骰子の眼

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東京都 中央区

2019-02-07 20:17


世紀のプロジェクト"月面着陸"はあまりに無謀な挑戦だった『ファースト・マン』

ライアン・ゴズリング×デイミアン・チャゼル、宇宙飛行士の視点で宇宙を描く
世紀のプロジェクト"月面着陸"はあまりに無謀な挑戦だった『ファースト・マン』
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures

『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督と主演ライアン・ゴズリングが再びタッグを組み、ジェミニ計画・アポロ計画に参加し人類で初めて月に降り立った宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を描く映画『ファースト・マン』が2月8日(金)より公開。webDICEではチャゼル監督のインタビューを掲載する。

チャゼル監督は緊迫感に満ちた月面着陸までのプロセスを宇宙飛行士の視点から観客に“体験”させるエンターテインメントの要素だけでなく、冒険家のイメージとかけ離れたおとなしい人柄だったというニール・アームストロングのパーソナリティーに肉薄。第二子カレンを病で亡くしたことのトラウマを克服するためにあえて危険な計画への参加を進言したことをつまびらかにする。感情を表に出さないアームストロングの人物像にゴズリングの“無表情”がはまっていて、献身的かつ気の強い妻ジャネットの協力を得て「無謀な挑戦」と言われた月への旅を成功させるまでを抑制の効いた演技で表現している。


「ニールは宇宙開発レースの立て役者だが、決して熱血タイプのパイロットではない。命知らずの冒険家というイメージだったが、実際には月面着陸のミッションも、仕事の一環だった。問題を解決するのが彼の仕事で、月面着陸は単に大きな問題の1つなんだ。性格も謙虚で物静かだったらしい。僕にとっては、そこが魅力だ」(デイミアン・チャゼル監督)


実は宇宙に強い思い入れはなかった

──この作品は伝記「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」が原作ですが、映画化の案はどこから来たのですか?脚本が書かれる前の段階から、監督に話が来ていたそうですが……。

この作品との関わりが始まったのは、『セッション』の仕事が終わった直後だった。本作のプロデューサーのウィク・ゴッドフリーらが伝記の映画化権を手に入れていた。僕は監督の打診を受けても躊躇していた。宇宙に強い思い入れはなかったからね。子供の頃宇宙飛行士に憧れたりはしたけど、ニール・アームストロングもアポロ計画もよく知らない。でもある時、原作の本を眺めていたら、突然作品のイメージが湧いたんだ。当時のロケットや宇宙船は本当に壊れやすく、月面着陸は無謀な挑戦だった。だからこそ国を挙げて取り組んだんだ。ニールはその重荷をたった1人で背負い、第一歩を踏み出した。その勇気に僕は感銘を受けた。そこで生涯を描く伝記映画ではなく、彼の目線で描くことにした。1962年にNASAに入ってから、1969年に月を訪れ生還するまでの物語だ。彼と家族がどんな思いで過ごしたかを描いたよ。

映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』デミアン・チャゼル監督 ©Universal Pictures

──ニールは謎に包まれた人でした。初めて月面を歩き、歴史に名を残しましたが、私生活や家族についてあまり話さなかったそうですね。これもリサーチを行う上で、初めて知った意外な一面でしたか?

謎に包まれているからこそ魅力を感じたんだ。世界的な有名人であるニールの素顔が知られていないのは驚くべきことだが、だからこそ観客は自分自身を重ねやすい。ニールはあの時代を象徴する人物だ。だが、生身の人間として見るならば、父親、夫、息子であり、1人の男だ。そう考えて調べてみると、予想外の人物像が浮かんでくる。彼は宇宙開発レースの立て役者だが、決して熱血タイプのパイロットではない。彼は元々エンジニアで、飛行機を理解するためパイロットになったんだ。命知らずの冒険家というイメージだったが、実際には月面着陸のミッションも、仕事の一環だった。問題を解決するのが彼の仕事で、月面着陸は単に大きな問題の1つなんだ。性格も謙虚で物静かだったらしい。僕にとっては、そこが魅力だ。ライアン・ゴズリングならうまく演じられると思ったよ。

映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures

ニールの身になって観客に体感してもらいたい

──ライアンにニール役を打診したのは、『ラ・ラ・ランド』製作の前ですよね。彼にはニールに似た部分があるから、うまく演じられると思ったのですか?ライアンは、今回の役をどう捉えていましたか?

『ラ・ラ・ランド』の時とはまったく違う演技を見せたね。僕は『ラ・ラ・ランド』の前にライアンと会い、ニール役を打診したんだ。まだ、ジョシュ・シンガーも脚本の執筆を始めたばかりだったが、僕はライアンしかいないと思っていた。彼以外で撮るなんて、想像もできなかったよ。ライアンはニール役に興味を持ってくれたが、なぜか話が脇道にそれて、ジーン・ケリーの話になった。それがきっかけで先に『ラ・ラ・ランド』を撮り、彼への信頼がさらにあつくなった。彼ならニールをうまく演じてくれると確信したよ。そして『ラ・ラ・ランド』の後、すぐに準備を始めた。脚本家と共にストーリーを練り上げ、彼以外の出演者も決めた。ライアンと僕にとって充実した準備期間だった。ニールの家族にも会うことができたし、ヒューストンやフロリダの基地なども訪問した。あらゆるディテールをできる限り取り入れ、ドキュメンタリーに近づけた。1960年代のヒューストンを訪れて、撮ってきたような映像にしたよ。過去を美化するような映像ではなく、ニールの身になって観客に体感してもらいたい。狭いカプセルの中まで入ってもらうよ。

映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures

──最初の妻ジャネット役ですが、クレア・フォイを選んだ理由は何ですか?夫婦役2人にはどんな指示を?ライアンによるとお互いを信頼して、夫婦を演じたとのことでしたが……。

