映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
マクドナルドの創業者レイ・クロックを描く映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』が7月29日(土)より公開。webDICEでは、ジョン・リー・ハンコック監督のインタビューを掲載する。
誰もが知っているマクドナルドの誰もが知らないマクドナルド創業時の物語。観る前に想像するにはきっと“i'm lovin' it”なアメリカ的ビジネス成功物語だと思っていた。しかし、観終わった時の感情は決してハッピーなものではなかった。超簡単にいえば、マクドナルド兄弟の発明を小賢しいセールスマンが兄弟を騙してパクリ、今の世界のマクドナルドにした話だ。
以下、監督がインタビューで述べているように、これは二つの資本主義の物語だ。一つは、マクドナルドを起業したマクドナルド兄弟のいいアイアがあり頑張って働けば成功するという牧歌的資本主義。もう一つはマイケル・キートン演じるレイ・クロックが実践する汗を流す肉体労働は他人に任す。いかに規模を大きくしてお金を儲けるか。そのためには、フランチャイズというキーワードで一気に事業を拡大し、グローバル化する資本主義。「マクドナルド」は兄弟の本名だが、彼らがハンバーガー店としては使えないようにクロックは、商標登録してしまうことも辞さない。もちろん、現在世界では、後者の資本主義が勝っている。個人経営のカフェや書店など小さなお店と全国チェーンの店。どの商売にも当てはまることだが、売上のためには効率化と拡大。ただ、その価値観が大きく変化している現在、今後もその方程式が有効かと考えると答えはいくつもあるだろう。と言うわけで、この映画をビジネスの視点で見るのが一番面白く観られるのではないだろうか。記憶に残ったシーンは、あのMは単なるロゴではなく、日本ではそんな店舗デザインのマクドナルドを見た記憶がないのだが、車社会のアメリカで店舗自体の建築的サインだったということ。これはオリジナルの兄弟のアイデアではなく、マーケティングを意識したクロックのアイデア。
“i'm lovin' it”と思っていると、監督の意図する通り、かなり苦い気持ちにさせられる映画だ。「この映画は常にロールシャッハテストのように、それぞれ自分のことを持ち込んで、自分のレンズを通して受け取ることを目指していた」と言うハンコック監督の意図は大成功している。ハリウッドのアメリカ映画と比較すると異形のアメリカ映画であり、リアルなアメリカを描いた映画と言えるだろう。
(文/浅井隆)
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』レイ・クロックが最初にフランチャイズ店舗として手掛けたマクドナルド・シカゴ店。 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
この映画は違うタイプの二つの資本主義を描いている。一つは、いいアイデアを持ち、一生懸命働いて、成功するというもの。そんな資本主義企業の目標はカネをもうけることだ。映画の最後にもう一つの資本主義企業が出てくる。その企業ではそれが独自のアイデアかどうかは重要じゃない。いい投資銀行や資本家を知っているかだ。それこそ異なる資本主義のモデルだ。もしマクドナルド兄弟が会社の支配を維持していたら、今日どんなになっていただろうか。
(ジョン・リー・ハンコック監督)
マクドナルドの創業に関して片っ端からリサーチした
──レイ・クロックの物語で映画人のあなたを惹きつけたのはどんなところでしたか?
『レスラー』(08)の脚本を担当したロバート・シーゲルの脚本を読んで、積極的にレイを応援している気分に駆られ、それから彼の動機や行動に疑問を持ち始め、最後は「この男は好きじゃない」と思うようになった。そんな脚本は今まで読んだことがなかった。映画化するのは少し綱渡りかとも思ったが、映画製作にかかる数年の間、興味を失うことはなさそうな題材に思えた。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 ジョン・リー・ハンコック監督(左)
──マクドナルドの創業話についてどのくらい知っていましたか?
そんなには知らなかったよ。マクドナルド兄弟がいてカリフォルニアで始まったのは知っていたが、創業初期にレイは実際よりもっと関わっていたと思い込んでいた。だから僕自身驚くような内容がかなりたくさん脚本に入っていた。
──この物語のリサーチはどのようにしましたか?
