骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2018-02-06 18:45


北欧映画祭ノーザンライツ、注目はゲイ・アートの巨匠描く『トム・オブ・フィンランド』

劇場未公開映画・音楽・食―北欧カルチャーをまとめて楽しむ祭典 2/10より開催
北欧映画祭ノーザンライツ、注目はゲイ・アートの巨匠描く『トム・オブ・フィンランド』
『トーキョーノーザンライツフェスティバル2018』上映作品・『トム・オブ・フィンランド』より ©Mikko Rasila

北欧の映画界から注目の映画作家と作品を紹介する『トーキョーノーザンライツフェスティバル2018』が2月10日(土)から2月16日(金)まで渋谷ユーロスペースほかにて開催。今年で8回目を迎えるこの映画祭は、アップリンクが行なう配給サポート・ワークショップの参加者が2011年に立ち上げ、企画と運営を行なっている。

日本ではスクリーンで観ることのできない旧作や劇場未公開作がラインナップ。音楽イベントやカフェレストランとの連動企画、写真展もあり、北欧のカルチャーを様々なかたちで楽しむことのできるフェスティバルとなっている。

開催にあたりwebDICEでは、映画祭のスタッフ熊澤隆仁さん、細川典子さんによるオススメの作品のレコメンド文を掲載する。
紹介する作品は新人監督にスポットを当てたもので『チーム・ハリケーン』 『がらくたヘリコプター』『ストロベリー・デイズ』はそれぞれの監督の長編デビュー作だ。




北欧パノラマ

『トム・オブ・フィンランド』

Tom of Finland_ Photo by Mikko Rasila
©Mikko Rasila

ゲイ・エロティック・アート界では言わずと知れた名匠「トム・オブ・フィンランド」 ことトウコ・ラークソネンの半生を描いた伝記映画。

第二次世界大戦後のフィンランドは同性愛が厳しく罰せられて、トウコは身内にさえ隠れて、自らの本能的な欲望をドローイングに表現し続けました。

映画『トム・オブ・フィンランド』より
トム・オブ・フィンランド』より、トウコ・ラークソネンのドローイング

その作風は戦争とは真逆の世界で、ゲイたちのユートピアが描かれているようにも見えます。アメリカの雑誌で表紙を飾ったことをきっかけにその名がアンダーグラウンドのみならず芸術界に知れ渡ります。海外に作品を展開する際に、本名は中々覚えづらいと考えたトウコは自ら「トム」を名乗ります。そこからが彼の伝説的な活躍の始まりです。数々の業界人たちと交流し、ゲイ・エロティック・アーティストとしての不動の地位を手に入れました。この物語にはLGBTへの無理解と闘った芸術家の何十年もの歴史が集約されています。

本作品はアカデミー賞外国映画賞フィンランド代表に選出され、映画監督のジョン・ウォーターズはこのことをARTFORUM誌にて「これを“愛国的ペニスの進歩(patriotic penis progress)”と呼ぼう。受賞してほしい」とコメントしました。

映画祭初日にはこの作家を日本で初めて公式に紹介した田亀源五郎さんのトークも行われますので、この機会に是非足をお運び下さい!(熊澤隆仁)

原題:Tom of Finland
監督:ドメ・カルコスキ Dome Karukoski
2017年 / フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、アメリカ / フィンランド語(Finnish), ドイツ語(German), 英語(English) / 116分
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

◎上映スケジュール
2月10日(土)18:30、2月13日(火)16:30、2月15日(木)21:10
会場:ユーロスペース

『トム・オブ・フィンランド』トークショー
▼日時:2月10日(土)18:30~の上映回
ゲスト:田亀源五郎 Gengorou Tagame(マンガ家、ゲイ・エロティック・アーティスト)
1964年生まれ。1986年からゲイ雑誌で作家活動を開始。代表作『銀の華』『君よ知るや南の獄』他。一般マンガ『弟の夫』で2016年度文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。パリ、ニューヨーク、ベルリン等で個展を多数開催。




『チーム・ハリケーン』

Team Hurricane©Louise Mc Laughlin
©Annika Berg

本作品の監督であるアニカ・ベウはコペンハーゲン出身。デンマークの国立映画学校を卒業後に制作した長編第1作目がこの『チーム・ハリケーン』です。本作はヴェネツィア国際映画祭批評家週間に選出され、本国でも大きな話題となりました。

