映画『AMY エイミー』より © 2015 Universal Music Operations Limited. ©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky
2016年7月23日に没後5年を迎えるシンガー、エイミー・ワインハウスを描き、第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した『AMY エイミー』が7月16日(土)より公開となる。webDICEでは、アシフ・カパディア監督のインタビューを掲載する。
この映画は、ユダヤ系の血筋を持つ彼女が、その圧倒的な歌唱力と歌声で、デビューから一躍スターダムにのし上がるものの、2011年に27歳でアルコールの過剰摂取で命を落とすまでのキャリアに肉薄。自身がドラッグリハビリ施設に入ったときのことを歌ったヒット曲「リハブ」に象徴されるドラッグ問題や、ボーイフレンドとのトラブル、追いかけ回されるマスコミへの対応など、度重なるスキャンダルに悩まされながらも、音楽への真摯な情熱を忘れなかった彼女の姿を捉えている。友人の誕生日パーティーで歌う様子や、デビュー前にレコード会社の会議室でギター一本で歌う姿など、マネージャーや友人が撮ったホームビデオからのプライベートな映像、そして関係者のインタビューを通し、彼女の生き方と素顔を浮かび上がらせている。
カパディア監督は、『オマールの壁』のアダム・バクリ主演で、第一次世界大戦のアゼルバイジャンを舞台にした『Ali and Nino』の公開を控えているほか、エグゼクティブ・プロデューサーとしてオアシスのドキュメンタリー映画を製作中。またサッカーのマラドーナ選手のドキュメンタリー映画の監督を務めることが発表されている。
エイミーと彼女の曲作りをテーマにした映画なんだ
──公開にあたって、どんなお気持ちですか?
この映画は前作『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』の製作陣と作った。エイミーが亡くなったとき散々マスコミやタブロイド紙に騒がれ、みなさんエイミーを知った気になっているつもりかもしれないが、この作品に描かれているのは本当のエイミーの姿だ。きっと多くのみなさんにとって予想外のストーリーだと感じるのではないだろうか。そして、共にきっと笑うこともあるだろうし、また泣くこともあるだろう。いずれにしても感情を揺さぶるものになると思う。この映画を観てこれまでエイミーが作ってきた音楽の聞き方が変わってくるんじゃないかと思う。非常にパワフルな映画になったと思う。
映画『AMY エイミー』アシフ・カパディア監督
──なぜエイミーについて撮ろうと思ったのでしょうか?
彼女はどうして27歳という若さで死んでしまわなければいけなかったのか。何かがエイミー・ワインハウスの身に起こった。それが私たちの目の前でどのように起こったのかを知りたいと思ったんだ。一方でそれは決してショッキングな出来事ではなかった。彼女の生前、私はいつかそれが起こるだろうと知っていたし、きっと誰もが彼女がそのような道に堕ちていくことを知っていたはずだ。
彼女はユダヤ人だけれど、私はインド系ムスリム人で、同じロンドン北部で育った。私にとって彼女は、道の向こう側に住んでいるひとりの女の子だった。彼女は私の知っている誰かの友達であったかもしれないし、一緒に学校に通っていた誰かだったかもしれない。だからこそ彼女の本当の物語をすぐに調べなければ、と思ったんだ。
映画『AMY エイミー』より © 2015 Universal Music Operations Limited. ©Rex Features
──映画のなかで使用されている楽曲の多くは、歌詞も字幕で映されますね。こうした演出にした理由は?
