第10回UNHCR難民映画祭上映『ボクシング・フォー・フリーダム』より
映画を通して世界の難民問題について知る映画祭、UNHCR難民映画祭が10月2日(金)より東京・札幌・仙台で開催される。世界中から集められたドラマやドキュメンタリーを通して、難民、国内避難民、無国籍者の置かれた状況について理解を深めることを目的として行われる。
本映画祭の主催で、難民の保護と支援を行う国連機関・国連難民高等弁務官(UNHCR)は、紛争や暴力から逃れて家を追われた人の数が2014年の統計で世界全体で6000万人に迫ることを今年の6月、発表した。近頃もシリアなどからヨーロッパに押し寄せている難民や移民の受け入れ問題について議論を呼ぶなど、難民を取り巻く深刻な状況は続いている。今年の映画祭は、ドラマやドキュメンタリーなどそれぞれの手法で「難民たちの今」を描いた作品だけでなく、アフガニスタン初となる女子ボクシング代表選手に選ばれたサダフ・ラヒミの奮闘を追う『ボクシング・フォー・フリーダム』が上映されるほか、コソボ紛争下でレイプされた女性たちを描く『三つの窓と首吊り』のような、戦時下における性暴力をテーマにした作品が出品されているのも特徴となっている。
webDICEでは映画祭スタッフによるレコメンド文章とともに、上映される全10作品を紹介する。
日本初上映
『ヤング・シリアン・レンズ』
シリア、アレッポの苛烈を極める悲惨な日常をメディア・アクティビストたちの活動を通じて切り取るPOV(Point of View、主観ショット)型のドキュメンタリー。シリアの反体制抵抗運動の一端を担う組織的な活動として台頭した彼らが持っているのは、武器ではなくカメラと情熱だけ。画面に映し出される映像は劇映画の様な編集を施していない、メディア・アクティビストたちと行動を共にした取材班による撮影ならではの映像です。画面に映し出される映像は悲惨な現実そのものですが、一方でそこで暮らすシリアの人々の日常、その思いも伝えてくれる作品です。
監督:フィリッポ・ビアジャンティ、ルーベン・ラガットッラ
イタリア/2014年/52分/ドキュメンタリー
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/young_syrian_lenses/
日本初上映
『アントノフのビート』
歌と踊り、そして明るい笑い声。『アントノフのビート』は不安定なスーダンで人々が音楽を通してつながる様子を伝えるドキュメンタリーです。空爆から逃れるため、青ナイル州とヌバ山脈では多くの人が避難生活を送っています。題名のアントノフとは、ロシア製の貨物飛行機のこと。アントノフが一般住民に対して無差別攻撃を行う中、音楽は絶え間なく続きます。音楽は単に苦難を乗り越える為だけのものではなく、コミュニティの共通の記憶を保存する重要な役割を担っているのです。躍動するリズムと情熱、苦難の中でも笑いを絶やさない人々の姿をぜひご覧ください。
監督:ハジュージュ・クカ
スーダン、南アフリカ/2014年/68分/ドキュメンタリー
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/antonov/
日本初上映
『ボクシング・フォー・フリーダム』
埃っぽいボクシングジムで熱心にトレーニングをする1人の女子ボクサー。彼女の名前はサダフ・ラヒミ。アフガニスタン初で唯一の女子ボクシングチームに所属する最も優秀なボクサーです。オリンピックの出場選手として選ばれたサダフは練習漬けの毎日を送っていました。しかし彼女に向けられたのは、社会の冷たい目でした。伝統的に女性の社会的地位が低いアフガニスタンでは女子ボクシングなんて論外。暴言、鳴り続ける脅迫電話。身内にも非難され、一人で外出するのも難しくなってしまいました。それでも「自分の人生を制限されたくない」そう強く願ったサダフは、アフガニスタンの女性の自由を勝ち取るため、今日もリングに立ちます。
監督:ホアン・アントニオ・モレノ・アマドール、シルビア・ベネガス・ベネガス
スペイン、アフガニスタン/2015年/74分/ドキュメンタリー
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http://unhcr.refugeefilm.org/2015/film_info_boxing/
日本初上映
『忌まわしき罪』
世界には同性愛者であることを理由に、迫害を受けたり命の危険にさらされる人がいます。レズビアンの母親シモーヌはその1人。路上で射殺されそうになった経験を持つシモーヌは、祖国ジャマイカで娘と一緒にひっそり隠れて生きるか、単身で外国へ逃がれるかの決断を迫られます。ゲイの活動家モーリスは、同性愛者であることを理由に迫害を受けてカナダへと逃れますが、その後再び祖国での活動を再開する決断をします。自分らしく生きるために犠牲を払わなければいけない。それでも愛する人のために必死でたたかう2人の姿からあなたは何を感じますか?
