骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2008-07-11 12:29


「アウトサイダーアート」を目撃せよ!

「誰もがオトナ以前にもっていたむき出しの感性、いまは心の奥底に押し込めている危ない好奇心が甦る」7/13よりアップリンク・ファクトリーにて上映
「アウトサイダーアート」を目撃せよ!

ヘンリー・ダーガー、アドルフ・ヴェリフリ、アロイーズなどの作家によって世界的に評価されている「アウトサイダーアート」。正規の美術教育を受けていない独学の作り手たちが制作した作品は、1900年代初めにヨーロッパの精神科医たちによって発見された芸術ジャンルであり、20世紀のアーティストに多大な影響を与えた。近年、日本でも注目が集まっており、さまざまな場所から「誰も知らない天才たち」が発見されている。
そんな中、国内のアウトサイダーアートの作家たち16名の制作現場を記録したドキュメンタリー作品『日本のアウトサイダーアート』が、7月13日(日)より渋谷アップリンク・ファクトリーにて上映される。


Tsuji+

屋根の瓦の一枚一枚、線路の枕木の一本一本、木の葉の一枚一枚までが緻密に描かれた空想の町の鳥瞰図。B4サイズくらいの紙の全面を埋め尽くす、篆刻のように整った筆致で書かれた5ミリ四方にも満たない極微の漢字。陶芸でできた不思議な物体は、全体が1万本を超える小さなトゲでびっしりと覆われています。どの作品も、思わず、「何だ、これは?」「なぜここまで?」と見入ってしまわずにはいられません。これらの作品の作者はみんな、正規の美術教育を受けたことがなく、知的障害や精神疾患などを抱える人びとです。

彼らの作品は、英語でアウトサイダーアート、仏語でアール・ブリュットと呼ばれています。直訳すると、アウトサイダーアートは「既成のどの美術ジャンルにも属さない芸術」、アール・ブリュットは「生の芸術、加工されていない芸術」という意味になるでしょうか。その無垢な独創性や研ぎ澄まされた感性から、ヨーロッパでは、1940年代以降、作為や模倣とは無縁の「真の芸術」として注目されてきました。日本でもここ10年ほど展覧会の開催や専門のギャラリーの開設が相次ぎ、評価が高まってきています。


M・K+

2006年秋には世界一のアウトサイダーアートコレクションを誇るスイスの美術館「アール・ブリュット・コレクション」から、ルシアン・ペリー館長が初来日。日本各地の福祉施設や病院を巡って作品と作者に出会ったのをきっかけに、今年1月から夏までの期間、スイスと日本で同時に展覧会を開くことが決定しました。欧米で高い評価を得ているアウトサイダーアートが日本で公開されると同時に、日本の作家の作品がスイスで展示されることになったのです。

ペリー館長によれば、アウトサイダーアートを定義するキーワードは、「孤独、秘密、沈黙」。誰にも知らせず、孤独のなか、自分で編み出した手法、自分が選んだ素材と題材で、密やかに作り続けられること。既成の美意識や芸術概念にとらわれず、社会的な評価に惑わされることなく、描きたいから、作りたいから、作品を生み出す。その創造の営みからは、表現することへの人間の根源的な欲求が伝わってくるといいます。


しかし、いままでアウトサイダーアートの作家が実際にどのように制作しているのか、なぜ極端な表現に向うのか、その創作の秘密はほとんど知られることはありませんでした。なぜなら、自分から名乗り出たり、売り込んだりしない彼らは、どちらかというと誰にも知られないようにこっそりと描いたり、作ったりしてきたからです。ぺリー館長来日をきっかけに開催されることになった展覧会の実行委員会は、この機会にはじめて彼らの創作の秘密を映像で記録することを企画。展覧会と同時期に、16名の作家の制作現場に密着したアート・ドキュメンタリーとして発表されました。

アウトサイダーアートの展覧会と映像。2008年は日本のアウトサイダーアートの大きなエポックとして記憶されるでしょう。この機会に展覧会と映像を通じて、ぜひアウトサイダーアートを目撃してください。彼らの作品や彼らの姿を前にすると、誰もがオトナ以前にもっていたむき出しの感性、いまは心の奥底に押し込めている危ない好奇心が甦るはずです。

(文:『日本のアウトサイダーアート』監督・代島治彦)



■代島治彦(だいしま・はるひこ)

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映像プロデューサー。1958年埼玉県生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、入社した広告会社博報堂を2年で退社し、雑誌編集、放送作家、広告プランナーなどを経て、88年に有限会社スコブル工房設立。92年、沖縄を舞台にした映画『パイナップル・ツアーズ』(中江裕司・真喜屋力・當間早志監督)を製作・配給。93年、山形国際ドキュメンタリー映画祭特別イベント「世界先住民映画祭」をプロデュースした後、94年9月から2003年4月まで映画館「BOX東中野」を経営。その間、『少女写真家HIROMIX』(MXテレビ)『映画館に行こう』(NHK真夜中の王国)『沖縄文学のエネルギー』(NHK・未来潮流)『アジア発・映画のこころ』(NHK・ETV特集)『15歳少女映画デビュー・石原さとみ』〔テレビ朝日〕など、30本以上のテレビ番組を演出。06年、『戦争へのまなざし〜映画作家・黒木和雄の世界〜』(NHK・ETV特集)でギャラクシー奨励賞受賞。08年、国内のアウトサイダー・アーティスト16人の記録映像をまとめた5枚組DVDを発表(紀伊國屋書店)。編著に『森達也の夜の映画学校』(現代書館)。現在、国内の名物ミニシアターの物語を取材した本を執筆中(大月書店より08年秋刊行予定)。



『日本のアウトサイダーアート』特集上映

Kubota+

7月13日(日)~7月19日(土)
連日18:30/21:00より上映

会場:アップリンク・ファクトリー(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)
[地図を表示]
料金:当日1,500円/シニア・障害者1,000円/トーク付き上映会一律1,500円

★豪華ゲストトークあり(各日18:30より)
7月13日(日) 田口ランディー(作家)
7月16日(水) ロケット・マツ(音楽家)×石川浩司(ミュージシャン・俳優)
7月19日(土) 都筑響一(写真家・編集者)
ナビゲーター:代島治彦(アウトサイダーアート監督)

上映作品:
『人のカタチ』(2008年/59分)
『文字という快楽』(2008年/65分)
『都市の夢』(2008年/42分)
『想像の王国』(2008年/50分)
『不思議のカタチ』(2008年/50分)
監督:代島治彦
語り:片桐はいり、石川浩司
音楽:ロケット・マツ(パスカルズ)


<アウトサイダーアート関連展覧会>
「アール・ブリュット/交差する魂~アール・ブリュット・コレクションと日本のアウトサイダーアートの遭遇~」展
松下電工汐留ミュージアム(東京・新橋) 2008年7月20日(日)まで
■「ジャポン~日本のアウトサイダーアート~」展
アール・ブリュット・コレクション美術館(スイス・ローザンヌ市) 2008年8月末まで

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