映画『8月の家族たち』より、メリル・ストリープとジュリア・ロバーツ © 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
オクラホマの片田舎を舞台に、父親の失踪をきっかけに再会した母と三姉妹の親子関係の行方を描く映画『8月の家族たち』が公開される。トレイシー・レッツによるピューリッツァー賞とトニー賞をW受賞した戯曲を映画化した今作は、初共演となるメリル・ストリープとジュリア・ロバーツを主演に、夫や恋人たちを含めたそれぞれの告白により秘密が明らかになる様がスリリングに描かれていく。ユアン・マクレガー、ベネディクト・カンバーバッチ、サム・シェパード、『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリンなど豪華俳優陣が一同に会する食卓シーンを始め、緊張感と笑いが交互に押し寄せるこの家族の物語について、ジョン・ウェルズ監督が語った。
ドラマティックなシーンをいかに現実的に表現するか
──どのようにして本プロジェクトを始めることになったのですか?
ブロードウェイで本作の舞台を観て、とても感銘を受けました。ある日、『カンパニー・メン』で一緒に仕事をハーヴェイ・ワインスタインとランチをしたとき、彼が「私たちが『8月の家族たち』の映画化権を持っているから、君も一緒にやろう」と言ってくれました。トレイシー・レッツはピューリッツァー賞を受賞した素晴らしい劇作家で、戯曲も映画も脚本を務めました。それらが進行するのと同時に、メリルとジュリアにも会って、一緒に作品を作り上げていくことを決めたのです。
プロデューサーについては、ジョージ・クルーニーとグラント・ヘスロヴが興味を持っていることを知って、ならば彼らに台本を渡して一緒に製作チームに入らないか聞いてみることにしました。僕とジョージの付き合いはとても長いんです。『ER』を一緒にやった中で、『ER』と同じように、ドラマティックな瞬間やシーンをいかに現実的に自然に作り出すか、という点を話しました。舞台と違って、オーバーにならずにいかに現実的に表現するか、という点が鍵でした。
映画『8月の家族たち』のジョン・ウェルズ監督
──本編に描かれている物語をどのように捉えましたか?
この戯曲はたくさんの賞を受賞したことに加え、素晴らしいアメリカ文学の伝統を継承しているところに、とても魅力を感じました。そして最も重要なことは、家族についての物語だということです。悲劇の中でも一緒になって笑うこと、お互いを傷つけあったり、支えあったりする。とても人間的で美しく、時には愉快なものです。家族とは、私自身の家族に限ったことではなく、このように互いに影響しあうものなのだと改めて思い出させてくれたことに魅力を感じました。ブロードウェイで舞台を観たときに最初に気づいたのですが、周りの人々がそれぞれの家族のことを思い出したと話していたのです。「登場人物が兄弟に似ていた」とか「あの登場人物は母親を思い起こさせた」とか、それは文字通りの意味ではなくて、トレイシーが手掛ける作品の中には何か確固たる事実が描かれていて、それこそが私たちを魅了するものなのではないかと思うのです。
映画『8月の家族たち』より © 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
カンバーバッチはオーディションで役を勝ち取った
──キャスティングのプロセスについて教えてください。
このような素晴らしいキャストが集まってくれたのはとても幸運でした。トレイシーは脚本家であると同時に俳優でもあるので、人物描写にすぐれているのです。キャスティングのプロセスはとてもシンプルでした。それは、本当に参加したい人たちが集まった、そうしたらこのような素晴らしい俳優陣がやってきてくれたという意味です。メリル・ストリープはすでに舞台を見ていて、とても興味があったようでした。私たちは配役について話しあいました。彼女がこの役をどう考えているのか、どんな落とし穴が考えられるか。ジュリアとも同じことを話し合いました。そして、他の俳優陣とも会っていきました。
──ベネディクト・カンバーバッチは、ジュリア・ロバーツ演じる長女バーバラの従弟、リトル・チャールズ役をどのように得たのですか。
彼はiPhoneでオーディション映像を送ってきましたが、それがベストだったんです。オーディションに来た他のアメリカ人の俳優が間違ったアクセントを使いがちだったのに、イギリス生まれの彼はオクラハマ・アクセントがすごくうまかった。まるで『風と共に去りぬ』みたいなアクセントでやる人がいたけれど、オクラハマのアクセントはちょっと違うんです。
