来日を果たすシンガポールのThe Observatory
アジアでインディペンデントに活動するアーティストを紹介するサイト・Offshoreの招聘により、シンガポールで活動するバンド・The Observatoryが来日。サンガツを迎えたイベントが12月7日(土)渋谷アップリンク・ファクトリーで開催される。当日は、バンドメンバーと観客とのQ&Aセッション、即興のライヴ・パフォーマンス、そして2バンドによるセッションという三部構成により、「音楽におけるアート」「音楽におけるシステム」を模索し続けていることを共通項とする両バンドの魅力を解剖する。開催にあたり、Offshore主宰の山本佳奈子さんに開催までの経緯、そして見どころを寄せてもらった。
2011年震災直後に始まったwebDICE連載記事『アジアン・カルチャー探索ぶらり旅』がきっかけとなり、Offshoreという私の一人プロジェクトはスタートした。日本人が誰も知らないアジアのインディペンデントカルチャー、音楽、アート、人、環境、そしてたまに現地の社会状況も、記事やイベントで紹介。このままガラパゴスを決め込んでいると日本はアジアから置いていかれるのではないか?と、アジアのローカルを見た私の焦燥感から始まったプロジェクトだ。イベントはトークイベントが主だが、今年8月にタイのオルタナティブ~シューゲイズ・バンド、Desktop Errorの来日ツアーのマネジメントも行なった。
Offshoreが今までに開催したイベント
http://www.offshore-mcc.net/2011/07/what-is-offshore.html
(ページ中程、Past Works参照)
実はタイDesktop Errorの来日が決定してすぐ、今年の春頃、シンガポールThe Observatoryのdharma(ダマ:Gt)から「日本でツアーしたいんだけど手伝ってくれないか?」と連絡があった。狭いアジア、しかも日本から日本以外のアジアに着目している人はごく少ないので、すぐに現地のバンドやアーティストと繋がってしまうのがOffshoreをスタートさせてからの私のネットワーク。
Facebookで毎日コツコツとアジアの友人から現地の情報を集めている私にとって、The Observatoryは、私が触れられない雲の上のバンドだと思っていた。シンガポールで10年以上にわたり活動し、そしてその音、テクニックは完全にプロフェッショナル。狂気的なノイズ、重低音で表現される音に対する哲学も独特。香港やマカオ、マレーシアのオーガナイザー達は皆、東南アジア孤高のバンドThe Observatoryに、敬意と信頼をよせている。
▼The Observatory『ACCIDENTAGRAM』
The Observatory本人直々の連絡に二つ返事で「やります!」と返事してツアーを組み立てていく。果たして、ポップな要素が皆無、どがつくほどアングラでコアなこのバンドのツアーに協力してくれる人が現れるのか。「やります!」と返信したものの、不安なツアー制作だった。今も多少。
しかし、“ミュージシャンズミュージシャン”、と誰かが形容したように、The Observatoryの音源や動画を知人友人のミュージシャンに紹介していくと、私が好きなミュージシャン達からは見事に絶賛された。
▼The Observatory 『Anger & Futility』
その中の一人がサンガツの小泉氏であった。
同じくサンガツも、私にとっては雲の上のバンドと思っていたのだが、昨年UPLINK ROOMで上映会+トーク『香港でライブハウスを運営するということ』(http://www.offshore-mcc.net/2012/11/blog-post_19.html)を開催した直後、小泉氏から私にメールが届いた。今のアジアのクリエイティビティの動向をチェックしていて、日本以外のアジアにも活動を広げたいので一度話をしてみたい、と。
サンガツ
一度東京でサンガツのメンバーと会って、「著作権放棄」の表明に至る経緯やサンガツが現在進めている音のクックパッドのようなプロジェクト『Catch & Throw』のことを聞き、対して私は自分が知る限りのアジアをすべてお伝えした。先日小泉氏はdommuneでのチェルフィッチュ特番でも少し触れていたが、「アジア人が西洋音楽を演奏することへの違和感」を感じているという。
The Observatoryから日本でのプロモーションのために届いたプロフィール文章の中に以下のような表現があった。