僕はクレアのことはよく知らなかった。もちろんNetflixのドラマ「ザ・クラウン」の演技は見事だったが、ニールの妻役に適しているかは未知数だ。1960年代の話で、アメリカ中西部で育った女性という設定だ。だが、クレアと会ってみたら彼女なら大丈夫だと確信を持てた。演技力もあるし、人柄もすばらしいんだ。彼女に決まると約3週間のスケジュールを組み、家族役のリハーサル期間を設けた。ライアンとクレアと子役の2人を呼び、ロケ地で過ごしてもらった。その映像は完成版でも使っているよ。彼ら4人に家族ごっこを命じたんだ。一緒に公園に行き、食事やケンカをしてて……、口論して仲直りする姿などを全部撮った。映画初出演の子役はカメラに慣れることができたし、夫婦役の2人は役がなじんできた。クランクインの頃には4人は家族の顔になり、しっかりとした絆を感じられたよ。準備期間のおかげで、撮影がすんなりと進んだんだ。

映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』妻ジャネットを演じたクレア・フォイ ©Universal Pictures

乗組員の目線で撮影

──『ラ・ラ・ランド』でも多少CGが使われましたが、今回はかなりの部分をCGに頼ることになりましたね。月面着陸のシーンなどです。心構えとしてはかなり違ったと思いますが、どう取り組まれましたか?

『ラ・ラ・ランド』に比べ、CGが多いが、撮影監督はどちらもリヌス・サンドグレンだ。彼と意見が一致していたのは“なるべくCGを減らす”ということだった。特殊効果を最大限使うようにして、CG合成のみに頼るシーンは少なくした。セットの窓からは宇宙が見えたんだ。巨大なLEDスクリーンで背景を映し出した。宇宙船などのセットは実物大で“X-15”や訓練用の装置も作った。ジェミニ宇宙船やアポロ宇宙船もだ。俳優たちは宇宙服を着て、コンピューター制御のセットに乗り込み、前後左右に揺さぶられていた。3Dシミュレーターと同じで、小型カメラを仕込み、乗組員の目線で撮影している。彼らの心情まで捉えたかった。それが、本作の宇宙空間の表現だ。

映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures

宇宙飛行士の主観的な視点で撮った。彼らと同じ光景を見て、宇宙船の狭さを体感してほしい。宇宙に飛び出し、月に着陸した時の感動もね。限りない開放感を味わったと思う。それまで恐ろしいほど狭苦しく、頼りない宇宙船に乗ってきたんだ。

──ライアンとクレア以外の出演者もすばらしいですね。指揮官ディーク役のカイル・チャンドラーなどの俳優たちです。キャスティングの経緯を教えてください。適した俳優がすぐ浮かびましたか?コリン・ストールやジム・ラヴェルなど……。

本作に出演した俳優の顔ぶれは、映画監督にとって夢のようだよ。豪華な俳優陣と仕事ができて幸せだった。キャスティング担当のF・マイスラーの功績も大きい。僕らは俳優たちを慎重に選択していった。実力のある俳優を集めたいのはもちろんだが、ドキュメンタリー風の映像で目立ちすぎる人は避けた。たとえばNASAの管制室のシーンには、実際にNASAで働く管制官やエンジニアが出演した。なるべく本物の職員に出てもらうことで、俳優たちに実際の現場の空気を感じてもらった。徹底的にリアリティーを追求した環境の中で、俳優と職員の共演は、驚きの効果を生み、ドキュメンタリー風に撮影が進んだ。カメラのフレームの外でもいろんなことが起きていたが、本当に優秀な俳優たちがそろっていたので、すべてを演技に生かしてくれた。最近では珍しい撮影方法だが、勇気を抱いて挑戦した甲斐があったよ。

(オフィシャル・インタビューより)
映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures
映画『ファースト・マン』指揮官ディーク役のカイル・チャンドラー(右) ©Universal Pictures



デイミアン・チャゼル(Damien Chazelle) プロフィール

監督・脚本を務めたミュージカル『ラ・ラ・ランド』(16)は、アカデミー賞R14部門にノミネートされ、チャゼルが史上最年少で受賞した監督賞を含めて6部門で受賞した。この作品はゴールデン・グローブ賞史上最多の7部門で賞を受賞し、英国アカデミー賞でも11部門にノミネートされ5部門を受賞した。2014年に製作した『セッション』は、アカデミー賞R5部門にノミネートされ、J・K・シモンズに贈られた助演男優賞を含めて3部門を受賞した。『セッション』の脚本を基にした2013年の短編は、サンダンス映画祭短編映画審査員賞を受賞し、翌年製作された長編『セッション』でも、サンダンス映画祭の審査員賞と観客賞を受賞した。最初の長編『Guy and Madeline on a Park Bench(原題)』(09)は、ハーバード大学の学部生の頃に製作した。この作品は「ニューヨーク・タイムズ」、「シカゴ・トリビューン」、「LAウィークリー」、「ザ・ヴィレッジ・ヴォイス」など各紙で、その年の優れた映画のひとつとして紹介された。今後はNetflixのミュージカルドラマ「The Eddy(原題)」(19)を監督し、パイロット版の製作なしでApple TV から依頼を受けたドラマシリーズでも、監督・製作総指揮を務める予定。




映画『ファースト・マン』 ©Universal Pictures

映画『ファースト・マン』
2月8日(金)全国ロードショー

監督/製作:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、カイル・チャンドラー ほか
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、アダム・メリムズ、ショジュ・シンガー
脚本:ジョシュ・シンガー
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
原作:「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」著/ジェイムズ・R・ハンセン
配給:東宝東和

公式サイト


▼映画『ファースト・マン』予告編

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