主にこのテーマに関して手に入る本は片っ端から読んだ。僕が関わる前にもプロデューサーたちが8年分に相当する調査をしていて、脚本を書いたロバート・シーゲルにもそれは伝わっていた。さらにマクドナルド家からもテープや写真などの資料が寄せられていた。
──マクドナルド家の誰かと会いましたか?
ああ、ディック・マクドナルドの息子の孫のジェイソン・フレンチと。正確には計算しないといけないが、たぶんディックが死んだ時にジェイソンは子供だった。だから家族の歴史や物語は個人的な祖父像の記憶より大切だったかもしれないが、彼は現場に来て、中心になって情報を提供してくれた。
マイケル・キートンのエネルギーが
この映画を動かす陰の推進力
──マイケル・キートンとの仕事について聞かせてください。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡』(14)の公開後にキャスティングがされたそうですね。彼の他も、すばらしいキャスト陣でしたね。
まさにそのとおりだ。『バードマン』同様、彼は僕たちにとっても、とても重要な役割を果たすことになると思っていた。彼のエネルギーはそのまま僕らの力となるだろうと。『バードマン』では彼の背中に映画を載せ、「どこへ君が連れていこうと僕らも行くよ」という感じを受けたからね。この作品でも同じだと感じた。僕らがスタッフとして操縦していても、彼のエネルギーがこの映画を動かす陰の推進力だった。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』レイ・クロックを演じたマイケル・キートン © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
──私の考えでは、この映画の中で観客にもキートンはクロックそのものに見えそうです。実際に本人のように見えますか?
おそらくいくらかはね。ほとんどの人はレイ・クロックがどんな風貌か知らないから、必ずしもそこは重要ではない。でもカリスマ性やエネルギーやセールスマンらしさなどはそっくりだと思う。
──クロックに対するあなた自身の見解はいかがですか?先程、脚本を読んでいて最初は共感しつつも最後は……という話がありましたが。
僕としては彼を悪人とは言わない。ただ「好きと断言はできない」という感じだ。レイの友人で「彼は友人で、彼のことは好きだった。でも嫌な奴だ」と言うのとは全然違う。そんな感じだ。この映画は常にロールシャッハテストのように、それぞれ自分のことを持ち込んで、自分のレンズを通して受け取ることを目指していた。
この映画を観た感想をいろいろ聞いた。「レイ・クロックは怪物だ」と言う人もいれば、「彼はああするしかなかった。そうしなければ彼のビジョンは実現しなかった」と言う人もいた。その中間的な意見の人もいた。それはどれもすばらしい。そういうのがいい。最悪なのは、彼の絵を描いた時に、彼を肯定しまくって天使のように描くか、あるいは企業の屈辱として完全な悪魔のように描いている場合だ。そういうのは僕にはつまらない。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
描かれる“二つの”資本主義
──あなたにとってこの物語の核は何ですか。ファーストフード産業の誕生物語以上のものでしょうか。
ファーストフード店の誕生物語でありながら、僕には第二次世界大戦後のアメリカの伝記のようにも見ている。インチキ臭いかもしれないが……。アメリカは第二次世界大戦に勝った。景気がよくなり、皆に仕事があった。「それが欲しい。今欲しい」という態度だ。「便宜」というのが何度も口にするマントラになった。自動販売機の前に行けば、レモンメレンゲパイがあり、硬貨を入れれば食べられる。私たちはそういうのが大好きだ。だからディック・マクドナルドはそれに乗っかってファーストフードを作った。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 マック&ディック兄弟が経営していた、レイ・クロックがフランチャイズ化する前のマクドナルドの外観 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
でもこの映画は違うタイプの二つの資本主義を描いている。一つは、いいアイデアを持ち、一生懸命働いて、成功するというもの。そんな資本主義企業の目標はカネをもうけることだ。映画の最後にもう一つの資本主義企業が出てくる。その企業ではそれが独自のアイデアかどうかは重要じゃない。いい投資銀行や資本家を知っているかだ。それこそ異なる資本主義のモデルだ。確かにある意味でマクドナルド兄弟の望みはお金をもうけることで、レイの願望もお金をもうけることだった。だがレイの考えは強かった。もっと大きなビジョンを持っていた。もしマクドナルド兄弟が会社の支配を維持していたら、今日どんなになっていただろうか。それは分からない。(アメリカの一部の地域で展開するもう少し小規模なファーストフードチェーン店の)イン・アンド・アウトのようだったかもしれない。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
──この映画に対して、マクドナルド社からはどんな反応がありましたか?