当初から、彼女の楽曲がこの映画の鍵になると直感していた。私たちは彼女の歌詞を見ていくうちに、もしかしたらこれはボリウッド映画的な作品になるかもしれないと考え始めた。ボリウッド映画では物語が歌詞や曲に織り込まれている。そんなふうに、彼女の曲を中心に映画の物語を構築していったらどうだろうと考えたんだ。
彼女の人生を理解してから歌詞を読めば、その内容が、それまで思っていたよりもずっと深いところに訴えかけてくるはずだ。我々がやらなければならないのは、これらの歌詞が何について書かれているのかを解明することだと思った。彼女の歌唱力は誰もが知っていた。だが作詞から作曲まで自分で手がけていたにもかかわらず、多くの人々は彼女のソングライティングの才能には気づいていなかった。彼女の曲の内容がどれほど個人的なものだったのかについてもね。エイミーのつくりだす音楽、そのすべてが彼女そのものだった。この映画は、エイミーと彼女の曲作りをテーマにした映画なんだ。
映画『AMY エイミー』より © 2015 Universal Music Operations Limited. ©Rex Features
友人たちへのインタビューはセラピーのようだった
──膨大な映像素材をどう集めたか、制作の過程でこだわったことを教えてください。
『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』では5年かけて製作したが、今回のエイミーは3年かけて製作した。きちんとしたリサーチチームを設け、できるだけ多くの人と連絡をとって話を聞き出した。なぜならエイミーのドキュメンタリー映画は、これまでいろんな形で出てきているけれど、これぞエイミーの究極の物語だっていうものを作らなければならなかったからだ。
彼女がどういうことに動機づけられて、どういった私生活を送っていたのかを含めて、とにかく徹底的に描きたかった、徹底的に探りたかったということでいろんな人と話をした。こだったポイントとしては、1対1で話すということ。カメラがあると身構えて本当のことを聞き出せなかったりするが、今回の場合はラジオ番組のように部屋の中で1対1で座り、音を録っているミキサーも別室にし、照明を落としてインタビューに答えてもらった。すると取材対象者はほっとするから安心していろいろ話しだすんだ。最初は「嫌だ嫌だ」と言っていた人が1時間、2時間、そして4時間、5時間に話してくれて、どんどん心を開いていった。取材対象者の彼らも、エイミーに先立たれてしまっていろいろ心に抱えていたので、この映画が彼らにとって一種のセラピー的な効果があったのではないかと思う。そのせいかどんどんどんどん私たちを信頼していってくれるようになった。そこから、「今度はこいつに話を聞いてみたらいいよ」って友達を紹介してくれるようになった。最初は「映像なんか持っていないとか言っていたけど本当はあるんだ」って見せてくれたりもした。つまり、周りの人との1対1の対話を重ねていく中で、その過程を経て映像にだどりつけたんだ。
映画『AMY エイミー』より © 2015 Universal Music Operations Limited. ©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky
──エイミーの古い友人であり最初のマネージャーであるニック・シャイマンスキーと、彼女の幼なじみであるジュリエット・アシュビーとローレン・ギルバートは、当初この企画に対して非協力的だったそうですね。
彼女たちはまるでエイミーのようだった。彼女たちは非常に警戒していて、神経質で偏執的だった。しかし私たちのつくったセナの映画を見てもらい、だんだんと信頼を得ていくことができた。
この映画の中で、ふたりの幼なじみたちの存在はとても重要なんだ。彼女たちの存在が、エイミーがただのロンドン北部から来たユダヤ人の子どもであることを思い出させてくれる。エイミーは、ジャスティン・ビーバーでも、ディズニーチャンネルに出ているような子どもでもなかった。幼い頃から名声を得るために生まれついた子ではなく、ごく普通の女の子だったんだ。
ほんとうにセラピーのようだったよ。私はあくまでも公平な立場として彼らに話を聞いていった。私は音楽業界の人間でもないし、彼女に対する偏見もなかった。彼らはやがて“話したくない”と思っていたはずのことこそ“話さなければならない”ことなのだと思うようになっていった。ほとんどの人は、私たちに話をしたあと、抱えていた重荷を下ろせたことにほっとしていたようだった。
映画『AMY エイミー』より © 2015 Universal Music Operations Limited. ©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky
名声というのは、身を滅ぼすもとなんだ
──彼女の元夫のブレイク・フィールダー・シヴィルが撮影した映像など、これまで観たことのないフッテージが数多く使用されています。
ニックの映像には本物のエイミーが映っていた。それらを見れば、彼女がどれだけ知的で、特別な存在であり、同時に普通の女の子であったかがよくわかるはずだ。
彼女の真っ直ぐな視線からは多くのものが見えてくるし、そのメッセージは真っ直ぐに客席に伝わっていくと思う。たとえばリハビリ施設にいるとき、ブレイクが、「Rehab」を歌ってみろよ!とからかうシーンがある。それは観客にとって見るのもつらい瞬間だが、彼女の私たちに注がれるまなざしは、また別の意味を生み出してくれるんだ。
彼女を大切に思っていた人々は、実際彼女に愛を示そうとしていたのに、彼女はしばしばそれを脇に押しやってしまったんだ。彼女はとても複雑で、けれど非常に聡明な女性だった。これは、愛されることを求めていたひとりの人間の物語なんだ。愛を必要としながら、必ずしもそれを手に入れているわけではない人間のね。
映画『AMY エイミー』より © 2015 Universal Music Operations Limited. ©Winehouse family
──観客には、特にどの部分を観てもらいたいですか?
