、10代の青春映画にある典型的なパーティーの熱を突き放したよう描写していくバイナム監督の手腕が光る。
「自分自身と世界に対して何かを証明するんだと決意し、何かを一心に求めながら、いざ探しているものが見つかってみると、欲しいものではなかったと気づくキャラクターに、私は興味を引かれます。違ったふうにやりたいのに、それができないという、あの胸がうずいて、つらい、やるせない思い。そして最終的には、世の中はこういうものだと受け入れざるを得なくなる。それが大人になるということなんだと、私は思います」(イライジャ・バイナム監督)
実在の人物から構想された物語
──このストーリーはどこから着想しましたか?
私はマサチューセッツ州の大学に通っていたのですが、そこで本作に登場するダニエル・ミドルトンとハンター・ストロベリーによく似た2人の若者に出会ったのです。1人は物腰が柔らかくて内気な、どこにでもいるタイプの青年でした。その彼が、危険な匂いがして肩で風を切って歩いているような男、つまりビジネスパートナーには迎えたくないタイプの男と組んで、大麻を売るビジネスを始めたのです。このちぐはぐなコンビは、学校の寮で大麻を売っていました。たちまち5つの寮へと手を広げたかと思うと、それが10棟へと広がり、あっという間にキャンパス中の人々が、2人から大麻を買うようになっていたんです。やがて2人はキャンパスの外でも売り始め、いつの間にか自分達の能力を超えた状況になっていました。ビジネスは2人の想像以上のスピードで成長し、ニューヨーク州北部やペンシルベニア州まで車を走らせなければならないような状況だったんです。私はこうしたことのすべてを、部外者として眺めたり、噂話を聞いたりしていたのです。誰もが彼らのことを話題にしており、彼らが何を計画しているか知っていました。やがて2人の関係はほころび始め、互いに疑心暗鬼になり、詳しい説明は省きますが、メロドラマみたいな終わり方をしました。2人とも一夜にして退学し、姿を消したのです。彼らのストーリーには、どこか悲劇的なところがあります。ちぐはぐな2人の友情、急激な成り上がりと、劇的な破綻――すべてがたった1年で起きました。何年も経ってから、私が描くべきストーリーを探していた時、2人の物語が繰り返し頭に浮かんだのです。
映画『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』イライジャ・バイナム監督
──どうして1991年の設定にしたのですか?
1991年と言えば、私が4歳の年です。なので、この年のことはほとんど覚えていないのですが、このストーリーは過去に設定して、ぼんやりした記憶のように感じられる作品にしたいと思いました。事実に基づくロジックではなく、感情的なロジックに駆られたような映画にしたいと。これは大人になることについての、感情的なストーリーと言えます。人は思い出を振り返る時、実際に起きたことを思い出すのではなく、どんな気持ちになったかを思い出していますし、リアリスティックにストーリーを組み立てようとするよりも、そのほうが映画的体験として望ましいと私は考えたわけです。そのほうが、小さな町のお伽話とか伝説として、うまく機能するはずとも思いました。また、インターネットや携帯電話がまだ登場していなかった最後の時代――小さな町がもっと孤立したように感じられ、伝説が昔話のように花開いた頃――を描きたいと思いました。私は『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『レディ・プレイヤー1』のような、80年代を回顧する作品が次々発表される前に脚本を書き始めていましたし、80年代には興味はありませんでした。それでも、みんなが今思い出せるくらい馴染みのある時代に設定したいと思いました。それに、90年代初頭を振り返って描いた作品は、まだ数が多くありませんしね。1991年にハリケーン・ボブがコッド岬に上陸したことを知り、それをストーリーの軸にしたのです。
アイデンティティーを探し求める主人公ダニエル
──主人公のダニエル・ミドルトンは、どんな人物ですか。
彼はよそ者で、孤立していて、どこにでもいるような純真な若者で、誠実さが魅力ですが、自分に魅力があることに気づいていないような感じの男です。自分のことを、ごくごく平凡な人間だと思っています。そして明らかに、自分の得意なことをまだ見つけていません。それに、父親を亡くしてから、どう生きればいいのか分からなくなり、アイデンティティーを探しています。自分は重要な人間で、特別で、価値があると感じさせてくれるものを見つけようとしているのです。秋になったら大学に進学するので、今は転換期です。ティーンエイジャーから青年へと花開こうとしており、自分が何者なのかを突き止めようとしています。あの年頃に、アイデンティティーの確立に役立つものを見つけることのできる幸運な人もいます。友達のグループだとか、音楽やスポーツ等の特別な才能があるとか――自分がそこに惹かれて、アイデンティティーにできるようなものを見つけるわけです。ダニエルにはそういったものがありませんが、夏を過ごすことになった新たな環境の中に、何かを探し求めています。そしてトラブルに出くわすのです。
