近年ではアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』で撮影を担当したクリストファー・ドイルが、オダギリジョーと若手女優のアンジェラ・ユンを主演に迎え、ジェーン・シュンと共同監督を務めた映画『宵闇真珠』が12月14日(土)より公開。webDICEではクリストファー・ドイル監督のインタビューを掲載する。
クリストファー・ドイルとジェーン・シュンにとっては、2015年に発表された、実際の香港の人々の3世代の声で綴る3部作『PRESCHOOLED PREOCCUPIED PREPOSTEROUS』に続いての共同監督作となる。「香港最後の漁村」珠明村を舞台に、日光にあたると死ぬと言い聞かせられ太陽から肌を隠して生活する16歳の少女と、廃墟に暮らす異邦人の男との出会いを中心に、水上住宅に暮らす人々やこの地の埋め立てを画策する開発業者らの人間模様が描かれる。少女の成長物語と変化を続ける香港の町並みが交錯し、物語の展開を楽しむというよりも、ドイルらしい色彩美とドイルとシュン両監督の香港への思いを五感をフルに活用して堪能してもらいたい作品だ。
「誰もが〈本当の自分をわかってほしい〉という願いを持っています。すべての女性の心の中に、この物語の少女がいるんじゃないでしょうか。青年は少女のことを〈君は特別だ〉と言って去ってしまいますが、それは彼女がとり残されて一人になるということではなく、しっかり自分と向き合えるようになるということなのです。そして、それがすごく難しいことだということを、この映画を観て感じて欲しいですね。」(クリストファー・ドイル監督)
自分が信じているものに忠実であれば、他の人も共感できる
──共同監督のジェニー・シュンが書いた物語のどんなところに惹かれたのでしょう。
ジェニーが自分の心に忠実に書いた作品で、それがとても気に入ったんです。長い間、彼女は香港から離れてアメリカで暮らしていて、香港に戻ってきて香港を再発見した。それが彼女にとっての大事なことでした。自分にとって大事なものに対して忠実に作品を作る人に私は敬意を払っているし、いつもそういう人と一緒に仕事をしたいと思っています。自分が信じているものに忠実であれば、それがどんなことであっても他の人も共感できるはずだから。
映画『宵闇真珠』クリストファー・ドイル監督
──ジェニーとはどのようにして、共同作業をしたのでしょうか。
準備はすべて彼女がやってくれました。自分が若い監督とやる時は、まず彼らがアイデアを持っていて、彼らとコミュニケートしていくなかで自然に映画が生まれます。とても自由な現場でした。
──主演を務めるアンジェラ・ユンはいかがでした?
ライトやカメラで女優を美しく撮る、そうすることで彼女達を祝福するのが私の仕事です。それは自分にとってひとつの愛情表現で、セックスよりも素晴らしいも素晴らしい(笑)。ほかの女優たちと同じようにアンジェラとの間には信頼関係があって、それは日常生活で得られるものとは全然違う関係でした。私が女優を愛することで、彼女の気持ちが私に伝わって、それを映像で表すことができるんです。
映画『宵闇真珠』 ©Pica Pica Media
──アンジェラにもオダギリさんにも、極力演技をしないように演出されたそうですね。それはどうしてなのでしょうか。
映画はキャスティングがとても重要です。特別なエネルギーを持っていて、歌舞伎役者のような大きい演技はしなくても、ただそこにいるだけで映画になってしまう役者がいます。そういう役者と、良い空間、良いストーリーがあれば映画になる。そういう意味で、映画はすごくシンプルなものなんです。
映画『宵闇真珠』 ©Pica Pica Media
この映画は〈見る〉ことについての映画
──「良い空間」といえば、撮影を行った香港最大の島ランタウ島に位置する大澳(タイオー)の風景も印象的でした。
大澳からは、すごく刺激を受けました。自分にとって空間はとても重要です。私は映画の撮影技術をちゃんと勉強したことはありませんが、いろんな国を旅して、その土地や空間からエネルギーや物語を感じるという経験を積んできました。カメラの技術というよりは、その場所のエネルギー、“気”みたいなものを感じることがすごく大切なんです。映画というのはエネルギーをシェアするものであって、技術的なものではないと思います。
映画『宵闇真珠』 ©Pica Pica Media
──劇中では、カメラオブスクラやピンホールカメラなど「見る」というイメージが散りばめられていますね。
この映画は〈見る〉ことについての映画なんです。よそから来たハンサムな異邦人が、少女の本質を見抜く。別世界から来た人であるからこそ、彼女の本当の姿が見ることができるんです。それが少女に自信を与えて、彼女は自分を肯定できるようになる。この映画は、観客に〈他の人と違うのは素晴らしいことなんだよ〉と伝えているんです。今の世の中、香港でも日本でも〈他の人と違うから素晴らしい〉と言われて、それを素直に受け入れられる若者は少ないかもしれません。でも、オダギリさんが演じたような素敵な人物から、〈他の人と違うから素晴らしい〉と言われると嬉しいんじゃないでしょうか(笑)。
──そうですね(笑)。確かにそれは自信に繋がると思います。
誰もが〈本当の自分をわかってほしい〉という願いを持っています。すべての女性の心の中に、この物語の少女がいるんじゃないでしょうか。青年は少女のことを〈君は特別だ〉と言って去ってしまいますが、それは彼女がとり残されて一人になるということではなく、しっかり自分と向き合えるようになるということなのです。そして、それがすごく難しいことだということを、この映画を観て感じて欲しいですね。
(オフィシャル・インタビュー)
クリストファー・ドイル(Christopher Doyle) プロフィール
1952年5月2日生まれ、オーストラリア・シドニー出身。各国映画祭で60の受賞および30のノミネートという実績があり、1994年『楽園の瑕』ではヴェネチア国際映画祭で金オゼッラ賞(撮影)を受賞。2000年『花様年華』ではカンヌ国際映画祭高等技術院賞を受賞している。これまでに50作以上の中国語の映画作品に携わり、その他様々な言語や映画文化で20作以上を作ってきた。浅野忠信主演の『KUJAKU孔雀』(98)と、世代を超えて香港の人々を描く香港3部作『PRESCHOOLED PREOCCUPIED PREPOSTEROUS』(15/未)では、脚本、撮影、監督も行っている。その他代表作として『恋する惑星』(94)、『花の影』(96)、『ブエノスアイレス』(97)、『サイコ(98)、『HERO』(02)、『地球で最後のふたり(03)、『2046(04)、『パラノイドパーク(07)、『リミッツ・オブ・コントロール』(09)、『海洋天堂』(10)、『エンドレス・ポエトリー』(16)など。
映画『宵闇真珠』 ©Pica Pica Media
映画『宵闇真珠』
12月15日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
出演:オダギリジョー アンジェラ・ユン
監督:ジェニー・シュン
監督&撮影:クリストファー・ドイル
原題:白色女孩
英題:THE WHITE GIRL/2017年/香港・マレーシア・日本
広東語・北京語・英語・日本語
日本語字幕:神部明世
97分/カラー/ビスタ/5.1ch/映倫G
配給:キノフィルムズ/木下グループ