映画『メランコリック』を手がけた映画製作ユニットOne Goose(ワングース)の3人。写真左より、皆川暢二、田中征爾、磯崎義知。
ひょんなことから人生が動きだしてしまう人間模様を、変幻自在な展開とサプライズ満載のストーリーで描いた映画『メランコリック』が、いよいよ2019年8月3日(土)より全国公開となる。
本作は、現在31歳の同い年3人による映画製作ユニットOne Goose(ワングース)が手がけた第一弾作品である。ドラマ、サスペンス、コメディー、ホラー、恋愛など、さまざまなジャンルを盛り込みながら、一級の青春エンターテイメント作品に仕立て上げたその手腕が絶賛され、2018年に開催された東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で監督賞を受賞し話題となった。
その後も、ヨーロッパ最大のアジア映画祭であるウディネファーイースト映画祭にて新人監督作品賞を受賞。さらにドイツで開催される世界最大の日本映画祭ニッポン・コネクションと、北米最大の日本映画祭ジャパンカッツの2つの映画祭において、それぞれ観客賞を受賞し、まさに彗星のごとく現れた才能が日本映画界に旋風を巻き起こしている。
One Gooseのメンバーは、皆川暢二(本作のプロデューサー兼主演)、田中征爾(本作監督・脚本・編集)、磯崎義知(本作のアクション演出家兼準主役)の3人。田中と磯崎は、日大芸術学部演劇学科の同級生で、皆川とは後に舞台や映画の現場で知り合った。2017年冬に皆川が映画を作りたいという思いから田中と磯崎を誘い、One Gooseがスタートした。
資金集めのためのパイロット版として、3人はまず短編を製作した。アメリカの大学の映画科で脚本の基礎を学んだ田中は、はまっていたドラマ『ブレイキング・バッド』の影響で、"巻き込まれ型"サスペンスを当初から考えていたという。そして短編にはなかった、一見平和そうな「銭湯」が実は人殺しの場所になっているというプロットが追加され本作のストーリーの核になった。以下に3人のインタビューをお届けする。
映画『メランコリック』より
3人が納得して面白いと思える作品にしたかった
──ロケ地の銭湯はどうやって探したのですか?
田中:銭湯にとってはマイナスイメージになってしまうわけですが、磯崎君の家のすぐ近くにあった「松の湯」という銭湯が撮影を了承してくれたんです。
皆川:僕が直接交渉に行って、ストーリーを伝えたら「おお!」と了承してくれました。店主がイベントごとの好きな方で、『ケンとカズ』(小路紘史監督)でも撮影に使われている銭湯なんです。看板もそのまま変えずに撮影しました。今の銭湯はほとんどガスを使っていて、薪のボイラーがある銭湯はめずらしいんですが、「松の湯」にはあったんです。
田中:死体をボイラーの中で燃やす画を入れることができたのはラッキーでした。
──純アクション映画にするつもりはなかったのですか?
田中:アクション映画には、主人公が自分の命を顧みず、逃げずに戦う理由が必要なんですが、逃げない理由ってそんなにパターンがないんです。人質がいるとか、復讐劇とか、爆弾あるとかくらい。ストーリーにパターンをもたせられないので、インディーズ映画として戦うのは分が悪いジャンルだと。なので、純アクション映画にするのではなく、別ジャンルのなかにアクションの要素を入れることにしました。他の2人ががやりたかったことと、僕の得意分野である青春コメディと『ブレイキング・バッド』がミックスされた、3人が納得して面白いと思える作品にしたかったんです。
映画『メランコリック』より
──磯崎さん担当のアクション演出について教えて下さい。
磯崎:プロットが出来上がった当初は、ストーリーやシチュエーションだけで充分面白い作品になるんじゃないか、ここにアクションシーンを入れると返って非現実的になったり、「アクションやりたかったのね」的になったりしてしまうんじゃないかと密かに恐れていました。でも、そこは田中君の脚本力で、アクションシーンが有効に描かれるような台本に仕上がっていて安心して取り組めました。今回担当したのは、殺害シーンのナイフの構え方や切り方、物語序盤の小寺の一手、ビルの戦闘シーン、和彦のトレーニングシーンです。一番注意したのは、やはり安全面と、いかに無駄を省きキャラクターたちが任務を遂行するかという点です。跳弾や障害物への干渉が懸念される銃器は極力使用せず、素手とナイフをメインに作りました。
──皆川さんは役者として、どのように演技を組み立てていったのですか?
皆川:東大卒という今まで演じたことのないタイプの役柄だったので、東大の赤門に行ってリアルな学生を観察したり、YouTubeで東大生の生活みたいな映像を見たりしました。「これが東大生代表」というものはないですが、この脚本に描かれている東大生には一番近いのではないかと。頭いい人たちって、ひとつのことに没頭したり、長けている人が多い気がするので、そうなったとき他のことが目に入らなくなる脆さもあるように思います。
映画『メランコリック』より
──和彦と松本との友情が擬似家族のように深まっていくのと対象的に、和彦と両親との関係はシュールな感じさえしますが、これは狙いだったのでしょうか?
