映画『女王陛下のお気に入り』 ©2018 Twentieth Century Fox
『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のヨルゴス・ランティモス監督が18世紀のイングランドの王室を舞台に女王と彼女に仕える2人の女性の関係を描く映画『女王陛下のお気に入り』 が2月15日(金)より公開。webDICEではランティモス監督のインタビューを掲載する。
女王アンの侍女として仕えることになったアビゲイルは偶然、女王を操り権力を握る側近レディ・サラと女王の恋愛関係を知る。貴族の地位に返り咲く野心を持つアビゲイルは、ふたりの関係に割って入り、女王に取り入れられるために様々な策略を施す。これまでの作品にあった毒気はいくらか控えめに、ランティモス監督陽気でヒステリックな3人の女性の恋愛模様を活写。間もなく授賞式が行われる第91回アカデミー賞において女王アンを演じるオリヴィア・コールマンが主演女優賞にノミネート、侍女アビゲイル役のエマ・ストーンと側近サラ役のレイチェル・ワイズも助演女優賞にノミネートされており、受賞が期待されている。また3人の演技のバトルのほか、デレク・ジャーマン監督作品や『キャロル』で知られる衣装デザイナー、サンディ・パウエルが手がける時代考証と現代的感覚を融合させた衣装にも注目してほしい。
「僕にとって興味があるのは権力者であって、王族であることは重要じゃない。絶対的な権力によって生み出されるものが、不条理なんだ。そんな状況下では不条理がまかり通り、権力者たちが大多数の生活を左右する」(ヨルゴス・ランティモス監督)
今の時代にもある同じ課題を認識し、共感できる映画
──王室を舞台にした物語に惹かれた理由は?あなたを引きつけたものは何ですか?
僕にとって興味があるのは権力者であって、王族であることは重要じゃない。当時のイギリスで権力を握っていたのが王族だったというだけだ。権力を持つ人々なら、同じような物語が政治家や独裁者やその他の権力者でも作れる。絶対的な権力によって生み出されるものが、不条理なんだ。そんな状況下では不条理がまかり通り、権力者たちが大多数の生活を左右する。
映画『女王陛下のお気に入り』ヨルゴス・ランティモス監督
だから、特定の時代や王室、国家を正確に描くことが重要だと思ったことはない。権力を持った一握りの人間が、その他大勢の人生に影響を与えられる。そんな選ばれた人物の社会的地位に興味があった。実在の人物や歴史からインスピレーションを受けたが、その大部分は再考した。今の時代にもある同じような課題を認識し、共感できる映画になったと思っている。
映画『女王陛下のお気に入り』 ©2018 Twentieth Century Fox
──歴史劇の定石にとらわれない設定や演出はどのように考えたのですか?
この作品ではさまざまな要素を利用して、現代的な感覚を持たせた。脚本作りの段階から、共同脚本家のトニー・マクナマラとも相談し決めたんだ。現代的な言葉を用いて、当時風の話し方はさせないとね。衣装にも工夫を凝らした。服装は当時を再現したが、現代的な生地も取り入れている。本作に登場する人々の立ち居振る舞いは、ダンスや歩き方立ち姿までかなり現代的だ。音楽は当時のものもあれば、現代的なものも混ざっている。そんなふうに撮影した。だからこの作品はさまざまな要素が組み合わさり、現代的な作品でありながら、今に通じる部分やモダンなひねりがある。
映画『女王陛下のお気に入り』 ©2018 Twentieth Century Fox
3人の女性のさまざまな側面を描く
──女王アン、彼女と恋愛関係にある側近サラ、そして侍女アビゲイルという3人の女性をどう描こうとしたのでしょうか?
