骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-07-22 11:00


「異端と愛国は両立する。これがテーマだ」と『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』監督語る

ハリウッドの赤狩り時代『ローマの休日』脚本家はなぜ国家と闘ったのか
「異端と愛国は両立する。これがテーマだ」と『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』監督語る
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より Photo: Hilary Bronwyn Gayle

『ローマの休日』『スパルタカス』などの名作を手がけるも、アメリカ政府の赤狩りによって偽名を使っての活動を余儀なくされた脚本家、ダルトン・トランボを描く映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』が7月22日(金)より公開。webDICEではジェイ・ローチ監督のインタビューを掲載する。

ダルトン・トランボは、ジョン・ウェインらが主導した、ハリウッドの共産主義者を糾弾する「アメリカの理想を守るための映画同盟」の標的となり、下院非米活動委員会に共産党と関係があったとブラックリストに載せられ、議会での証言を阻み有罪判決を受けてしまう。赤狩り屈しなかった映画人、通称「ハリウッド・テン」の中心となったトランボは出所後、自らの名前を出すことができないまま世界最高クラスの脚本料の契約をとりつけ、脚本家イアン・マクレラン・ハンターの名前を使用し『ローマの休日』を発表、続けて『スパルタカス』といったヒット作を生み出した。

ジェイ・ローチ監督は人気ドラマ「ブレイキング・バッド」のウォルター・ホワイト役で知られるブライアン・クランストンをトランボ役に据え、名作『ローマの休日』が生まれた背景はもちろん、“反抗の天才”と呼ばれながら「思考を罪とみなす」弾圧に抗い続ける姿、家族を愛し守った家長としての姿、そして反骨精神とユーモアを忘れないトランボの創作への意欲を捉えている。この作品で主演のブライアン・クランストンは第88回アカデミー主演男優にノミネートされた。

ブライアン・クランストンなら
トランボの激しさや独善的な側面を表現できる

──どのようなきっかけでこの作品の制作がスタートしたのですか?

製作のマイケル・ロンドンから脚本が届いた。魅力的な物語だと思ったし、政治に関する私の問題意識と通じるものがあった。特に重要なことに、本作品は思想の自由について語っていた。それはつまり、人はどの政党を選ぼうと自由ということだ。私はたちまち夢中になった。脚本家やマイケルと何ヵ月もやり取りを重ねた末、主演のブライアン・クランストンを加えて製作を始めた。

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ジェイ・ローチ監督
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ジェイ・ローチ監督

──トランボ役をブライアン・クランストンに決めた理由は?

トランボは複雑な男で、性格的に多くの矛盾点を抱えている。演じるには難しい役だ。その点、クランストンはぴったりだった。「ブレイキング・バッド」だけじゃない。「マルコム in the Middle」や他の作品でも、多くの役を演じてきている。彼ならトランボという男の激しさや独善的な側面を表現できるだろうと思った。しかも軽妙でいられる。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より、ブライアン・クランストン ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──この物語の核心となる部分はどこにあるでしょうか?

私は本作品によって世間にこんな問いを投げかけた。どうしてあれほど愛国心の強い作家が、他の人々の目に反逆者と映ってしまったのか。彼の反逆とは、職を奪い投獄するに値するものなのか。こうした問いかけが本作品の核心をなしている。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──この作品が、クランストンをはじめとする役者を引きつけた理由はどこにあると思いますか?

当時は少数派の意見を述べるだけでブラックリストに載り、トランボが語ったように、異論を認めることが民主主義の基本なのに、刑務所へと送られた。役者たちは脚本を読み、過去に起きたことを知って、実際にあったという事実に驚く。当時のことはあまり語られず、特に若い世代はほとんど知らない。ブラックリストを描いた映画はあまり多くはない。

赤狩りを描く映画はあるが、ブラックリストの件はまた別だ。ハリウッドが舞台の他に類を見ない出来事だった。だから役者たちも引きつけられる。アメリカの恥ずべき時代を語りたいと思うからだ。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──脇役にも多くの名優が参加しています。

すごい顔ぶれだ。ヘレン・ミレンを筆頭に、有名どころが大勢いる。作品の規模からすると驚くばかりだ。大物俳優を演じた演技派の俳優たちにも感謝だ。

ジョン・ウェイン、カーク・ダグラス、エドワード・G・ロビンソン。この3人はあまりにも有名だ。とりわけジョン・ウェインについては、かなり悩まされた。なぜなら彼は映画史におけるアイコン的存在で、下手な描き方をするわけにいかなかった。だがジョン・ウェイン役のデヴィッド・ジェームズ・エリオットは最高の演技をしてくれた。彼は物まねをせずに、ジョン・ウェインになりきった。本物でないことを忘れさせるほどの演技だった。すっかり引き込まれる。役者たちはみんな見事な演技によって、歴史的な人物になりきってみせた。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より、ジョン・ウェイン役のデヴィッド・ジェームズ・エリオット ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より、エドワード・G・ロビンソン役のマイケル・スタールバーグ ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より、カーク・ダグラス役のディーン・オゴーマン ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──辛辣なコラムニスト、ヘッダ・ホッパーを演じたヘレン・ミレンについては?