田中:あれは『セッション』(デイミアン・チャゼル監督)からインスピレーションを受けています。J.K.シモンズ演じる鬼教師と実の父親のどちらにつくかで葛藤する息子の物語として、僕はあの映画を捉えているんです。あえて和彦の家族を非現実的なまでに平和にしていますが、僕の両親もものすごく温和な人たちなので、ひょっとしてそれも人物造形に影響しているのかもしれないです。
──イタリア、ドイツ、上海といった海外の映画祭上映では、どんな反応を得られましたか?
皆川:期待した以上に喜んでもらえました。
田中:特にイタリアは映画リテラシーが高いと思いました。映画の見方やストーリーの読み方を、皆さんが自分の言葉で語れる印象がありました。現地の人に聞いたところ、教育が大きいらしい。ドイツも自分の意見を述べる訓練を学校でするそうです。自分の意見を譲らない面倒くさい人も多いとも言っていましたが、とはいえ映画を観たときに自分の感想を自信を持ってきちんと言語化することは、日本ではあまりされていないように思います。
──制作中の時点で、日本だけでなく世界にも受けるかもしれないと思いましたか?
田中:単純に銭湯が舞台なので、ジャパニーズ・カルチャーとして受けるのかな、とは話していましたが、蓋を開けてみると、銭湯だからではなくて、ストーリー的に面白かったという意見が海外ではほとんどでした。
映画『メランコリック』より
──もともと脚本家志望だったことは、監督をする上で影響しましたか?
田中:ストーリーテリングを覚えてからの方が、監督は絶対に効率がいいです。カリフォルニアの大学(オレンジ・コースト・カレッジ)ではハリウッド式の脚本の基礎を学んだのですが、ハリウッド映画では基本的に何分に何を起こすべきかというルールがあって、それをいかにアレンジするかがオリジナリティーになる。『メランコリック』もそれを完全に踏襲しています。きれいに発端→葛藤→解決の三幕構成になっていて、和彦が最初に殺害現場に関わっていくところをちょうど30分に置いていますし、次にアクションシーンで物語が大きく動き出す展開を1時間のところに持ってきて、その後、主人公が危機に陥って変わらなければいけない状況になり、そこから最後の反撃をするところで114分の映画が終わる設計にしています。もちろん、それだけが正解ではないですが、自分が面白いと思うものを作る手段として、設計図のように脚本を作っていく作業が性に合っているんです。特に言いたいことがあって尖っているタイプの監督ではないですし。
──今後、もし連続ドラマの話がきたら?
田中:やりたいですね! お待ちしています。
皆川暢二 (みながわ・ようじ)
1987年10月23日生まれ。神奈川県出身。体育教師を目指し大学に進学したものの、ひょんなきっかけで俳優の道を志す。小劇場を中心に活動していたが日本に居辛さを感じ、ワーキンクグホリデーを利用しカナダに一年の予定で滞在。残り3ヵ月を切った時点で自転車でアメリカ横断に挑戦。帰国後は映像作品を中心に俳優業を再開したが、自身の手で映画を作りたいという思いが強くなりOne Gooseを発起。
田中征爾(たなか・せいじ)
1987年8月21日生まれ。福岡県出身。日本大学芸術学部演劇学科を中退後、映画を学ぶためにアメリカはカリフォルニア州の大学に編入。 帰国後は舞台の演出及び脚本執筆をしつつ、映像作品を製作。現在はベンチャーIT企業で動画制作を担当。第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門にて初長編監督作である本作が上映され、監督賞を受賞。第21回ウディネファーイースト映画祭でも新人監督作品賞を受賞。
磯崎義知(いそざき・よしとも)
1988年3月14日生まれ。鹿児島県出身。幼少期より演じることに興味を持ち、クラーク記念国際高校パフォーマンスコースに入学。高校3年間で40本以上のイベントステージや演劇舞台公演を経験し、6本の映像作品に出演する。高校卒業後はロンドンへ演劇研修に行き、日本大学芸術学部演劇学科演技コースに入学。現在は俳優として活動する一方で、幼い頃からの武道の経験を活かし、タクティカルアーツ(戦術的芸術)・ディレクターとしても活動中。
映画『メランコリック』
2019年8月3日より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ港北ニュータウン、イオンシネマむさし村山ほか全国順次公開
バイトを始めた銭湯は、深夜に風呂場で人を殺していた――!?
名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかになり……。
監督・脚本・編集:田中征爾
出演:皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹、羽田真 、矢田政伸 、浜谷康幸、ステファニー・アリエン、大久保裕太、山下ケイジ、新海ひろ子、蒲池貴範 他
撮影:髙橋亮
助監督:蒲池貴範
録音:宋晋瑞、でまちさき、衛藤なな
特殊メイク:新田目珠里麻
TAディレクター:磯崎義知
キャスティング協力:EIJI LEON LEE
スチール撮影:タカハシアキラ
製作:OneGoose
製作補助:羽賀奈美、林彬、汐谷恭一
プロデューサー:皆川暢二
アソシエイトプロデューサー:辻本好二
宣伝:近藤吉孝(One Goose)
ポスターデザイン:五十嵐明奈
後援:V-NECK、松の湯
宣伝協力:アップリンク
配給:アップリンク、神宮前プロデュース、One Goose
2018年/カラー/日本/DCP/シネマスコープ/114分