骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2017-09-08 20:40


フィンチャー、PTアンダーソン、黒澤明を参考に 是枝版フィルムノワール『三度目の殺人』

福山雅治×役所広司主演 オリジナル脚本で挑んだ法廷劇について語る
フィンチャー、PTアンダーソン、黒澤明を参考に 是枝版フィルムノワール『三度目の殺人』
映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

是枝裕和監督が2013年の『そして父になる』に続き福山雅治を主演に迎え、オリジナル脚本で描く法廷ドラマ『三度目の殺人』が9月9日(土)より公開。webDICEでは是枝裕和監督のインタビューを掲載する。

弁護士の重盛は、勤務する工場の社長を殺したという容疑で逮捕された男・三隅の弁護を担当する。当初は殺人の自白をしていたものの、接見するなかで次々と証言を変えていく三隅に重盛は翻弄され、真実よりも勝利にこだわっていた彼の心情は揺れ動いていく。役所広司演じる不気味な存在感を放つ三隅と、福山雅治が扮する狡猾ささえ感じさせるやり手の弁護士・重盛との緊張感溢れる接見室での駆け引きは出色。トーンを抑えた色調や音楽も含め、是枝版フィルムノワールと呼びたい新境地を開拓している。


「画作りは50年代ごろのアメリカの犯罪映画をイメージしました。撮影の瀧本幹也さんに最初に観てもらったのは『ミルドレッド・ピアース』(1945年/監督:マイケル・カーティス)です。シネスコを上手に使った作品としては、『セブン』(1995年/監督:デヴィッド・フィンチャー)やポール・トーマス・アンダーソン監督の作品を何本か、瀧本さんと共有して観ました。あとは黒澤明。『天国と地獄』(1963年)などの作品です。そういった作品を観ながら、シネスコの画面でどう緊張感を失わずに撮れるかということを考えました」(是枝裕和監督)


「法廷は真実を解明する場所ではない」

──今回の作品はサスペンスタッチの法廷劇になりました。着想はどのあたりにありましたか?

今回はまず弁護士の仕事をちゃんと描いてみたいと思いました。それで弁護士の方に話を聞いたところ、みんな口を揃えたように「法廷は真実を解明する場所ではない」と言うんですね。そんなの誰にもわかりませんからって。ああ、そうなんだ、面白いなと思ったんです。それなら結局、何が真実なのかわからないような法廷劇を撮ってみようと思いました。

映画『三度目の殺人』是枝裕和監督
映画『三度目の殺人』是枝裕和監督

──脚本の執筆は試行錯誤を重ねたそうですね。

これまでの作品は登場人物にジャッジを下さないという視点で撮ってきました。要するに神の目線を持たずに撮ってきたんです。でもサスペンスや法廷劇は本来、神の目線がないと成り立たないジャンルですよね。それなのに僕はやはり神の目線を持ちたくなかったので、そのせめぎあいで苦悩しました(笑)。

映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

──できあがった作品を観るとまず、福山雅治さん扮する弁護士が役所広司さん扮する殺人犯と接見室で交わすやりとりに緊迫感があります。

クランクインの前に福山さんと役所さんの本読みを行ったら、接見室のシーンが圧倒的に面白かったんです。当初は人の動きがほとんどないので、接見室の場面はあまり多くしたくないと思っていたんですね。これまでのホームドラマでは、空間でどう人を動かして撮るかを考えてきましたが、ガラスで隔てられた接見室は基本的に人が座ったままですから。でもふたりのやりとりを見た時、これは動くなと。感情が動くし、駆け引きもあって。そこから接見室の場面を増やしました。結局、作品の骨格が見えてきたのは、実際に役者を見てからなんです。

映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

──映像も力強いですね。いわゆるフィルムノワールのような犯罪劇の世界観が、これまでとは異なる質感の映像で作り上げられています。

今回は犯罪映画のルックを目指して、いままでのナチュラルなライティングではなく、光と影のコントラストを強調しました。撮影の瀧本幹也さんから提案があって、シネスコにも挑戦しています。シネスコだとクローズアップが効果的で、三人並んで歩く姿がカッコいいんですね。結果的にとてもよかったと思います。

映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
映画『三度目の殺人』役所広司演じる謎多き男・三隅 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

光と影のコントラストを強調

──画作りはどのようなイメージでしたか?