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──ハンター・ストロベリーという人物と、この映画で強く印象に残るハンターとダニエルの関係を説明してください。
小さな町に住んだことのある人なら、ハンター・ストロベリーのような若者が必ず身近にいたはずです。つまり、クールな若者で、男が全員、こんなふうになりたいと憧れる男で、女の子はみんな、彼とつき合いたいと思います。何もしなくてもカッコよく、アメリカ人が抱くクールな男の典型のような人物です。そういう若者にはミステリアスなところがあります。彼が両親と一緒にいるのを見たことがありませんし、彼がどこに住んでいるのかも、あのカマロの新車をどうやって手に入れたのかも分かりません。それでも彼は町で最初にタバコを吸い、タトゥーを入れる若者です。そして自分で決めたルールに従い生きている若者です。これは私の実体験ですが、こういうタイプの若者は、いったん知り合いになると、外から見るほどいい人生を送っているわけではないと分かります。彼らが用心深くてミステリアスなのには、理由があるんです。大抵は何かを隠しています。それに、彼らは想像もつかないほど孤独です。ハンターのような男は、人生の絶頂期を早い時期に迎えることが多く、彼らは行き場を持っていません。クールで素晴らしく見えますが、どこか悲劇的なものを内に秘めています。そのことに当初、ダニエルは気がつきません。彼はハンターの外側だけを見て、ハンターはダニエルにとってタイラー・ダーデンに――ダニエルがこうなりたいと思う人物に――なります。私がこの映画の中で描きたかったことのひとつは、ハンターは想像していたような人間ではないと気づいた時の、ダニエルの落胆です。
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──監督はハンターとマッケイラに伝説的人物のようなオーラを与えましたね。2人には、ジェームズ・ディーンと『陽のあたる場所』のような雰囲気があります。2人にこうしたオーラを与えたことについて、教えてください。
このストーリーは、アメリカらしさと民間伝承の要素が織り込まれた、小さな町の都市伝説のように感じられるものにしたかったのです。とてもメロドラマっぽくて大げさなストーリーなので、信じられないという気持ちを押しとどめて、ドラマに身を委ねてもらわなければなりません。私は誇張された世界を――誰もが実際よりも大きく見える世界を――創り上げようとしました。そうすれば、このストーリーで語られている大きな感情の揺れも説明しやすくなります。成長することや青春時代が刺激的であることの理由の1つに、感情が増幅されがちだという点があると思います。恋をした相手のことが、生涯愛する唯一の相手のように思えることがあったり、二度と息ができないかもという思いを抱いたりすることもあります。何もかもが、実際以上にきらびやかに感じられるのです。とくに夏の間、ホルモンの働きが高まっている時は。感情が昂ぶっている時は、3カ月という時間が1年のようにも、ほんの一瞬のようにも感じられるものです。
いずれ神話になるかのような話として感じてほしい
──この映画で使われているユニークなフレーミングとナレーションについて教えてください。
『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』は、町に住む年上の子供達を眺めている13歳の少年――本作のナレーター――の目を通して語られます。それは、彼にとって世界のすべてです。1991年にはインスタグラムもツイッターもありませんでしたから。こういう状況にある子供は、車で20分も走れば、別の生活圏と伝説を持つ町があるということを考えようともしません。あの時、この子にとっては、ハンター・ストロベリーとマッケイラがすべてだったのです。そういうことが、どれほど人を夢中にさせるかを、私は描こうとしました。わざと極端にして、この2人の登場人物を大げさに紹介したんです。フットボールの試合会場で、不良少年が車から降りてくるのを垣間見た時、私はあんなふうに感じたのを覚えています。まるで映画みたいで、ジェームズ・ディーンがやってきたかのように感じました。もちろん、大人になって振り返ってみると、バカバカしいと気づきます。また、この映画の元になった本当の出来事を、私は部外者として見守ったり、噂で耳にしたりしただけだったので、こういうやり方が、本作のストーリーを伝えるのに一番ふさわしいと思ったのです。この映画は、又聞きした話、自分が通った高校の噂話、時に大げさで、時に支離滅裂で、いずれ神話になるかのような話として感じてほしいと思いました。どこまでが事実で、どこからが伝説なのか、よく分からない。そういった、どちらとも取れるような空間というのは興奮させてくれるものです。
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──ご自身の脚本を世に送りだすために、最初にどういうステップを踏みましたか?
私はクリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシーでアシスタントをしていた時に、別の脚本を1本書いたのですが、それにオプションがついたので、プロとしてやっていけそうだと自信がついたのです。それで数千ドルの預金ができたところで仕事を辞め、『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』を書きました。これは私が書いた2本目の脚本で、当時まだ23歳でした。今となっては、大昔のことのように感じられます。私はただ、楽しい映画になりそうだと感じられるものを書きたかっただけで、それでエージェントを見つけて、今後の書く仕事につながればと思っていたのです。脚本はいろんな人が読んでくれて、ブラックリストというサイトにも載り、そこから書く仕事をもらいましたが、脚本自体はそのまま進展しませんでした。みんなストーリーを気に入ってくれたのですが、いろんな理由で、映画化したいという人が現れませんでした。R指定でしたし、小規模なインディペンデント映画にしては、予算的に厳しいこともありました。また、最初はもっと暗いエンディングにしていたのです。私は雇われライターとして、いくつか仕事をしたのですが、他の人の脚本を手直ししたり、マンガやグラフィックノベルを売り込んだりするのは、あまり得意ではありませんでした。オリジナルのストーリーを創って最後までやってみるほうが、ワクワクしたのです。
──監督経験がなかったのに、この映画を監督することに決めた経緯は?
私が尊敬する映画制作者とは、脚本と監督の両方を手がけているか、あるいは監督として極めて明確なビジョンを持っているかのどちらかです。そして私は、何年もアイデアを温め続けていたので、『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』がどんな映像になるべきかについて、はっきりしたビジョンを持っていました。ミュージックビデオやコマーシャルを手がけている監督等、これを映画化できそうな人達に、私達はすでに片っ端から接触していました。私達が会った監督は、みんな才能豊かで素晴らしい人達でしたが、私が頭の中に創り上げていたような形で撮ろうとした人は、誰もいませんでした。やがて、この映画がどのように感じられて、どのような映像になるべきかを、はっきり分かっているのが私であるなら、どうして自分で撮らないんだという、奇妙と言うか、やや傲慢な考えが湧いてきたのです。私のエージェントとマネジャーにそのことを言った時、彼らが縮み上がるのが電話越しに分かりました。私は当時、25か26で、監督経験はまったくありませんでした。ミュージックビデオも、短編映画も、コマーシャルも。何一つです。それでも、監督の技術的な面や俳優との関わり方は学ぶことができるし、優秀なスタッフを雇って、どういう映画を作りたいか伝えることもできると分かっていました。今にして思えば、とんでもない話に聞こえます。この映画を監督して、何かを創ることのたいへんさが分かったので、このやり方を人には勧めませんね。
ティモシー・シャラメこそ主人公ダニエル
──どのような経緯でティモシー・シャラメに注目したのですか?
『HOMELAND』で彼を見て、ティーンエイジャーを驚くほど本質的かつ正直に表現する役者だと思いました。彼からは自信と愛すべき傲慢さが感じられますが、それでいて真摯さと誠実も持ち合わせていました。それこそ、私が脚本に書いたダニエル・ミドルトンでした。ティモシーは『インターステラー』でも小さな役ながら、非常に強さと自然さを兼ね備えた演技を見せていました。年月を経て、彼はより彫りが深く、ハンサムになりましたが、当時はとても少年っぽいところがあり、ぱっと見はガリ勉のオタクのような感じすらしました。光の当たり具合によっては、ハンサムになるといった感じです。ダニエルは映画の冒頭ではどこにでもいるような少年だったのが、ストーリーが進むにつれて麻薬の売人の親玉へと変化する役であり、町で一番モテる女の子が恋する相手へと変貌します。その両極端を演じることのできる俳優を見つけるのは、簡単なことではありませんでした。
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──この役のために多くの俳優を検討しましたか?
