骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-07-29 00:00


あなたの寄付が途上国の貧困を悪化させている?『ポバティー・インク』監督が語る

「貧しい国々に欠けているのはビジネスではなく法整備である」
あなたの寄付が途上国の貧困を悪化させている?『ポバティー・インク』監督が語る
映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より ©PovertyCure

先進国が一方的に途上国に援助を押し付け、途上国の自活力を失わせているという貧困産業の実態を追うドキュメンタリー映画『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』が8月6日(土)より渋谷アップリンクで公開。webDICEでは、マイケル・マシスン・ミラー監督のインタビューを掲載する。

貧困削減に向けて活動する人々の国際的連携を目標とするプロジェクト「ポバティーキュア」の設立者でもあるマイケル・マシスン・ミラー監督は、途上国をサポートするという目的で行う企業の活動、支援のあり方について20ヵ国で200人以上に行なった関係者への取材のほか、U2のボノのスピーチなどを引用し、セレブリティによるメッセージやキャンペーンが貧困産業や貧困解決の取り組みの支配的構造を強化しているのではないかと問題点として指摘。今回のインタビューのなかでは、制作の意図やアメリカでの公開後の反響、そして寄付・支援を行う場合に注意すべきことなどを語っている。

貧困解決よりも利益が優先される構造になっている

──映画『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』制作の動機を教えてください。

私たちはよく貧しい人々について、個々人の人生のドラマについてではなく、チャリティーや憐れみの対象として捉えがちだということを伝えたいと考えたことが本作の制作の動機です。貧困をめぐる産業は、問題に対して社会学的なアプローチをしがちですが、開発途上国の人々はそれぞれ物質的に恵まれているかどうかに関係なく、それぞれの人生を全うしています。貧困についての考え方や枠組みは、数十億ドル規模の産業を発展させるに至りました。他の産業と同じく、貧困産業もビジネスを維持しようとしています。この産業内で働く人々の善意に関係なく、貧困解決よりも企業やコミュニティの利益が優先される構造になってしまっているのです。私はこの映画によって、一人ひとりの人生に光を当てた貧困に関する対話や議論が進むことを望んでいます。

映画『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』マイケル・マシスン・ミラー監督
映画『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』マイケル・マシスン・ミラー監督

お互いに価値を与え合うことが豊かさにつながる

──チャリティー団体に寄付するときはよく考えるべきですか?

はい、チャリティー団体への寄付はじっくり考えるべきです。しかし、寄付してはならないということではありません。これは重要なポイントです。私自身、幾つかのチャリティー団体にまだ関わっています。重要なことは、あなたが協力や投資するチャリティー団体が、本来すべき仕事をしているか問うことです。

もし支援しようとしている団体が、子どもの里親制度や養子縁組をしている団体なら、彼らに家族が一緒に居られるよう、両親にどんな支援をしているのか聞いてみてください。里親制度なら、そもそもなぜ支援が必要なのか聞くといいでしょう。里親制度がこの団体の主な活動でないのなら、他団体とのパートナーシップを組んでいるか聞いてみてください。

映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より ©PovertyCure
映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より、イギリスのNGO運動「MAKE POVERTY HISTORY」(貧困を過去のものに)。 ©PovertyCure

養子縁組なら、その団体が家族が一緒に居られるよう最大限の努力をしているかどうか聞いてください。子どもを家族から引き離すことは最後の手段でなければなりません。その団体は子どもと別れなくていいよう努力しているでしょうか?私たちがこのような質問をしないから、団体はこれらを団体の基本的な方針としないのです。

あなたが寄付する金額が少額だったとしても、寄付者としてあなたは大きな力を持っています。もしあなたの質問によってその団体の人が迷惑がり、まともに質問に答えないなら、その団体は寄付に値しない団体です。

映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より ©PovertyCure
映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より、ケニアのスラム街・キベラスラムの小さな商店の前に立つジョシュア・オモガ。 ©PovertyCure

──この映画を公開して受け取った一番大きな批判は何ですか?

この映画への一番大きな批判は、この映画がビジネスが唯一の貧困の解決方法だとしていると誤解することで起きます。私たちの主張は、お互いに価値を与え合うことが豊かさにつながるということです。そのためには人々の権利が守られていなければなりません。私たちは経済的な交換を促進するだけでなく、文化や知性の交換を行うことでコミュニティや国の発展を見ることができます。貧しい国々に欠けているのはビジネスや起業化ではなく、所有権や正当な裁判権などの法整備なのです。ビジネスや市場取引は人々やコミュニティが発展するための基本的な手段ですが、そこにはビジネス以前に正当な経済、政治、社会的な制度が必要です。

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映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より、2012年のG8サミット「シカゴ・グローバル問題評議会」で登壇するU2のボノ。 ©PovertyCure

緊急時にどのように支援するか

──映画で緊急時の支援は必要だとありますが、どんな支援が適切なのでしょうか?