物語はユース・クラブと呼ばれる青年も使える公民館のような場所(家でも学校でもないところ)で展開され、ここで出会った8人の少女たちの一夏の思い出が描かれています。一人一人が尖った個性を持ち、それ故に日常の中で何かしらの疎外感を受けてもいます。SNSでその輝きを見出された彼女たちの存在感は現実とフィクション、あるいはインターネットの宇宙を軽々と飛び越えていきます。

サウンドトラックは監督自身がPVの制作を引き受け、交流もあるシンセポップデュオFirst Hate(ファースト・ヘイト)やノルウェーからコペンハーゲンに移住し昨年はロンドンのXLレコーディングと契約を果たすなどヨーロッパ中を駆け巡る女性デュオSmerz(スメッツ)など、今のコペンハーゲンっ子の気分を感じられる楽曲群です。日本産のボーカロイドが聴こえてくる場面もあり、それがまたこの作品をユニークたらしめています。まずはこのテクニカラーで彩られたガールズギャングたちを『予告編』にてご覧下さい。(熊澤隆仁)

原題:Team Hurricane
監督:アニカ・ベウ Annika Berg
2017年 / デンマーク /デンマーク語(Danish) / 96分
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

◎上映スケジュール
2月10日(土)11:30、2月13日(火)11:30、2月16日(金)21:10
会場:ユーロスペース

『チーム・ハリケーン』トークショー
▼日時: 2月10日(土) 11:30~の上映回
ゲスト:UMMMI.(アーティスト、映像作家)
アーティスト / 映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作をしている。初の長編作品『ガーデンアパート』 は2018年春に公開予定。




FOCUS ON SWEDEN

『ティグレロ 撮られなかった映画』

Tigrero

事の発端は1950年代。特定の映画会社に属さず、自分の企画を遂行するスタイルでハリウッドで唯一無二の独立系映画人としてその名を馳せた「異端児」サミュエル・フラーは『鬼軍曹ザック』や『拾った女』などを世に送り出し、その勢いに乗ってブラジルのアマゾン「マト・グロッソ」を舞台にした映画の構想を練っていました。ジョン・ウェインやエヴァ・ガードナーなど当時の大スターを迎え、完全なる海外ロケ 撮影となる予定であった『ティグレロ』はその莫大な保険金を理由に企画自体が頓挫してしまいます。

本作品では、当時フラーが脚本執筆の為に訪れたアマゾン視察の道程を再び訪れる様子が描かれます。監督は80年代から親交のあるミカ・カウリスマキ、そして旅のお供に友人のジム・ジャームッシュを連れて行きます。フラーが現地で交流したカラジャ族との再会、変貌を遂げた村の様子などを写しながらフラーの口から映画哲学、自然界への敬意、人と人との霊的なつながりなどが饒舌に語られる貴重なドキュメントです。正に生きることと映画を撮ること、記録することが一体となった映画人の言葉はスクリーンを通してその胸に焼き付けられることになるでしょう。

自らが弟のアキ・カウリスマキと主催する「ミッドナイトサンフィルムフェスティバル」(白夜映画祭)にて第1回目のゲストとして招聘したり、自作に俳優として出演をお願いするなどフラーを師と仰ぐミカ・カウリスマキ。TNLF2018ではミカ監督の'91年作『ゾンビ&ザ・ゴーストトレイン』(日本では初上映)も併せて上映します!(熊澤隆仁)

原題:Tigrero - Elokuva, joka ei valmistunut / Tigrero-A Film that Was Never Made
監督:ミカ・カウリスマキ MIKA KAURISMÄKI
1994年 / ブラジル、フィンランド、ドイツ / 英語(English), ポルトガル語(Portuguese), カラジャ語(Karajá) / 75分
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

◎上映スケジュール
2月10日(土)21:10、2月14日(水)19:00、2月16日(金)16:30
会場:ユーロスペース

『ティグレロ 撮られなかった映画』トークショー
▼日時:2月14日(水)19:00~の上映回
ゲスト:樋口泰人 Yasuhito Higuchi(映画評論家、音楽評論家、boid 主宰)
映画評論家、boid主宰。ディレクターを務める爆音映画祭が各地で熱狂的な支持を得ている。2015年『サミュエル・フラー自伝 わたしはいかに書き、闘い、映画をつくってきたか』(boid)を刊行。

