骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2017-01-07 11:00


​坂上忍氏による『ブラインド・マッサージ』評「映画を観て声に出して嗚咽したのは、何十年ぶりだろう」

中国のロウ・イエ監督が盲人マッサージ院を舞台に描く苛烈な愛の物語​
​坂上忍氏による『ブラインド・マッサージ』評「映画を観て声に出して嗚咽したのは、何十年ぶりだろう」
映画『ブラインド・マッサージ』より

1月14日(土)よりアップリンク渋谷、新宿K's cinemaほか全国順次ロードショーとなる中国のロウ・イエ監督の映画『ブラインド・マッサージ』。webDICEでは坂上忍氏が夕刊フジで毎月最終木曜日掲載で執筆している映画評「坂上忍の白黒つけて何が悪い!」から、2016年12月23日(22日発行)掲載の『ブラインド・マッサージ』のレビューを転載する。

頭から離れないせりふがある。「盲人が大事にするのは金だ。でも、金よりも面子が大事なんだ!」ハンマーで殴られたような衝撃が走りました。涙がボロボロこぼれ落ちました。映画を観て声に出して嗚咽したのは、何十年ぶりだろう。生きたせりふってすごい力を持ってるんですよ。頭に、心に残るんですよね。(坂上忍)


『ブラインド・マッサージ』
"逃げない精神"で突きつける真実
文:坂上忍

すんげぇ映画があったもんだ。正直、観続けるのがしんどかった。苦しかった。つらかった。けど、くぎ付けになった。

だって、本気で作った映画だから。その想いがビンビン伝わってきたから…。

視覚障害者の物語である。中国は南京のとあるマッサージ店では、多くの盲人が働いていた。視覚を失った理由はさまざまだが、基本的には明るく前向きに生きている盲人の若者たち。当たり前に恋をし、嫉妬し、セックスをし、仕事に従事し…。

しかし、目が見えないのである。彼らにとっての当たり前が、健常者であるわれわれにとっては特別な世界に映るということ。

視覚を奪われた中での嫉妬は、あまりのむき出しの感情に恐怖すら覚える。闇の中でのセックスは、観ているこちらの指先までもが鋭敏になるほどだ。

映画『ブラインド・マッサージ』より
映画『ブラインド・マッサージ』より

なにがすごいって、描き方に遠慮がないのよね。健常者が視覚障害の皆様を描きました的な作品ではなく、遠慮なく障害者の良い部分も悪い部分もほじくり返して描き切っているので、スクリーンの中にとてつもないリアリティーが生まれ、ぐいぐい観客をひき込んでいくのだ。

またカメラワークも秀逸で、盲人の見た目とされるカットも多用され、時にボケたり、時に照明が落とされたり、徹底的に目が見えない世界に入り込み、観客を誘っていく。

中国、すげぇ映画撮るな! ロウ・イエ監督、ぶっ飛んでるな! だからこんな本物の作品ができ上がったんだな。

弱者に焦点をあてた作品を美しく撮るのは容易だ。ある程度生々しく描いたとしても、落としどころさえ誤らなければ最終的に不快感を与えることはない。しかし今作は、たとえ観客に不快感を与えたとしても、これが現実なのでは? 真実なのでは? と問いかけてくる、問いかけ続けてくる、ある種の強烈な開き直りを感じるのだ。

要するに制作者が逃げていないのである。その逃げない精神が根底にあるからこそ、逆に障害者の方々へ真のリスペクトに繋がっているのではないか。

映画『ブラインド・マッサージ』
映画『ブラインド・マッサージ』より

頭から離れないせりふがある。

「盲人が大事にするのは金だ。でも、金よりも面子が大事なんだ!」

ハンマーで殴られたような衝撃が走りました。涙がボロボロこぼれ落ちました。映画を観て声に出して嗚咽したのは、何十年ぶりだろう。

生きたせりふってすごい力を持ってるんですよ。頭に、心に残るんですよね。

ぜひ観ていただきたい。覚悟を持って映画館に行っていただきたい。できれば万全な体調の時に足を運んでいただきたい。

だって疲れると思うから。それぐらい"なにか"を吸い取られる作品だから。でも、そんな作品は滅多にないから。

映画『ブラインド・マッサージ』より
映画『ブラインド・マッサージ』より

ロウ・イエ監督は、「今作では見えないモノを描いた」と仰ったそうです。ですが、わたしが観終わって感じたのは、「見て見ぬふりをしていたモノを突きつけられた」…ですかね。

