映画『ネオン・デーモン』 © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の新作で、エル・ファニングを主演に華やかなLAのモデル業界の暗部を描く映画『ネオン・デーモン』が1月13日(金)より公開。webDICEではレフン監督のインタビューを掲載する。
撮影の現場では、居心地がよくなるとクリエイティビティに影響が出ると思っているので、あえて居心地が悪くなるように、「アクション!」の代わりに「let's fuck!」と言っていた。(ニコラス・ウィンディング・レフン監督)
「美しさ」に焦点を当てた映画
──以前からモデルについて描く映画には興味があったのですか?
モデルやファッションについてはドキュメンタリーとして作られているので、「美しさ」に焦点を当てた映画を作りたかった。
映画『ネオン・デーモン』ニコラス・ウィンディング・レフン監督
──『ネオン・デーモン』は恐ろしいおとぎ話のようでもありますね。
グリム、アンデルセンには興味を持っていた。悪魔的な側面をもっている。美とは女性の強さを定義づけるものとして描かれてきたが、美とは複雑なものなので、深く考察するだけのものではないと感じていた。
──この映画の女性達が表現しているものは?
ジェナ・マローン演じるヘアメイクのルビーが求めているものはバージニティ、純粋さであって、それをルビーは否定されてしまう。デジタルに慰めを求めているのが現代人。デジタルなものは動いていないものなので、ある意味死んでいるもの。そういう意味でネクロフィリアと通じている。
映画『ネオン・デーモン』ルビーを演じるジェナ・マローン © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
駆け出しのモデル、ジェシーを演じたエル・ファニングはユニークなものを持っていて、言葉では表しにくい。そういう俳優は、男性であれば、ライアン・ゴズリング。完璧ではないが資質のようなものを持っている。
映画『ネオン・デーモン』ジェシー役のエル・ファニング © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
──キャスティングへのこだわりについて教えてください。
キャスティングは最重要課題のひとつだ。『ネオン・デーモン』は順撮りだったので、順撮という撮影方法は作品と一緒に成長していくという利点がある。映画作りはある種の旅。キャスティングが良ければ安心して旅に出ることができる。周りをインスパイアすることが監督の仕事。オープンにしてそれぞれが持つ力を引き出すことで良いものが仕上がっていくと思っている。
──今作に登場する、美しさに囚われる女性たちについてどう思いますか?
ダイナーでの、ジェシーを撮ったカメラマンの青年とファッション・デザイナーとの会話では、社会が良いとしている道徳的スタンダードは偽善的であることを表現している。美しくありたいというのは、人間だれしも抱えている感情であり、美しさにとらわれるなんて浅はかだ、重要なポイントではないというのは嘘だと思っている。デジタル・レボリューションをきっかけに、見られることに価値を置くようになっているため、その流れは加速していっていると感じている。
映画『ネオン・デーモン』 © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
──本作はナルシズムが主題ですか?
この映画はナルシズムの祝福。美というものに恐れる必要はないと思うし、美についてだけでなく文化についても、マス(世間がどう思うか、どうすべきかといったこと)は気にする必要はないと思っている。
──これまでの映画と、『ネオン・デーモン』の違いは?
『ブロンソン』以降の自分の執着が『ネオン・デーモン』で完結したとも言えるし、それが少し寂しくもあるが、これからのエンターテインメントが何を代表するものになるのか、ということが今後の課題だ。
映画『ネオン・デーモン』 © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
本作は女性のための作品にしたいと思っていた
──オーディションにあたってのモデル同士のバトルなど、想像で描いたのでしょうか?
トイレで本質的なバトルがされているが、男性にとっては女性トイレというのはミステリアスというイメージを持っていると思っている。
本作は女性のための作品にしたいと思っていて、男性たちは役割を果たすために登場させた。最初に出てくるカメラマンは社会が持つ道徳観、美に対して社会が偽善的な対応をしているかというのをあらわしている。ジェシーが住むモーテルのマネージャーを演じたキアヌ・リーヴスはジェシーの性的な恐怖を具現化したもの、捕食者。男性はその役割を果たしたら消えてもらっていた。
映画『ネオン・デーモン』モデルのジジ役のベラ・ヒースコート © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
──撮影の現場は女性スタッフも多いのですか?
