映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』 ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
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1950年代から2000年代まで、ハリウッドで数多くの絵コンテと映画制作のためのリサーチを担当した夫婦を描くドキュメンタリー映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』が現在YEBISU GARDEN CINEMAにて公開中。webDICEでは監督を務めたダニエル・レイムのインタビューを掲載する。
セシル・B・デミル監督の『十戒』やアルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』、マイク・ニコルズ監督の卒業などで絵コンテを担当したハロルド・マイケルソン。これらの映画の印象的なシーンの構図はすべて彼の絵コンテで描かれていたことをこの作品は明らかにしている。そして、まだ映画業界でも女性の権利が確立されていなかった時代に、コスチュームや美術などあらゆる部分のリサーチャーとして奔走した妻のリリアン。周囲の反対を押し切って駆け落ち結婚したふたりの関係、そして映画への愛情が、手がけた作品のフッテージや資料、関係者へのインタビューとともに綴られている。映画制作におけるリサーチの重要さを説き、自らの職業を確立したリリアンの、「物語にリアリティを与えるために徹底的に調べる」という哲学は、ものづくりを志すすべての人が肝に銘じておくべきだろう。
私はハロルドとリリアンという映画製作における「小さな巨人」にスポットを当てたいと思いました。彼らは映画製作においては、もしかしたら無名で小さな歯車かも知れません。しかし、ハリウッドという巨大な映画産業の土台には彼らのような芸術家たちや職人たちの存在と献身的な働きがあり、技術だけでなく彼らの心が各映画に宿り、ハリウッドという映画産業は変革を遂げつつも持続的に今日まで続いているということを伝えたかったのです。(ダニエル・レイム監督)
数多くの名シーンの基になったハロルドの絵コンテ
──最初に、ハロルド・マイケルソンとの出会いについて教えてください。
1997年、私がアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)の学生だった頃偶然にハロルドと出会いました。彼は聡明で愛らしく才能豊かなストーリーボード・アーティストであり、プロダクション・デザイナーでした。当時ハロルドはAFIでカメラ・アングル・プロジェクションという授業の講師を務めていました。その授業でハロルドは自身のこれまでの経験豊富な絵コンテ制作の知識と、イメージするワンシーンを撮るためのカメラとレンズの組み合わせ方法やアイディアを教えていました。
ハロルドの絵コンテには時に使用すべき具体的なカメラレンズや撮影のアングルまで詳細に記載されていました。しかし、ハロルドの絵コンテに本当に驚かされたのはそれらテクニカルな情報が記載されていることでなく、彼が描いた絵コンテは映画史上最高のショットと言われている数多くの名シーンより先に描かれていたことのです。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』ダニエル・レイム監督
ヒッチコックの『鳥』(63年)と『マーニー』(64年)ではヒッチコックが脚本を書き上げる前にヒッチコックのイメージを絵コンテとして可視化していました。撮影監督の巨匠ロバート・サーテースは『卒業』(67年)ではハロルドの絵コンテに準ずるように全てのシーンを撮影した。ハロルドは、『十戒』(56年)、『ベン・ハー』(59年)、『スパルタカス』(60年)、『クレオパトラ』(63年)、『スペース・ボール』(87年)など100作以上のハリウッドの名作に映画的な知恵を与えるも、その多くの仕事にクレジットされることはなかった。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』ハロルド・マイケルソン による『卒業』のラストシーンの絵コンテ ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』ハロルド・マイケルソンによる『鳥』の絵コンテ ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』ハロルド・マイケルソン ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
──それでは、リリアンはどんな人物ですか?
リリアンはまさに「映画図書館長」というべき人物です。彼女自身、『鳥』(63年)、『屋根上のバイオリン弾き』(71年)、『チャイナタウン』(75年)、『アニー・ホール』(77年)、『ロッキー』(77年)、『マンハッタン』(79年)など数多くのハリウッド名画に携わってきました。リリアンがリサーチする映画の領域はドラマからスリラーまでと幅広く、仕事に対するリサーチ能力、粘り強さ、そして法曹界、芸術界、時に闇の世界にまで広がる豊富な人脈から成るものでした。ハロルド同様、彼女のリサーチの仕事はこれまで作品にクレジットされることはありませんでした。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』リリアン・マイケルソン ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
次第にリリアンが語る物語に心魅かれている事に気がついた
──そんなふたりを題材に、ドキュメンタリーを撮ろうとおもったきっかけを教えてください。
2000年頃、私がドキュメンタリー第1作目『The Man on Lincoln’s Nose』の製作を終えた後、彼らの物語を映画にしようと決めました。この映画のために私は彼らとサンフランシスコのボデガ湾の小さな街に行ったのですがそこはこのふたりが37年前ヒッチコックの『鳥』の撮影で訪れた場所でもありました。そこで私たちは親しくなりそれ以降私はリリアンが独自の資料センターを有していたドリームワークスをしばしば訪れることになりました。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』アルフレッド・ヒッチコック ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
ハロルドとリリアンの仕事は膨大で、彼らの人生をドキュメンタリーにすることはまさに壮大なプロジェクトでした。幸いハロルドは多くの絵コンテを自身で保存していました。彼が持っていなかった絵コンテの多くはアカデミー・オブ・モーションピクチャーアート&サイエンスの資料保存センターやマーク・ワナメーカー・バイソン・アーカイブスに保管されていました。またハロルドとリリアンの家族はふたりの書簡、詩、個人所有の写真、ビデオを保管していてそれらを私たちに使わせてくれました。それら素材以外に、彼らをよく知るダニー・デヴィート、メル・ブルックス、そしてフランシス・フォード・コッポラからふたりの話を聞き彼らへの理解を深めることができました。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』フランシス・フォード・コッポラ監督 ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
──ふたりにまつわる作品のフッテージや資料、関係者へのインタビューなど様々な要素が盛り込まれています。編集作業について教えてください。
編集作業は合計約18ヵ月かかりました。2013年の6月に撮影したリリアンのインタビュー映像を取り込むところからのスタートとなりました。まずは必要だと思った素材を年代順に並べ1ヵ月間かけてあらゆる人物にインタビューを行いました。全ての素材をつなぎ合わせると約5時間に及ぶ長い本編が完成し私はその本編を最初から最後まで何度も見返しました。なるべく自分の思考を入れず素材が伝えようとする事をまるで禅をするかのような気持ちで受け止めました。素材を眺めているうちに次第にリリアンが語る物語に心魅かれている事に気がついたのです。
当初、私はハロルドとリリアンが携わってきた名作の教育的な歴史ドキュメンタリーを作ろうと思っていました。しかし、リリアンの話に興味を持った私は彼女のインタビューを中心に編集を構成し始めました。また物語に抑揚をつけるためにあえて時系列を崩し編集をしながら映画の形作りをしていきました。リリアンへのインタビューは何度かに分けて行いました。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』 ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
苦難に満ち溢れつつも愛し合い乗り越えた60年間の素晴らしい人生
──ハリウッドの歴史とともに、夫婦の物語を伝えることについて、監督はどのように考えていますか?
