骰子の眼

cinema

2014-10-09 11:20


“真実”を全知の視点で描く『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』

10/12(日)放送開始!監督キャリー・フクナガと主演マシュー・マコノヒーへのインタビュー
“真実”を全知の視点で描く『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』
『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』より主演のウディ・ハレルソン(左)とマシュー・マコノヒー(右)©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

テレビの多チャンネル化やインターネットのストリーミング配信といった販路拡大により、潤沢な製作費が調達できるようになったことで、映画を凌ぐ大作ドラマがアメリカで次々と生まれている。最大でも数時間しかない映画のフォーマットに限界を感じていたハリウッドの異才たちが、新しい創作の場を見出している現状だ。

こうした潮流を背景に、昨年エミー賞を席巻したデヴィッド・フィンチャー製作総指揮&ケビン・スペイシー主演『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(フィンチャーはシーズン1の第1~2話を監督)や、今年8月に全米でシーズン1の放送が始まったスティーヴン・ソダーバーグの『The Knick』(クライヴ・オーエン主演。全10話をソダーバーグが監督&撮影)など、大物監督たちによるテレビドラマが話題を呼ぶ中、新たな注目作が10月に日本初上陸する。キャリー・ジョージ・フクナガ(『闇の列車、光の旅』『ジェーン・エア』)が監督を務め、マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンがダブル主演する犯罪サスペンスドラマ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』だ。

物語は、17年間というタイムスパンの中で、連続殺人事件の真相に迫る二人の刑事を軸に、貧困や差別、宗教、政治など、平凡な田舎町に隠された日常の深い闇を描く重厚なミステリーである。海外ドラマには珍しく1人のディレクターと脚本家が8話すべてを担当するという、まさに“8時間に及ぶ長編映画”とも言える作品になっている。以下にフクナガ監督と主演マコノヒーへのインタビューをお届けする。


キャリー・フクナガ監督インタビュー
「映画の制限から開放された作品を撮りたかった」

True Detective
『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』撮影中のキャリー・フクナガ監督 ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

──本作で最初に惹かれた点は何ですか?

長い年月が描かれた作品を、映画俳優らと共に作り上げていく点が魅力的だった。ちょうどそのころ『ジェーン・エア』を撮り終えたばかりだったが、膨大な純文学小説をたった110分の映画に収めなければならず、登場人物それぞれのキャラクターを描くのにあともう1時間くれれば、とも思ったほど。そのせいか、長期的なフォーマットで、ストーリーを存分に描き、映画においての制限から開放された作品を撮りたいという思いあった。最初に脚本を読んだのは2011年の春だった。

──本作の全話を監督するにあたって、特に気をつけた点はありましたか?

スタミナが必要だということ。このプロジェクトに参加して、なぜテレビドラマを複数の監督が撮る必要があるのかがわかった。プリプロダクションからポストプロダクションまで、500ページ以上の脚本と向き合わなければならなかった。撮影する日もただ単に撮影をするのではなく、常に次のエピソードについて考えていた。

──2人の主演男優についての構想は、撮影中に変化がありましたか?

オーソドックスな刑事ドラマではなく、(ハンフリー・)ボガートの時代、フィルム・ノワールを意識した。単なる刑事ものでもドラマでもない。わかりきったものをつくるのではなく、予想を裏切り続けることが大事だった。ウディは僕の想像よりもはるかにハートというキャラクターを理解し演じてくれた。シリーズ全体のユーモアも高まったよ。マシューが演じたコールは僕の想像とは違っていたが、彼なりにキャラクターを捉えていたので彼の演技に乗ることにしたんだ。コールは様々な事を冷静に分析するが、実際に決断をしたり家族のために行動に移すのはハートの方だ。そう言った意味では2人のキャラクターはバランスがよかった。

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』よりマシュー・マコノヒー(左)とウディ・ハレルソン(右) ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

──主演男優2人に対して、監督としてどの様なアドバイスをしましたか?

ウディとマシューが様々なアイデアを持ち込んでくれたので、僕の仕事のほとんどは物語のトーンに一貫性を持たせるだけだった。全ての人たちがキャスティングされ、撮影に必要なものが全て整った時、僕はただの指揮者になる。他の皆が重労働をこなしてくれる。

──シーンによっては何テイクも撮影しましたか?