何もなかったよ。
──協力的でしたか、それとも干渉しようとしてきましたか?
いや、それはない。そもそも企業からの協力は何も期待していなかった。私が聞いてるのでは、ある記者が何らかの騒動を期待して、クランクインの前にマクドナルド社に脚本を送ったそうだ。そして反応を求めたところ、脚本を読んだという答えではなかった。そこには言及しなかった。企業の返答は実に包括的なものだった。要約するなら、「レイ・クロックは才能ある魅力的な男でした。彼の生涯を映画にしようということに少しも驚きません」という感じだ。それぞまさにこの映画のマクドナルドをまとめている。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
店頭で手を振る兄マックと、
その後ろで頭を働かせる弟ディック
──前作の『ウォルト・ディズニーの約束』(13)との関連で本作をどのように見ていますか?どちらの作品も同じ時代を舞台にして、アメリカ文化における影響力のある人物を取り上げています。ウォルト・ディズニーとレイ・クロックです。あるいは私が深読みしすぎでしょうか。
「これが僕の辿ってきたキャリアだが、こういう英雄的な有名な人物が好きだ」などと言いたくはない。ケリー・マーセルの『ウォルト・ディズニーの約束』とロバート・シーゲルの『The Founder』といういい脚本を二つ読んで、その世界に惹かれたのは事実だ。実在の人の話は好きだけれどね。ただし、まだ存命の人でも故人でも描く人に対して責任もあるし、公平でありたい。肯定的あるいは否定的に描くということではなく、とにかく公平な立場を最大限に意識するということだ。
──この映画は史実にどのくらい忠実ですか?
僕が理解しているかぎり、かなり忠実だ。最初に思ったのは、実際に起こったことか立証するものがないということだ。リンダ・カーデリーニが演じ、初期のフランチャイズ店の店主の妻で、後にレイ・クロックと結婚するジョアン・スミスは、レイと会った時、夫のステーキハウスでピアノを演奏していたことは分かっている。だがレイがジョアンと一緒に歌ったかどうかは分からない、それで構わないよ(笑)。きっと他のこともそうだが、実際にあったことがそんな感じに凝縮されているはずだ。それに会話が起きている時に実生活で部屋に速記者はいないわけだから、会話を作り出したシーンもある。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』レイ・クロックの妻エセル役のローラ・ダーン © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
──マック&ディック・マクドナルド兄弟の役にジョン・キャロル・リンチとニック・オファーマンを配役した経緯についてお聞かせください。
マクドナルド兄弟に関して写真やビデオなどの資料はそんなに多くないが、いくつかは残っている。それでも実際の写真を見るまで、思い描いていた人物像はそんなに描写は多くないがロバートの脚本からのものだった。ふたりは猫背のアメリカ人だと思っていた。そんな感じのふたりにしたかった。それで本物の写真を見て、「これは裏付けになる。写真が証拠だ」と言ったよ(笑)。それから俳優のことを考え始めた。ジョン・キャロル・リンチは単純に好きな俳優のひとりだ。どんな役をやっていても観客が見るたびに「彼だ。彼はいいね」となるようなM・エメット・ウォルシュなどと一緒に性格俳優の殿堂に入ってる逸材だ。映画で悪者にもなれるし、優しい人にもなれる。何でもできる。ニック・オファーマンは、TVシリーズ「Parks and Recreation」や映画で演じている激しい役のファンだった。ふたりはいいコンビだと思ったんだ。実際の兄弟のようにふたりの体温は違う。マックのほうが店頭で手を振り、背中をたたくタイプで、その後ろで頭を働かせているのがディックだ。彼のほうが几帳面で、スピーディー・システムを生み出したのも彼だ。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』兄マック役のジョン・キャロル・リンチ(左)と弟ディック役のニック・オファーマン(右) © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
一番大変だったのは予算
──撮影自体はいかがでしたか。映画のほとんどはアトランタ市内やその周辺で撮影されたそうですが。
僕たちはアトランタで撮影し、それから数日ほどアルバカーキでロケした。西へ移住するためサンバーナーディーノへ66号線で向かうレイを見せる必要があったからだ。だが映画の大半はアトランタで撮っている。ロケ担当者やプロダクションデザイナーがものすごい時間をかけて車で巡り、シカゴ郊外に見える場所を見つけていた(笑)。
──この映画製作で一番難しかったところは何ですか?
