『原郷ニライカナイへ―比嘉康雄の魂―』
“神の島”と呼ばれてきた沖縄の久高島を舞台に、自然と島人(しまんちゅ)の姿を追ったドキュメンタリー『久高オデッセイ』三部作で12年にわたり久高島を撮り続けた大重潤一郎監督の史上初となる連続上映企画『ヤポネシア映画祭 ~『久高オデッセイ』大重潤一郎作品連続上映~』が4月7日(土)よりアップリンク渋谷にて開催される。開催にあたりwebDICEでは、生前大重監督と親交が深かったジェンベ奏者&ボーカリスト、SUGEEさんによるエッセイを掲載する。SUGEEさんも上映期間中、トークとライブで出演する。
大重潤一郎監督は1946年生まれ。岩波映画助監督を経て、デビュー作『黒神』に始まり『光りの島』『風の島』など自然の中における人間の位置を常に自然の側から問いかける作品を制作。2002年より12年に一度行われる(1978年を最後に現在に至るまでおこなれていない) 秘儀イザイホーの舞台、久高島を描く映画『久高オデッセイ第三部 風章』を12年かけて制作。「第三部 風章」完成後、2015年7月22日享年69歳で永眠した。
神人たちのイニシエーション・イザイホーが途絶えた後、
久高島の祈りの継承を映像に収めた大重監督
文:SUGEE
僕が大重潤一郎に初めて会ったのは、2002年8月、十五夜の久高島だった。
その日の久高の十五夜の祭礼のあと、外間殿(ほかまでん)でアフリカの太鼓ジェンベを奉納演奏した僕に対して、神人(かみんちゅ)たちの反応は真っ二つに分かれてしまった。
カチャーシーの舞で嬉しそうに応えてくれる者、そして一方では忌み嫌うような硬い表情でやめろと激しく手を振る者。
ドレッドヘアーの僕がまだ若く気負っていたこともあるだろうし、演奏者として未熟だったということもあるだろう。そして何よりも久高島や他の聖地と言われる場所で生活している人々が最も大切にしている「場に対する感謝の気持ち」が僕には決定的に欠けていたのだと今になって思う。
『ビッグマウンテン』
とにかく演奏は中途でやめざるをえなくなり、僕はショックに打ちひしがれた。音楽家として演奏を途中で制止されるというのは最も傷つくことだからだ。
その時声をかけてくれたのが『久高オデッセイ』の撮影でその場に居合わせた大重監督だった。
監督はその夜、外間殿で島人の内間豊さんと共に一晩中僕と杯を傾けてくれた。
「お前はまだまだだが、その道をひたすら進んでゆけば、いずれ人が認めてくれるような男になるだろう」
あの時の監督の言葉が無かったら、僕はあの時音楽を辞めていたかもしれない。そして、その後伊敷浜でみた明け方の満月は心から僕を癒してくれた。
『黒神』
そんな監督の作品群を観ていて思うことがある。
この男の想念は間違いなくドラゴンに導かれているということだ。
ニライカナイ=竜宮。ニライ神=竜神。そして彼の真骨頂ともいえる「水の心」で描かれている水源から海までの美しい水の動きは、各地の竜神と人々との繋がりを可視化させた傑作だった。
ドラゴンは世界中にくまなく存在する。
風、水、稲妻、エネルギーや気が循環するその様子に、古来から人々は龍の姿を見た。
そして、その循環が度を越さぬように、決して災害にならぬように、人々は感謝と祈願の祈りを絶え間なく捧げてきたのである。ドラゴンが怒らぬように、優しく豊かな循環を常にもたらしてくれるように。
まさしく水と火の対流が激しく起こる鹿児島に生を受けた大重監督は、自らのルーツである海と風の循環を可視化し映像化するというドラゴンの使いとしての使命を帯びたのだろう。
僕たちは畏怖し、またそこを愛する。
『久高オデッセイ2』
今回の史上初となる大重作品の連続上映はまさに時代の要請と言うにふさわしい。
奄美から鹿児島桜島の麓に移住した農夫達の力強い日常を描く1970年の処女作『黒神』、水源から海までの水の流れをヒマラヤやインド~バリ島などへのロケで追った『水の心』など、アジアの海を中心とした自然と人々の共生の美しさを綴る全10タイトルは、人間が本来持っている美しさと生活の中の知恵を描いた秀作である。
『水の心』
そして特に遺作となった『久高オデッセイ』三部作は、神の島「久高島」を12年にわたり追い続けた意欲作であり、神人たちのイニシエーションであったイザイホー(12年に1度、午年に久高島で行なわれる祭事)が途絶えた後の祈りの継承を見事に映像におさめた大重の遺言でもあると言える。
『久高オデッセイ1』
人類が古来から脈々と継承してきた知恵とは?コミュニティの中心につねに存在する祈りとは?
