骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2019-02-01 22:00


2人に1人ががんになる時代 医師と経験者が語る映画『がんになる前に知っておくこと』

三宅流監督×上原拓治プロデューサー「可能性のグラデーションの中で何を一番大事にするか」
2人に1人ががんになる時代 医師と経験者が語る映画『がんになる前に知っておくこと』
映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten

現在、日本人の2人に1人がになると言われている「がん」をテーマにした映画『がんになる前に知っておくこと』が2月2日(土)より公開される。がん治療を専門としている腫瘍内科医、外科医、放射線腫瘍医をはじめとした医療従事者や、がん経験者など15人にがんについての正しい情報の得方、体や心の痛みの軽減の仕方を聞いたドキュメンタリーだ。ナビゲーターを務めるのは若手女優・鳴神綾香。彼女自身も検診で乳がんの疑いを指摘された経験を持ち、彼女と一緒にがんについての基本的な知識を学ぶことができる内容となっている。webDICEでは、三宅流監督とプロデューサーの上原拓治氏へのインタビューを掲載する。


「4年前に自分より年下の親族をがんで亡くすという経験をしました。まだまだ自分は若いつもりでいたので、がんなんて自分とは全然関係ない病気だと思っていたんですね。だからいざ身近な人ががんになっても何もできなかったし、これまでがんについて何も考えてこなかったことをひどく後悔したんです。だから、昔の私のように、これまでがんについて何も考えてこなかった人のためになる映画が作りたいなというのがきっかけです」(上原拓治プロデューサー)

「誰もががんになる可能性はありますし、例えがんにならなかったとしても、人は誰でもいつかは死ぬわけですから、生きている中で、自分が何を一番大事にしておくかということを普段から考えておくことが大切だと思います。そのことが治療を選択する上でも重要な判断基準になってきますし、そういうスタート地点に立てる映画だと思います」(三宅流監督)


「がん」をおそれるのではなく、知ることから始めたい

──今回の映画の話をする前に一つお聞きしたいのですが、実は監督の三宅さんもプロデューサーの上原さんもアップリンクとは深い縁があるんですよね。

三宅流監督(以下、三宅):アップリンクがまだファイヤーストリートの方にあった頃、『白日』という16mmのモノクロの作品の上映+イベントを一週間かけて日替わりでやりまして、能楽師の津村禮次郎さんとそこで出会ったんです。津村さんに映画をモチーフにした創作の能のパフォーマンスをやってもらったんですよね。それが素晴らしくて。その後に能楽堂の津村さんの楽屋で能面師の新井達矢さんと出会いました。彼が能面を打つ過程を撮ったものが、私の初めてのドキュメンタリー作品『面打』です。そういう意味ではアップリンクがドキュメンタリーを始めるきっかけになったのかもしれないですね。その後『面打』は月一回の連続上映会をアップリンクで開催しました。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』三宅流監督

上原拓治プロデューサー(以下、上原):ちょうどその頃、私はアップリンクで社員として働いていまして、三宅監督の『面打』に惚れ込んで、ぜひこれをアップリンクからDVDとして出しませんかと打診したのが三宅監督との最初の出会いです。その後に山形国際ドキュメンタリー映画祭で観た『究竟の地 - 岩崎鬼剣舞の一年』という作品がまた素晴らしくて完全に監督のファンになりました。その後、ライブの撮影やMVなどで一緒に仕事をすることは度々あったのですが、今回私がプロデューサー、三宅さんが監督という形で作品を作れたのは、だから大変嬉しいですね。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』上原拓治プロデューサー

──三宅監督は『面打』の後、『朱鷺島 創作能「トキ」の誕生』、『躍る旅人 能楽師・津村禮次郎の肖像』と劇場公開作を作ってきたわけですが、今回はこれまでと傾向が違いますね。

上原:そうですね。今回の作品は、『日本人の2人に1人が「がん」になると言われている時代に、「がん」をおそれるのではなく、知ることから始めたい』というテーマで、がんについての基本的な知識を一から学べるドキュメンタリーになっています。伝統芸能や舞踊をテーマにしてきたこれまでの三宅監督の作品とはちょっと毛色が違うように見えるかもしれません。

──三宅監督のファンは驚くかもしれませんね。

三宅:でも実際に映画をご覧になった方から意外と繋がってるね、という話は聞きます。身体をテーマにしているというところとか、ある意味ストイックなところとか。今日の試写会で見た人からも、これまでの作品と繋がってると言う感想があって、それが逆に意外でしたけど。例えば、私は今まで、身体表現や伝統芸能を撮っていく中である種の躍動感を描いてきた部分はあるんですけど、それが今回の作品のように座りのインタビューが続いても、言葉の中からグルーブ感を導き出していて、今までの作品とつながっている、と言われたりしました。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten

