骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2013-10-31 19:43


民族紛争が続く東ヨーロッパに生きる、ひとりの女性の〈私的な戦争〉を描く『ある愛へと続く旅』

『赤いアモーレ』に続きペネロペ・クルスを主演に起用したセルジオ・カステリット監督に聞く
民族紛争が続く東ヨーロッパに生きる、ひとりの女性の〈私的な戦争〉を描く『ある愛へと続く旅』
映画『ある愛へと続く旅』のセルジオ・カステリット監督

民族紛争の続く90年代のボスニア、クロアチア、そしてイタリアを舞台に、ひとりの女性の生き方を描く映画『ある愛へと続く旅』が11月1日(金)より日本公開となる。
16歳の息子そして夫とローマで暮す女性ジェンマは、旧友からの誘いで青春時代を過ごしたサラエボを訪問。彼女はそこで自身の過去を回想する。当時彼女はアメリカ人の写真家ディエゴと恋に落ち、代理母の助けを借りて子供を授かる。しかし、サラエボに戦火が迫り、イタリアに帰るジェンマと現地に残ることになったディエゴは別れを余儀なくされる……。
監督のセルジオ・カステリットは2004年の『赤いアモーレ』に続き、妻であるマーガレット・マッツァンティーニの原作の映画化にあたり、ペネロペ・クルスを主演に起用。クルスは激動のヨーロッパを背景に、恋人や友人との20年以上にわたる関係を、女子大生から母親までリアルに体現している。カステリット監督に制作の経緯やクルスとの共同作業、小説を映画化する難しさについて聞いた。

小説を映画化する難しさ

──『赤いアモーレ』から8年、再びペネロペ・クルスを起用しましたね。なぜ彼女を選んだのか、そしてあなた方がどのように関係を維持してきたか教えてください。

私たちの関係は8年前に忘れられない経験となった『赤いアモーレ』を撮った時からになります。この映画の計画のため、パリで初めて彼女に会いました。彼女が本を読んで主人公のジェンマにほれ込んだんです。この映画は厳密に仕事という観点から非常に良い思い出となりましたが、個人的にもこんなに長い間友達関係を維持できるほど良い経験となりました。ペネロペはローマに来るたびに、家にご飯を食べに来るんですよ。今作の原作「Venuto al Mondo」のスペイン語訳が出版された時に、マーガレットが本を彼女に送りました。その時にペネロペは非常に頭のいい女優ですから、すぐに女優としてこの役柄に大きなチャンスがあると理解したんです。とりわけ彼女にとって初めてのブルジョア女性の役になります。それで私たちはこの2度目の冒険に乗り出したわけです。

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映画『ある愛へと続く旅』より ©Alien Produzioni / Picomedia /Telecinco Cinema/ Mod Producciones 2012

──原作をどのようにアレンジし、映画化を進めていったのでしょうか。

文学を映画化することはとても面白いし、複雑ですが、刺激的でもあります。すでに演出法も作家によって書かれた原作によって決まっていますし、人物も描かれています。筋やプロット、予想外の展開なども。マーガレットがよく言うように、本から映画を作るのは愛を殺してしまうようなものです。本は520ページと非常にボリュームがありますから、たくさん省略しなければなりません。あまり長時間の映画にしないために内容を削減し、再濃縮しなければならないのです。とても難しかったですが、いい点もありました。マーガレット・マッツァンティーニの文章はとても視覚的な文章なのです。すぐにイメージが呼びさまされる文章です。ですからそれを掘り起こし、言葉の奥にどんなイメージが隠されているかを見つける作業をしたんです。

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映画『ある愛へと続く旅』より ©Alien Produzioni / Picomedia /Telecinco Cinema/ Mod Producciones 2012

真実と偽りについての映画

──ボスニア戦争を背景としたこのラブストーリーの内容を話していただけますか。

ボスニア戦争は旧ユーゴ戦争で、ヨーロッパで一番最近あった戦争です。第2次世界大戦後、私たちヨーロッパ大陸は胎盤の中にいるように静かな平和を過ごしてきたわけですが、92年にこの宗教的、そして民族的な憎悪が勃発しました。私たちヨーロッパ人が忘れて、そっぽを向いてきた戦争でもあります。この戦争というフレームの中に、著者であるマーガレット・マッツァンティーニはジェンマという主人公の小さくて大きい私的な戦争を描きます。
ジェンマという女性は、愛する男性を見つけ将来を一緒に過ごしていこうという計画をたてている彼女の人生で一番美しい時期に、妊娠できないという事実を知ります。そして彼女はその事実をまるでハンディキャップを持っているかのように生きるのです。教養もあり、その苦しみをはねのける方法もあっただろうに、彼女はそれができないのです。それで何とかして子供をもつために、愛する男との子供を持つために、どんなことでもしようとし、非常にどう猛になります。

──ではこの映画は、「実現できなかった母性」そして「父親探し」が主なテーマとなるのでしょうか。

母性についての映画でもあり、父性そして同胞愛についての映画でもあります。友情、愛、憎しみについての、「忘却」と「忘却しない必要」についての、白と黒についての、真実と偽りについての映画です。