1テイクで済むこともあれば、8テイクも撮らなければならないシーンもあった。実際に挑戦してみるまでは何が大きな課題になるかわからない。時に脚本では一番撮影が難しそうなシーンが一番簡単だったりもする。上手くいっていないシーンは皆がなんとなくわかる。ずれているな、と感じたら原点立ち返ってそのシーンを読み解いてみる。撮影を進めていく中で調整も必要だったし、マシューとウディの協力は必要不可欠だった。そこにエゴはなく、皆仕事に真摯に取り組んでいた。

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』より ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

──あなたは撮影技術に関する豊富な経験があります。今回監督をする上で、それらを活用しましたか?

今回の場合は一日に撮影する脚本のページ数があまりにも膨大だったので、集約させることが難しかった。僕は自然な形でこの作品を撮りたかったので、カメラを使って感情や焦点を曲げることはしないよう意識した。僕は全知の視点がこの作品のテーマ“TRUTH”に一番適していると思ったので、ほとんどのアングルが主人公たちや物語の世界を解釈的ではなく観察的にとらえているようにした。カメラの位置を安定させることで、役者やストーリーそのものに重きを与えるようにした。こういった撮影方法は手持ちカメラでドキュメンタリー風に撮るより難しく時間もかかるけれども、あまり労力がかかっていないように見せたかった。

──設定や背景はストーリーにとってどのくらい重要でしたか?

ルイジアナ州は全体を構成する上でなくてはならないものだった。僕は以前に2度ルイジアナで撮影をしたことがあり、産業汚染と熱帯地域独特の土地柄に親しみがあった。この世界滅亡後のような風景はこの物語の完璧な背景になってくれると思った。僕は人々が生まれ育った土地が影響を与えていると思っている。もしスコットランドに行ったなら、何故スコットランド人が無骨で乱闘好きな気質を持っているのかわかると思う。ルイジアナでもそれは同じで、人々が日々泥と湿気と気温とやりくりしているのを見て、大きな影響を与えていると思った。それに石油化学産業と環境汚染が加わる。この地形が基盤になっていることでこの作品のようなストーリーが生まれる理由がわかるだろう。

──この撮影を通して将来のプロジェクトに活かせそうなことはありましたか?

規律と忍耐。撮影は100日ほどかかり、関わった人全てにとって骨の折れる仕事となった。

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』撮影中の脚本家ニック・ピゾラット(左)とキャリー・フクナガ監督(右) ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.



主演マシュー・マコノヒーへのインタビュー
「今までやった中で一番楽しく、同時に難しい役だった」

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』より主役の刑事を演じるマシュー・マコノヒー ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

──あなたの演じるラスト・コールというキャラクターの第一印象はなんですか?

それは特になかった。コールは孤立した人間で、僕はそれにものすごく自由を感じた。最近さまざまなアンチヒーローを演じる機会があったが、彼もまたアンチヒーローだった。アンチヒーローの面白いところは自分たちで独自のルールを作り、他の誰がどう思おうと知ったこっちゃいないところだ。ヒーローはたくさんの制約があるが、アンチヒーローは制約に縛られることもない。

 コールの思考や行動力、そして他の誰より物事を深く考えていくところが好きだ。自分が正しかった時、彼は「な、言っただろ」とは言わず、もう違うことを考えている。仕事のことばかりだ。コールは愛想が全くなく、それが周囲をいらつかせることもある。「お前、もう少し人間の心を持てないのか?」って思われているんだろう。

 コールは、謎めいていて、孤独だ。多少幽霊のような印象もある。彼は、調査と人々から情報を引きだすのに長けている。だからこそ、彼が仕事をする上では、そういう人間にならなければならない。

 だが彼は暗い影を持ち、自分自身の中の邪悪な感情にとらわれている。彼が一言も発せずそこに立っているだけでも、心の奥底に夜眠れないような男がいることが見える。彼の脳みそは常に動いている。彼はとても頭のいいやつだが、心情や感情に関わることはない。

 でもそれは彼がロボットだという意味ではない。コールには修道僧のような一面もあり、まるで隠遁者のようだが、昔からそんなやつだったわけではない。その気になればいつでもレールから転げ落ちてしまえる。彼は自分自身をしっかり保とうとしていて、調査を続けることでそれをなんとかこなしている。

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』より ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

──あなたは以前もウディ・ハレルソンと共演したことがあります。その体験は本作での役柄を演じるにあたって何か影響はありましたか?

