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『ムーンライズ・キングダム』『ダージリン急行』のウェス・アンダーソン監督の最新作『グランド・ブダペスト・ホテル』が2014年6月6日(金)より公開となる。ベルリン国際映画祭では銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した本作は、全米では既に大ヒットを記録している。
美しい山々に囲まれたヨーロッパにある架空の国のリゾート・ホテルを舞台に、1930年代、1960年代、現代の3つの時代を行き来しながら物語はすすむ。物語の中心はホテルの名コンシェルジュであるグスタヴ・Hと彼の弟子であり後継者となるベルボーイのゼロ。30年代におこった殺人事件がきっかけとなり、各々の過去が明かされ、友情を築いていく。
ウェス・アンダーソン監督作品おなじみのシンメトリーでお菓子細工のような映画だが、物語には常に"戦争"の影が見え隠れする。舞台はヨーロッパにかつてあったとされる架空の国であるが、監督が影響を受けたと言及しているウィーンの作家シュテファン・ツヴァイクの『心の焦燥』は第一次大戦勃発前後のオーストリアを舞台とし主人公の青年騎兵大尉が一人称で自らの人生を語る長編小説である。この"戦争"の影が名コンシェルジュであるグスタヴ・Hの多くの矛盾を解き明かす鍵となる。最後のワンシーンで彼の人生、そしてベルボーイのゼロの人生に合点がいく。そんな映画だった。
webDICEでは、ベルリン国際映画祭の記者会見より、ウェス・アンダーソン監督のインタビューをお届けする。
ベルリン国際映画祭の記者会見より、ウェス・アンダーソン監督のインタビュー
── 映画の最後に「マリー・アントワネット」や「メアリー・スチュアート」の伝記で知られるウィーンの作家シュテファン・ツヴァイクにインスパイアされたというクレジットが出てきますが、この『グランド・ブダペスト・ホテル』との関わりについてお話していただけますか?
アメリカなど英語圏ではあまり知られていない人なんだ。8年ほど前にニューヨークの2つの出版社が本のレビューを通して再販するようプッシュをかけられたりしていたくらいかな。アメリカではほとんど知られていない作家だけど、フランスや特にドイツでは名高い人で、『心の焦燥』(第一次大戦勃発前後のオーストリアを舞台とした長編小説)を数年前に読んだ時、最初の1ページを読んだ途端そのノルタルジーな世界観に引き込まれてしまって読破してしまった。それを元にこの映画のストーリーを作ったわけではないけれど、彼の本から醸し出される雰囲気は共有させてもらっている。そういう関連性はあるけれど、僕のストーリーは全く別のものとして展開していくよ。
『グランド・ブダペスト・ホテル』ウェス・アンダーソン監督
── 語り部として老年の作家と若手のライターが登場し、ストーリーのインスピレーションはどうやって湧いてくるのかといった会話が展開していきますが?
これはツヴァイクからインスピレーションが湧いて来たんだよ。ここは僕らの映画の中に彼の世界観を重ね合わせたところだね。若手のライターは、人々は自分の職業が物書きだとわかるとストーリーを持って来てくれると言っている。これはまさに本当のことだと思う。だから映画の中で彼の存在を明かしているところでもあるんだ。二人の会話のやりとりで物語が展開していくことはとても面白いと思ったんだよ。たとえそのストーリーが彼の人生を物語っているものでないとしてもね。ライターはストーリーを発展させていこうとして、質問をしていく。だから様々な形でストーリーに肉付けができていく。そして、作家は気分がよくなってどんどん喋り始めていく。次にどのストーリーに行くかの導入になってシンプルでいいアイデアだと思うようになったんだよ。とにかく僕は彼の本が大好きだから。そういう雰囲気を醸し出したかったんだ。
伝説のコンシェルジュと呼ばれるグスタヴ・Hは、ウェス・アンダーソン監督作品には初出演となるレイフ・ファインズ
── この映画は30年代、60年代、現代と3つの時代で画面の大きさが変わっていきますね。
アカデミー比(スタンダード・サイズの別称、1.375:1という映画映像のアスペク比)を全面に出したかったんだ。昔の映画の雰囲気を醸し出したかったんだよ。今はデジタルになったからそういうことが可能になった。昔だったら、この映画は映写技師にとっては過酷なものになっていただろうね。その度に画面を調整しなくちゃならないわけだから。とにかくフォーマットにはこだわりたかったんだよ。1930年代あたりを時代設定にしているから、古き時代の映画の感覚をたっぷりと出したかったんだ。
── 映画を作る上で 参考にした映画作品はありますか?
