映画『パラダイス:神』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema
オーストリアのウルリヒ・ザイドル監督が、セックス観光や過激な信仰心、ロリコンなどにのめりこんでいく3人の女性を描いた3部作『パラダイス:愛』『パラダイス:神』『パラダイス:希望』が2月22日(土)より公開される。この3作は2012年のカンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、2013年のベルリン国際映画祭のコンペティション部門に続けて出品され話題を呼んだ。楽園(パラダイス)を求め猛進する彼女たちをなぜ3部作として製作したのか、そして社会と身体性の関係について、独自のメソッドを発揮するザイドル監督が語った。
俳優が彼ら自身として物語に現れるように撮る
──当初は1本の映画として考えられていたそうですが、どのように物語を作ったのですか?
私たちは従来通りの脚本は書きませんでした。シーンごとに詳細に描写しましたが、それぞれの話の筋は短編小説のように独立し、重なり合いません。編集台の上でようやく関係が生まれます。これは私の方法論の成果ですが、その基本的な原則は、完成台本をただ実行するのではなく、準備段階や撮影中に起こる事を取り入れていくことです。そして可能な限り時系列にそって撮影し、その作業が新しい方向性やアイデアに対して開かれていることを確認してゆきます。またどの映画でも常に自分自身に新たなチャレンジを課すことを心がけています。『パラダイス』では、必要に応じて俳優が彼ら自身として物語に現れるように撮ることを目論んでいました。
映画『パラダイス3部作』のウルリヒ・ザイドル監督
撮影した素材は80時間にものぼり、3つの物語をお互いに関連づけようと、膨大なラフカットとともに1年半も編集室で過ごしました。部分的には上手くいきました。それでも、5時間半の長大なひとつの作品として機能したヴァージョンはひとつもありませんでした。物語が互いに強化されるどころか、実際には弱めあっていたのです。結局、1本ではなく3本の独立した映画にすることが芸術的にベストな方法だという結論にいたりました。それはそれで簡単ではありませんでしたが。
映画『パラダイス:愛』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema
──どのように3部作の順番を決めたのですか?
編集室にいる間は長いこと、娘を描いた『希望』が母親の次、第2話だと思っていました。そして最も強力で難解な『神』が最後になるはずだったのです。しかしある日『希望』を最後にしてみたところ、解放感がありました。救いがあったのです。途端に3部作として機能しました。
実現されていない夢と欲望を自覚しようとしている3人の女性を描く
──なぜ3部作は3人の女性を扱っているのですか?
……それは、どう思われているか判りませんが、私は女性の映画を作る映画監督だからです。この映画はいくつか異なる出発点から生まれています。例えば、私は長い間50代女性の映画に興味がありました。また妻のヴェロニカ・フランツと私はかつて、6つの違う話を持つ観光産業についての脚本を書いたことがありましたが、それはどれも第三世界と呼ばれる場所での、西洋の観光客のある種のヴァケーションを扱っていました。その中でセックス観光というテーマを何度も扱っていたのです。私たちはそれを2人姉妹とその娘という家族の話に発展させました。3人の女性は、美の理想が普通とは違う男性、要は、ウェルベックやイェリネクを引用すれば、市場価値の低い男性を探し求めています。つまり彼女たちは性的に満足することを求め、さらには愛さえも求めている。この映画(『愛』)の場合、それはアフリカの黒人男性なのです。
映画『パラダイス:神』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema
──3部作のタイトルを『パラダイス』と名付けたのは何故ですか?
聖書の感覚では、パラダイスは永遠の幸せを約束するものです。しかし観光産業においては、太陽、海、自由、愛そしてセックスに対する欲望を多くの人に呼びおこさせる言葉としてよく乱用されています。だからこのタイトルは、実現されていない夢と欲望を自覚しようとしている3人の女性を描いた3作全てを象徴しています。
映画『パラダイス:希望』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema
──ケニアのセックス観光、ウィーンの過激な布教活動、青少年のダイエット合宿……なぜこのような設定に?