ダニエルという登場人物を書いた時は、この役を演じられる若者はたくさんいるだろうと思っていました。必要だったのは、やや古いタイプの、どこにでもいそうな男の子でした。ところが、ぴったりの俳優を見つけるのは、思った以上に難しいことでした。早い段階で、ティモシーがいいんじゃないかと思い、ごく初期の段階で彼に会いました。彼はスウェットのパンツとバックパックという出で立ちで元気一杯にミーティングに現れ、私達はたちまち意気投合しました。彼こそダニエルだ、私達が探していた若者だと思ったんです。それでも、投資家を満足させるために、さらに精査して、もっと有名な俳優も検討しました。私はティモシーに連絡を取り続け、諦めないでくれ、必ず連絡するからと言い続けたんです。最初にティモシーに会ってから、あの役をオファーするまでに、5カ月か6カ月ありましたが、彼は最初からこのプロジェクトに情熱を燃やしていましたし、彼こそダニエルだと、私には分かっていました。一目惚れというやつですよ。
──アレックス・ローは、ハンター・ストロベリーにまさにぴったりです。どうやって彼を見つけたのですか?
彼に関しては、非常にラッキーでした。彼はどこからともなく現れたんです。私達は新たなブラッド・ピットやリヴァー・フェニックスを見つけたかったのですが、そんな俳優が、いったい何人いるでしょう? 才能豊かな俳優をたくさん検討しましたが、アメリカ独特の男っぽさと、世界レベルの容姿と魅力とカリスマを兼ね備えた俳優を見つけるのは、難しいことでした。ハンターは単なる鬱屈したワルではなく、傷つきやすい一面も持っています。粗暴な態度の陰には一人の人間がいる。それを演じるのは簡単なことではありません。神話的人物のような風格が必要ですから。私達は探しに探しましたが、しっくり来る俳優を見つけることができませんでした。そんな時、アレックス・ローが売り込み用の映像を送ってきたのです。彼は明らかなイギリス英語で自己紹介してから、瞬時に切り替えてマサチューセッツ州東部の地元民に成りきりました。そこで、実際に彼に会ってみたのです。現実のアレックスは、ハンター・ストロベリーには似ても似つかない人物です。しかし、だからこそ、独特のやり方であの登場人物に取り組むことができたのだと思います。彼は現実の彼自身の対極にあるような人物を演じていました。役作りのために、撮影前に2週間コッド岬に滞在して、地元の人達と付き合い、観光客に大麻を商う売人も見つけて、マサチューセッツ州のアクセントをマスターしました。彼はとてもやる気と集中力がある俳優です。彼を見つけることができたのはラッキーでした。何より時間がありませんでしたし、他のキャストはみんな決まっていましたからね。
──マイカ・モンローを起用したのは、『イット・フォローズ』での演技をご覧になったからでしょうか。
はい。『イット・フォローズ』が公開された時に、ちょうどキャスティングをしていたのです。あの映画で、彼女はとても簡単そうに演じています。でも、あの登場人物がしていることを考えてみると、映画の最初から最後までずっと怯えており、メロドラマっぽくならず、また観客を苛立たせることもなく、そんな演技を続けるのは難しいことです。マイカは人間らしさをあの役にもたらしており、それはマッケイラの役に是非とも必要なものだと、私は感じました。私達に必要だったのは、何もかも控え目に演じてくれる人物でした。マイカはメロドラマや感情をそぎ落とすのがとてもうまいのです。さらに彼女はアップで映すても素晴らしいんです。カメラ映りが抜群に良いんですね。どうすればカメラのほうへ身を乗りだしても嘘っぽくならないかを、彼女は知っています。『イット・フォローズ』でも、それが活きていました。私達は彼女と顔合わせをして、それからティモシーとの相性を見るために本読みをしてもらいました。何年も前から温めていたシーンを演じる2人を眺めるのは、脚本家冥利に尽きましたね。
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──詩人のような警官を演じるトーマス・ジェーンや、イカれたコカインの売人を演じるウィリアム・フィクトナーらの、大人の演技が印象的です。
トーマス・ジェーンを好きでない人がいるでしょうか。私は思いだせないくらい昔から彼のファンでしたが、出演してもらえるとは思っていませんでした。彼にしか表現できない、あの奇妙なエネルギーを表現してほしいと依頼すると、出演を快諾してくれました。彼の役は、小さな町の警官として生きている、苛立ちを抱えた詩人だと、私は考えています。トーマスは、この登場人物が味気なくなりすぎたり、ありきたりになったりしないように、見事な仕事をしてくれました。時々、彼の演技が台本どおりでないこともありましたが、脚本では非常に分かりやすい役である登場人物を土台にして、彼なら何かを創り上げてくれると信じていました。この映画で彼を観るのは楽しいですね。