一番大変だったのは予算じゃないだろうか。限られた予算で完全に独立した飲食店を2店舗、厨房も含めて建てなければいけなかった。セットとしても厨房としても機能させなければならず、中で調理ができないといけなかった。現在、アトランタとその町では建築許可が必要だ。「それはあくまでセットで取り壊す」と言っても「関係ない。役所からすれば飲食店を建てることになる。開店して1ヵ月で壊すことにするなら、それは私たちには掘り出し物だ。だがこれが必要条件だ」。それで15万ドル分の余分な鋼鉄を建物に使わないといけなかった。このような映画では思っている以上に費用がかかると本当に大変だ。それを補てんするために他から予算を引っ張ってこられる場所を見つけないといけないからね。
──クランクアップした時に残ったものは?
製作サイドでは変わらないチーム。34日というこの映画にしてはなきに等しい短い期間で特に予算も厳しい場合、そのような形で仕事ができることはすばらしい。準備段階で質問に多く答えておけば、それだけセットで演出にかけられる時間も増えてうまくやれる。「あの壁を動かさないといけないが、1時間かかる」なんてことがない。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 © 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
──観客にどんな風にこの作品を観てもらいたいですか?
観客にとっていいストーリーであることを願っている。僕としては、これは驚くべきマクドナルドの起源の話で、多くの人は真実を知らないと思う。驚くんじゃないだろうか。表面的には楽しめながらも、見終わった後に何か考えさせられる、ずっと考えてしまうような映画じゃないかと思う。心に残り続ける楽しめる映画で複雑さも持ち合わせたトロイの木馬のような作品であればいいと思う。
(オフィシャル・インタビューより)
ジョン・リー・ハンコック(John Lee Hancock) プロフィール
テキサスのロングビューで生まれ育つ。英語学の学位とロー・スクールで法学の学位も取得し、弁護士の開業経験あり。91年『Hard Time Romance』で脚本・監督を務め映画界デビュー。『パーフェクト・ワールド』(93)脚本、『真夜中のサバナ』(97)脚本、『オールド・ルーキー』(02)監督、『スノーホワイト』(12)脚本、『アラモ』(60) 監督・共同脚本、『マイ・ドッグ・スキップ』(00)製作など多数手掛ける。『ウォルト・ディズニーの約束』(13)、『しあわせの隠れ場所』(09)は、アカデミー賞作品賞にノミネートされた。
映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
7月29日(土)、角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿、
渋谷シネパレスほかにて全国ロードショー
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ロバート・シーゲル
出演:マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、ローラ・ダーン、パトリック・ウィルソン、B・J・ノヴァク、リンダ・カーデリーニ
2016年/アメリカ/英語/カラー/115分
提供:KADOKAWA、テレビ東京、BSジャパン、テレビ大阪
配給:KADOKAWA