骰子の眼

dance

2014-06-07 15:00


フィリップ・ドゥクフレ最新作『パノラマ』はダンスが奏でる協奏曲!

ドゥクフレの“ベスト盤”ともいえる8年ぶりの来日ツアー公演が6/13(金)スタート
フィリップ・ドゥクフレ最新作『パノラマ』はダンスが奏でる協奏曲!
©Christian Berthelot

ダンス、アクロバット、トリッキーな影絵などが混在する摩訶不思議な饗宴。ファンタジーを紡ぐ舞台で観客を虜にしてきたフィリップ・ドゥクフレとカンパニーDCAによる、8年ぶりの来日ツアーがいよいよスタートする。ドゥクフレ作品の集大成ともいえる本公演『パノラマ』は、カンパニー設立以来手がけてきた『バーグ・カフェ』(1983)、『コデックス』(1986)、『トリトン』(1990)、『シャザム!』(1998)などの代表作から、ハイライトシーンを一挙に集めて再構成したもの。鏡や映像を巧みに用いた虚像と実像とが戯れたり、宙吊りダンスがおこなわれたり、ユーモアたっぷりに展開されるマジカルワールド。大人も子どもも一緒に楽しめる超一流のサーカス・ダンス!


文◎岡見さえ(舞踊評論家)

 身体という私たちにとって最もリアルな存在を使って現実のどこにもない夢の場所を創り上げてしまう振付家が、フィリップ・ドゥクフレだ。1983年バニョレ国際振付コンクールで賞を受けて以来、ダンスにコミックやグラフィックのポップな視覚性やサーカスの身体の超絶技巧を導入し、レトロな表象と最新の映像技術を混在させた独自のスタイルを築き上げたドゥクフレは、CMやミュージカル、ショーの振付、巨大セレモニーの監修などにも才能を発揮し、ダンスの地平を一気に広げた。振付家(chorégraphe)という語がフランスで一般的になったのも、1992年に弱冠31歳のドゥクフレが約1500人のパフォーマーを動員して創り上げたアルベールビル冬季オリンピックからだという。
 そのドゥクフレの最新作『パノラマ』が、さいたまに登場する。初演時(2012年)に『パノラマ』制作のきっかけを問われたドゥクフレは次のように答えている。自分のスペクタクルは異なる複数のパーツが全体を創り上げていて、必ずしも一貫性はなくても、スペクタクルの全体がある時代、ある人生の経験、ある人々と対応している点で音楽のアルバムに似ている。だから自分も50歳を過ぎ、第一線を走り続けたミュージシャンがするように「ベスト盤」を作ろうと思いついたのだと。

(c)Laurent Philippe 01
©Laurent Philippe

ダンス史に残る名場面がずらり

 『パノラマ』では、初演以来一度も再演されていないバニョレ国際振付コンクールの受賞作『バーグ・カフェ』(83)、映像作品の『ジャンプ』(85)や、『トリトン』(90)、94年の初来日で上演した『プティット・ピエス・モンテ』(93)、『デコデックス』(95)、『シャザム!』(98)、『ソンブレロ』(06)等、ダンス史に残るドゥクフレ作品の抜粋を見ることができる。コンテンポラリーダンス・ファンにとって、お気に入りのダンスと再会する、あるいは一度ナマで観たいと願っていたダンスを目撃する夢の機会であることは間違いない。けれども『パノラマ』はノスタルジーに浸るための作品ではない。音楽のベスト盤なら過去音源をそのまま使用できるがダンスにそれは不可能であり、過去の作品を踊るのは当時を知らない世代のダンサーたちだ。80年代の尖った実験から生まれた動きは既にダンス史の一頁となり、それをテクニックとして学び、習得した若い世代は、そこに彼ら自身の生きた時間と経験を重ね、踊る。新たな発想でアレンジされた部分もあり、どんなダンスも過去の反復ではあり得ない。