映画『8月の家族たち』より、チャールズ役のベネディクト・カンバーバッチ © 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
──キャスト全員でオクラホマで合宿をしながら撮影したそうですね。
家族という雰囲気の中で撮影したかったんです。現場となったオクラハマ州のバトルフィールド地方には、それほど素敵なホテルはなかったので、タウンハウス団地みたいなところを見つけたんです。まだカーペットも敷かれていないような真新しい家に全員がそれぞれ住んで……例えばメリル・ストリープの家はクリス・クーパーの家の隣で。その隣がジュリア・ロバーツで、といった感じでした。皆が一緒に食事をしたりテレビを見たり、作った食事を皆で分け合ったりして共同生活をしました。夕食は、誰かがメインコースを作れば他の人がサラダやデザートを持ち寄ったり。メリルはちょうどマーゴ・マーティンデイルが演じた叔母のような、女王蜂みたいな存在でしたね。すごく料理が上手で、手作りのごちそうを今回は堪能させてもらいました(笑)。
ロケで撮影する利点の一つとして、俳優たちが家族の役をする場合、一緒に食事をしたり、同じ時間をたくさん過ごすので、本物の家族になれるのです。遠く離れた場所で同じ時間を過ごすので、撮影の間に構築される何かが必ずあります。そしてコミュニティーの中に入って、つまりオーサージの人々と出会って時間を過ごし、レストランで食事をしたりして、彼らがどんな人々かを理解するのです。オーサージの人々は、赤か青か、というハッキリとした観念を持っています。仮に異なる意見を持っていても、実際に現地を訪れて、彼らと時間を過ごせば、そんな違いは大したものではないと分かるでしょうし、彼らも私たちと同じように感じていました。違う場所の出身でも、過ごす経験は普遍的なのです。この映画は家族と、家族がどう一緒に過ごしていくかということについての普遍的な物語です。観た方に、俳優たちがずっと前からそこに暮らしていた場所だという印象を与えていたら素晴らしいですね。
──撮影現場でのメリル・ストリープとジュリア・ロバーツの様子はいかがでしたか?
とってもフレンドリーな雰囲気でした。撮影が進行するにつれて、ゆっくりとそれぞれが演じているキャラのような雰囲気へと変化していきました。口論のシーンはかなり熱が入っていました。撮影現場は笑いに溢れていました。何しろ作品自体すごくテンションの高い内容ですから、休憩時間にはそのテンションを休める必要がありました。
互いの人生経験を知っているかのような家族のリズムが生まれた夕食のシーン
──サム・シェパード以外のキャスト全員が、ダイニングルームのテーブルに座って話をしているシーンがあります。この場面の演出方法について教えてください。
本編の中で最も重要なシーンのひとつが、この19ページにもわたる家族全員が一つのテーブルに集まる夕食のシーンです。私たちはそのシーンを演じるのを恐れていました。なぜなら、長い時間テーブルの上のチキンを見て話しているだけでしたから。しかし何度もリハーサルを繰り返すことで、劇的なものになったと思います。全員が日常生活そのままに夕食をとりはじめていました。まるで互いのいろんな人生経験を知っているかのような、家族のリズムがありました。腹を立てた出来事、幸せに感じた出来事、恥ずかしい思い出などの家族の歴史を知っているかのようでした。私たち全員にとって「この夕食のシーンは、かつて想像していたのとは全く違うものになった人生を祝うためのものなんだ」という感覚がありました。
映画『8月の家族たち』より © 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
──舞台作品を映画にすることの難しさについては?
戯曲を映画化すること、より視覚的にすることは常に難しいです。どんな舞台作品であれ、映画化するということは密閉された空間で作業をするようなものです。撮影をオーサージ郡で行った理由の一つとして、たくさんのシーンを撮影することができたことが挙げられます。例えばドライブのシーンや、観客にその場所のスケールの大きさを与えることができるような場面を撮影したかったのです。舞台でも映画でも、難しい境遇に立たされたかどうかに関わらず、生きていくことは難しいということをこの物語は語っています。オープニングから、厳しくも美しいこの地域の映像から観客は、そこで生きてきた原住民、そして登場人物がどのように生き延びているのかを知ることになります。トレイシーと「このシーンはどこで撮影すべきか」を話し合いながら進めていきました。そうした作業はとても楽しかったですし、実際にドラマツルギー(劇作法)の助けになりました。
映画『8月の家族たち』より © 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.