ヘレン・ミレンはすごい。実際に彼女と会って大いに感銘を受けた。ヘレン・ミレンはアカデミー賞の受賞者で、映画界を代表するような存在だ。本作品でも彼女はすばらしかった。ウィットと皮肉を作品にもたらしてくれた。説得力も与えた。彼女の演技にはヘッダ・ホッパーの狂信的とも言える熱があった。彼女の存在感が映画をよりドラマチックにしてくれた。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より、ヘッダ・ホッパーを演じたヘレン・ミレン ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──トランボの長女・ニコラと、彼女を演じたエル・ファニングについては?

本作品におけるニコラは苦闘するトランボと、家族との間に生じる軋轢を体現する存在だ。彼女は父親に逆らい正面から食ってかかる。たとえブラックリストとの孤独な闘いがあり、金を稼ぐために忙しいにしても、父親に対し、家庭人であれと諭す。ニコラの反抗は、とても悲しいものだが、ウィットやコメディーの要素もいくらか含んでいる。エル・ファニングはクランストンと対決し、たとえ非常に白熱したケンカの最中であろうが、沈痛な瞬間であろうが、見ている者を家族の味方につけてしまう。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より、トランボの長女ニコラ演じたエル・ファニング ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

異論に耳を傾ける気があるなら、言論の自由は重要だ

──主人公のトランボ以外にも、彼を裏切る映画会社スタッフや俳優、彼に圧力をかける「アメリカの理想を守るための映画同盟」の委員らも道徳的なジレンマに陥っています。

登場人物は誰もが非常に深刻なジレンマに、物語のどこかで悩まされる。ある者はキャリアを犠牲にしたり、獄中で暮らすことになっても、信念を貫くために闘うことを選ぶ。中には健康を損なったり、家庭を失う者もいる。それでも信念は捨てない。その一方で程度の差はあるにしろ、恥ずべき魔女狩りに、つまり下院非米活動委員会に手を貸して、協力者として生きる者もいた。

──トランボの反骨精神を描きながら、物語は常にユーモアに溢れています。監督にとって、ストーリーの組み立て方で心がけていることは?

どんなドラマチックな物語でも、コメディーの要素は必要だ。不条理さや皮肉っぽい要素も見つけないといけない。そうした要素がまったくないと、物語がシリアスになりすぎる。だから私はいつも皮肉やコメディーの要素を探し、実際にそれを表現できる役者を使う。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──監督するにあたって、実際にブラックリストに載った作家の作品を見たそうですね。

破壊分子とされた脚本家たちの映画を見ることは、仕事ながらとても楽しかった。トランボの言葉どおり、何も怪しいものはなかった。国家の転覆を狙ういかなる陰謀も存在しなかった。彼らは進歩的な考えを映画で表現したにすぎない。でも想像すると、楽しくなってくる。当時の人々は、これらの映画に国家転覆の企みを見いだそうとしたんだ。驚くべきことだ。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──また、当時の記録映像を数多く引用していますね。

観客を当時に連れ戻す時、大抵の場合は再現映像が使われる。だが実際の映像の方が説得力は強い。この場合、見るのは過去のありのままの姿ではなく、映像作品として加工された姿だ。だから見ているうちに、込められたメッセージが、いかに恣意的か気づく。ヘッダ・ホッパーのニュース映画はまさにプロパガンダだ。

彼らは映像を巧みに操ることで、自分の意見を主張しようとする。あれは一種の伝道活動と言える。自分たちのアメリカ的正義を広めようとしていた。だからこそ、記録映像を作品に組み込んだ。

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』より ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

──最後に、観客にあらためて伝えたいことは?

観客にはこう言いたい。誰もが同じことを言い、意見が割れていなければ、言論の自由について特に悩むべきことはない。だが異論に耳を傾ける気があるなら、言論の自由は重要だ。異端と愛国は両立する。つまり、真の愛国者でありながら、時には少数派の意見を擁護することもあり得るからだ。これがテーマだ。

(オフィシャル・インタビューより)



ジェイ・ローチ(Jay Roach) プロフィール

1957年、ニューメキシコ州アルバカーキ生まれ。マイク・マイヤーズと組んだ監督第2作のスパイ・コメディ『オースティン・パワーズ』(1997年)で大ヒットを飛ばし、『オースティン・パワーズ:デラックス』(1999年)『オースティン・パワーズ・ゴールドメンバー』(2002年)という2本の続編でも監督を務めた。その他、『ミート・ザ・ペアレンツ』(2000年)『奇人たちの晩餐会 USA』(2010年)などのコメディ、ドラマを発表。2000年以降は政治的なテーマを扱った作品を発表。『俺たちスーパー・ポリティシャン 目指せ下院議員!』(2012年)、『ゲーム・チェンジ 大統領を駆け抜けた女』(2012年)の監督を務める。




映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
7月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、エル・ファニング、ヘレン・ミレン ほか
脚本:ジョン・マクナマラ
原作:ブルース・クック(「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」世界文化社刊)
原題:TRUMBO
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
2015年/アメリカ/124分

公式サイト:http://trumbo-movie.jp/


▼映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』予告編

レビュー(1)


コメント(0)