骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2018-04-13 15:00


復讐心は存在するのかと問う『女は二度決断する』実際のテロ事件に触発された悲しみの物語

「主人公カティヤは私の分身なのです」ファティ・アキン監督インタビュー
復讐心は存在するのかと問う『女は二度決断する』実際のテロ事件に触発された悲しみの物語
映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

トルコ系移民の二世であるファティ・アキン監督が、ドイツを舞台にトルコ系移民の夫と息子をテロで殺された妻の悲しみと復讐を描く『女は二度決断する』が4月14日(土)より公開。webDICEではアキン監督のインタビューを掲載する。

ハリウッドでも活躍するドイツ出身の女優ダイアン・クルーガーを主演に迎えたアキン監督は、現実に起きたネオナチグループによるテロ事件をもとにこの物語を構築。逮捕されたネオナチのメンバーと妻カティヤの間の息詰まる裁判の過程、そして容疑者に無罪判決が下されるまでを綿密に追うことで、夫が移民であることからまるで容疑者のように尋問される妻の絶望を痛々しいほどに描写する。日本でのタイトルにもなっている、エンディングで下される“二度”目の決断については様々な意見が上がるだろう。移民の受け入れと排斥で揺れるヨーロッパの現状を映すとともに、テロが日常化する世界でどう生きるか、家族を亡くした悲しみとどう対峙して前へ進んでいくか、という投げかけを残す結末となっている。


「私は“復讐”について深く考えました。“復讐心”とは存在するのか? 報復を求めるのはどういう人か? 自分ならば復讐するか? 主人公カティヤは私たちの内側で本来ならば眠ったままであるべき“何か”を体現しています。私にとって、『女は二度決断する』は非常に私的な映画です。カティヤは私の分身なのです。この映画は、普遍的な悲しみの感情についての映画であり、かつ非常に多層的でもあります」(ファティ・アキン監督)


普遍的な悲しみの感情についての映画

──『女は二度決断する』はどのように生まれたのでしょうか。

NSU(National Socialist Underground/独名 National-sozialistischer Untergrund 国家社会主義地下組織)による連続テロ殺人事件に触発されました。このネオナチグループは2000~07年の間に、ドイツ全土で人種差別から外国人を排斥する目的で連続殺人事件を起こし、11年にようやく逮捕されました。トルコに出自を持つ私はこの事件にとても衝撃を受けました。ハンブルクで犠牲になった人の中には私の兄の知り合いもいました。ドラッグやギャンブル絡みの内部抗争を疑い、警察が被害者周辺ばかりに捜査を集中させ、後にそれが大きなスキャンダルとなりました。マスコミもそのコミュニティの人々でさえも、内部抗争が原因であると信じてしまっていたのです。

映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
映画『女は二度決断する』ファティ・アキン監督(右)とダイアン・クルーガー(左) ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

──主人公のカティヤを突き動かした原動力はなんでしょうか。

私は“復讐”について深く考えました。“復讐心”とは存在するのか? 報復を求めるのはどういう人か? 自分ならば復讐するか? カティヤは私たちの内側で本来ならば眠ったままであるべき“何か”を体現しています。加害者の視点は必要ありませんでした。どこに感情移入するのか、どこを集中して見せるのか、とてもクリアだったのです。私にとって、『女は二度決断する』は非常に私的な映画です。主人公は金髪で青い目をしたドイツ人女性ですが、カティヤは私の分身なのです。この映画は、普遍的な悲しみの感情についての映画であり、かつ非常に多層的でもあります。

映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

──共同脚本のハーク・ボームはどのように『女は二度決断する』に影響を与えましたか。

早い段階からハーク・ボームは本作に参加しました。実は彼は弁護士でもあるのです。裁判や法律に関するものがこの映画の多くを占めているため、彼にはかなり助けられました。私たちはNSU事件について調べ、13年の裁判も追いました。ハークと意見を交わしながら脚本を書きあげ、彼は裁判シーンの監修をしてくれました。

映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

──ダイアン・クルーガーをキャスティングした経緯をお聞かせください。

2012年のカンヌでダイアン・クルーガーに会いました。カンヌ国際映画祭で『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』が上映され、小さなビーチパーティーを開いていたときに、ダイアンがドイツ語で私に話しかけてきたんです。彼女は私に、機会があれば私の映画に出演したいと言ってくれました。私は喜んで約束し、4年後にその時が来たのです。『女は二度決断する』の主演女優を探しているときに、ダイアンを思い浮かべ、彼女に脚本を送りました。そして、まったく見事に彼女は演じ切ってくれました。

映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
映画『女は二度決断する』ダイアン・クルーガー ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

