骰子の眼

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東京都 中央区

2016-07-05 18:00


『はじまりのうた』監督最新作は80'sロックにのせた自伝的青春映画『シング・ストリート』

「自分ができなかったことすべてを映画の中で実現した」ジョン・カーニー監督語る
『はじまりのうた』監督最新作は80'sロックにのせた自伝的青春映画『シング・ストリート』
映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

『はじまりのうた』『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督の新作『シング・ストリート 未来へのうた』が7月9日(土)より公開される。webDICEではジョン・カーニー監督のインタビューを掲載する。

1980年代のアイルランド・ダブリンを舞台に、モデル志望の年上の女性に恋したさえない14歳の少年が、彼女の気を引くために友人たちとバンドを結成するというドラマ。今回のインタビューでは、1972年生まれのカーニー監督が青春を過ごしたダブリンを舞台に自伝的物語を撮ることについて語っている。

不況にあえぐダブリンに住む少年コナーは、別居寸前の両親と暮らしていて、父親の失業によりカトリック系の高校への転校を余儀なくされる。「この国の芸術家は国を出なきゃうつ病になる」というセリフや、ダブリンの若者たちのロンドンへの憧れが描写されており、イギリスのEU離脱が決定し、EUの市民権を保持しようとアイルランドのパスポートを申請する人が急増していると報道される現在、ニュースとは異なる角度から「アイルランド気質」を感じることのできる作品と言える。

デュラン・デュランやザ・キュアーなどの80's UKサウンドをふんだんに盛り込み、結成したばかりのバンドが初のギグに向けて新曲を生み出す過程で、レコード会社に搾取される、とマネージメントと書類の大切さを説くシーンや、クライマックスの高校の体育館でのライブシーンまで、ミュージシャンとしてのキャリアもあるカーニー監督ならではのリアリティに満ちた「バンドが生まれる瞬間の興奮」が描きだされている。コナーが結成するバンド、その名も「シング・ストリート」の演奏する楽曲は、80年代に活躍したスコットランドのバンド、ダニー・ウィルソンのゲイリー・クラークとカーニー監督がソングライティングを行い、主題歌「ゴー・ナウ」は『はじまりのうた』にも出演したマルーン5のアダム・レヴィーンが担当している。

弱虫だった僕ができなかった全てをかなえることができた

──この作品は、ロックバンド、ザ・フレイムスでも活動していたカーニー監督の自伝的物語だそうですね。

自分自身を反映した作品を作りたかった。ただの音楽の物語にはしたくなかったんだ。

この映画は基本的に、僕が主人公の年頃にやりたかったけれどできなかった全てのことを映画の中で実現した“願望充足”の映画なんだ。僕が12、13歳の頃、お金もなくて、荒れた学校に行ってた。学校には僕のことをボコボコにしたい奴らが溢れていた。彼らは僕のことが理解できなかったんだ。その頃の僕ができなかったことをこの少年を通じて少し冒険できたらいいなと思って。そこから物語が幕をあけるんだ。

映画『シング・ストリート』ジョン・カーニー監督
映画『シング・ストリート』ジョン・カーニー監督 via The New York Times CreditCourtesy of The Weinstein Company

12歳の頃、近所に自分のバッグを赤ちゃんのように抱きかかえている女の子がいたんだ。彼女は独特の色気があって、13歳だった。毎日彼女とすれ違うんだけど、近付き話しかける勇気がなかった。この映画は、そんなに若い年頃で誰かに話しかけ、好きな人に自分の存在をわかってもらうことがどんな気分なのかという話なんだ。この女の子に近づいたときに、次に何が起こるのかは予想できない。その瞬間、自分が弾けてしまいそうな感じになる。撮影中は毎日その感覚が蘇ってきたよ。だから『シング・ストリート』を作ったおかげで、僕は彼女も射止め、バンドも結成し、弱虫だった少年ができなかった全てをかなえることができたんだ。

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

この映画が何を言いたいかっていうと、幼い頃に何が起きたとしても、いじめっ子に狙われても、宿題をやらなくても、彼女がいなくても、ヘッドホンから音楽が流れていればそれで大丈夫だったんだってことなんだ。

──故郷であるアイルランドのダブリンを舞台にしたことについては?

政治的な側面や80年代のアイルランドの暗い生活を描きたいとは思わなかった。それよりも、これは家族がバラバラになる話だ。コナーは、自分の両親が離婚するかもしれないと知って、夫婦が別れても大ごとではなく、子供たちも平然としているアメリカのドラマを想像してそれに耐える。すべてを懸命に処理しようとする。僕はそれこそ、語るに値すると思うんだ。そして、島国であるアイルランドについての映画でもある。アイルランドでは、潜在的に閉じ込まれてしまう可能性があるんだ。あまりに小さな国だし、人口も少ないからね。自分ではすごく頑張っていると感じていても、国際的な視野で見たら、たいしたことがないんだよ。コナーたちは、アイルランドで暮らすだけでなく、そこを離れてどこか違う所で経験を積まなければならないことに気づくんだ。

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

80年代は新しい音楽を作り上げた最後の10年間だ

──主人公の14歳の少年コナーを演じるフェルディア・ウォルシュ=ピーロは、アイルランド全土の数千人から選ばれたそうですね。彼を主演に起用した理由は?

