骰子の眼

cinema

山形県 山形市

2015-06-27 20:18


山形国際ドキュメンタリー映画祭2015、コンペティション15作品が発表

チリの巨匠グスマン監督『光のノスタルジア』の連作『真珠のボタン』上映決定
山形国際ドキュメンタリー映画祭2015、コンペティション15作品が発表
▲パトリシオ・グスマン監督『真珠のボタン』より

2年に1度開催され、今年は10月8日から15日に行われる、ドキュメンタリー映画に特化した映画祭「山形国際ドキュメンタリー映画祭2015」のインターナショナル・コンペティション作品15本が発表された。

今年のコンペティションには、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、アジア、中東など世界の各地域から多彩な作品が入選。日本からは『標的の村』の三上智恵監督の新作『戦場ぬ止み』(東風の配給によりポレポレ東中野にて先行公開中、7月18日より本公開)が選ばれている。その三上監督をはじめ、チリのドキュメンタリーの巨匠パトリシオ・グスマン監督の『真珠のボタン』(アップリンク配給により、10月10日より岩波ホールにて公開)、キム・ロンジノット監督、マリア・アウグスタ・ラモス監督、ペドロ・コスタ監督、ヘルマン・クラル監督、杜海濱(ドゥ・ハイビン)監督と、過去に今映画祭で上映し受賞経験のある監督の新作が選出されている。

テーマについては、『真珠のボタン』『祖国ーイラク零年』など、政府・独裁政権による抑圧、戦争、貧困/経済格差、人種差別と、世界各地で起きている紛争や圧倒的な暴力の下で命をつなぐ人々の姿を真摯にとらえた作品が入選しているほか、『ドリームキャッチャー』『アワ・ラスト・タンゴ(原題)』といった「女性の生きる道」をテーマとした作品が入選しているのも特徴となっている。




【山形国際ドキュメンタリー映画祭2015
インターナショナル・コンペティション 15作品ラインアップ】


『いつもそこにあるもの』

AlwaysandAgain

ナポリのサニタ地区、四世代からなる女ばかりの一家が暮らす部屋。窓と壁と簡素な家具しかない狭い室内で大半の時間を過ごす彼女たちは、食事の準備や床掃除といった家庭内の雑事をこなしながら、絶えず身のまわりのことがらを喋り続ける。家事労働への不満や娘たちの人間関係への不安を語るきわめて感情豊かな女性たちの声が、その場の外部に広がる世界を一切見せなくとも魅力あるひとつのドラマを形成する。平穏な日常そのものに向かい合うためのラディカルな方法の探求がここにある。

原題:Always and Again
フランス/2015年/79分
監督:クロエ・アンゲノー、ガスパル・スリタ


『ドリームキャッチャー』

Dreamcacher

『イラン式離婚狂想曲』(YIDFF '99)などで強く生きる女性を撮り続けてきたキム・ロンジノットが新たな被写体に選んだのは、シカゴで性暴力の被害女性たちを支援する団体「ドリームキャッチャー・ファウンデーション」のブレンダ。問題を抱えた娼婦や性暴力の記憶に悩む少女らの話に耳を傾け、献身的に活動するブレンダ自身、娼婦であった過去に薬物中毒にかかり、性的暴行を受けた経験があった。弱者としての女性に冷淡なアメリカ社会の現実に立ち向かいながら、ブレンダの慈悲と熱意が彼女たちの傷を癒やし、明日を生きる力を与えている。

原題:Dreamcatcher
イギリス/2015年/98分
監督:キム・ロンジノット


『6月の取引』

FutureJune

2014年6月、サッカー・ワールドカップ開催を間近に控えたサンパウロ。この一大イベントを前に、政府の矛盾に満ちた経済・福祉政策や公共投資のあり方に不満を抱く市民によりデモやストライキが頻発する。グローバル市場経済とその歪み、底辺の地域社会が直面する理不尽なその影響。この町で働き、愛する家族や恋人と日々の暮らしを営む4人の男たちの姿を通して、その相克を立体的かつ雄弁に描き出す。変わりゆくブラジル社会の実相を、揺るぎない目と卓越した映像感覚で記録し続ける、『私の言いたいことは…』(YIDFF '95 アジア百花繚乱)、『ジャスティス』(YIDFF 2005 インターナショナル・コンペティション)のマリア・アウグスタ・ラモス監督最新作。