“機械的で示し合わせたような商業音楽の方法論を破壊するその音楽は、多民族国家シンガポールを拠点とする彼らの視点で描写された「哲学」とも言えるだろう。実験的、そして前衛的でありながら、東南アジアのルーツもほのかに漂わせる。”
サンガツとの共通項をひとつ見つけた。
▼バリのガムランとThe Observatory
The Observatoryが東南アジアで孤高の存在となっている理由のひとつは、彼らは音楽バンドでありながら“アート”の領域に積極的に踏み込んでいるという点だ。メンバーそれぞれは別ユニットやソロプロジェクトも進行しており、拠点シンガポールでは他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも多い。
この点も私はサンガツと通ずると感じた。日本のサンガツは“バンド”でありながらチェルフィッチュの音楽制作や映画音楽も制作し、舞台、アートの領域へ挑戦してきた。単なる音楽提供ではなく、その作品を一緒につくりあげるような共同制作を実践してきている。
▼The Observatoryとヴィジュアルアーティストたちによるインプロヴィゼーションパフォーマンス
▼サンガツ チェルフィッチュ『地面と床』レコーディング風景
ステージで曲を演奏したり、楽曲をCDやレコードにパッケージして発表するという方法のみにとどまらず、音という人間の聴覚に働きかける表現で様々な実験を繰り広げる両バンド。しかも、両バンドとも元々は西洋式のリズムや音階、奏法にのっとって演奏してきたが、アジア人のアイデンティティを意識し始めている。
これらの点で、The Observatoryとサンガツを会わせると共鳴するような予感がして、また、「音楽」と「アート」の境界線上を行き来しているバンドという点で、私はこの2バンドをお見合いさせてみたい気持ちになった。そしてその様子を公開したいと。
【サンガツ 小泉氏からの、今回のイベントに向けてのコメント】
微かな光の中鳴らされたメロディは遠鳴りし、ときおり残像のように浮かび上がる低音が全ての輪郭を溶かしてゆく。The Observatoryの音楽を聴くたびにここアジアでは光と影が一続きであることを思い出す。彼らの音楽がこの日本でどのような陰翳を見せてくれるのか、今からとても楽しみです。
──サンガツ 小泉篤宏
三部構成で進める今週末のこのイベントでは、まずはThe Observatoryに自己紹介として4人で演奏してもらい、第二部からサンガツの皆さんをお招きし、私とサンガツのみなさんでThe Observatoryにいろいろな質問を投げかけてみようと思う。政府からの芸術に対する助成が手厚いというウワサのシンガポールのリアルな話、また、バンドの経営、バンドを続けていくにあたって必要なリハーサルスタジオやハコの環境。そしてもちろん、アジア人としての音に対するアイデンティティの話も。
第三部では、サンガツのみなさんにもバラエティに富んだ楽器を持ち寄っていただき、この日初めて会う2バンドによる音を使った会話、つまりは即興セッションを公開。
この日初めて会う2組が、言葉と音でどのようにキャッチボールを繰り広げるのか。The ObservatoryとサンガツとUPLINKを巻き込んで行なうこのイベント、言い出しっぺである私も、最終的な結論や展開は予測不可能だが、音やアジアや表現の未来について、ご参加いただいた方に熟考する材料を与えられると確信している。60名定員の、実験室。ぜひ、この現場に居合わせてください。
(文:山本佳奈子)
「シンガポール、音楽とアートの環境」
(The ObservatoryへのQ&Aと即興ライブ with サンガツ)
2013年12月7日(土)渋谷アップリンク・ファクトリー
18:30開場/19:00開演
料金:予約2,000円/当日2,500円(共に1ドリンク別)
【第一部】
The Observatoryによるインプロヴィゼーションライブ
ACT : The Observatory (シンガポール)
【第二部】
Q&Aトーク
GUEST : The Observatory
INTERVIEWER : サンガツ / 山本佳奈子 (Offshore)
*ご来場された方々の質問も受け付けます。
【第三部】
2つのバンドによるインプロヴィゼーションライブ
ACT : The Observatory / サンガツ
ご予約はこちら http://www.uplink.co.jp/event/2013/19323