──今回の撮影チームについて教えてください。
まず、映画の撮影監督としてアドリアーノ・ゴールドマンを迎えられたのは大変幸運なことでした。『闇の列車、光の旅』や『ジェーン・エア』など、彼の作品は大好きなのです。私たちが求めていたのは、ここが本当に美しい場所だという感覚でした。とても美しい土地だけれど、身近で、興味深い。ただ内部空間の美しさや光の当て方だけでなく、私たちが目にしたすべての世界そのものです。そして、ずっと一緒に仕事をしたいと思っていたデヴィッド・グロップマンが、本作でプロダクション・デザインを務めてくれました。彼とそのチームスタッフが、壁紙、塗装、絨毯、全ての引き出しの中の細かいもの、食器棚にあるスパイスボトル……すべて一つ一つ細かくこの家すべてに息吹を与えてくれました。現場にきた多くの人々が「まさにおばあちゃんの家や叔父さんの家、自分が育った家のようだ」と話していました。衣装デザインのシンディ・エヴァンスも素晴らしい仕事を成し遂げてくれました。
──最後に、この映画のどこが最も気に入っていますか?
一緒に仕事をした全員と言うべきでしょう。衣装デザイナーや撮影など、すべてのチームが素晴らしかったです。俳優たちも、テーブルを見ると、メリル・ストリープとジュリア・ロバーツ、ダーモット・マローニー、クリス・クーパー、アビゲイル・ブレスリン、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジュリエット・ルイス、マーゴ・マーティンデイル、ユアン・マクレガーがいて……これらの俳優陣が参加して、脚本で美しく書かれた場面に命を吹き込まれるのを見るのは喜びでしたね。
(オフィシャル・インタビューより)
ジョン・ウェルズ プロフィール
過去20年間にわたって「ER 緊急救命室」、「ザ・ホワイトハウス」、「サード・ウォッチ」を含むテレビドラマのヒットシリーズを手掛け、自身の製作作品は270作品以上がエミー賞にノミネート、うち55作品が受賞している。2011年、ベン・アフレックを主演に迎えた『カンパニー・メン』で長編映画監督デビュー。監督の他に脚本・製作も担当し、ニューヨーク映画批評家オンライン賞新人監督賞を受賞。その他、製作として携わった作品に『エデンより彼方に』『ホワイト・オランダ―』(共に02)、『バレエ・カンパニー』(03)、『アイム・ノット・ゼア』(07)、『美しすぎる母』(08)などがある。
『8月の家族たち』
4月18日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
8月の真夏日。父親が失踪したと知らされ、オクラホマにある実家へ集まった三姉妹。真面目すぎて暴走しがちな長女バーバラと、反抗期の娘、実は別居中の夫。ひとり地元に残り秘密の恋をしている次女アイヴィー。自由奔放な三女カレンと、その不審な婚約者。迎えるのは、闘病中だが気が強く、率直で毒舌家の母ヴァイオレットと、その妹家族。生活も思惑もバラバラな“家族たち”は、つい言わなくてもいい本音をぶつけあい、ありえない“隠しごと”の数々が明るみに――。なぜ父は消えたのか? 家族はひとつになれるのか?
製作:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ
監督:ジョン・ウェルズ
原作:トレイシー・レッツ「August: Osage County」
脚本:トレイシー・レッツ
出演:メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、クリス・クーパー、アビゲイル・ブレスリン、ベネディクト・カンバーバッチ、ジュリエット・ルイス、マーゴ・マーティンデイル、ダーモット・マローニー、ジュリアン・ニコルソン、サム・シェパード、ミスティ・アッパム
撮影:アドリアーノ・ゴールドマン
美術:デヴィッド・グロップマン
衣装:シンディ・エバンス
編集:スティーブン・ミリオン
音楽:カーター・バーウェル
提供:アスミック・エース WOWOW
配給:アスミック・エース
2013年/アメリカ/カラー/121分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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