映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』より ©Ziggurat Films
2014年に心臓発作のため66歳で急逝したスペインのフラメンコ・ギター巨匠、パコ・デ・ルシアの軌跡を追うドキュメンタリー映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』が7月23日(土)より公開される。監督を務めるクーロ・サンチェスはパコの実の息子であり、監督の姉妹であるルシア・サンチェス・バレラがプロデューサーを、カシルダ・サンチェスが脚本の共同執筆を担当している。webDICEではクーロ・サンチェス監督のインタビューを掲載する。
この映画は、12歳でプロデビューを果たし、フラメンコ界に革命を起こしたパコの活動を、貴重なアーカイブ映像と近年のライブ映像、ギタリストのカルロス・サンタナ、ジャズ・ピアニストのチック・コリア、フラメンコの歌姫エストレージャ・モレンテらの取材を交えて描き出している。テレビ出演をきっかけにした商業的成功の後彼は、チック・コリアとのコラボレーションで即興に可能性を見出すなど、様々なアーティストとの共演で実験を繰り返し、従来のフラメンコの枠を壊す活動を続けた。晩年は幼年期に姉から教わったスペイン歌謡曲「コプラ」に新しい息吹を与えようと腐心している。常に変化を続けた活動のなかで抱える葛藤を吐露するインタビューや、マジョルカ島でひとり暮らし、プロ・ツールス(音楽ソフト)と格闘しながら創作活動に没頭する姿など、華々しいステージの裏にあるプライベートな横顔を捉えることで、パコの音楽への一途な情熱を再確認できる内容となっている。
彼は間違いなく偉大な人生を送った
──この映画の制作中、2014年に66歳でパコ・デ・ルシアは亡くなりました。そのことはこの作品の制作にどのような影響を与えましたか。
本作の撮影は、エネルギーに満ち、多くのプランを抱えていた我が“父”が、まだ生きていたときに始まった。2010年から2014年までコメント収録を行った。冒頭とエンディングの部分は、マジョルカ島の父の自宅で撮影した。
生きているときと同じく、死ぬときも即興だった。今は、彼なしでこの任務を終了させる責任と悲しみを感じている。予期せぬその死は、当然ながらストーリーの構成に影響し、特に本作をどう終わらせるかについては大変な仕事だった。しかし、この作品に結末は不要だと我々は気づいた。結末がどうであれ、パコの音楽と伝説は生き続け祝福されるだろう。彼は間違いなく偉大な人生を送ったのだから。
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』クーロ・サンチェス監督
──ギタリストのパコではなく、父パコはどのようなひとでしたか。
ヒッピーのように、自由にさせてくれる。哲学を持った人だった。
──家庭では、どのような存在でしたか。
毎年夏にメキシコ南部に行っていた。そこにはジャングルもあり。もっといっしょにすごしたかった。つねに人をひきつけるカリスマがあった。
──パコは、妻(監督にとっての母親)や子供にどのように接していましたか。
優しかった。1年に2ヵ月くらいしか家にいなかったけれど、威張ってなくて、幼少期は楽しく過ごした記憶がある。
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』より ©Ziggurat Films
──監督はギターは弾いていないとのことですが、これまで音楽活動、楽器はやったことがないのですか?
父と違って、私はギターは5歳で辞めたんだ。
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』より ©Ziggurat Films
──パコから最も影響を受けたことはどのような点ですか。
仕事への敬意をもつこと。芸術家として生きていくなら、お金でなく芸術への熱意のために取り組みなさい、ということを教わった。
──急逝してしまい、パコに聞けなかったことはありますか。
晩年、成熟した姿を撮りたかった。メキシコで録音したり、とか。夢を語ってほしかった。
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』より ©Ziggurat Films
──この映画で一番好きなシーンは?
次兄のぺぺとアメリカにいくシーンだ。14歳から16歳というのは、アーティストとしてはじめて、見知らぬ土地にいき、キャリアを築いていく時期だから。
──監督の一番好きなパコの楽曲は?
「ティオ・サバス」、サビーカス(パコ・デ・ルシアが影響を受けたフラメンコ・ギタリスト)に捧げた曲だ。
『パコ・デ・ルシア「ティオ・サバス」
──監督は、今後もし子供ができたら、父パコのことをどのように伝えたいですか?
表現するために、自由であることを伝えたい。子供のキャリアを、子供が自由に選ぶことをさせるようにしたいんだ。
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』より ©Ziggurat Films
──この作品で、これだけは伝えたかったことは?
彼の孤独だ。クリエイトにおける緊張を表現したかった。貧しいミュージシャンが貧困に打ち勝っていくまでの姿を描きたかった。それから、彼の人間としての魅力、彼のユーモア精神を知ってもらいなと思っていた。
(オフィシャル・インタビュー、プレスより)
クーロ・サンチェス(Curro Sanchez) プロフィール
パコ・デ・ルシアの長男。スペイン、マドリッド生まれ。マドリードにあるCEUサンパブロ大学で、コミュニケーション及び映像音響を学ぶ。大学卒業後に、ドキュメンタリー映画「Bienvenidos Mr. Hollywood」を監督。高い評価を受ける。2009年、ニューヨークに渡り、ニューヨークフィルムアカデミー(NYFA)で学び、短編映画などを監督する。その後、スペインに戻り、Ziggurat Filmsを設立。パコの2011年の演奏ツアーのドキュメンタリー「Inmortalidad de un Concierto」(不滅の演奏)を製作する。その後、2014年に『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』を完成させ、ゴヤ賞、ベスト・ドキュメンタリー賞などを受賞し高い評価を受ける。現在は、画家ゴッホについてと、マリファナの合法化についてのドキュメンタリーを製作中。
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』より ©Ziggurat Films
映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』
7月23日(土)、Bunkamura ル・シネマ他、全国ロードショー
監督:クーロ・サンチェス
出演:パコ・デ・ルシア、チック・コリア、カルロス・サンタナ、ジョン・マクラフリン
英題:PACO DE LUCIA A JOURNEY
2014年/スペイン/90分 ビスタ/カラー&モノクロ/DCP/5.1chサラウンド
日本語字幕:原田りえ
配給:RESPECT
宣伝協力:Lem
後援:スペイン大使館、セルバンテス文化センター東京、一般社団法人 日本フラメンコ協会、公益財団法人 日本スペイン協会
公式サイト:http://respect-film.co.jp/pacodelucia/