骰子の眼

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東京都 渋谷区

2018-03-02 12:15


裕福な外科医に訪れる悪夢の選択 人間の本心を暴き出す神話的不条理劇『聖なる鹿殺し』

カンヌ脚本賞受賞 ギリシャのランティモス監督がアメリカを舞台に描くダークスリラー
裕福な外科医に訪れる悪夢の選択 人間の本心を暴き出す神話的不条理劇『聖なる鹿殺し』
映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

ギリシャ出身の映画監督ヨルゴス・ランティモスがコリン・ファレル、ニコール・キッドマンらを迎え、アメリカを舞台に、心臓外科医とその家族に訪れる恐怖を描く新作『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』が3月3日(土)より公開。webDICEではヨルゴス・ランティモス監督のインタビューを掲載する。

前作『ロブスター』で「45日以内に婚活に成功しなければ動物にされる」近未来を描いたランティモス監督。今作は初めてアメリカを舞台にしており、裕福な家庭にひたひたと押し寄せる不可解な出来事を、ランティモス監督独自の不条理なタッチと、現代に多発する猟奇的事件も想起させるサスペンス・タッチで描いている。かつて手術の失敗により父を亡くした少年と、彼が復讐しようとする医師の関係をメインにしているが、少年がなぜ心臓外科医スティーブンの子供たちの脚を麻痺させる能力を持っているのかは語られない。ランティモス監督は、神からの視点のような上空から見下ろすカットを多用し、神話的な雰囲気さえ漂わせながら、理由なき恐怖を登場人物に与えることで人間の本心を暴き出す。ランティモス監督は共同脚本のエフティミス・フィリップとともに2017年・第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。

「最初に浮かんだのは、他人の過失で父親を亡くした男の子。それから、超自然的な要素を加えて物語を作りこんだけど、人間性をさらけ出すためにどうやって登場人物に圧力をかけていこうかと試行錯誤するなかで、理論的になっていった。物語を作る上であらゆるやり方を試した」(ヨルゴス・ランティモス監督)


アイディアを見つけて物語を形作っていくことがいちばん楽しい

──前作の『ロブスター』については、愛と恋愛関係を語ることに興味があるとおっしゃっていましたよね。今回の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』では、どんなことを語りたいと思いますか?

大まかに言うと、正義、復讐、信念、選択、そして人生で大きなジレンマに直面しているときには、必ずしも何が正しくて何が間違っているのか判断できないことだよ。

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映画『聖なる鹿殺し』ヨルゴス・ランティモス監督(右)©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

──エフティミス・フィリップとの共同脚本制作はどのように始まったのですか?登場人物が最初ですか?それともテーマが先に決まっていたのでしょうか?どうやって始まったのか教えてください。

いつも違うね。どうやって始めるのかはいつも違う。ある状況を語りたいと思って始めると言ったらいいかな。この題材について脚本を作りたいとか、面白いと思った設定がまずあるかな。今回は、父親を亡くした男の子がいて、彼は父親の手術を執刀した医師の責任に疑問を感じるというところから始まったと思う。

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映画『聖なる鹿殺し』マーティン役のバリー・コーガン©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

──登場人物としては、バリー・コーガン演じる少年マーティンが最初に浮かんだのですね。

他人の過失で父親を亡くした男の子、ということだね。そのことを前提にして始まったと思うよ。それから、超自然的な要素を加えて物語を作りこんだけど、奇妙なことに、人間性をさらけ出すためにどうやって登場人物に圧力をかけていこうかと試行錯誤するなかで理論的になっていった。いろいろと物語を練ったり、物語を作る上であらゆるやり方を試したりした。

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映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited
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映画『聖なる鹿殺し』スティーブンの妻アナ役のニコール・キッドマン©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

──脚本制作は楽しいものですか?それから、同じ部屋で作業しますか?