ハイチ地震を例にすると、あのような危機下において国際協力は間違いなく必要です。道徳的に不可欠なことです。問題はどのように支援するかということです。

ハイチでは、私たちはほとんど考えることがありませんが農場は地震で破壊されなかったのです。食糧供給がほとんど無傷でできる状況でした。ポルトープランスでは電力停止とビルの倒壊により、多くの生鮮食品が失われましたが、ハイチの食糧供給は問題なく青空市場で行われていました。これは古典的な間違いなのですが、私たちは食こそが解決されるべき問題だと思ってしまうのですが、実際に解決されるべき問題はその食を交換する手段なのです。

映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より ©PovertyCure
映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より、ハイチの家族をサポートする非営利団体「アパレント・プロジェクト」に参加する、子連れでテント生活を続けていたマキリーン・ヴェルニスとその一家。 ©PovertyCure

市場で農産物を売って生計を立てる農家にとっては、顧客が農産物を買う余裕がなくなったことや、食糧援助によって食糧が市場に溢れたために農産物が売れなくなったことの方が地震よりも大きな被害でした。私たちは地震後に食糧不足があったと考えがちですが、実際には食糧分配のメカニズムが停止したことで多くのハイチ産の食糧が腐ってしまったのです。交換のための手段である現金が失われたことと、食糧援助が状況を悪化させました。

アメリカの農産物をハイチに届ける代わりに、ハイチの地方のコミュニティから農産物を買い上げ、都市部に供給するシステムを構築していたらどうだったのでしょうか?私たちには例えばドローンなど進んだテクノロジーがあります。ドローンが買い上げた地域の農産物を危機的な地域に運び入れることができていれば、地震の影響を受けなかった農家たちが育てた農産物が腐るなんてことはなかったでしょう。そうではなく、私たちはアメリカ産の農産物を届け続け、この危機を悪化させたのです。これは緊急援助に対して地元地域を優先して考えるシンプルなアイデアのひとつです。

映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より ©PovertyCure
映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より、ビタミンの豊富なオールインワン食を世界中の災害被害者に届ける活動を行っている「キッズ・アゲインスト・ハンガー」。 ©PovertyCure

残念ながら地元優先の考え方は、緊急物資としてアメリカ産を届ける考えを持つアメリカの政策や法律にそぐわない考えです。税金を使って人助けをするなら、自分たちの経済が良くなり雇用が増える方法で行おうということです。例えばUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)が、アメリカの国益を最大化することを優先する政府機関であることを忘れてはなりません。残念ながら、この考え方は多くの場合援助業界で働く人々の目的を害することになるのです。

(オフィシャル・インタビューより)



マイケル・マシスン・ミラー(Michael Matheson Miller) プロフィール

ポバティーキュア設立者、ポバティーキュア諮問委員会会長、アクション・インスティテュート主任研究員であり、ポバティーキュアDVDシリーズの主催者、そして監督でもある。哲学、国際開発、国際ビジネスの学士号を有する。ヨーロッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ各国を旅し、居住した経験をもつ。国際開発、起業家精神教育、政治学、道徳哲学など、幅広いテーマについて講演活動を行っている。フォックス・ビジネスをはじめ多くのラジオ番組に出演しているほか、ニューヨーク・ポスト、 ワシントン・タイムズ、デイリーニュース(ロサンジェルス)、デトロイトニュース、リアル・クリア・ポリティクスで執筆も行っている。




映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より ©PovertyCure
映画 『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』より、ヨーロッパやアメリカやカナダから入ってくる古着がうず高く積まれているケニヤの街角。こうした国外から入ってきた古着によりケニアの繊維産業は工場閉鎖などの打撃を受けた。 ©PovertyCure

映画『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』
2016年8月6日(土)渋谷アップリンクほか公開

監督:マイケル・マシスン・ミラー
撮影:サイモン・シオンカ
製作総指揮:クリス・マウレン
プロデューサー:ジェイムス・F・フィッツジェラルド・JR.、マイケル・マシスン・ミラー
出演:ムハマド・ユヌス
配給:ユナイテッドピープル
2014年/アメリカ/91分

公式サイト:http://unitedpeople.jp/povertyinc/

渋谷アップリンク公式ページ:http://www.uplink.co.jp/movie/2016/44175


▼映画『ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~』予告編

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