大重が一貫してフィルムにおさめてきた映像群は、現代都市を生きる私たちそして未来の子供達への普遍的なメッセージに他ならない。
真の豊かさと美しさ、そして環境との共生。今回のヤポネシア映画祭で大重の作品を楽しんで頂き、私たちがはるか後世に伝えるべき具体的なヒントを是非読み取って頂きたい。
SUGEE(ミュージシャン・アーティスト) プロフィール
1995年頃より、沖縄、東南アジア、中南米、キューバ、西アフリカ等を旅し各地のシャーマンとの交流の中から、自らのスピリチュアリティ(霊性)とクリエイティビティ(創造性)に目覚める。帰国後はボーカル&ジェンベ奏者としてFUJI ROCK FESTIVALをはじめ様々なフェスやイベントに出演。2010年自身のバンドTheARTHから1stアルバム「CHOCOLATE OCEAN」、2014年2nd アルバム「DRAGON PLANET」をリリース。また群馬館林で自ら栽培する熱帯植物を使った空間コーディネーターとして、東京都内を中心に様々な都市空間の創造に携わっている。南青山COMMUNE246 で定期開催している都市の祝祭「SUNSET246」など、音と空間を通して人々への癒しと喜びを提供することをライフワークとしている。2016年10月には、美空ひばりの『リンゴ追分』のカバーも収録したEP(ミニアルバム)「UMI NO RINGO」をリリース。
Facebook:SUGEE http://facebook.com/SUGEE.official/
WEB:http://www.shamansugee.com/
『風の島』
ヤポネシア映画祭 ~『久高オデッセイ』大重潤一郎作品連続上映~
4月7日(土)~4月20日(金)
アップリンク渋谷
【上映作品】
『黒神』
労働とは何か‥飯を食うとは‥愛するとは何か生きるとは‥人間とは何か!? 桜島西北の黒神地区の開拓農民の厳しい自然の中で自然を畏怖畏敬しながら慎ましく逞しく生きる人間の姿を描く大重監督デビュー作
監督・脚本:大重潤一郎
(1970年/70分)
『水の心』
ヒマラヤやインド、バリ島の水や風の流れを記録し、人々が信仰する水の女神サラスヴァティーの気配を、自然と人が交歓する日常信仰を通じて描いた。自然遺産のような自然本来の姿は、未来の子供たちへと継承していかなければならない……といった大重の強い想いを伺い見ることができよう。
監督:大重潤一郎
撮影:川口徹也
(1991年/27分)
『光りの島』
幼いころに母を亡くした主人公は亜熱帯の珊瑚の無人島と出会い、島の磁力に引かれるように魂の道草を始める。やがて島の自然が語り出す‥。阪神大震災を身をもって経験した大重が祈りと希望を託して編集し作り上げた生命の根源を問う映画。
監督:大重潤一郎
出演:上条恒彦
撮影:堀田泰寛
(1995年/60分)
『風の島』
かつて、八重山諸島・新城島(パナリ)で作られていた幻の土器といわれる「パナリ焼き」。陶芸家の大嶺實清氏が新城島へと渡り、パナリ焼きの焼成実験をする過程を収めたドキュメンタリー作品。島の風土から生まれる土器づくりを通して、今生きる原点を見つめなおしたい。(出演・語り:大嶺實清)
監督:大重潤一郎
撮影:堀田泰寛
出演・語り:大嶺實清
(1996/45分)
『縄文』
私たちはどう生きていたのか、何を失ってきてしまったのか。季節が巡るようにすべての生きものは生死をくり返しながら永遠のいのちを共に支えあって生きている。‥生命は一つ。 縄文の暮らしを現代の眼で記録した映画。
脚本・監督・編集:大重潤一郎
主演:西尾純
題字:梅原猛
撮影:堀田泰寛
音楽:岡野弘幹
(2000年/47分)
『ビッグマウンテンへの道』
アリゾナの聖地ビッグマウンテンを守るおばあさんたちは「最後のインディアン」と言われている。日々大地に祈る伝統的な生活を営む彼らに、容赦なく襲いかかる強制移住の荒波。 これは世界中の若者たちがおばあさんたちにエールを送るためにビッグマウンテンを目指した行進の記録です。(ナレーション:山尾三省)
脚本・監督・撮影・編集:大重潤一郎
朗読:山尾三省
音楽監修:岡野弘幹
(2000年/45分)
『原郷ニライカナイへ―比嘉康雄の魂―』
琉球弧の人々・祭祀を記録し続けた写真家・比嘉康雄の遺言を記録した貴重な映画。この撮影を機に大重は沖縄の古層文化の記録を決意し、『久高オデッセイ』製作を始める。
監督・撮影・編集:大重潤一郎
(2000年/60分)
『久高オデッセイ』三部作
2002年から12年間、「神の島」・沖縄久高島の自然や島人の営み、祭祀などを撮影した大重監督の集大成。大重は製作途中、脳出血により倒れ、半身まひとなり、さらに癌手術17回を経る。2015年6月文字通り命を削りながら「久高オデッセイ三部作」を完成させる。大自然のリズム、死と再生、魂の永遠を謳歌する映像抒情詩。
『久高オデッセイ第一部 結章』
(2006/68分)
『久高オデッセイ第二部 生章』
(2009/77分)
『久高オデッセイ第三部 風章』
(2015/95分)
監督:大重潤一郎