フェルディアは聡明な若者でオーディションに来るたびに良くなっていったので選んだんだ。僕のアドバイスをアレンジして次に戻ってきたから、映画に向いている性格だと思ったよ。大人になっていない若者がそれをするのは本当に大変なことだ。聡明な子だよ。ビジュアルもよくて、雰囲気もあり、声もいいしね。

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映画『シング・ストリート』より、コナー役のフェルディア・ウォルシュ=ピーロ(左)、ラフィーナ役のルーシー・ボイントン(右) © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

──若い俳優たちにどのように演出したのでしょうか?

役者に即興の余地を少し与えて、脚本を自分なりに解釈させるのが好きだ。子供たちに、セリフを忘れたら、そのまま続けて何か言ってごらんと、けしかけたんだ。彼らが言うことは、時に僕が書いたセリフよりも面白かったよ。

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

80年代にはまだ生まれてもいない若いキャストたちに、当時のステージやミュージック・ビデオでのバンドの動きについて教えた。コナーのバンドのミュージック・ビデオを撮影するために、撮影監督のヤーロン・オーバックと、80年代のビデオの構造、デザインそして編集を分析した。

作品の色合いを、80年代のアイルランドの街並みのくすんだ灰色と、当時のミュージック・ビデオの鮮やかな色彩を混ぜたものにした。あの頃、「トップ・オブ・ザ・ポップス」を見て、デュラン・デュランのビデオのようなすごい世界がロンドンにあると想像し、早く行ってみたくて仕方なかった。だから、主人公の少年コナーが撮影したビデオと彼の想像の世界はテクニカラーで描いたんだ。

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より、コナー役のフェルディア・ウォルシュ=ピーロ(左)、コナーが恋するラフィーナ役のルーシー・ボイントン(右) © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

──本作の音楽について教えてください。

映画のために作る音楽も、80年代に作られたと思えるような曲を作りたかったんだ。80年代はそれまでになかった新しい音楽を作り上げた最後の真の10年間だと思う。80年代の音楽みたいなキャッチーでサビが印象に残る、素晴らしい音楽にしたかったんだ。ただ、コピーではなくオリジナルの音楽としてね。

バンドが演奏する歌に本物の80年代のスピリットを加えるために、80年代のヒット曲「Mary's Prayer」で知られるスコットランド出身のバンド、ダニー・ウィルソンのゲイリー・クラークに作詞作曲を依頼した。アイルランドのトップクラスのスタジオミュージシャンを集めて完成した曲を録音したんだけど、子供たちが実際に弾いているように下手に演奏するのに苦労した。

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より、コナーを中心に結成されたバンド「シング・ストリート」 © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

──監督自身は、どんなバンドに影響を受けたのですか?

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは大好きなバンドの一つだった。聴くのをやめられないバンドについても前に誰かに聞かれたこともあったけど、他でもないレベル42だろう。僕はベーシストだったから、リーダーのマーク・キングがベースとボーカルを担当するレベル42にかなりハマったよ。今でもたまに聴くことがある。そういう時、彼女は部屋を出て行くけどね(笑)。それでも大好きだ。シンセ・ポップやファンク、そして誰もが聴いていたジョイ・ディビジョン、ザ・キュアー、そしてアメリカの音楽もたくさん聴いた。多過ぎてきりがないけど、いろいろなものを聴いたよ。

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より、コナー役のフェルディア・ウォルシュ=ピーロ(左)、友人ダーレン役のベン・キャロラン(右) © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
(オフィシャル・インタビューより)



ジョン・カーニー(John Carney) プロフィール

ダブリンを拠点に活躍する脚本家、映画監督。『ONCE ダブリンの街角で』(06)が世界中で大ヒットを記録。アメリカでわずか2館の公開から口コミで140館まで拡大、異例の大ヒットとなり、インディペンデント・スピリット賞の外国映画賞を受賞。サウンドトラックはグラミー賞にノミネートされ、主題歌「Falling Slowly」はアカデミー賞のオリジナル歌曲賞を受賞した。この映画の舞台版はトニー賞のミュージカル賞を獲得、2014年11月日本にも上陸を果たした。続く、キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、アダム・レヴィーン(マルーン5)出演の『はじまりのうた』(13)も全米中心に大ヒットを記録。本作の劇中歌「Lost Stars」もアカデミー賞の歌曲賞にノミネートされるなど世界中で話題になった。以前はアイルランドのロックバンド、ザ・フレイムスでベーシストを務めていた経歴を持つ、音楽愛に溢れる監督。




映画『シング・ストリート 未来へのうた』
7月9日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント他全国順次公開

映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画『シング・ストリート』より © 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

1985年、大不況のダブリン。人生14年、どん底を迎えるコナー。父親の失業のせいで公立の荒れた学校に転校させられ、家では両親のけんかで家庭崩壊寸前。音楽狂いの兄と一緒に、隣国ロンドンのMVをテレビで見ている時だけがハッピーだ。ある日、街で見かけたラフィーナの大人びた美しさにひと目で心を撃ち抜かれたコナーは、「僕のバンドのMVに出ない?」と口走る。慌ててバンドを組んだコナーは、無謀にもロンドンの音楽シーンを驚愕させるMVを撮ると決意、猛練習&曲作りの日々が始まった──。

監督・脚本:ジョン・カーニー
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エイダン・ギレン、マリア・ドイル・ケネディ、ジャック・レイナー、ルーシー・ボーイントン
編集:アンドリュー・マーカス
撮影監督:ヤーロン・オーバック
主題歌:アダム・レヴィーン
原題:Sing Street
2015年/アイルランド・イギリス・アメリカ/106分
配給:ギャガ
© 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

公式サイト:http://gaga.ne.jp/singstreet/


▼映画『シング・ストリート 未来へのうた』予告編

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