がんについて考えたことがなかった人のためにもなる映画

──この映画を作ろうと三宅監督に話を持ちかけたのはプロデューサーの上原さんですよね。何かきっかけがあったそうですが。

上原:4年前に私の親族、それも自分より年下の親族をがんで亡くすという経験をしました。そのことに強い衝撃を受けまして。まだまだ自分は若いつもりでいたので、がんなんて遠い世界の話、自分とは全然関係ない病気だと思っていたんですね。だからいざ身近な人ががんになっても何もできなかったし、いたずらに動揺するだけで、これまでがんについて何も考えてこなかったことをひどく後悔したんです。だから、昔の私のように、これまでがんについて何も考えてこなかった人のためになる映画が作りたいなというのが最初のきっかけです。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten

──この作品は、ナビゲーターの女優の鳴神綾香さんが、15人の医師と看護師、がん経験者の方に話を聞きにいくという作品ですが、この15人はどうやって選ばれたのですか。

三宅:まず最初に構成を立てて、例えば腫瘍内科医、外科医、放射線腫瘍医、緩和ケア医の先生に話を聞きたいと。そこで、では腫瘍内科医ならどの先生がいいのか、外科医ならどの先生がいいのか、というのを探しました。リサーチをする中で出会ったNPOの方に先生をご紹介して頂いたり、書籍を読んだり、ウェブ上で講演会の動画を色々見て、この先生のにお話を聞いてみたいと思ったり……様々なご縁の中で出会うことが出来ました。

上原:マギーズ東京は私がインターネットでがんについて検索しているときに見つけたものです。もちろん、活動趣旨やマギーズ東京ができるまでの経緯にも大変感銘を受けたのですが、ウェブに載っていた写真を見て、木造の暖かい外観や室内の雰囲気がとってもよかったんです。

三宅:ご出演頂いた方々はみなさん、ご専門も経験も違いますし、それぞれ語られている内容は違いますけど、編集の過程で言葉を集約してみると、一本筋が通っていて、まるで大きな一つの流れができているように感じました。それは人生との向き合い方だったり、医療という枠組みを超えて、わたしたちが生きていく上で大切なことを教えられている気がしました。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten

──今までの三宅監督の映画では、監督ご自身がインタビュアーをつとめていましたが、今回は鳴神さんがナビゲーターです。ちょっと勝手が違うという所はありましたか。

三宅:確かに少しもどかしさはありましたね。本当はここをもっと深く聞きたいと思う時はありました。でも、ある意味、そのもどかしさが良かったのかなというところはありますね。深掘りしすぎるとそれは結局自分の知的欲求のままに進んでしまいますし。でも今回はこれまであまりがんについて考えたことがなかった人が聞きたい質問をするという前提があったので、もどかしいと感じるのは、ある意味成功しているということでもあるのかなって思います。鳴神さんも、初めての医療者を前にして、最初はなかなかスムーズではなかったり、緊張したりもしたけれど、徐々に、僕が考えてもいなかったような質問が反応的にパッと出てきたりして。それはすごく良かったなと思うし、自分だったらこういう質問はできなかったなという質問もたくさん出てきましたからね。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten

──ちなみに今回の作品、製作費はどうしたのでしょうか。クラウドファンディングやスポンサーがついているのでしょうか。

上原:いえ、完全に私の自腹です。先ほどもお話ししたように、映画を作ろうと思った最初のきっかけが私の個人的な想いからスタートしたものですから。最終的には皆さんのための映画になるとしても、最初の気持ちを大事にするためにも製作費は自分で出さなきゃいけないなと最初から思っていました。

三宅:あらゆるところからフラットでありたいっていうのはあったかもしれないですね。どこからもスポンサードを受けないし、どこからもお金をもらわないで自力でやるということが一番自由度が100%高いですよね。ある意味、利益相反が全くない状態ですので、そのことが、ひとつの信頼やオリジナリティーになっている気がします。この映画で誰かを攻撃するような意図もありませんし、一番ベーシックなことって何なんだろうということを、フラットなスタンスで学んでいくような映画ですので、どこからも支援を受けないということ自体にも意味があるもしれない、とは思いました。

映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten
映画『がんになる前に知っておくこと』 ©2018 uehara-shouten