いくつかあって、撮影中は小規模な映画ライブラリーも作ったんだ。『グランド・ホテル』、『生きるべきか死ぬべきか』、マーガレット・サラヴァン主演の『お人好しの仙女』、『今晩は愛して頂戴ナ』、フランク・ボーゼイジ監督の『The Mortal Storm』、イングマール・ベルイマン監督の『沈黙』などだね。どこの国か分からないホテルのシーンを撮るのに参考にさせてもらった。
── あなたの映画スタイルは時としてスタンリー・キューブリック監督の影響を感じます。『グランド・ブダペスト・ホテル』のインテリアは『シャイニング』のオーバールック・ホテルを彷彿とさせます。カメラワークや構図にもそれを感じるのですが、彼はあなたにどんな影響を与えた人物なのでしょうか。
もちろん、いろんな作品の映像を参考にして意図的に盗ませてもらっているよ。時として、意識しなくてもそれが簡単にできることがある。キューブリックはそういうカテゴリーに入る人だね。彼の映像の作り方が僕は大好きなんだよ。映画を観るだけでそれがわかるし、彼は何年もかけて独自のシステムを開発していった人なんだ。つまり、ロールモデルとなる人だ。まさに僕にとっては、巨匠と言える映画監督の一人だね。
84歳の伯爵夫人マダムDを演じるのはティルダ・スウィントン
── 今回、美しいロケーションの風景や、ディテールがストーリーを超えてしまうという心配はありませんでしたか?
そう考えたことはなかったよ。映画っていうのは、そういうすべての要素が集まってできていくものなんだ。ここにいるキャストのみんなと一緒に作り上げていったものでもあるし。アダム・ストックハウゼン(プロダクションデザイン)、バーニー・ビリング(編集)、ミレーナ・カノネロ(衣装デザイン)、こうした各部門の専門家達が一団となって作り上げていったものなんだ。そういう世界を作り上げた後に、俳優達が演じていくものなんだよ。僕は否定的なことや、トラブルが起こっていくということを懸念するタイプじゃないんだ。もっとエキサティングなものを実現するにはみんなでどうしていけばいいかを考えながら映画を作っているんだよ。
── タイトルにブダペストが使われていますが、ハンガリーとの関連性はあるのでしょうか。ハンガリーでの撮影は考えなかったのでしょうか。
もちろんそれも考慮にいれて、ハンガリーまでロケハンをしに行ったよ。ブダペストにも足を運んだ。よく保養地にある、パリにないのに「なんとかパリホテル」なんて名前をつけたホテルが必要だったんだ。ブダペストにあるわけじゃないけど、ブダペスト・ホテルって名前がついたリゾート・ホテルっていうことだね。ニューヨークにブダペストっていうカフェがあるみたいな感じかな。それに東欧の雰囲気を出したかったっていうこともあるね。
ルネサンスの絵画をめぐる連続殺人事件がグランド・ブダペスト・ホテルで巻き起こる
『グランド・ブダペスト・ホテル』
2014年6月6日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテ ほか 全国ロードショー
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
キャスト:レイフ・ファインズ(伝説のコンシェルジュ)、F・マーレイ・エイブラハム、エドワート・ノートン、マチュー・アマルリック、シアーシャ・ローナン、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、レア・セドゥ、ジェフ・ゴールドブラム、ジェイソン・シュワルツマン、ジュード・ロウ、ティルダ・スウィントン(マダムD)、ハーヴェイ・カイテル、トム・ウィルキンソン、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、トニー・レヴォロリ(ベルボーイ)
2013年 / イギリス=ドイツ合作 / 英語 / カラー / ヴィスタサイズ
配給:20世紀フォックス映画
(c) 2013 Twentieth Century Fox
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