映画『ブルージャスミン』より Photograph by Jessica Miglio/Merrick Morton © 2013 Gravier Productions, Inc.
ウディ・アレン監督の最新作で、豪華な暮らしから一転、金銭的にも精神的にも破綻するものの、プライドを捨てきれないセレブの女性・ジャスミンを主人公にした悲喜劇『ブルージャスミン』が5月10日(土)より公開される。ポップスのスタンダード「ブルー・ムーン」を通奏低音に、華麗な生活と悲惨な現在を交錯させながら、人間の根源的な虚栄心の有りかを探り、第86回アカデミー賞でケイト・ブランシェットが主演女優賞を受賞した今作について監督が語った。
強いトラウマを引きずる主人公
──最初に、今回の物語の主人公ジャスミンのキャラクターについて教えてください。一部でルース・マドフ(2008年に金融詐欺事で逮捕された実業家バーナード・マドフの妻)をモデルにしているのでは、と言われていますが?
いや、この映画のアイディアは、妻のスン=イー・プレヴィンが教えてくれた、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドの裕福な住人たちが転落して仕事を探さなければいけなかったというエピソードを元にしている。映画が始まって、観客はすぐにジャスミンが混乱しているとわかる。ジャスミンは本当につらい目に遭ってきているんだ。彼女自身がカッとなってやってしまったことのせいで、考えてもいなかったような悲惨な結果を招き、そのせいでものすごく強いトラウマの数々をひきずってしまったんだよ。
映画『ブルージャスミン』のウディ・アレン監督
──急降下する人生のなかで全てを手放さなければならなくなったため、上流階級から別の世界に踏みこんでいくこの破滅的な女性・ジャスミン役を演じたのがケイト・ブランシェットです。彼女の魅力はどんなところにあるのでしょうか?
ケイトは世界でも最もすばらしい女優のひとりだ。彼女はすべてを持っていて、すごく深みのある女優だ。数値化なんてできない。とても巧い女優をみつけることはできるだろうし、彼女たちはフラストレーションや絶望を演じることもできるし、ケイトと同じように泣くことだってできる。けれどなぜかはわからないが、ケイトはスクリーンに深みをもたらして、観ている者を吸い込んでしまう。彼女がどれだけその役柄を深く演じているかをただ感じてしまうんだ。これはケイトの天賦の才能だね。
映画『ブルージャスミン』より Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.
──映画は現在のサンフランシスコと過去のニューヨークを行ったり来たりする構成になっています。サンフランシスコでのジャスミンの生活のなかで重要な役割を果たすのが、妹のジンジャーです。監督はこの役に『ウディ・アレンの夢と犯罪』で仕事を共にしたサリー・ホーキンスを再び起用しています。
異なる世界に住む姉を持つジンジャーだけれど、彼女を遠ざけたことはない。親切でいつでもジャスミンを尊敬してきたジンジャーを演じたサリー・ホーキンスは、すばらしい女優だよ。いつでも彼女はリアルだ。女優っぽくならないところが、このジンジャー役にぴったりだと思った。
映画『ブルージャスミン』より、ジンジャー役のサリー・ホーキンス(左) Photograph by Jessica Miglio/Merrick Morton © 2013 Gravier Productions, Inc.
──そして、ニューヨークのシーンに登場するのが、ジャスミンのかつての夫である大富豪ハルです。ハルとの関係の悪化が、ジャスミンの精神状態を次第に蝕んでいくことが、フラッシュバックするニューヨークでの生活で次第に明らかになっています。このハルを演じているのがアレック・ボールドウィンです。
ハルはいわゆる〈大物コンプレックス〉を持っている男だ。ハルは重責を負って成功を収めた他の多くの男たちと同じく、ストレスいっぱいの人生を癒やす必要があり、そのことを妻のジャスミンが理解していると期待しているんだ。だから彼はずっと浮気をし続ける。二枚目でダイナミックだし、それがハルという男のスタイルだからだ。アレックはハルを演じるのに完璧だった。この役の要素をすべて持っているからね。アレックはハンサムで、とても才能がある上に、面白いキャラクターが必要なら面白くもなれるんだ。
映画『ブルージャスミン』より、ハル役のアレック・ボールドウィン Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.
