『やつらって、誰?』 ©Loris Zambelli
イタリア映画の翻訳、配給、本、絵本の翻訳などを中心にイタリア文化を紹介する団体・京都ドーナッツクラブによるイタリア映画の連続上映イベント『映画で旅するイタリア2017』が今年も6月3日(土)から9日(金)までアップリンク渋谷で、そして6月24日(土)から30日(金)まで京都シネマで開催される。
京都ドーナッツクラブによりセレクトされたイタリア映画の新たな潮流を代表する日本未公開の3作を上映。ドーナッツクラブ代表の野村雅夫さんによるトークも実施される。開催にあたり、京都ドーナッツクラブのメンバー・二宮大輔さんに3作品の観どころを解説してもらった。
テレビドラマと映画を横断する―イタリア映画界の現在
文:二宮大輔(京都ドーナッツクラブ)
昨年のイタリアでとりわけ目立ったのはテレビドラマだった。世界的な動きかもしれないが、ネット配信に強く、ストーリーの伸縮に対応できるテレビドラマが非常に幅を利かせていた。代表例を挙げると、ジュード・ロウ主演で10話完結の『若き法王』(The Young Pope)を撮影したパオロ・ソレンティーノと、日本でも大きな反響を呼んだ『マフィアは夏にしか殺らない』を同タイトルでドラマ化したPIFことピエルフランチェスコ・ディリベルトだ。今後は映画で大成した監督がテレビの世界で活躍するという現象がさらに顕著になるだろう。その一方で、テレビの人間だったロアン・ジョンソン、エドアルド・レオといった若きフィルム・メーカーの面々が映画を手掛け始めている。こうなってくると、現代イタリア映画の全貌を把握するには、もはや国際的なフェスティバルの受賞作だけをチェックすればいいというわけではない。意味も手法も異なるテレビと映画という二分野を横断する彼らの動向をつぶさに追う必要があって、その意味で、今回の上映会では、恰好の3本を選ぶことができたと自負している。
【東京】6月3日(土)、6日(火)、9日(金)
【京都】6月25日(日)、28日(水)
『ラテン・ラバー』
スター俳優の十回忌に集まった女たちが繰り広げる騒動
イタリア式喜劇の巨匠ルイージ・コメンチーニの4人の娘は2人が映画監督、1人が衣装係、1人が映画プロデューサーになっている。映画界で名を馳せた故人の父と、彼の背中を追うように映画界に入った娘たち。その意味でクリスティーナ・コメンチーニが監督を務めた『ラテン・ラバー』は、実体験から着想を得た作品なのかもしれない。イタリア映画界のスター俳優サヴェリオ・クリスポの死後10年の記念式典のために、生家の邸宅に集まった妻たちと娘たち。互いにぎこちなさを伴いながらも、「愛するサヴェリオ」という共通項でつながっている。
中でも白眉なのがヴァレリア・ブルーニ・テデスキの演技だ。『歓びのトスカーナ』では虚言壁の女性を怪演したが、本作でも負けず劣らずの名演技を見せてくれる。役柄はサヴェリオの次女ステファニー。フランス人の母は正妻として認められず、ゆえに娘である彼女もまた、どこか他の親族から風当たりが強い。そんな関係性の中で、気取り屋だが卑屈で嫌味に振る舞うステファニーは、まさにヴァレリア・ブルーニ・テデスキのはまり役。邸宅の中で語られるのは、言ってみればサヴェリオについての四方山話でしかないのだが、彼女のキャラクターが適度なスパイスとなって、物語全体を引き締めている。
そしてもう一人特筆したいのが、未亡人リータ役のヴィルナ・リージだ。ハリウッドにも進出した1950年代のディーヴァ。1990年代からはあまり映画に出演することはなくなったが、亡くなる前の三作はクリスティーナ・コメンチーニ作品に主演を務めている。『ラテン・ラバー』クランクアップの直後にがんで亡くなり、”A Virna”(ヴィルナへ)の一言がエンドロール前に挿入されることとなったのは胸の詰まるエピソードだ。
監督:クリスティーナ・コメンチーニ
出演:ヴィルナ・リージ、アンジェラ・フィノッキアーロ、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
原題:Latin lover
2015年/イタリア、フランス/カラー/114分
【東京】6月3日(土)、5日(月)、8月(木)
【京都】6月26日(月)、29日(木)
『アラスカ』
ダークな雰囲気に満ちたラブロマンス
エリオ・ジェルマーノとアストリッド・ベルジュ=フリスベという美男美女が主演の激しいラブロマンス映画。パリの高級ホテルで給仕をするファウストは偶然モデルの卵ナディンと知り合う。彼女の願いを聞き入れ、こっそりスイートルームに案内したところ、そこに泊まっていた客に見つかってしまう。そこからファウストの人生が転落するのをよそに、ナディンはモデルとして華々しくデビューする。