これからがんになるかもしれない人たちにも観てほしい

──どういう人にこの映画を見て欲しいと思いますか。

上原:これまで試写会でも大勢の方に見て頂いたのですが、年配の方は自分の体についてもよく気をつけているし、がんについても勉強されている方が多い印象です。そういう方がさらにがんについて知りたいということで見て頂いても、必ず得るものがあると思います。またその反対で、20代~40代の、これまで全くがんについて考えてこなかった、病気についての映画なんて辛気臭くて全然見ないよ、という方にも是非見て欲しいですね。

三宅:そうですね。二人に一人ががんになると言われている時代、自分ではないにしても、家族なり友人なりががんになる可能性もあるわけですし、その時に有効な相談相手になれるのかどうかということがありますね。自分が逆に間違った意見を言ってしまうことだってあるかもしれませんし、その人を不幸にしてしまうかもしれない。もし自分ががんになった場合は、自分の誤った選択によって不幸になるかもしれません。医療において何が正しくて何が間違っているかということは100%言い切れないところはあります。ある意味、可能性のグラデーションの中で自分が本当にサバイブしていくための選択っていうのをしていかなきゃいけないんだけど、いざそういう事態になった時にやはり頭が真っ白になるとか、動転するとか、その時に初めて考えるとなった時に、全くのゼロからスタートするのは結構しんどいことだと思うんですよね。そうではなくて、現在の日本の医療制度の中で、がんになった時に、どこに行ったらいいか、誰に相談したらいいのか、治療法を選ぶときの判断基準は何かっていうことの非常にベーシックな所をこの映画では表現しているので。いろんなものが全部目の前のテーブルに並べられた状態で初めてがんと向き合うか、それとも全く何もない状態で向き合うかでは、選ぶ行動が変わってくると思います。

誰もががんになる可能性はありますし、例えがんにならなかったとしても、人は誰でもいつかは死ぬわけですから、生きている中で、自分が何を一番大事にしておくかということを普段から考えておくことが大切だと思います。そのことが治療を選択する上でも重要な判断基準になってきますし、この映画はそういうスタート地点に立てる映画だと思います。目の前のテーブルに、全体像が並んだ状態にまずは立てるということは、自分が後悔しない選択をする上で、大きな意味があるんじゃないかなと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



三宅流(みやけながる) プロフィール

1974年生。多摩美術大学卒業。在学中より身体性を追求した実験映画を制作、国内外の映画祭に参加。2005年からドキュメンタリー映画制作を開始。伝統芸能とそれが息づくコミュニティ、ダンスなどの身体表現におけるコミュニケーションと身体性について独自の視点で描き続けている。『究竟の地−岩崎鬼剣舞の一年』は山形国際ドキュメンタリー映画祭などで上映され、『躍る旅人−能楽師・津村禮次郎の肖像』は毎日映画コンクールにノミネートされる。

上原拓治(うえはらたくじ) プロフィール

ミュージックビデオ、ライブ映像の監督などを中心に映像ディレクターとして活動。日本大学芸術学部映画学科監督コース中退後、アニメーション制作会社、TV制作会社、映画配給会社アップリンクなどの社員を経た後、2011年に株式会社上原商店を設立。




映画『がんになる前に知っておくこと』
2月2日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開

対話者(出演者):
若尾文彦(国立がん研究センター がん対策情報センター長)
勝俣範之(日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科教授)
山内英子(聖路加国際病院副院長 ブレストセンター長・乳腺外科部長)
唐澤久美子(東京女子医科大学 放射線腫瘍科教授)
有賀悦子(帝京大学 医学部緩和医療学講座教授)
大野智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長・教授)
近藤まゆみ(北里大学病院 がん看護専門看護師)
橋本久美子(聖路加国際病院 相談支援センター・がん相談支援室)
山口ひとみ(湘南記念病院 ピアサポーター)
土井卓子(湘南記念病院 乳がんセンター長)
秋山正子(認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事 センター長)
岩城典子(認定NPO法人マギーズ東京 常勤看護師 )
塩崎良子(がん経験者/株式会社TOKIMEKU JAPAN 代表取締役社長)
岸田徹(がん経験者/NPO法人がんノート 代表理事)
鈴木美穂(がん経験者/認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事)
ナビゲーター:鳴神綾香
監督・撮影・編集:三宅流
企画・プロデューサー:上原拓治
整音:吉方淳二
ピアノ演奏:鳴神綾香
制作:究竟フィルム
宣伝美術:成瀬慧
スチール:豊田佳弘
製作・配給:株式会社上原商店
配給協力・宣伝:リガード
ドキュメンタリー/108分/DCP/2018年/日本

公式サイト


▼映画『がんになる前に知っておくこと』予告編

キーワード:

がん / ドキュメンタリー


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