 
(c)Christian Berthelot 02
©Christian Berthelot

ドゥクフレがかける幸福な魔法

 だからドゥクフレの世界をすでに知る人にも、初めてそれに出会う人にも、『パノラマ』は新鮮な驚きと楽しさをプレゼントしてくれる。大劇場の座席に腰を下ろして開演を待つ間から、サプライズは始まっている(お楽しみに!)。そして非日常の祝祭ムードのなかで『パノラマ』の幕が開くと、男女7人のダンサーがポップでパワフル、時にリリカルで目の眩むほど多様なダンスを息つく間もなく繰り広げていく。足ヒレの装着やスーツのポケットに両手を入れることで身体に不自由さを課した振付、ワイヤーや滑車を用いて身体に幻想的な浮遊感を付与した振付、身体の実像と映像が絡み合うトリック、シンプルだが内省的な身体と影との対話などの独創的な振付スタイルに、踊る身体が30年間に辿った変遷を一望する楽しみがある。

(c)Laurent Philippe 03
©Laurent Philippe

あるいは、いかにも80年代風の肩の強調された原色のスーツに男も女もパワフルさが求められた時代を、虚構のイメージと孤独に向き合う身体にインターネットの普及とともに不在の実在が私たちの生活にぴたりと寄り添い始めた時代を、不可思議な細菌たちがうごめく情景に不可視の脅威が日常を脅かし始めた時代を想起することもあるかもしれない。ステージ脇に設えられた楽屋と舞台を行き来するダンサーの姿も、スペクタクルの時間とその外に流れる現実の時間とのパラレルを暗示するかのようだ。
 奇妙で美しく、甘くて刺激的なドゥクフレの愛すべきダンスに身をまかせる快感と、過ぎた時間が新たな容貌をまとい再び現れるのに立ち会う興奮。想像力を刺激して止まない『パノラマ』で、ドゥクフレはまたしても観客を幸福な魔法にかけるのだ。

埼玉アーツシアター通信No.51より転載》

(c)Christian Berthelot 04
©Christian Berthelot

フィリップ・ドゥクフレ Philippe Decouflé

(c)Eline Ros

パリ生まれ。1983年に自身のダンス・カンパニーDCAを設立。1992年、アルベールビル冬季オリンピック開・閉会式の演出を31歳の若さで手がける。1993年、ジョルジュ・メリエスへのオマージュとして『プティット・ピエス・モンテ』を創作、同作品で初来日を果たした。1997年、カンヌ映画祭50周年のオープニング・セレモニーを演出。1998年に創作した『シャザム!』は、フランス国内外をあわせて実に200回を越える上演を重ね、2001年にはパリ・オペラ座(ガルニエ宮)の舞台にも登った。一方で、再び自らが舞台に立つことを望んでいたドゥクフレは、2003年、自作自演の『ソロ』を発表、現在も自身でこの作品を演じ続けている。ディオールやエール・フランスを始めとした世界的企業のCM映像を手がけたり、サーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユやクレイジーホース・パリのショーを演出、振付(その様子はフレデリック・ワイズマン監督によりドキュメンタリー映画化され、『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』として2012年に日本でも公開され話題を呼んだ)するなど、ジャンルを横断して幅広く活躍している。


彩の国さいたま芸術劇場開館20周年記念
フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA
『PANORAMA ― パノラマ』

【公演情報】
日時:
6月13日(金)19:30開演/6月14日(土)15:00開演/6月15日(日)15:00開演 ※全3公演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
料金:一般S席5000円,A席3500円/学生(高校生以上)S席3000円,A席2000円/子ども(4歳~中学生)S席1500円,A席1000円[税込・全席指定]
主催:公益財団 法人埼玉県芸術文化振興
助成:アンスティチュ・フランセ パリ本部/一般社団法人全国モーターボート競走施行者協議会/一般財団法人地域創造/平成26年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
日仏文化協力90周年
埼玉県教育委員会/さいたま市教育委員会/公益社団法人全埼玉私立幼稚園連合会/埼玉県保育協議会