原題:Future June
ブラジル/2015年/95分
監督:マリア・アウグスタ・ラモス


『河北台北』

kahokutaipei

1927年に中国河北省で生まれ、幼い時に父親を殺された後は故郷の村を逃れて各地を転々とした李忠孝。国共内戦では国民党に参加して激戦をくぐり抜け、敗戦後は共産党に転身し、援軍として送り込まれた朝鮮戦争では捕虜となる。その後台湾へ渡った後は一度も故郷に戻っていない。波乱の人生を生き抜いた李の過去を、娘である監督が丹念に聴き取り、その記憶を頼りに父の足跡を辿る。口が悪く傍若無人だがどこか憎めない、一人の男の回想記。

原題:Hebei Taipei
台湾/2015年/88分
監督:李念修(リ・ニェンシウ)


『祖国 ― イラク零年』

Homeland

2003年のイラク・バグダッド。イラク戦争前夜のある大家族の日常は、来る戦争の予感を漂わせながらもおだやかに過ぎて行く。そして有志連合軍による侵攻後、爆撃の跡が生々しく残る街に疎開先から戻った家族を待ち受けていたのは、常に死を意識しつつ生きざるをえない毎日だった。戦争は劇的に起こるのではなく日常の延長にいつのまにか始まり、親しい人の死と喪失はあっけなくやってくるということを、私たちはこの2年にわたる家族の記録を通してまざまざと知ることになるだろう。

原題:Homeland(Iraq Year Zero)
イラク、フランス/2015年/334分
監督:アッバース・ファーディル


『ホース・マネー』

HorseMoney

『コロッサル・ユース』に続き、リスボン郊外のスラム街フォンタイーニャス地区に暮らした老移民者ヴェントゥーラの記憶とその苦しみを、清冽な眼差しのもとに描き出すペドロ・コスタ最新作。カーボ・ヴェルデから19歳で出稼ぎに出た彼が経験した1974年カーネーション革命とその後の曲折。廃虚と化した工場、監獄のごとき病院。過去と現在、そして未来へと亡霊的な時空間を彷徨い歩くヴェントゥーラの魂の軌跡が、高純度の人間愛と圧倒的な映画表現の中に立ち現れる。事実とフィクションの狭間で「映画」という装置がいかにして人間の「生」を解放するのか。映画表現の極北を見つめつづける孤高の作家による到達点。

原題:Horse Money
ポルトガル/2014/104分
監督:ペドロ・コスタ


『ずっとここにいる』

Istillbeing

ペルーを形成する3つの地域――高地のアヤクーチョ、アマゾン川流域のアマソナス、そしてリマが位置する海岸部をめぐり、そこに住む人々のさまざまなことばと歌声に耳を傾けた、音楽風土記。未だ紹介されたことのなかったペルーの辺境に旅して、人々の多種多様さを知り、彼らが奏でる豊饒な音楽に惹きこまれる。切り取られる風景の圧倒的な美しさと並行して、時代に翻弄される庶民の姿が浮き彫りになる構成だ。監督ハビエル・コルクエラは本作で多彩な人種が文化を継承する祖国ペルーのアイデンティティを称えている。

原題:I Still Being(Kachkaniraqmi)
ペルー、スペイン/2013/120分
監督:ハビエル・コルクエラ


『アワ・ラスト・タンゴ(原題)』

Ourlasttango

アルゼンチン・タンゴの魅力を世界に知らしめたダンスペア、マリア・ニエベス・レゴとホアン・カルロス・コペスの軌跡をたどったドキュメンタリー。現在のふたりの証言から、彼らの歩んだ愛と葛藤の歴史をタンゴ・ダンスで再現する。マリアと、彼女を演じる若きダンサーたちとの会話を挿入しつつ、官能的にして情感に満ちたタンゴ・ダンスの魅力が映像に焼き付けられる。1999年に『不在の心象』でYIDFF大賞に輝いたヘルマン・クラルは記録映像も折り込みながら、卓抜した映像感性を披露する。