3人の女性が恋に落ち、愛を経験し、その過程で失望する。10代の肥満の子のためのダイエット合宿で夏休みを過ごす少女にとって、それは人生で初めての恋であり絶対不変です。愛(もしくはセックス)を求めてケニアを旅する彼女の母親にとっては、それは積年の失望の末の意識的な選択です。そして母親の姉は他でもなくイエスを愛し、だからこそ精神的で完全に知性的な性愛ですが、それがいささか行き過ぎてしまいます。地上で得られないものを、約束されたパラダイスである天国に望んでしまうのです。
──映画はルシアン・フロイドの絵画、例えば彼の描くヌードの致命的なはかなさを想起させます。人間の身体を演出することとは?また3部作に共通する現代の理想的な美への疑問はどこか生まれたのですか?
身体性はいつでも私の映画にとって重要です。至近距離から肌を捉え、ありのままの肉体性を見せたいのです。私にとってそれは正に美化しないということですが、人々がそこに美のようなものを見いだします。社会的圧力によって屈折してしまうのは問題です。女性たち、そして男性たちも、自分の身体を社会的に定められた基準に合わせようと一体何をしているのでしょうか。
(オフィシャル・インタビューより)
ウルリヒ・ザイドル プロフィール
1952年生まれ。オーストリアのウィーン在住。初期には山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞した『予測された喪失』や『Good News』『Animal Love』『Models』などのドキュメンタリー作品で数々の賞に輝く。初の長編『ドッグ・デイズ』は2001年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。2003年に制作会社Ulrich Seidl Filmproduktionを設立。続く『インポート・エクスポート』が2007年カンヌ国際映画祭コンペティション作品に選出される。4年を費やし制作された「パラダイス3部作」(『パラダイス:愛』『パラダイス:神』『パラダイス:希望』)は、世界三大映画祭であるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンのコンペ部門に相次いで選出され、『パラダイス:神』はヴェネチアで2度目の審査員特別賞に輝いた。
映画『パラダイス:愛/神/希望』
2014年2月22日(土)よりユーロスペースほか、全国順次ロードショー
『パラダイス:愛』
50代のシングルマザー、テレサは、一人娘のメラニーを妹アンナ・マリアの家に預け、ヴァカンスを過ごしにケニアの美しいビーチリゾートへやって来た。青い海と白いビーチに面したホテルはまるで楽園のよう。だがここでは現地の黒人青年(ビーチボーイ)が、白人女性観光客(シュガーママ)に“愛”を売っていた。
出演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング
原題:PARADISE: Love/120分
『パラダイス:神』
ウィーンでレントゲン技師として働くアンナ・マリアは、妹テレサのようにヴァカンスに出かけるでもなく、イエスのために夏休みの日々を過ごす。讃美歌や鞭打ちの苦行、聖母マリア像を携えての布教活動、それだけで休暇を過ごすにはありあまるほど。敬虔で頑固なカトリック教徒の彼女にとって、パラダイスはイエスと供にあるのだ。
出演:マリア・ホーフステッター、ナビル・サレー
原題:PARADISE: Faith/113分
『パラダイス:希望』
母テレサがケニアに行き、叔母アンナ・マリアが布教にいそしむ一方で、テレサの13歳の娘メラニーは夏休みの青少年向けダイエット合宿に参加する。人里離れた山奥で、規律正しく運動と栄養学のカウンセリングをくりかえす合宿はまるで軍隊のよう。子どもたちは大人たちの眼を盗んでバカ騒ぎをし、恋愛話で盛り上がる。
出演:メラニー・レンツ、ジュセフ・ロレンツ
原題:PARADISE: Hope/91分
監督:ウルリヒ・ザイドル
配給:ユーロスペース
公式サイト:http://www.paradise3.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/paradise3.jp
公式Twitter:https://twitter.com/Paradise3LFH