とにかくこの映画はリアルなエイミーを見せる映画だ。わたしは彼女の周りの友達や、マネージャーのニック、彼女を愛していた人たちから「君はいったいどんな映画を作るのか ?ダブロイド紙とかスキャンダラスなエイミーを撮るのか、あるいはリアルな本当の彼女の姿を撮るのか、どっちのエイミーを見せるんですか?」と問われて続けてきた。
わたしはリアルなエイミーを撮るということを一つのミッションとして抱えて撮った。この映画の中では非常に可笑しくってひょうきんで美しく、聡明な、有名人になる前の素敵なエイミーがフィーチャーされている。有名人になるということは、本当に人に害を与えることになるものだ。名声というのは、身を滅ぼすもとなんだ。この映画では、アイコン的存在になるよりも前の、幸せで若いエイミーを捉えている。非常に人間として素晴らしく特別な存在だったと思うし、彼女は愛といたわりを求めていたんだと思う。しかし、残念ながらその愛を得られなかった人だったということを、みなさんに感じてもらえたら嬉しい。
(オフィシャル・インタビューより)
アシフ・カパディア(Asif Kapadia) プロフィール
1972年、ロンドンに生まれる。英国王立芸術大学で映画製作を学んだ後、インドで卒業制作の短編映画『The Sheep Thief』(1997年)を撮り、1998年カンヌ国際映画祭(シネフォンダシヨン部門)で2等賞を獲得。その後、インド北西部ラージャスターン州の砂漠とヒマラヤ山脈で撮影した初の長編作『The Warrior』を監督。同作は英国アカデミー賞英国作品賞と新人監督特別賞をW受賞。続いてミシェル・ヨー主演の北極圏を舞台にしたサスペンスドラマ『ザ・ノース-北極の宿命-』(2007年)を発表。2010年、F1界の伝説的レーサー、アイルトン・セナのドキュメンタリー映画『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』を監督。同作はドキュメンタリー作品としては英国史上最高の興行成績を収め、英国アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞および最優秀編集賞をW受賞、2011年サンダンス映画祭でドキュメンタリー部門観客賞を受賞するなど、数々の国際的な映画賞を獲得した。現在、2016年1月のサンダンス映画祭で上映された新作で、『オマールの壁』のアダム・バクリが主演を務める『Ali and Nino』が公開待機中の他、エグゼクティブ・プロデューサーとして、英国バンド・オアシスのドキュメンタリー映画を製作中。また伝説のサッカー選手マラドーナのドキュメンタリー映画(2018年完成予定)の監督を務める予定となっている。
映画『AMY エイミー』
7月16日(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
監督:アシフ・カパディア
製作:ジェームズ・ゲイ=リース
出演:エイミー・ワインハウス
2015年/イギリス/英語/カラー
原題:AMY
配給:KADOKAWA
協力:ユニバーサル ミュージック合同会社 USMジャパン
© 2015 Universal Music Operations Limited.
公式サイト:http://amy-movie.jp