なんだか今号は、お薦めしてるんだか脅してるんだかみたいになってしまいましたが、大丈夫ですよ、ちゃんと救いもありますから。

「なにがあっても生きていくべき、生きなくてはいけない」。このひと言に尽きると思います。

2017年1月14日公開。

[夕刊フジ 2016年12月23日(22日発行)より転載]



坂上忍(さかがみ・しのぶ) プロフィール

1967年6月1日、東京都生まれ。俳優、タレント、歌手、映画監督、演出家とマルチに活躍。3歳より劇団に所属。多くのテレビドラマに子役として出演し「天才子役」と呼ばれた。テレビのレギュラー番組は、「有吉ゼミ」「あのニュースで得する人損する人」(日本テレビ系)、「バイキング」「アウト×デラックス」「ダウンタウンなう」(フジテレビ系)。著書に「力を引き出すヒント」(東邦出版)など。




映画『ブラインド・マッサージ』

映画『ブラインド・マッサージ』
2017年1月14日(土)よりアップリンク渋谷、
新宿 K's cinemaほか全国順次公開

南京のマッサージ院。ここでは多くの盲人が働いている。幼い頃に交通事故で視力を失い、「いつか回復する」と言われ続けた若手のシャオマー、結婚を夢見て見合いを繰り返す院長のシャー、客から「美人すぎる」と評判の新人ドゥ・ホン。ある日、マッサージ院にシャーを頼って同級生のワンが恋人のコンと駆け落ち同然で転がり込んできたことで、それまでの平穏な日常が一転、マッサージ院に緊張が走る――。

監督:ロウ・イエ
脚本:マー・インリー
撮影:ツォン・ジエン
原作:ビー・フェイユイ著『ブラインド・マッサージ』(飯塚容訳/白水社刊)
編集:コン・ジンレイ、ジュー・リン
出演:ホアン・シュエン、チン・ハオ、グオ・シャオトン、メイ・ティンほか
配給・宣伝:アップリンク
2014年/中国、フランス/115分/中国語/カラー/1:1.85/DCP
原題:推拿
日本語字幕:樋口裕子

公式サイト




【新宿K's cinema】公開記念トークイベント
ロウ・イエ監督が描く痛いほどの愛
ゲスト:曽我部恵一(ミュージシャン)

日時:2017年1月14日(土) 10:30上映スタート 上映後トーク
会場:新宿K's cinema (東京都新宿区新宿3丁目35-13 3F)
ゲスト:曽我部恵一(ミュージシャン)
料金:一般:1,800円/大・高:1,500円/中・小・シニア:1,000円
ご予約:http://peatix.com/event/225350



【新宿K's cinema】公開記念トークイベント
小説から映画化へ
ゲスト:飯塚容(中央大学文学部教授)、豊崎由美(ライター、書評家)

日時:2017年1月21日(土)10:30上映スタート 上映後トーク
会場:新宿K's cinema (東京都新宿区新宿3丁目35-13 3F)
ゲスト:飯塚容(中央大学文学部教授)、豊崎由美(ライター、書評家)
料金:一般:1,800円/大・高:1,500円/中・小・シニア:1,000円
ご予約:http://peatix.com/event/225353




▼映画『ブラインド・マッサージ』予告編

キーワード:

ロウ・イエ / 坂上忍


レビュー(0)


コメント(0)