ここで説明を加えたいのは、なんといっても監督のクラウディオ・クペッリーニだ。1973年生まれの彼は、不穏な空気の漂うノワールに方向転換した長編第2作『穏やかな暮らし』で高評価を受け、テレビドラマ版『ゴモラ』の監督を経て本作を発表した。『ゴモラ』は、ナポリの犯罪組織一家の盛衰を描いた一大ドラマで、有料の衛星放送で大ヒットを記録した。計24話の監督は、一話ごとにステファーノ・ソリマ、フランチェスカ・コメンチーニ、クラウディオ・ジョヴァンネージ、クラウディオ・クペッリーニの4人が交代で担当。ステファーノ・ソリマは、同系列ドラマ『野良犬たちの掟』の監督も担当した、アクション・シーンに定評のあるベテラン監督。『ラテン・ラバー』のクリスティーナ・コメンチーニの妹でもあるフランチェスカ・コメンチーニは、一家の妻など、物語の中で女性に焦点が当てられる回を任された。そこに新進気鋭のジョヴァンネージとクペッリーニが制作に加わった形なのだが、2015年の『映画で旅するイタリア』で映画デビュー作『青い眼のアリー』が上映されたジョヴァンネージは、今年の春に東京で開催されたイタリア映画祭のゲストとして来日している注目の若手監督だ。そして『ゴモラ』で最終話を担当したのが、我らがクペッリーニ監督。息をつく暇もなく次々と登場人物が殺されていく暴力と退廃の物語を、抜群の構成力とアングルでラストシーンに導いた。この人気ドラマの危うさやダークな雰囲気を、そのまま映画に持ち込んだのが、本作『アラスカ』なのだ。
そして余談ではあるが、一家を裏切る『ゴモラ』の重要人物チーロを演じて名を挙げた俳優マルコ・ダモーレは、『アラスカ』にも、主人公とケンカの騒ぎを起こす端役として出演している。
監督:クラウディオ・クペッリーニ
出演:エリオ・ジェルマーノ、アストリッド・ベルジュ=フリスベ
原題:Alaska
2015年/イタリア、フランス/カラー/125分
【東京】6月4日(日)、7日(水)
【京都】6月24日(土)、27日(火)、30日(金)
『やつらって、誰?』
あっと驚く展開が続く「怪盗」コメディ
©Loris Zambelli
こちらもテレビから人気に火が付いたエドアルド・レオと、コメディ映画『神様の思し召し』などで、日本でもよく知られているベテラン俳優マルコ・ジャッリーニの二人が共演した、「怪盗」コメディ。ジャッリーニ演じる詐欺師に車と財布を盗み取られた主人公のレオは、当初腹を立てていたものの、詐欺師と結託して一世一代の盗みの計画を企てる。
昨年11月に新作映画ハントのためにイタリアに行った私が最も印象に残ったのは、行きの飛行機で鑑賞した本作だった。あっと驚く展開が矢継ぎ早に続く、いわばエンタメ映画なのだが、その間の詰め方はやはり映画ではなく、一話が短いテレビドラマのリズムを思わせる。それもそのはず、監督の一人フランチェスコ・ミッチケは、2000年初期から国営放送RAIで刑事もののドラマを撮影していた監督。今回は脚本家ファビオ・ボニファッチとタッグを組んで初の長編映画に挑戦した。
レオとジャッリーニは現在日本で公開中の『おとなの事情』でも共演している人気俳優。9年前に放送されたドラマ『野良犬たちの掟』でも、両者の顔が見受けられる。ジャッリーニはローマを牛耳る古株ギャング役だったのに対し、レオは登場して数話目で殺されるナポリの黒幕の家来役。そこから見ても、監督業もこなすエドアルド・レオの、ここ10年の成長ぶりがよくわかる。ちなみに彼もまた今年のイタリア映画祭で来日しており、個人的にインタビューする機会があったのだが、「『野良犬たちの掟』のあの役、好きだったよ」と伝えると「あ、そう」という冷たい答えが返ってきた。これからのさらなる活躍に期待したい。
監督:フランチェスコ・ミッチケ、ファビオ・ボニファッチ
出演:エドアルド・レオ、マルコ・ジャッリーニ、カトリネル・メンギア
原題:Loro chi?
2015年/イタリア/カラー/95分
二宮大輔(京都ドーナッツクラブ) プロフィール
関西学院大学卒業後、ローマ第三大学に入学し、マフィア文学の第一人者レオナルド・シャーシャに関する論文で学士号を取得。イタリア語検定一級、通訳案内士(イタリア語)。
『映画で旅するイタリア2017』
6月3日(土)~9日(金)アップリンク渋谷
6月24日(土)~30日(金)京都シネマ
主催:京都ドーナッツクラブ
共催:イタリア文化会館-大阪*
後援:イタリア文化会館/協賛:ディスク・ロード、JAPANISSIMO、キネプレ*、ロマンライフ*
*=京都会場のみ