今回で3度目の共演だし、僕たちは元々コメディ映画に数多く出演してきたこともあって、お互いのエネルギーを上手く利用してきた。だが今回は全く正反対の役を演じることもあって、共通点が一つもないところが普段と違う課題だった。コールは自閉的な人間だし、マーティンは言葉数の多い社交的な人間だ。ウディと仕事をしていると安心するけど、彼と同じテンションにならないよう気を付けたよ。

──ラストがわざと挑発的な世間話をして、マーティンをいらつかせようとしている姿は見ていて楽しいです。

それが彼らの関係の一部だ。あれはコールなりの愛情表現で、一貫してドライな言葉でマーティンをけしかけている。それが実際に彼らの絆を深めているんだ。マーティンを苦しめることで、ラスト自身も苦しんでいる。たぶんラストは悪趣味な楽しみを見出している。でもこれがこんなに面白いシーンになるなんて思ってもいなかった。

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』より ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.

──本作は、1995年にハートとコールが初めて共に捜査を始め、そこから2012年の再審開始にあたって個別にインタビューを受けるシーンまで長い年月を描きます。これらのシーンは年代別に別々に撮影されたのでしょうか?

いや、90年代のシーンを撮影した後に2012年のコールがボロボロになっているシーンを撮ったりすることもあった。特殊メイク、歯のメイク、カツラに3時間半もの時間をかけてトレーラーでメイクを受けていた。そしてまた次の日には1995年のシーンを撮りに戻るんだ。

 コールを演じる上での突破口は、彼がどういった人間なのかということを細かく断片的に解析した時に見えてきた。1995年、彼は過去を持っていない男だった、誰も彼が誰なのかを知らなかった。後に彼がどんな目にあってきたか知ることができるが、その当時、彼はその事実にふたをして仕事に取り組んでいた。2012年で彼は全ての真実をさらけ出しているんだ。

 コールはボロボロのおっさんだが、それでもその場にいる人々の中では一番頭がいい。その日は台本27ページ分の取り調べのシーンを一日で撮っていた。今までそんな経験はなかった。台詞の量がとにかく多くて、今までやった中で一番楽しく、同時に難しいことでもあった。その日はとにかく疲れていたのを覚えている。体中が疲れきっていて、声はしわがれて、目は真っ赤だった。登るには大きな山だったが、それでもとても楽しかった。

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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』より ©2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. ©STAR CHANNEL,INC. All rights reserved.


キャリー・フクナガ Cary Fukunaga

1977年生まれ。日本人の祖父を持つ日系アメリカ人。カリフォルニア大学サンタクルーズ校卒業。短編『Victoria para chino』(2004)で注目を浴び、長編デビュー作『闇の列車、光の旅』(2009)で多数の賞を受賞。2010年、シャーロット・ブロンテの長編小説『ジェーン・エア』をミア・ワシコウスカ主演で監督。



マシュー・マコノヒー Matthew McConaughey

1969年生まれ。テキサス大学オースティン校を卒業後、リチャード・リンクレーター監督の『バッドチューニング』(1993)でデビュー。ジャン=マルク・ヴァレ監督の『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)でHIVに感染した主人公を演じアカデミー賞主演男優賞を受賞した。




『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』
スターチャンネルにて
10/12(日)より日本初独占放送開始!

1995年に起きた猟奇殺人事件から2012年の再審開始までの17年間という長い年月のなかで、二人の刑事、ラスト・コールとマーティン・ハートが、犯人逮捕のため衝突し合う。彼らの行く手に立ちはだかる人間と社会の深く暗い闇とは…。2014年1月にHBOで放送が開始され、その直後から早くも第66回エミー賞でマシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンがドラマシリーズ部門主演男優賞に揃ってノミネート。第4回批評家協会テレビ賞ではマシュー・マコノヒーがドラマシリーズ部門男優賞を獲得した。

製作総指揮:スティーヴ・ゴリン
 (『エターナル・サンシャイン』『バベル』)
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
 (『闇の列車、光の旅』『ジェーン・エア』)
脚本:ニック・ピゾラット
 (海外ドラマ『THE KILLING/キリング』)

【公式サイト】www.star-ch.jp/true-detective

10/11(土)第1話を先行無料放送
10/12(日)第1話初回無料放送

10/12(日)より毎週日曜日 夜9:00~[吹替版]/深夜[字幕版]
再放送:[吹替版]毎週月曜日 午後2:00~/毎週土曜日 午前
[字幕版]毎週火曜日 夜11:00頃/毎週木曜日 昼12:30~

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