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フィクトナーの出演シーンに関しては、撮影の大半を終えた後に撮りました。あの役のシーンは1日で十分に取り終えられるものでしたが、私達は全員、ウィリアムの一連の仕事が大好きでした。彼は極めて強烈な俳優です。その人がカメラに映ると、目を逸らすことができない。彼はそういう面構えの持ち主です。私達は、現場で彼に圧倒されました。あのシーンは、元々はもっと長かったんです。10分から12分あったんですが、彼の演技が好きすぎて短くするのに苦労しました。最終的には、6分近くになっています。ウィリアムには救われましたよ。彼は私が脚本の中に見い出せていなかったものを、もたらしてくれたのです。これこそ、俳優から手に入れることのできる、最も胸躍るものかもしれません。
特定の年や時代へのノスタルジアを表現したわけではない
──この映画の音楽は、それ自体が主人公のようでした。音楽のチョイスについて教えてください。
私はいつも音楽のリストを作って、それを念頭に置いて脚本を書きます。そうすれば、自分が書くシーンのトーンとエネルギーを整えやすいからです。『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』では使いたい曲が25曲ありましたが、どれも資金が足りなくて使用できませんでした。映画で使った曲はどれも、最初に私が考えていたものとは違いますが、同じ音楽的空間に存在しています。私は1991年の曲をただ選ぶようなことはしたくありませんでした。あの時代のビルボードのヒットチャートから選ぶのは、あまりにも安易な時間と空間の設定の仕方ですし、嘘っぽく感じられます。特定の時代を創り上げるために頑張りすぎているみたいで。この作品は特定の年や時代へのノスタルジアを表現したわけではなく、むしろぼんやりとした遠い昔や、過ぎ去った時代を表現しようとしていました。人はどんなふうに「過去」をぼんやり思いだすのでしょうか。繰り返しになりますが、私は本作を、どのような事実が起きたかについてではなく、どのように記憶されているかについての映画にしたかったのです。登場人物の感情から湧き出てくるように感じられる音楽にしたかったので、時代的に正しい音楽というよりは、感情的にしっくり来る音楽を選びました。
──音楽を映画に織り込むあなたのアプローチについて教えていただけますか。どうしてあんなふうに滑らかにできたのですか?
正しい選曲ができるという点については、自分でもどうしてなのか、よく分かりません。音楽が流れると、私にはたちまちその曲に合う映像が見えるんです。必ずしも映画的なシーンとは限りません。その曲に合いそうなシナリオの映像が浮かぶのです。昔からそれが自然にできていました。
──この映画を観た人に、何を感じてもらいたいですか?
自分自身と世界に対して何かを証明するんだと決意し、何かを一心に求めながら、いざ探しているものが見つかってみると、欲しいものではなかったと気づくキャラクターに、私は興味を引かれます。人は人生の流れに呑み込まれ、次に方法を正せるような教訓を得たいと思うものですが、時間を巻き戻して過去を正すことは不可能です。そういう内容の小説を読んだり映画を観たりして、何かモヤモヤするものがつきまとったり、自分自身の体験の中からも、そういう感情になったこともあります。違ったふうにやりたいのに、それができないという、あの胸がうずいて、つらい、やるせない思い。そして最終的には、世の中はこういうものだと受け入れざるを得なくなる。それが大人になるということなんだと、私は思います。
(オフィシャル・インタビューより)
イライジャ・バイナム(Elijah Bynum)
1993年マサチューセッツ州アマーストで生まれ育つ。マサチューセッツ大学アマースト校を卒業。クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシーでアシスタントとして仕事をしながら、脚本を書き始める。23歳の時に仕事を辞め、本作の脚本執筆に専念する。本作で長編デビューを飾った。現在は、TVドラマの脚本執筆などを手がけ、カリフォルニア州のロサンゼルスに在住。
映画『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』
8月16日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:イライジャ・バイナム
出演:ティモシー・シャラメ、マイカ・モンロー、アレックス・ロー、ウィリアム・フィクナー
原題:Hot Summer Nights
2018/アメリカ/英語/107分/シネマスコープ/5.1ch
配給:ハピネット
配給協力:コピアポア・フィルム