映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
チェコ共和国の女性映画監督が、自らの妊娠糖尿病発症をきっかけに、家族とともに精製された砂糖抜きの生活を試み、砂糖の危険性について調査する姿を5年間に渡り記録したドキュメンタリー映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』が7月23日(土)から渋谷アップリンクで公開。webDICEでは、アンドレア・ツルコヴァー監督のインタビューを掲載する。
このインタビューでツルコヴァー監督は、5年間にわたる撮影のプロセスや砂糖抜きの生活を実際に行った心境について語るとともに、砂糖にまつわる利権や多国籍企業による「オーガニックな」ジャンクフードについても指摘している。
砂糖には政治、ビジネス、大金、権力もからんでいる
──まず、この映画を制作することになったきっかけから教えてください。観客は、砂糖に関してどんな新しい発見をすると思いますか?
私が2009年頃にリサーチを始めた当時は、砂糖を問題視している人はほぼ皆無でした。この間、私は砂糖が持つ力や、その過剰摂取が人体にどれほど多大な影響を与えるかという事実に、何度も驚かされました。当初は砂糖が、脳の病気(ADHD、自閉症、アルツハイマー型認知症)や心臓病、メタボリックシンドローム、2型糖尿病と診断される人の爆発的な増加だけでなく、がんにまで密接な関連性があるなどとは思いもしませんでした……。映画では、その関連性を紹介しています。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』アンドレア・ツルコヴァー監督
──映画では様々な国を訪れて取材を行っていますが、そういった経験がこの映画にもたらしたものは?
リサーチや撮影を進めていけばいくほど、砂糖が抱えているのは決して健康の問題だけではないことがわかってきました。砂糖には、政治にビジネス、大金、そして権力もからんでいるのです。砂糖ビジネスの仕組みも知りました。「シュガー・マフィア」の正体や、砂糖ビジネスのうまみも。なぜあらゆる製品が、時代を経るごとにさらに甘くなっているのか?砂糖はなぜ、店の棚にあるほとんどの製品に入っているのか?ここでいう“店”には、有機農業で作られた食品を扱う健康食品店も、もちろん含まれています。
3大陸、計8ヵ国での撮影は、まさに壮大なアドベンチャーでした。どの国でも記憶に残る出来事があり、砂糖にまつわる問題のあらゆる側面を目にすることとなりました。そして映画自体も、探偵ものから恐ろしいスリラーへ、徹底的な調査からアフリカにおける悲劇へと、様変わりしていったのです。
砂糖がからんだ最も顕著な犯罪は、1970年代に起きました。そしてそれは、今なお私たちの社会に多大な影響を与えています[注:1975年に当時のハーバード大学栄養学部長フレッド・ステアが書いた《食事における砂糖》と題された報告書が、FDA(米国食品医薬品局)が砂糖を安全だと結論づける根拠となり、世界中に砂糖の安全神話が広がったことを指す。ステアは長年にわたり砂糖メーカーや大手飲料・食品メーカーから多額の資金を得ていた]。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
大切なのは、子供を砂糖漬けにしないこと
──本作を見た観客には、どんな反応を望みますか?
「コペンハーゲン・ドキュメンタリー映画祭」のディレクターは、この映画を観た時、彼女が手にしていたコーヒーを最後まで飲まず、お皿にあった甘いものにもそのまま手をつけませんでした。
私は『シュガー・ブルース』を、世の親御さんのために作りました。彼らは砂糖中毒というあまりにも一般的で重要視されていなかった事柄について、何らかの問題があると気付いていながら、深く考えるきっかけが無いからです。
食品業界は私たちに、砂糖はごく普通な物質で、幸せな子供時代に欠かせないものだと教え込みます。ですが、果たして彼らの言うことは真実でしょうか?この映画では砂糖、病気、そして薬というからくりが、いかに効率よく機能しているかを紹介しています。
業界はいかにして消費者を砂糖漬けにし、自分たちの製品を売り込むのでしょうか?食品業界は自分たちを正当化しようとします。自分たちがいかに“素晴らしい存在”なのか、学校の行事や遊び場をいかにサポートしているか、そして砂糖の量は自分自身で気をつけるのが最善の方法だということを、アピールし始めるはずです。でも、そんな理屈が通用すると思いますか?最たる例が、10代の子供たちです。彼らは、最も弱い存在であると同時に最も重要な顧客が、お小遣いを手にする10代の子供たちであるという事実には口を閉ざしたままです。10代の子供たちは、忠実な顧客となる集団に育て上げるのに最適な年齢層なのです。
大切なのは、子供の頃から砂糖漬けにしないことです。本来、食物というものはバラエティ豊かで味も多種多様です。もちろん甘さにもいろんな種類があり、精製された砂糖など必要ないということを示すのが重要なのです。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
砂糖抜きの料理はお財布にも優しい
──砂糖との5年間の闘いの中で、一番驚いたことは何ですか?