▼日時:2月16日(金)16:30~の上映回
ゲスト:相澤虎之助 Toranosuke Aizawa(映画監督、脚本家)
映画監督、脚本家。早稲田大学シネマ研究会を経て空族に参加。監督作『花物語バビロン』('97)が山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映。最新作『バビロン2-THE OZAWA-』('12)は爆音映画祭にてプレミア上映。空族結成以来、『国道20号線』('07)『サウダーヂ』('11)『チェンライの娘』 ('12) 『バンコクナイツ』('16)と、富田克也監督作品の共同脚本を務める。




『がらくたヘリコプター』

The Garbage Helicopter ©Anders Bohman
©Anders Bohman

仮面をつけた3人組のモノクロのスチルから、ただならぬセンスを感じ、観る前からおもしろいと確信していた作品です。ワンシーン、ワンシーンが写真のように完璧にフレーミングされながらも、どこまでもゆるいオフビートなロードムービー。監督のヨーナス・セルベリ=アウグスツセーンは本作が長編デビュー作で2017年のスウェーデンアカデミー(グルドバッゲ)賞の作品賞にノミネートされました。

ロマ族は、かつてはジプシーと呼ばれていた諸民族のひとつで、数千年にわたってヨーロッパで迫害され続け、現在でもその差別が社会問題になっています。ジプシーというと移動型民族のイメージですが、現在では多くが定住していて、作品に登場するロマ族の家族もおしゃれなお家に住んでいます。

ある日、末っ子のエルサは離れて暮らすおばあちゃんから修理に出していた柱時計を届けて欲しいと頼まれ、バキ、サスカのふたりの兄弟と共に、約1,000kmの旅に出ます。定住していたロマ族が移動する物語なのですが、彼らには悲壮感はありません。行く先々で英語で話しかけられますが、自分たちがスウェーデン語を話すことを伝えるとあっさり受け入れられますし、特に差別的な扱いを受けている風にも見えません。ただ、おばあちゃんのセリフや旅先での出来事などから、彼らが迫害されてきたであろう歴史がうかがえます。スウェーデン社会に溶け込んで育ってきた兄弟妹にとって、ほんのりと、自らのルーツを辿る旅になっていきます。(細川典子)

原題:Sophelikoptern / The Garbage Helicopter
監督:ヨーナス・セルベリ=アウグスツセーン Jonas Selberg Augustsén
2015年 / スウェーデン、カタール / ロマ語(Romany), スウェーデン語(Swedish), 英語(English) / 100分
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

◎上映スケジュール
2月11日(日)11:30、2月13日(火)14:00、2月16日(金)19:00
会場:ユーロスペース




『ストロベリー・デイズ』

Strawberry Days©Nadim Carlsen
©Nadim Carlsen

北欧でベリーといえば、夏にバスケットを持って森で摘んでジャムにして、冬の間それを食べて…。と自然と共に生きるステキっぽい生活をイメージしますが、スウェーデンのいちご産業は、海外からの移住労働者で成り立っています。過酷な肉体労働に対して賃金は安く、差別的な扱いさえ受けていて、それがゆえの犯罪も起きています。

物語の舞台は、そういった社会的背景のある季節労働者が集まるスウェーデンのいちご農園。両親と共にポーランドからやって来たヴォイテクは、収穫したいちごを不愛想にチェックする農園の娘、アンネリに惹かれます。同世代の仲間たちの中では少し浮いた存在で、閉塞的な環境から抜け出すことを夢見ていた彼女もまた、ヴォイテクに惹かれていきます。しかし、相手は差別の対象となっている季節労働者。その関係はふたりだけの秘密になります。普段は英語で会話するふたりが、それぞれの母国語を教え合うシーンは、なんとも甘酸っぱくて、このまま世界をふたりだけのものにしてあげたくなるのですが、そうは問屋が卸してはくれません。

監督は、本作が長編デビュー作となるヴィクトル・エーリクソン。ヴォイテクの母親役のユリア・キヨフスカは先日発表された2018年のスウェーデンアカデミー(グルドバッゲ)賞で助演女優賞を受賞しています。まだ、自分たちだけで人生を切り開けない10代のふたりの恋の行方を追うと共に、広大ないちご畑に降り注ぐ真夏の太陽という風光明媚な映像もぜひスクリーンで体験していただきたいです。(細川典子)