人は皆、ささいなことで自分の家族に対して過ちを犯す
──憂鬱なジャスミンの内面を象徴する挿入曲として、1934年にリチャード・ロジャースとロレンツ・ハートが発表し、エルヴィス・プレスリーなど多くのアーティストがカヴァーしているポップスのスタンダード「ブルー・ムーン」を採用しています。
初めは『ジャスミン・フレンチ』だったんだ。でもヒロインが置かれた状況を考えると『ブルージャスミン』が映画のムードを最も表現していると思ったんだ。「ブルームーン」はジャスミンがハルと出会った時に流れていた思い出の曲で、過去にすがる彼女の脳裏から消えることのないメロディとして使用している。
映画『ブルージャスミン』より Photograph by Jessica Miglio/Merrick Morton © 2013 Gravier Productions, Inc.
──最後に、監督はこれまで多くの優れた女優たちと組み、様々な女性キャラクターを生み出してきましたが、そのなかでも今回の主人公ジャスミンは経済的にも精神的にも問題を抱えた、複雑なキャラクターです。彼女の生き方として描こうとしたもの何でしょうか。
ジャスミンは口座も失い、ゴールドカードも失う。その一方で残念な話だが、アメリカには食べものにも困る人が大勢いる。それでも観客がジャスミンのことを気に掛けるのは、この物語がただ単に経済的な損失ではなく、彼女のキャラクターにある悲劇的な欠点が彼女自身の終焉を作り出しているからなんだ。ジャスミンは自分の快楽や収入、安全の源について深く知ろうとしないことを選択したが、そのせいでとんでもないツケを払わされることになった。見方を変えれば、人は過ちを犯すし、それは皆に共通している。人は皆、自分の子どもたちや夫、妻に対して、ささいなことで始終過ちを犯すんだよ。
(オフィシャル・インタビューより)
映画『ブルージャスミン』より Photograph by Jessica Miglio/Merrick Morton © 2013 Gravier Productions, Inc.
ウディ・アレン プロフィール
1935年、ニューヨーク州ブルックリン生まれ。『何かいいことないか子猫チャン』(65)で映画俳優として、翌年『What's Up, Tiger Lily?』(66/未)で監督としてデビュー。『スリーパー』(73)などのシュールでスラップスティックな喜劇を次々と世に送り出し、1977年に発表した『アニー・ホール』でアカデミー賞主要4部門を受賞した快挙に続き、『インテリア』(78)『マンハッタン』(79)も絶賛され、アメリカを代表する映画作家のひとりとして認知されていった。 1980年代もミア・ファローと組んだ『カイロの紫のバラ』(85)『ハンナとその姉妹』(86)を発表。1990年代に入ってからも『夫たち、妻たち』(92)『ブロードウェイと銃弾』(94)『誘惑のアフロディーテ』(95)『ギター弾きの恋』(99)などの多彩な快作を連打した。2000年代もほぼ年に1本の創作ペースを保ち、『マッチポイント』(05)『恋のロンドン狂騒曲』(10)そして『ミッドナイト・イン・パリ』(11)で25年ぶりの作品賞を含むアカデミー賞4部門にノミネートされ脚本賞を受賞した。
映画『ブルージャスミン』より Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.
映画『ブルージャスミン』
5月10日(土)、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ、
シネスイッチ銀座ほか全国公開
サンフランシスコの空港に美しくエレガントな女性が降り立った。彼女は、かつてニューヨーク・セレブリティ界の花と謳われたジャスミン。しかし、今や裕福でハンサムな実業家のハルとの結婚生活も資産もすべて失い、自尊心だけがその身を保たせていた。庶民的なシングルマザーである妹ジンジャーの質素なアパートに身を寄せたジャスミンは、華やかな表舞台への返り咲きを図るものの、過去の栄華を忘れられず、不慣れな仕事と勉強に疲れ果て、精神のバランスを崩してしまう。やがて何もかもに行き詰まった時、理想的なエリート外交官の独身男性ドワイトとめぐり会ったジャスミンは、彼こそが再び上流階級にすくい上げてくれる存在だと思い込む。名曲「ブルームーン」のメロディに乗せて描かれる、あまりにも残酷で切ない、ジャスミンの運命とは───。
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:アレック・ボールドウィン、ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、ピーター・サースガード
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
美術:サント・ロカスト
衣装:スージー・ベインジガー
編集:アリサ・レプセルター
2013年/アメリカ/98分/英語
提供:KADOKAWA、ロングライド
配給:ロングライド
© 2013 Gravier Productions, Inc.
公式サイト:http://blue-jasmine.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画ブルージャスミン/744618415549611
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