【チケット取扱い・お問合せ】
○彩の国さいたま芸術劇場

0570-064-939(休館日を除く10:00~19:00)
[PC] http://www.saf.or.jp/ *PC画面でお席が選べます。
[携帯] http://www.saf.or.jp/mobile/
○チケットぴあ
0570-02-9999【Pコード:435-182】
http://t.pia.jp/(PC&携帯)
○イープラス
http://eplus.jp/(PC&携帯)
○ローソンチケット
0570-000-407(オペレータ対応)
0570-084-003【Lコード:32381】
http://l-tike.com/(PC&携帯)

【日本ツアー】
◆松本公演
日時:
6月18日(水)19:00開演
会場:まつもと市民芸術館 主ホール
料金:一般4000円/大学生以下2000円
チケット取扱い・お問合せ:まつもと市民芸術館/0263-33-2200
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団
後援:松本市、松本市教育委員会

◆北九州公演
日時:
6月22日(日)14:00開演
会場:北九州芸術劇場 中劇場
料金:一般5000円/ユース(高校生~24歳以下)3000円/子ども(4歳~中学生)2000円/セット(一般+子ども)5500円
チケット取扱い・お問合せ:>北九州芸術劇場/093-562-2655
主催:公益財団法人北九州市芸術文化振興財団
後援:北九州市

◆大津公演
日時:
6月28日(土)19:00開演/29日(日)15:00開演
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
料金:一般6000円/青少年(25歳未満)4000円/シアターメイツ2000円
チケット取扱い・お問合せ:びわ湖ホールチケットセンター/077-523-7136
主催:公益財団法人びわ湖ホール



6月14日(土)の公演後、関連企画開催!
フィリップ・ドゥクフレによるレクチャー+映像!映画!@彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場での6月14日(土)公演終了後、同劇場内映像ホールにて、フィリップ・ドゥクフレ本人によるレクチャーを作品映像の上映を交えて行います。また、レクチャー終了後にはドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン監督による映画『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』を上映。ドゥクフレ演出・振付によるショー『DESIRE』の制作過程が収められたパリの老舗キャバレーの裏側に迫る作品です。舞台・レクチャー・映画の3本立てで、1日を通してドゥクフレ・ワールドを余すとこなくご紹介します。(※フランス語・日本語通訳付)

【レクチャー+映像】
時間:16:50~17:50
会場:彩の国さいたま芸術劇場 映像ホール
料金:無料(要予約/定員150名)
予約:お名前・人数・当日連絡先をメールにて dance@saf.or.jp にお送りください。
締切:6月10日(火)

【映画】
上映作品:『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』(フレデリック・ワイズマン監督/2011年/仏・米/134分)
時間:19:00~21:14
会場:彩の国さいたま芸術劇場 映像ホール
料金:1000円(予約不要/定員150名/※R15+/前売りなし、当日入場時に支払い)
※13日(金)の公演前と15日(日)の公演後にも本作の上映あり。
★『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』上映詳細

http://saf.or.jp/arthall/stages/detail/1180


6月11日(水)、アンスティチュ・フランセ東京にて特別対談&上映会を開催!

これまでのドゥクフレ作品の映像上映の後に、作家・舞踊評論家の乗越たかおを招き、ドゥクフレと対談を行います。フランスを代表する振付家の作品世界を、(再)発見してください!

時間:19:00~21:00
会場:アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
料金:500円 ※前売りなし。当日入場時に支払い
予約:アンスティチュ・フランセ東京/03-5206-2500


▼フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA『PANORAMA ― パノラマ』舞台映像



【関連商品】

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『フィリップ・ドゥクフレ カレイドスコープ』

演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ
出演:クリストフ・ワクスマン、オリヴィエ・シモラ、他
(2004年/フランス/117分/カラー/ステレオ/税込3,990円)


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