50年代ごろのアメリカの犯罪映画をイメージしました。瀧本さんに最初に観てもらったのは『ミルドレッド・ピアース』(45/監督:マイケル・カーティス)です。シネスコを上手に使った作品としては、『セブン』(95/監督:デヴィッド・フィンチャー)やポール・トーマス・アンダーソン監督の作品を何本か、瀧本さんと共有して観ました。あとは黒澤明。『天国と地獄』(63)などの作品です。そういった作品を観ながら、シネスコの画面でどう緊張感を失わずに撮れるかということを考えました。

映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
映画『三度目の殺人』被害者の娘・を演じる広瀬すず ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

──この作品が浮き彫りにするのは、「裁き」が「真実」とは無関係に下されているという事実だと思いますが。

普通は真実に辿りついて映画が終わります。でもこの映画では、登場人物が真実をつかめないまま、裁きのシステムだけ維持されていくんです。真実が何かわからないなかで、人が人を裁いていかなければ維持できない不完全なシステムを、私たちの社会は内包しているということですよね。おそらく主人公は、そのことに気づいた時、ある恐ろしさを感じるのではないでしょうか。

──近年、是枝監督は自身の足もとを掘り下げるようにしてホームドラマを作り続けてきましたが、異なるタイプの映画を撮りたいというモチベーションもありましたか?

はい、まったく違うところに目を向けてみようかなと。結局、作りながら見えてきたものをそのまま映画にしているので、作り方はこれまでと同じだったかもしれませんが、映画について考えるうえでは非常に贅沢な経験をさせてもらいました。そのうちきっと新しいことに挑戦できなくなる時が来るはずなので、このタイミングでこういう作品を撮ることができてとても楽しかったです。

(オフィシャル・インタビューより)



是枝裕和 プロフィール

1962年6月6日生まれ。東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。14年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。主なTV作品に、「しかし・・・」(91/CX/ギャラクシー賞優秀作品賞)、「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91/CX/ATP賞優秀賞)などがある。95年、『幻の光』で監督デビューし、ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。04年の『誰も知らない』では、主演を務めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。そのほか、『ワンダフルライフ』(98)、『花よりもなほ』(06)、『歩いても 歩いても』(08)、『空気人形』(09)、『奇跡』(11)等を手掛ける。近作には福山雅治主演、カンヌ国際映画祭審査員賞他、国内外の数々の賞に輝いた『そして父になる』(13)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞、撮影照明賞の4冠に輝いた『海街diary』、カンヌ国際映画祭、ある視点部門に正式出品された『海よりもまだ深く』(16)がある。




映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
映画『三度目の殺人』 ©2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

映画『三度目の殺人』
9月9日(土)全国ロードショー

それは、ありふれた裁判のはずだった。殺人の前科がある三隅が解雇された工場の社長を殺し、火をつけた容疑で起訴された。犯行も自供し、死刑はほぼ確実だった。その弁護を担当することになった、重盛。裁判をビジネスと割り切る彼は、どうにか無期懲役に持ちこむために調査を始める。何かが、おかしい。調査を進めるにつれ、重盛の中で違和感が生まれていく。三隅の供述は会うたびに変わる。動機さえも。なぜ殺したのか?本当に彼が殺したのか?得体のしれない三隅に呑みこまれているのか?弁護に真実は必要ない。そう信じていた弁護士が、初めて心の底から真実を知りたいと願う。やがて、三隅と被害者の娘・咲江の接点が明らかになり、新たな事実が浮かび上がる──。

監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎
撮影:瀧本幹也
配給:東宝 ギャガ
2017年/日本/124分

公式サイト


▼映画『三度目の殺人』予告編

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