原題:Our Last Tango
ドイツ、アルゼンチン/2015年/85分
監督:ヘルマン・クラル


『パラグアイ、記憶の断片』

ParaguayRemembered

あるひとりの記録映画作家が40年ぶりにパラグアイを訪れた。旅の途中、忘れていた記憶が断片的によみがえる。彼が映画作家となる道を見いだしたパラグアイの記憶は、アルゼンチンで出会った女性との恋愛の記憶へとつながっていく。さらに、個人的な記憶は独裁政権下の抑圧の記憶と絡み合い、過去は現在の風景と鏡のように反射し合う。不完全な記憶について、モノクロームを基調とした映像と内省的なナレーションで綴った私的映像詩。

原題:Paraguay Remembered
フランス/2015年/89分
監督:ドミニク・デュボスク


『真珠のボタン』

映画『真珠のボタン』より
映画『真珠のボタン』より

チリ南部に位置する西パタゴニアは無数の島や岩礁、フィヨルドが存在する世界最大の群島と海洋線が広がり、かつて水と星を生命の象徴として崇めた先住民が住んでいた。そこで発見されたボタンが植民者によるこの地に住む先住民大量虐殺とピノチェト独裁政権下で海に投げられた犠牲者たちの歴史を繋ぐ。『光のノスタルジア』(YIDFF 2011 山形市長賞)から連なる本作も、海洋と天空に流れる悠久の時間に対峙するような圧倒的な映像美とグスマン監督のたおやかな語り口が、水に沈む記憶と数々の声を想起させる。

原題:The Pearl Button
フランス、チリ、スペイン/2015年/82分
監督:パトリシオ・グスマン
配給:アップリンク


『銀の水 ― シリア・セルフポートレート』

SilveredWater

亡命先のフランスで、故郷シリアの人々の置かれた凄惨な実状に、疎外感と無力感を抱きながらも苦悩し続けていた監督。苛烈を極める紛争の最前線で繰り返される殺戮の様子は、日々YouTubeにアップされ、ネット上は殺される者、殺す者双方の記録で溢れかえり、彼はただただそれを繋ぎ合わせることしかできない。そんな彼にSNSを通じて知り合ったホムス在住のクルド人女性監督は問いかける。「もしあなたのカメラがここにあったら、何を撮る?」――その瞬間から二人の「映画」が始まった。女性監督は彼の耳目となり、カメラを廻す。「映画」に約束された二人の出会いの物語。

原題:Silvered Water, Syria Self-portrait
フランス、シリア/2014/92分
監督:オサーマ・モハンメド、ウィアム・シマヴ・ベディルサン


『トトと二人の姉』

TotoandHissisters

ルーマニアで暮らす10歳の少年トトにとっては1日を無事に過ごすことさえ奇跡だ。なぜなら父は不在で母は刑務所に収監中。17歳の長女は麻薬絡みで警察に捕まってしまった。本来は安全な場所のはずの自宅も保護者不在で不良たちの巣窟と化した。心の平静を保つことさえ困難なこの逆境から、彼は15歳の次女アナとともに未来を拓こうとする。いまも世界の何処かにいる大人になれない大人に人生を翻弄される少年少女の悲しい現実を突きつけるとともに、穢れなき子供の魂を見いだす一方で、ドキュメンタリストのモラルについても波紋を呼ぶであろう一作。

原題:Toto and His Sisters
ルーマニア/2014/93分
監督:アレクサンダー・ナナウ


『女たち、彼女たち』

UswomenThemwomen

年齢も様々な一族の女性9人が集う家。先祖から彼女たちの身体へ脈々と引き継がれてきたなにかが、古い館の中に満ちている。年老いた者はゆっくりと死を迎え、若い肉体は新しい命を宿す。お互いがお互いの分身であるかのように生命が受け渡されていくさまを、フリア・ペッシェは繊細かつ大胆に描ききる。そこでは、男性の姿は遠くはかなげで、女性たちの世界だけが神話のように立ち顕れてくるのだ。

原題:Us Women . Them Women
アルゼンチン/2015年/65分
監督:フリア・ペッシェ


『戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)み』

映画『戦場ぬ止み』より cDOCUMENTARY JAPAN/東風/三上智恵

日本にあるアメリカ軍基地の74%が密集する沖縄。辺野古の海を埋め立て最新のアメリカ軍基地が作られようとしている中、保革を越えた島ぐるみ闘争で新基地建設反対を掲げた翁長新知事が2014年11月に誕生する。新基地建設の抗議運動に参加する沖縄戦体験者の85歳の文子おばあは、工事トラックへ身を投げ出す。監督は文子おばあの胸中に耳を傾け、基地と折り合って生きざるを得なかった沖縄の人々の複雑な思いと、大切に育まれた豊かな文化と暮らし、運動の中で絶えることのない唄やユーモアにも目を向け、“いくさ”に終止符を打ちたいと願う切なる思いを、世界に問う。