原題:Jordgubbslandet / Strawberry Days
監督:ヴィクトル・エーリクソン Wiktor Ericsson
2017年 / スウェーデン、ポーランド / スウェーデン語(Swedish), ポーランド語(Polish), 英語(English) / 93分
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

◎上映スケジュール
2月12日(月)14:00、2月14日(水)11:30、2月15日(木)19:00
会場:ユーロスペース




音楽イベント

ATTENTION REYKJAVÍK Vol.8 アイスランドの音楽と暮らし

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2月17日(土)【1st】15:45開場/開演16:00 【2nd】18:45開場/19:00開演
会場:アップリンク・ファクトリー

料金:2,500円(1ドリンク付)

ビョークから14歳の新人デュオまで大活躍! 2016 フェスレポート

アイスランドに拠点を移したナビゲーターの小倉悠加が、たくさんの話題を抱え本イベントのために一時帰国。

音楽フェス・レポートは恒例のアイスランド・エアウエイブスに加え、東部ネスコイプスタヅルで行われたヘビメタ・フェスのエスナフルグや、シガーロスがキュレーションしたノルヅルオニーズルも取りあげます。そして今回はリアルな日常生活やリングロード一周旅行なども写真や映像を交えてご紹介。

現地音楽シーンのレポートを中心に、独自の視点からアイスランドの魅力をたっぷりとお伝えします。

当日はアイスランドの音楽CDを中心に物販あり(現金のみ)。

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ナビゲーター:小倉悠加(Yuka Ogura)
レコード会社に勤務後、フリーランスの音楽ジャーナリスト。アイスランドに魅了され、2003年からアイスランド音楽・文化を専門的に扱うICELANDiaをブログとショップで展開。人脈も広く、雑誌取材からレコーディング等の手配まで、アイスランドと日本をオールマイティにつなぐ。

ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2017/49734




生伴奏つきサイレント映画上映

Den starkaste (1929) Filmografinr: 1929/04

スウェーデンの『一番強い者』を「ピアノdeシネマ」でもお馴染み、柳下美恵さんの生伴奏付で上映!柳下さんの生伴奏とともに北欧のサイレント映画の世界をお楽しみください。

伴奏:柳下美恵( Mie Yanashita)
サイレント映画ピアニスト。1995年に朝日新聞社主催映画誕生100年記念上映会でデビュー。国内外の映画祭で活躍。即興演奏を得意とし、全てのジャンルを弾きこなす。600本を超える映画に伴奏をつけている。

原題:Den starkaste : En berättelse från Ishavet / The Strongest
監督:アクセル・リンドブロム、アルフ・シェーベルイ Axel Lindblom, Alf Sjöberg
1929年 / スウェーデン / intertitle:スウェーデン語(Swedish) / 106分
字幕:日本語

◎上映スケジュール
2月10日(土)16:00、2月13日(火)19:00
会場:ユーロスペース




カフェ/レストラン

Tabela(タベラ)
ノーザンライツフェスティバル スペシャルメニュー
2月10日(土)~16日(金) 提供時間:平日16時~、土日祝12時~

【リンゴンベリーとフルーツのサンド+ドリンク 900円】

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カフェ/レストラン Tabela(タベラ)
平日:ランチ11:45~16:00 ティータイム16:00~18:00 ディナー18:00~23:00
土日祝:ランチ12:00~16:00 アフターランチ16:00~17:30 ディナー17:30~23:00
※ラストオーダー22:15
定休日なし・連日営業
東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F [地図を表示]
TEL 03-6825-5501
http://www.uplink.co.jp/tabela/




トーキョーノーサンライツフェスティバル2018

トーキョーノーザンライツフェスティバル2018
2018年2月10日(土)より2月16日(金)まで渋谷ユーロスペースほかにて開催

公式サイト

▼『トーキョーノーザンライツフェスティバル2018』予告編

▼『トム・オブ・フィンランド』予告編

▼『チーム・ハリケーン』予告編

▼『ティグレロ 撮られなかった映画』予告編

▼『がらくたヘリコプター』予告編

▼『ストロベリー・デイズ』予告編

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