60年間という長い年月の映画史と夫婦の歴史を94分にまとめる作業はとても難易でした。多くの物を編集から落とさなくてはなりませんでしたし、その都度物語が薄くならないか不安になりました。苦難に満ち溢れつつも愛し合い乗り越えた60年間の素晴らしい人生と誰もが讃美する栄光ある仕事の物語をどのようにシンプルに多くの人に伝えられるかを日々向き合いました。悩む事は多々ありましたが、リリアンがカメラに感動的な話しをしてくれました。私は必然的に彼女が伝える事に耳を傾け、そのメッセージを映像を通じて伝えることだけを目標にしました。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』 ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
──ハロルドとリリアンの当時のエピソードを、アニメーションで表現していますね。
ドリームワークス・アニメーションとソニーピクチャーズ・アニメーションでシニア・アニメーション・アーティストを務めるパトリック・メイトに、映画を通じて語られるふたりの物語をアニメーションとして描いてもらいました。映画を通じてリリアンや関係者が語る話と資料が物語る歴史に、私が脚本で伝えたかった思いが新たな「絵コンテ」として作品に加わりました。
編集で私は映画を見る人々がハロルドとリリアンの何を知りたいのかを常に考えていました。そのために編集から多くの物を削り新たな物を加える作業を繰り返しました。その作業はまるで難解なパズルをやっているようなものでした。多くの人が満足するドキュメンタリーを作るためには、時に、自分の解釈を物語に入れる必要があると思いました。それは、もしかしたら絵描きがポートレイトを描く時、絵描きの目の前にいるモデルを実際の姿以上に自分が被写体に込める思いも付け加えてしまうというクリシェと近いと思っています。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』 ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
──これまで知られることのなかったハロルドとリリアンの映画界への貢献、そしてふたりの愛情を感じることのできる作品になっています。
私はハロルドとリリアンという映画製作における「小さな巨人」にスポットを当てたいと思いました。彼らは映画製作においては、もしかしたら無名で小さな歯車かも知れません。しかし、ハリウッドという巨大な映画産業の土台には彼らのような芸術家たちや職人たちの存在と献身的な働きがあり、技術だけでなく彼らの心が各映画に宿り、ハリウッドという映画産業は変革を遂げつつも持続的に今日まで続いているということを伝えたかったのです。ハロルドとリリアンの存在を世に伝えるためには、彼らがハリウッドで育んだ60年間の人生を伝える必要がありました。決して順風満帆の人生とは言えず時には大きな苦悩も抱えていた人生でした。無名ではありますが彼らの人生こそハリウッドの知られざる物語なのです。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』 ©2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』はハリウッド黄金期だけでなく、現代、そして未来のハリウッドが共有すべき普遍的な物語となってほしいと思っています。彼らの愛、家族感、仕事における情熱は時代を超えて語られるハリウッド名画のように普遍的で多くの人に語り継がれるエピックな人生物語です。この映画は時代の肖像画なのです。
(オフィシャル・インタビューより)
ダニエル・レイム(Daniel Raim) プロフィール
アメリカン・フィルム・インスティチュート・ロサンジェルス校卒業。アルフレッド・ヒッチコックが最も敬愛した一人とされるプロダクション・デザイナーのロバート・F・ボイル氏の下で映画論を学ぶ。ボイル氏の創造に対する哲学と人間性を題材にしたショート・ドキュメンタリー「The Man of Lincoln's Nose」(00)がアカデミー賞ベストドキュメンタリー(ショート部門)にノミネートされる。「Something's Gonna Live」(10)で長編デビュー。『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』(15)は第68回カンヌ国際映画祭クラシック部門でプレミア上映されたのち数多くの国際映画祭で受賞した。
映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』
YEBISU GARDEN CINEMAにて公開中
監督:ダニエル・レイム
エグゼクティブ・プロデューサー:ダニー・デヴィート
出演:ハロルド・マイケルソン、リリアン・マイケルソン、フランシス・フォード・コッポラ、メル・ブルックス、ダニー・デヴィート、アルフレッド・ヒッチコック、デイヴィッド・リンチ
原題:HAROLD AND LILLIAN: A HOLLYWOOD LOVE STORY
2015年/アメリカ/94分
配給:ココロヲ・動かす・映画社◯