楽しいね。一番楽しいんじゃないかな。撮影と編集とではどっちが楽しいかとたくさんの人に聞かれるけど、どっちも嫌いと答えているよ。どれもこれもストレスが溜まるから、あまり楽しむことってないんだけれど、エフティミスや他の共同脚本家とアイディアを出しあったり、アイディアを見つけて実際の物語を形作っていくことが、一番楽しいね。

この物語はうまくいくとか、面白い物語に仕上がっていくかっていうのは、感覚的にわかるんだ。それで、脚本を作るんだけれど、大まかな部分はエフティミスがやってくれて、それから一緒になって修正を加えたり、構想を練ったりするのは、まったく違う作業だね。いくつか場面を書いてうまくいかなかったら、それから脚本に戻って、構想を練り直すけれど、最終的なものが完成するまで何度もやり直すよ。

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映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

コリン・ファレルとはすぐに関係を深められた

──脚本を書いている時には、役者も決めていますか?コリン・ファレルの起用は『ロブスター』に続いて2回目ですよね。

いや、脚本を書いている時は、特に誰かを思い浮かべないようにしているね。脚本に集中したいし、セリフや話の筋に自信を持って書きたいから。脚本を書き終えて、うまく進められそうだと思ったら、そこで初めて撮影場所や出演者、その他の必要な要素を考えていくんだ。

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映画『聖なる鹿殺し』スティーブン役のコリン・ファレル©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

──でも、コリン・ファレルは明らかにお気に入りですよね。

コリンは確かに好きだね。それに、お互いを知っているから、今回はさらに良い経験ができた。すぐに関係を深められたと思う。コリンにとっては前回よりもっと複雑な役柄だったけれど。お互いのことを知っているし、前にも一緒に働いたことがあったのが役に立っただろうね。

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映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

──脚本賞を受賞したカンヌ映画祭は楽しめましたか?

手放しで楽しめはしないね。映画を出品せずに参加しているだけならいいけれど。映画を出品すると大きな重圧を感じる。それと同時に、複雑な気持ちでもある。映画が出品されているのはとても嬉しいし、映画を公開する場所としては最高だからね。カンヌに来られたのはとても嬉しいけど、とてもストレスがかかって疲れたよ。

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映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited
(オフィシャル・インタビューより)



ヨルゴス・ランティモス(YORGOS Lanthimos) プロフィール

1973年生れ、ギリシャのアテネ出身。初の長編映画『キネッタ/Kinetta(原題)』はトロントとベルリンの映画祭で上映され、批評家から称賛される。2作目の長編映画『籠の中の乙女』は、2009年・第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリを獲得し、世界中の映画祭で数々の賞を受賞し、ギリシャとして32年ぶりに2011年・第83回米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされる。3作目の長編『アルプス/Alps(原題)』は、2011年のヴェネチア国際映画祭で脚本賞を受賞し、2012年のシドニー映画祭で作品賞を獲得。4作目の『ロブスター』は、ランティモス初の英語作品であり、全編アイルランドで撮影され、2015年・第68回カンヌ映画祭審査員賞受賞、そして第89回米アカデミー賞脚本賞にノミネートされる(5本のうちの1本として。)長編5作目の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』は2017年・第70回カンヌ映画祭脚本賞を受賞し、ランティモスにとってカンヌ3度目の受賞作となった。




映画『聖なる鹿殺し』
3月3日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開

映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited
映画『聖なる鹿殺し』©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

心臓外科医スティーブンは、美しい妻と健康な二人の子供に恵まれ郊外の豪邸に暮らしていた。スティーブンには、もう一人、気にかけている少年がいた。その少年マーティンを家に招き入れたときから、家族のなかに奇妙なことが起こり始める。子供たちは突然歩けなくなり、這って移動するようになる。そしてスティーブンはついに容赦ない究極の選択を迫られる……。

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン、ラフィー・キャシディ、サニー・スリッチ、アリシア・シルヴァーストーン、ビル・キャンプ
2017/イギリス、アイルランド/カラー/英語/121分2
映倫:PG12
原題:THE KILLING OF A SACRED DEER
後援:アイルランド大使館、ブリティッシュ・カウンシル、ギリシャ大使館
配給:ファインフィルムズ

公式サイト


▼映画『聖なる鹿殺し』予告編

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