映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
『パンズ・ラビリンス』で知られるメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督の新作『シェイプ・オブ・ウォーター』 が3月1日(木)より公開。webDICEではデル・トロ監督のインタビューを掲載する。
米ソの軍事競争が繰り広げられる1962年のアメリカ・ボルチモアを舞台に、アマゾンから研究室に連れて来られた怪物と、研究所に務める声を出せない女性イライザが、手話やボディ・ランゲージなど言葉を使わないコミュニケーションで心を通わせていく。インタビューでも語られているように、メキシコ生まれのデル・トロ監督はフランケンシュタインをほうふつとさせる物語に黒人、ゲイ、女性、移民が虐げられているトランプ政権下のアメリカそして現代世界全体の問題を投影させる。古典的でシンプルなラブストーリーに「共存」のメッセージを込めたこの作品は、第90回アカデミー賞で作品賞をはじめ、監督賞、脚本賞他最多13部門にノミネートされている。
「古典的なおとぎ話を現代風にアレンジした。いわば現代政治のおとぎ話だ。怪物が女性を抱く映像は一昔前の感覚ではホラー映画だが、ここでは解放と愛を象徴する。現代人に訴える美しい映像だ。さらに違いを認めないという点で現在の分断社会にも通じる。残念なことに国境に壁が建設される世の中だ。信じがたいことにね。共存の時代であるべきなのに」(ギレルモ・デル・トロ監督)
感情的でロマンティックな作品
──今回はどんな作品を目指しましたか?
乱世のおとぎ話のようなラブストーリーだ。繊細で美しく、ポジティブで感情的でロマンティックな作品。非常にドラマチックでもあり、政府機関で働く掃除係と不思議な生物との愛の物語だ。政府は生態研究のため彼の解剖を計画する。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
──時代背景について教えてください。
舞台は1962年のアメリカ、アメリカン・ドリームが息づく戦後の裕福な時代で、当時のアメリカは繁栄のピークにあった。ベトナム戦争が本格化する直前で、米軍は既に配置されていたが、戦争が泥沼化する前だ。華やかで希望に満ちた時代だった。間もなく、ケネディ大統領は暗殺され、アメリカン・ドリームが崩壊するそれ以前の未来志向の潮流の中、優れた生物が発見される。古代の神秘そのままの生物、だが当時の人々の目には神秘としては映らず、〈やつ〉と呼ばれ蔑まれる。主人公のイライザだけが愛と哀れみをもって接する。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
──今作はどんなジャンルの作品と言えるでしょうか?
『パンズ・ラビリンス』と同様のコンセプトだ。古典的なおとぎ話を現代風にアレンジした。いわば現代政治のおとぎ話だ。1950年代の英雄的存在はここでは悪役に転じている。怪物が女性を抱く映像は一昔前の感覚ではホラー映画だが、ここでは解放と愛を象徴する。現代人に訴える美しい映像だ。さらに違いを認めないという点で現在の分断社会にも通じる。残念なことに国境に壁が建設される世の中だ。信じがたいことにね。共存の時代であるべきなのに。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
──キャストについて教えてください。
元から主要キャストの3人を想定して、脚本を書き上げた。幸運にも3人とも出演してくれた。マイケル・シャノンは知的かつ共感を呼ぶ悪役を見事に繊細に演じ上げた。
オクタヴィアは個性的で人間味あふれる感情豊かな女優だ。そしてサリー・ホーキンスは純粋無垢な美しさを備え、独特な魅力を放つ不思議な生物の本質を見抜く透明な心の持ち主を演じる。無声映画の女優のように、セリフを一切 口にしない口が利けず手話を使うだが、非常に感動的だ。目の表現力が豊かなんだ。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』左からマイケル・シャノン、サリー・ホーキンス、オクタヴィア・スペンサー(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
──撮影中はどんな苦労がありましたか?
これまでの作品の中で、最も好きな作品の一つだ。現時点では最高だと思う。だが撮影はとにかく大変だった。困難の連続で気が滅入るほどつらい毎日だった。だが、最終的には苦労した甲斐があった。撮影初週は映画史上最悪で、失敗の連続だったんだ。無事に行えたのは1日だけ。しかし努力が報われ、最高の作品が生まれた。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
(オフィシャル・インタビューより)
ギレルモ・デル・トロ(Guillermo Del Toro) プロフィール
1964年、メキシコ生まれ。短編映画やTVシリーズを経て、『クロノス』(93)で長編映画監督デビューを果たす。続いて、『ミミック』(97)、『デビルズ・バックボーン』(01)、『ブレイド2』(02)、『ヘルボーイ』(04)を手掛ける。
2006年、『パンズ・ラビリンス』がアカデミー賞®6部門にノミネートされ、撮影賞、美術賞、メイクアップ賞を受賞し、自身も脚本賞でノミネートされる。ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にもノミネートされ、監督、脚本家、プロデューサーとして国際的に絶賛され、唯一無比の世界観を作り出す映像作家として映画史にその名を刻む。
その後、『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(08)、『パシフィック・リム』(13)、『クリムゾン・ピーク』(15)を監督する。TVシリーズ「ストレイン」(14~17)では、脚本、監督、製作、原案を務める。また、ピーター・ジャクソン監督の『ホビット』三部作(12/13/14)の脚本を手掛ける。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』
3月1日(木)全国ロードショー
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
1962年、アメリカ。政府の極秘研究所に勤めるイライザは、秘かに運び込まれた不思議な生きものを見てしまう。アマゾンで神のように崇められていたという“彼”の魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。二人の心が通い始めた時、イライザは“彼”が間もなく実験の犠牲になると知る──。
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スツールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
原題:THE SHAPE OF WATER
2017年/アメリカ/124分
配給:20世紀フォックス映画