男性よりも女性と仕事をしている方が楽しい。美に関する僕自身の執着が『ネオン・デーモン』なのかもしれない。どんな男性のなかにも「17歳の少女」というものが存在すると思っている。
──現場での監督はどういう雰囲気ですか?
居心地がよくなるとクリエイティビティに影響が出ると思っているので、あえて居心地が悪くなるように、「アクション!」の代わりに「let's fuck!」と言っていた。
映画『ネオン・デーモン』ジェシー役のエル・ファニング © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
──では、監督の「美しい」の定義は?
この映画は、美というものがいかに円環的な側面があるというところが表現されている。朝起きて、鏡を見ると、自分は生まれつき美しくないと感じるのだけれど、妻は生まれつき美しい、そこから本作のアイディアを得た。デジタル・レボリューション、デジタルが発展してきた今日において、美というものに時間をかけるようになっていて、さらに若さが美への対象にもなってきている。美というものが美というものを自ら食わなければならない、そういう危惧を感じている。作り手としてつくっているものを食したい、という思いがある。
不完全なものこそ真の美しさだ。
映画『ネオン・デーモン』より、モデルのサラを演じたアビー・リー © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
クリエイティビティとは
何かのエモーションを想起させるものでなければいけない
──ヴィヴィッドな色彩感覚については、意識していますか?
色盲なので、コントラストカラーというものしか見えない。色合いはポスプロで調整しており、作品が進化していくステージで変化していけるというのがテクノロジーの素晴らしさでもある。好きな色は赤で、自分にとって何か立ち戻れるような色だ。
──監督が思う現代のアートについて、考えていることを教えてください。
今のネオリベラルな時代において、周りにあるものは金銭的な物差しで図られていて、文化においても金銭的な価値が高い方が価値があるとされがちだ。求めても求めても消費し続けている社会に間違いないし、悪化の一途をたどっている。悪化していることを認めることしかないと感じている。
──監督の作品は、各所で賛否両論があります。そのことについてどう思いますか。
アートの形とは、どういう風にリアクションしたかによって定義づけられるが、アンチの方が記憶に残ったりするもので、感情が両極化する方が作り手としては正しいことをしたと感じる。
クリエイティビティとは、善かれ悪しかれ何かのエモーションを想起させるものでなければいけない。僕らの時代は何もかもを定義しなければいけないという風潮があるが、両極化=ものづくりだと思っている。特にアメリカはそういうことに敏感。みんなが同じものに同意することは、人生はシンプルになるかもしれないが、クリエイティビティとはダイバーシティ(多様性)につながるものだと思っている。
──空想の表現も多く取り入れているが、意識しているのか?
もともとリアリティにはあまり興味がなく、想像上のセクシュアリティに興味がある。おとぎ話のいいところは大げさなところ。映画自体は美に対する執着に関するものを作りたいと思っていて、それは誇張された空想な世界。サブテキストを読み解く方法によって様々な捉え方ができる。だから本作も観る人によって様々な見方ができる。
映画『ネオン・デーモン』 © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
「緊縛もの」「死生観」に関するものには興味がある
──デヴィッド・フィンチャーなど、他の監督と比較されることについて、どう思いますか。
フィンチャー作品と比較されることについて、比較されることは普通だと思う。作品を理解する際に他作品と比較することはよくあることだ。
──日本のクリエイターで好きな人は?
宮﨑駿監督の作品や世界観が好きだ。娘たちも好きで家にはグッズやCDもある。元々リアリティとスーパーナチュラルの間の世界に惹かれていた。オカルトだったり超自然というものに惹かれていた。
映画の中で描かれるトライアングルは、オカルトでもよく使われていて、この『ネオン・デーモン』にシンボルをもたせたかった。3人の魔女を表していて、特にルビーがリーダー的な役割を果たしている。ネオンはアナログ的であり、同時に未来っぽくもあり、二面性を持っていて、宮崎駿作品もそういう二面性を持っているように思う。
自分の映画には日本映画の特にフェティッシュなものが反映されている。「緊縛もの」「死生観」に関するものには興味がある。
──監督的にリメイクしたい映画はありますか?