監督:マイカ・フィンク
2013年/65分/ドキュメンタリー
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/the_abominable_crime/
日本初上映
『三つの窓と首吊り』
作品の舞台は、紛争終結から一年経ったコソボの小さな村。人々はようやく平穏な日常を取り戻しかけていました。ある日、一人の女性教師が胸に秘めていた辛い出来事をジャーナリストに語ります。それは自身を含む4人の女性が紛争中にレイプされたという内容でした。この告白は父権的な小さな村に大きな衝撃を与えます。村人に沈黙を強いる村長。真実を恐れる夫たち。村の恥をさらしたとして周囲に責められる女性たちはどんな決断をするのか……。紛争を生き抜いても、紛争下に受けた性暴力がその後の被害者の人生を大きく変えてしまうという1つの現実をどうか知ってください。
監督:イサ・チョシャ
コソボ、ドイツ/2014年/94分/ドラマ
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http://unhcr.refugeefilm.org/2015/three_windows_and_a_hanging/
日本初上映
『ホープ』
故郷を後にし、サハラ砂漠をさまようカメルーン人の青年レオナール。目指すはヨーロッパ。水も食糧も希望も底をつくのは時間の問題、生きるか死ぬかの命がけの旅路です。そんな中、レオナールは警察に暴行され砂漠に置き去りにされたナイジェリア人の女性ホープを救い出します。それはレオナールの運命が変わった瞬間でした。2人は砂漠の町に辿り着きますが、そこは暴力で支配されたゲットーの世界。必死にゲットーから抜け出し、再びヨーロッパを目指し旅する頃には互いがなくてはならない大切な存在になっていることに気がつきます。目的地まであと一歩のところまで辿りついた2人を待ち受ける最後の試練とは……。
監督:ボリス・ ロジュキーヌ
フランス/2014年/91分/ドラマ
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http://unhcr.refugeefilm.org/2015/film_info_hope/
日本初上映
『目を閉じれば、いつもそこに~故郷(ふるさと)・私が愛したシリア~』
シリアと聞いて何を思い浮かべますか?紛争により国外へ逃れたシリア難民は400万人以上、国内で避難を余儀なくされた人は760万人にのぼります。空爆、逃げ惑う人々、瓦礫と化した街……それが私たちが報道で目にするシリア。この作品に登場するシリアの少女は、溢れんばかりの笑顔でふるさとの思い出を語ります。日本で生活するシリア人の男性は紛争で家族は引き裂かれました。「シリアは昔は平和だったけど、平和が何か失うまで分からなかった」「日本がずっと平和であってほしいよ」穏やかな顔でそう語る彼の言葉が胸に突き刺さります。
監督:藤井沙織
日本/2015年/57分/ドキュメンタリー
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/film_info_syria/
日本初上映
『トランキランディア-穏やかなる土地』
タイトルのトランキランディアとはコロンビア北部にある土地の名前。この地域では農民たちがそれぞれの土地に夢と希望を託した名をつけ、地に根をおろして生活を営んで来ました。しかしコロンビア革命軍(FARC)と政府軍の抗争がはじまり、この地域の農民は攻撃を受け、土地は略奪され、愛する家族は理由も無く殺されました。10年以上続く暴力に農民は疲弊し、行き場をなくした彼らは慣れない町での生活を強いられ、愛する故郷へ戻る日を待ちわびています。まるで存在しないかのように世間から見捨てられた土地、トランキランディア。いつか帰る日を夢見て、その声は今、静かに、そして穏やかに真実を語ります―。
監督:ジョエル・スタングル
コロンビア/2014年/56分/ドキュメンタリー
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/film_info_tranqui/
『人の望みの喜びよ』
大地震で両親を亡くした春奈と弟の翔太の心の動きを追ったドラマ。2人は心優しい親戚に引き取られ、新しい生活を始めます。なかなか学校に馴染めない春奈と、親が生きていると信じている翔太。二人の不安定な情緒は親戚一家にも伝わり、次第に不協和音が生まれます。そんな中、翔太のまっすぐな気持ちが少しずつ春奈の心を動かします。これは「ある震災」を経験し、住む場所を失った幼い姉弟の物語です。その「場所」や「時代」は特定されていません。両親、住む家、日常を奪われた被災者にとって、「何があったか」よりも「これからどうするのか」が大事だからです。二人のその後を見守るように優しく静かに描いた作品です。
監督:杉田真一
日本/2014年/85分/ドラマ
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/film_info_joy_of_man/
『グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~』
1983年スーダンで内戦が始まり、数万人の子ども達が両親と家を失いました。この映画はロストボーイズと呼ばれた南部スーダン出身の3人の経験を実話をもとに描いた作品です。難民キャンプで育った3人が第三国定住で米国へ。3人を迎えたのは職業紹介所に勤めるキャリー(リース・ウィザースプーン)。いつもと同じ手順で仕事を紹介して、終わるはずだったのですが、何もわからない3人にキャリーは四苦八苦。でも、教わったばかりのジョークを何度も繰り返しては笑う純粋な3人が気がつけばほっとけなくなります。辛い記憶とともに生きる3人の信念、誇り、純粋さを感じて下さい。
監督:フィリップ・ファラルドー
アメリカ/2014年/110分/ドラマ
上映詳細についてはこちら
http://unhcr.refugeefilm.org/2015/film_info_good_lie/
第10回UNHCR難民映画祭
2015年10月2日(金)、3日(土)、10日(土)、
12日(月)、24日(土)、25日(日)、
31日(土)、11月1日(日)
会場:【東京】スパイラルホール、イタリア文化会館
【北海道 札幌】札幌市時計台ホール、札幌プラザ2・5
【宮城県 仙台】せんだいメディアテーク
主催:国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所
パートナー:特定非営利活動法人 国連UNHCR協会、独立行政法人 国際協力機構(JICA)
公式サイト:http://unhcr.refugeefilm.org
<入場について>
*入場料はいただいておりませんが、各会場にてご寄付を募っております。
*ご入場は先着順となります。(予約不可)
*各回1時間前より会場にて入場整理券の配布を開始いたします。
*各回20分前の開場となります。(前のプログラムが終了していない場合を除く)
*各回完全入替制です。
▼映画『ヤング・シリアン・レンズ』予告編
▼映画『アントノフのビート』予告編
▼映画『ボクシング・フォー・フリーダム』予告編
▼映画『忌まわしき罪』予告編
▼映画『三つの窓と首吊り』予告編
▼映画『ホープ』予告編
▼映画『トランキランディア-穏やかなる土地』予告編
▼映画『人の望みの喜びよ』予告編
▼映画『グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~』予告編
▼第10回UNHCR難民映画祭予告トレイラー