原題:We Shall Overcome
日本/2015年/129分
監督:三上智恵
配給:東風


『青年★趙(チャオ)』

AYoungPatriot

シャオ・チャオは山西省の小村に暮らす高校生。日本の尖閣諸島“占領”に怒り、人民服に身を包み国旗を掲げ愛国を叫んで人気者になる。一方、大学受験に失敗、バイトではいったホテルで、日本人旅行者の礼儀正しさに思わず感心。大学では、共産党学生連合広報部で活躍し、少数民族の子供に北京官話を教えるボランティアにも参加するが、故郷の祖父母の家が再開発のために破壊されたり、地元有力者の腐敗を目の当たりにしたりするうち、愛国の思いにも微妙な変化が生じる。変貌する現代中国の姿を、若き愛国青年の目を通して描く。

原題:A Young Patriot
中国、フランス、アメリカ/2015年/106分
監督:杜海濱(ドゥ・ハイビン)




山形国際ドキュメンタリー映画祭2015

山形国際ドキュメンタリー映画祭2015
2015年10月8日(木)~10月15日(木)

会場:山形市中央公民館(アズ七日町)、山形市民会館、フォーラム山形、山形美術館ほか
公式サイト:http://www.yidff.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/yidff_8989




パトリシオ・グスマン監督の『真珠のボタン』とともに、グスマン監督の前作で、2011年の今映画祭で山形市長賞(最優秀賞)を受賞した『光のノスタルジア』も10月10日(土)より岩波ホールにて同時公開となる。

『真珠のボタン』は2015年ベルリン国際映画祭で銀熊賞脚本賞を受賞、『光のノスタルジア』とともに爛熟した文明社会に驚異の映像美で問う一大連作叙事詩だ。


『真珠のボタン』
2015年10月10日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開

映画『真珠のボタン』より

全長4,600キロ以上に及ぶチリの長い海岸線。その海の起源はビッグバンのはるか昔まで遡る。そして海は人類の歴史をも記憶している。チリ、西パタゴニアの海底でボタンが発見された。──そのボタンは政治犯として殺された人々や、祖国と自由を奪われたパタゴニアの先住民の声を我々に伝える。火山や山脈、氷河など、チリの超自然的ともいえる絶景の中で流されてきた多くの血、その歴史を、海の底のボタンがつまびらかにしていく。

監督・脚本:パトリシオ・グスマン
プロデューサー:レナート・サッチス
撮影:カテル・ジアン
編集:エマニエル・ジョリー
製作:アタカマ・プロダクションズ
配給・宣伝:アップリンク
2014年/フランス、チリ、スペイン/1:1.85/82分

『光のノスタルジア』
2015年10月10日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開

映画『光のノスタルジア』より

チリ・アタカマ砂漠。標高が高く空気も乾燥しているため天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まる一方、独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもある。生命の起源を求めて天文学者たちが遠い銀河を探索するかたわらで、行方不明になった肉親の遺骨を捜して、砂漠を掘り返す女性たち……永遠とも思われる天文学の時間と、独裁政権下で愛する者を失った遺族たちの止まってしまった時間。天の時間と地の時間が交差する。全長4,600キロ以上に及ぶチリの長い海岸線。その海の起源はビッグバンのはるか昔まで遡る。そして海は人類の歴史をも記憶している。チリ、西パタゴニアの海底でボタンが発見された。--そのボタンは政治犯として殺された人々や、祖国と自由を奪われたパタゴニアの先住民の声を我々に伝える。火山や山脈、氷河など、チリの超自然的ともいえる絶景の中で流されてきた多くの血、その歴史を、海の底のボタンがつまびらかにしていく。

監督・脚本:パトリシオ・グスマン
プロデューサー:レナート・サッチス
撮影:カテル・ジアン
天文写真:ステファン・ガイザード
製作:アタカマ・プロダクションズ
配給・宣伝:アップリンク
2010年/フランス、ドイツ、チリ/1:1.85/90分


▼映画『真珠のボタン』抜粋映像

▼映画『光のノスタルジア』海外版予告編

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