何よりもまず、砂糖抜きの食事をしたければ、食生活を完全に変えなければいけないことに衝撃を受けました。解決策は砂糖を他の何かに置き換えることではなく、料理の方法を完全に変えることだったのです。
砂糖抜きの食生活がもたらした効果の一例として、私の2番目の子が幼稚園を1日も休まなかったことが挙げられます。幼稚園の先生たちは何度もその理由を聞いてきますが、いざ私が説明を始めると、耳を傾けてくれません。習慣はなかなか変えられませんよね。実は昨日、21歳の妹からメールがありました。これから1ヵ月かけて、砂糖を抜き、食生活を完全に変えようというのです。これは私が5年間もかけて妹を説得した結果ですが、私は彼女がやっと心を決めてくれたことを嬉しく思います。妹は健康問題を抱えていましたからね。今や彼女は、砂糖抜きでも多彩で豊かな食卓を楽しめることに、驚きつつも満足しているようです。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
──砂糖抜きの生活で、一番大変なことは何ですか?
“この生活に慣れるには時間がかかる”と自分自身に言い聞かせることです。私自身もまだ、新しいものや、未体験の味、見たこともない変わった食べ物を試す必要があると思います。砂糖抜きの生活は、苦行ではなくプロセスだと考えましょう。
──その一方で、最大の収穫は?
たくさんあります。子供たちはおとなしくなり、物事に集中してスムーズに取り組めるようになりました。かんしゃくを起こすことが減り、家族の中でも特に子供たちが体調を崩すことが少なくなりました。そして何よりも、家族でテーブルを囲むことが習慣になって、あれこれ会話をしながら家族の時間を楽しんでいます。それに、砂糖抜きの料理はお財布にも優しいんですよ。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
ジャンクフードは、
“オーガニック”・ジャンクフードにとって代わられた
──砂糖抜きの生活をしたいという人に、アドバイスをいただけますか?
まず、自然の状態に近い食品を買うようにしてください。理由は簡単です。加工されていない食品ほど、含まれる砂糖の量も少ないわけですから。
それから自炊を心がけたり、バランスの取れた食事内容か(複合糖類やタンパク質、ミネラルを使用したか)どうかもチェックすること。
子供たちと一緒に料理をし、自分たちの食事を作らせることも大事です。砂糖抜きでもきちんとした食事やおやつが作れる、いいお手本を見せてあげましょう。家での食事がおいしければ、お店でジャンクフードを買う必要なんてないわけですから。それに、とりわけ10代の子供たちにとっては、自分のニーズに合った料理方法を学ぶのは、とても良いことです。そうすれば砂糖業界の餌食になることを避けられますからね。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
家に精製された砂糖や砂糖を使った食品が無くても、もっと良質なお菓子を与えてあげれば、砂糖を欲しがる子などいなくなるでしょう。
食品についているラベルを確認したり、自宅の庭で“調達する”ことを覚えさせるのです。子供たちには健康的なおやつを用意し、学校に持たせてあげることも大事です。
多くの国では、学校に自動販売機を設置することは禁止されていません。自販機でタバコを子供に与える人はいないでしょうが、砂糖がたくさん含まれた飲み物やお菓子に関しては、法的には問題ないのです。学校は教育を受けるのに安全な場所でなくてはなりません。ですが、食品業界や彼らのマーケティング、および栄養価の全くない製品に対して、あまりにも開放的すぎるのです。一方で、砂糖が精神や認知機能、学習能力に影響を及ぼすという科学的な証拠はたくさんあります。砂糖の入っていない良質な食品は決してぜいたく品などではなく、効果的な教育ツールなのです。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』 ©2014 GOLDEN DOWN
──5年前と比べて変化を感じますか?
この映画に出てくる「問題視する人の数はずっと増えた」という言葉がその答えになりますね。
私が取材をした人の中には、メディアの注目の的になった人もいます。とはいえ、根本的に何かが変わったわけではありません。ジャンクフードは単に、“オーガニック”・ジャンクフードにとって代わられただけで、多国籍企業、科学者、食品メーカーらは40年前にやっていたことを今も繰り返しています。
あらゆる製品が、時代を経るごとにさらに甘くなっているし、私たちが思う以上に有害になっています。ですが、そういった現状への対策はそれほど面倒なものではありません。映画で語られるように、シュガー・フリーは誰もが自分の家庭の食卓で始めることができる無血の革命なのですから。
(オフィシャル・インタビューより)
アンドレア・ツルコヴァー(Andrea Culkova) プロフィール
映画監督、クリエイティブ・アーティスト、教育者、3児の母にして、「より平和な世界」を目指す活動家。1977年、チェコ共和国ハブリーチクーフ・ブロト生まれ。プラハ・カレル大学教育学部芸術教育学科及びプラハ芸術アカデミー付属映画テレビ学校(FAMU)ドキュメンタリー映像学科卒。その作品はチェコ国内の主要なドキュメンタリー映画賞を受賞し、本作を含め様々な国際映画祭でノミネートの実績がある。日本での公開は本作が初めてとなる。
映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』
2016年7月23日(土)より渋谷アップリンクにて公開
監督:アンドレア・ツルコヴァー
出演:アンドレア・ツルコヴァー、キャシー・ドルジン、アデルベルト・ネリセン、ほか
配給:T&Kテレフィルム
2014年/チェコ/英語、チェコ語/81分/カラー/16:9
原題:Sugar Blues
公式サイト:http://sugar-blues.com/