勇敢で好奇心が旺盛なところが、ダイアンが偉大な女優である所以です。彼女は何にでも挑戦します。また、彼女の集中力は素晴らしい。どんな辛いシーンであっても、彼女は演技を楽しんでいると私は確信しました。また、ダイアンがこんなにも並外れたパフォーマンスを発揮できたのは、ハノーバーで育ち自身をドイツ人だと認識している彼女が、国際的なスターとして活躍しながら、ドイツ語を話す役を何年も待っていたからだとも私は思っています。

ダイアンは母国語での演技を本当に楽しんでいました。いつもの英語やフランス語を話す役柄に比べて、彼女は自分が育った言語で、より自由に自身を表現する機会を得たのです。撮影中、何かが違う時、彼女はそれにすぐに気づく正確な直感とセンスがありました。そのため、私はいつもそういった時には彼女の意見をしっかり聞くようにしていましたね。

映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
映画『女は二度決断する』ダイアン・クルーガー ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

──クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(QOTSA)のジョシュ・オムとのコラボレーションについて教えてください。

脚本を書くときに、QOTSAをよく聴いていました。彼らの曲には運命を決定づけるような曲がいくつかあります。そこで、カティヤのキャラクター用に、QOTSAのプレイリストを作り、それらの曲の権利をクリアにしてほしいと音楽スーパーバイザーに頼んだところ、彼女は私が直接依頼してはどうかと提案してきました。そこで、私は、リードヴォーカルのジョシュ・オムと話す機会を得て、映画のラフカットを観てもらったところ、非常に気に入ってくれたのです! おそらく、彼の曲と通じるものがあったのでしょう。彼はQOTSAのニューアルバムの仕上げで忙しい時期でしたが、素晴らしい音楽を作ってくれました。とてもユニークで悲しくて、そして美しい曲でした。私は常にサスペンス的な要素がある映画をやりたいと思っていました。彼の音楽と融合することで、そういった質感を映画に与えてくれたと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



ファティ・アキン(Fatih Akin) プロフィール

1973年8月25日、トルコからの移民の両親のもと、ドイツ・ハンブルクに生まれる。俳優を志していたが、トルコ移民役などステレオタイプの役柄ばかりであることに嫌気がさし、ハンブルク造形芸術大学へ進学。95年、監督デビュー作となる短編『Sensin - Du bist es!』を発表し、この映画でハンブルク国際短編映画祭で観客賞を受賞。98年、初の長編映画『Kurz und schmerzlos』発表。その後『太陽に恋して』(06年)、『WIR HABEN VERGESSSEN ZURUCKZUKEHREN』(00年)、『SOLINO』(02年)を発表したのち、偽装結婚から生まれる愛を情熱的に描いた『愛より強く』(06年)で、第54回ベルリン国際映画祭金熊賞をなど数々の賞に輝く。監督6作目『クロッシング・ザ・ブリッジ~サウンド・オブ・イスタンブール~』(05年)では音楽ドキュメンタリーに挑む。『そして、私たちは愛に帰る』(08年)で第60回カンヌ国際映画祭最優秀脚本賞と全キリスト協会賞を受賞。『ソウル・キッチン』(11年)では、第66回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞。2013年のドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』(13年)では、かつて祖父母が暮らしたトルコ北東部の小さな村のごみ騒動を題材にした。『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)は第71回ヴェネチア国際映画祭でヤング審査員特別賞を受賞。続く『50年後のボクたちは』(16)はヴォルフガング・ヘルンドルフの大ベストセラー小説「14歳、ぼくらの疾走」を原作に実写映画化を手掛けた。ダイアン・クルーガーを主演に迎えた『女は二度決断する』で第75回ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞、第70回カンヌ国際映画祭にてダイアン・クルーガーに主演女優賞をもたらした。




映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH
映画『女は二度決断する』 ©2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions,Pathé Production,corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

映画『女は二度決断する』
4月14日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町
新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

監督・脚本:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨハネス・クリシュ、サミア・ムリエル・シャンクラン、ヌーマン・アチャル
共同脚本:ハーク・ボーム
撮影:ライナー・クラウスマン
編集:アンドリュー・バード
美術:タモ・クンツ
音楽:ジョシュ・オム
衣装:カトリン・アシェンドルフ
メイク:ダニエル・シュレーダー、マイケ・ハインライン
プロデューサー:ヌルハン・シェケルジ=ポルスト、ファティ・アキン、ヘルマン・ヴァイゲル
ドイツ/2017/106分/ドルビーデジタル5.1/1:2.39 PG-12
協力:ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター
後援:ドイツ連邦共和国大使館
提供:ビターズ・エンド、WOWOW、朝日新聞社
配給:ビターズ・エンド

公式サイト


▼映画『女は二度決断する』予告編

レビュー(0)


コメント(0)