『オールドボーイ』『チェイサー』等のジャンルムービーのリメイクについて話が来たことがあるが、元がいいものをなぜリメイクする必要あるのかと思っているので、すべて断っている。既存のアイディアをどうこうするよりも、自分のアイディアを具現化する方がよい。
──最近の監督のお気に入り映画は?
最近観た作品で印象に残っているのは『イット・フォローズ』だ。
映画『ネオン・デーモン』 © 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
──テレビドラマも制作していますが、映画との違いは?
映画館ではなくテレビを通して映画に触れた世代。フィルムよりもイメージ、切り取られた映像というものに画の力を感じた。8歳の時に母が再婚してニューヨークに移住しており、デンマークでは1chしかなかったが、ニューヨークでは何チャンネルもあり、映像のもつ力に感銘を受けた。また、言葉の発達障害があったため、伝えるという媒体が映像だった。
──映像と音楽について、どのように考えていますか?
見ているものと聞いているものが、観客が作品に対して感じるものであり、音楽は映画のスピリチュアルなものに寄与するもの。作業するときも音楽をかけている。
良質な映画だと人々が表するときは劇伴も素晴らしいものだと思う。
──エンドクレジットで流れる主題歌にオーストラリアのシンガー、シーアを起用していますが、きっかけは?
シーアとは飛行機で偶然会ってからの付き合い。元々シーアの楽曲は女性の強さ、女性であることを祝福するようなイメージを持っていたんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
ニコラス・ウィンディング・レフン(Nicolas Winding Refn) プロフィール
1970年9月29日、デンマーク生まれ。24歳で監督を務めた『プッシャー』(96)でデビュー。三部作として続編が製作され、カルト的作品を誇る。トム・ハーディ主演『ブロンソン』(08)で、各国のメディアから「次世代ヨーロッパにおける偉大な映像作家」と称賛を浴びる。2011年、ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』で、カンヌ国際映画祭の監督賞など数々の賞を受賞。世界的に注目を集める。その2年後には、ライアン・ゴズリングと再びタッグを組んだ『オンリー・ゴッド』(13)で同じくカンヌのコンペティション部門でパルムドールを争い、国際的評価を揺るぎないものにした。観る者の陶酔を誘い、想像力を刺激するレフン作品の世界観は、多くの観客を魅了。2014年カンヌ国際映画祭では審査員を務めるなど、話題に尽きない。
映画『ネオン・デーモン』
2017年1月13日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか 全国順次ロードショー
誰もが目を奪われる特別な美しさに恵まれた16歳のジェシーは、トップモデルになる夢を叶えるために、田舎町からロスへと やって来る。すぐに一流デザイナーやカメラマンの心をとらえるジェシーに、激しい嫉妬を抱くライバルたち。ジェシーに仕事を奪われた彼女たちは、常軌を逸した復讐を仕掛け始める。だが、ジェシーの中に眠る壮大な野心もまた、永遠の美のためなら悪魔に魂も売り渡すファッション業界の邪悪な力に染まっていく。
自他共に認める美しさを持つ少女ジェシーが、ライバル争いの熾烈なモデル業界に翻弄される姿を通して、レフン監督は自らの美的感覚を存分に発揮。ジェシーがランウェイの現場で見るトライアングルのイメージや、彼女が暮らすモーテルでのマネージャーとのやりとりなど、象徴的なモチーフを散りばめ、悪夢のようなヴィジョンのなかで、女性の美と強さを描き出している。
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー and キアヌ・リーヴス
音楽:クリフ・マルティネス
衣装:エレン・ベナッチ
配給:ギャガ
アメリカ=フランス=デンマーク/118分/カラー/英語/2016年