最初から目指したのは、彼女たちをできる限り複雑に描くことだった。この話は誰もが簡単に読んだり調べたりできるし、彼女たちの一面だけを見て短絡的に、こういう人物だと決めつけがちだ。僕たちが作り上げたかった登場人物というのは、話が進むにつれて、本人が変遷を遂げ観客の見方も変わる人物だ。必ずしも善人と悪人を区別できず、強者と弱者も決めがたい。この物語ではアビゲイルが、宮廷にやって来る。彼女は比較的、世間知らずで不運な人生からはい上がろうとしている。しかし多くの困難に直面する。そこで生き抜くために、ある種の行動を余儀なくされ、いろんな経験をするんだ。観客から見て彼女が築く人間関係は、常に本物なのかどうか判断しがたい部分がある。だが考えさせるところがいい。
映画『女王陛下のお気に入り』王女アン役のオリヴィア・コールマン ©2018 Twentieth Century Fox
レイチェル演じるサラもそうだ。国家を動かす自信に満ちた強い女に見えるが、女王に特別な愛情を抱いてる。それも物語の途中で疑いたくなるから不変ではない。オリヴィア演じるアン女王も同様だ。彼女を無力な弱い女王ととらえるのは、極めて短絡的だね。この作品を通して見えてくるのは、彼女が悩める女性であることだ。強力な君主ではなかったかもしれないが、サラやアビゲイルと過ごすうちに、彼女に変化が起こり予期しないことを成し遂げる。本作の最大の狙いは3人の女性を一面的にとらえず、彼女たちのさまざまな側面を描くことだね。
映画『女王陛下のお気に入り』側近サラを演じるレイチェル・ワイズ ©2018 Twentieth Century Fox
エマの演技には驚かされた。彼女のこれまでのキャリアには、このような役はなかったので、今回それを目の当たりにできたことは非常によい体験だった。
──宮廷の撮影にあたってはどのような考えがありましたか?
照明は基本的には、何もしなかった。夜の屋外の撮影では全く何も見えなかったので、照明を使うことが数回あったが、残りはすべて自然光で撮影した。スクリーンに映るのは、我々がその日そこで見たもので、これも映画の一部として捉えるのが私は好きだ。夜のシーンでは蝋燭の灯りを使った。こうすることで、最も重要で本質的な部分である役者の演技とカメラの動きに時間を集中することができる。
映画『女王陛下のお気に入り』アビゲイル役のエマ・ストーン ©2018 Twentieth Century Fox
──そして、衣装はサンディ・パウエルが担当しています。
シルエットは史実のまま、素材や色で遊びたかった。サンディと話し合って、色を限定したら面白くなると思いついた。ほとんどの色を白黒に限定した。そして、シルエットが機能するなら、革やデニムなど現代の素材でも何でも試した。
(オフィシャル・インタビューより)
ヨルゴス・ランティモス(Yorgos Lanthimos) プロフィール
1973年、ギリシャ、アテネ生まれ。長編映画デビュー作『Kinetta』(05)は、トロントとベルリン国際映画祭で上映され絶賛を浴びる。続く『籠の中の乙女』(09)はカンヌ国際映画祭“ある視点部門”グランプリ、『Alps』(11)はベネチア国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。さらに、初の英語作『ロブスター』(15)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され審査員賞を受賞、アカデミー賞R脚本賞にノミネートされる。ニコール・キッドマン出演の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)も、カンヌ国際映画祭でプレミア上映され、脚本賞を受賞。唯一無二の世界観と映像で最先端のカルチャーに敏感な人々の間で騒がれていたが、ドラマティックな物語を完成させた本作で、さらに大きく羽ばたいた。
映画『女王陛下のお気に入り』©2018 Twentieth Century Fox
映画『女王陛下のお気に入り』
2月15日(金)より全国ロードショー
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、オリヴィア・コールマン、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン
脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ
撮影:ロビー・ライアン
衣装:サンディ・パウエル
編集:ヨルゴス・モヴロブサリディス
2018年/アイルランド・アメリカ・イギリス/120分
配給:20世紀フォックス映画