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映画『ある愛へと続く旅』より ©Alien Produzioni / Picomedia /Telecinco Cinema/ Mod Producciones 2012

──非常に豊かで多言語なキャストですが、選択にどのぐらいかかりましたか。

キャストを選び台本を準備するのは一番楽しい作業でした。この映画の中には成熟度や文化の違ういろいろなキャストが参加しています。ペネロペ、エミル・ハーシュ、アメリカの俳優もいれば、有名なスターも出ていますが、中には全く無名でも素晴らしいキャストもいます。ボスニアの素晴らしい俳優アドナン・ハスコヴィッチや、トルコ人女優で大変才能あるサーデット・アクソイ。アーティスト集団を演じるサラエボのボスニア人俳優グループなど。彼らがみんな一緒に演技をする姿を見られて感動しました。その瞬間は誰もがただ演じる役になり、文化の違いや、ふるまいの違い、ある意味での特権の差などを越えます。キャストは全員強い感動と信念を覚えながら、まさに役を演じる、そしてこの映画の中にいる必要性を感じているかのように取り組んでいました。

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映画『ある愛へと続く旅』より ©Alien Produzioni / Picomedia /Telecinco Cinema/ Mod Producciones 2012

──息子さんのピエトロもこの映画に出演していますね。他の俳優と比べて、監督として息子さんと接するのはどうでしたか。監督と父、どちらの視線で息子さんを見ていましたか。

作品の中では私の息子もピエトロを演じて出演しています。まだ20歳で、若いですから、俳優になるかどうかはっきり決めたわけではないのですが。これも非常に感動的な経験でした。息子に指示をだすというのは、他の俳優を扱うときより、こうるさくなってしまったり、手厳しくなってしまったりする危険があります。変に期待をしたり、要求が多くなりますから。まあでも、よくできたと思います。

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映画『ある愛へと続く旅』より ©Alien Produzioni / Picomedia /Telecinco Cinema/ Mod Producciones 2012

アーティストはメスでなければならない

──映画にはたくさんのクリエイティブな人物が多く登場しますね。詩人、俳優、カメラマン、インテリなど。アーティストの役割とはどういうものでしょうか。

私はアーティストはメスでなければならないと思います。傷を開かなければなりません。そしてなんらかの方法で感情を吐き出させなければなりません。何かを理解する必要性、理解するというよりは何かを推し量ろうとする必要性を引き受け、真実だと思われることを他人に示し、その審判を務められなければならないと思います。日常生活で人は十分罰を受けますから、探究と適度さに方向を合わせながら、絶対に罰することばかりを求めてもいけません。アートは私たちにいろいろなことを教えてくれ、時には人を罰し苦しめることもあります。でも最終的にはなんらかの方法で人を癒さなければなりません。

(『ある愛へと続く旅』オフィシャル・インタビューより)



セルジオ・カステリット プロフィール

イタリアローマ生まれ、ローマ在住。 ジャック・リヴェット、ジュゼッペ・トルナトーレ、エットーレ・スコラというヨーロッパの著名な監督の作品に多数出演し、俳優としてのキャリアを築く。1993年の『かぼちゃ大王』でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞最優秀主演男優賞、1995年の『明日を夢見て』でナストロ・ダルジェント賞最優秀主演男優賞を受賞、2001年の『マーサの幸せレシピ』でヨーロッパ映画賞男優賞を受賞した。妻であるマルガレート・マッツァンティーニのベストセラー「動かないで」を映画化した『赤いアモーレ』は、彼の監督第2作であり、脚本と出演を務めた。共演のペネロペ・クルスは、2004年に本作がカンヌ国際映画祭のある視点部門に選出されて国際的に高い評価を得た。




映画『ある愛へと続く旅』
11月1日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

ローマに暮らすジェンマのもとに、ある日1本の電話がかかってきた。それは青春時代を過ごしたサラエボに住む旧い友人ゴイコからのものだった。ジェンマは16歳になる息子ピエトロとの難しい関係を修復するためにも、彼を伴って自らの過去を訪ねる旅に出ることを決意する。
20年以上前サラエボに留学していた女子大生のジェンマは、そこでゴイコから若きアメリカ人ディエゴを紹介された。一瞬で恋に落ちた二人は、ひと時も離れていられないくらいの愛で結びつき、やがて結ばれ、ローマで新婚生活を送り始めたのだった。誰もが望むこと……愛する人との子供が欲しい。しかし、ジェンマの小さな夢は無残にも打ち砕かれてしまう。

監督・脚本:セルジオ・カステリット
原作・脚本:マルガレート・マッツァンティーニ
出演:ペネロペ・クスル、エミール・ハーシュ、アドナン・ハスコヴィッチ、サーデット・アクソイ、ジェーン・バーキン
2012年/イタリア・スペイン/イタリア語・英語・ボスニア語/129分/カラー
原題:VENUTO AL MONDO
英題:TWICE BORN
PG12
配給:コムストック・グループ
配給協力:クロックワークス

公式サイト:http://www.aru-ai.com/
公式Twitter:https://twitter.com/aruaimovie/
公式Facebook:https://www.facebook.com/aruaimovie

▼『ある愛へと続く旅』予告編


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