映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』のリズ・ガルバス監督
初公開となる自筆のメモや詩、手紙をもとに大女優の内面に光を当てるドキュメンタリー『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』が10月5日(土)より公開される。ジョー・ディマジオとの結婚・離婚会見などアーカイヴ映像、そしてユマ・サーマン、リンジー・ローハン、グレン・クローズ、エレン・バースティンなど10人の現役女優が彼女の心の声の語り部として登場し、様々な角度からマリリン・モンローの実像に迫ろうとしている。リズ・ガルバス監督に制作の経緯、そして映画を通して感じた〈人間・マリリン・モンロー〉について聞いた。
マリリンの知られざる歴史が隠されていた紙切れ
── あなたはこれまで多くのドキュメンタリーを制作されてきましたが、以前からマリリン・モンローに興味があったですか?
私はもともとマリリン・モンローの熱狂的なファンではなかったの。彼女のことは一人の女優や女性としてより、写真の中のアイコンだったり伝説的人物と捉えていた。自分の人生とは全くかけ離れていると思っていた。そうでしょ?彼女は1950年代のハリウッドの経済システムの中で、並外れて卓越したカメラとの相性をもち、スターダムを登りつめたスターよ。かたや私は、ただの映画製作者で2人の子を持つ母親。仕事と2人の子供のバランスを取ることが永遠のライフ・ワークなんだもの。
映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』より ©2012 Diamond Girl Production LLC - All Rights Reserved
── では、彼女について強い興味を持つきっかけがあったですか?
2010年、ボビー・フィッシャーのドキュメンタリー映画で製作を担当してくれたスタンリー・バックサルから、彼が編集中の本の話を聞いたの。それはマリリン・モンローが残した手紙、詩、メモなど未公開文書を集めた本(「マリリン・モンロー 魂のかけら」青幻舎刊)。ドキュメンタリー映画の製作者じゃなくても、セレブの“未公開”ものは気になるでしょ。中を読むと、やることリストやレシピメモからビジネス・レターや書きなぐりの詩……。どんどん深く掘り下げていくにつれ、彼女の恋人や友達へ宛てた文章はもちろん、何よりも彼女から彼女自身への訓戒に釘付けになったの。
そこには誰も知らないマリリンがいた。そしてそれは彼女自身が捉えた1人の女性だった。その紙切れには、20世紀の文化人で最も影響力のある人物の、知られざる歴史が隠されていたわ。彼女の私的で、繊細で、深く心を動かす文章は彼女に対する私の理解を変えた。それは驚きであり、感動的な体験だったの。
何よりも、彼女を理解していくことが自分自身を発見する旅にもなった。彼女の文章を読むことで、この女性に対する私の独断的な見方、それを彩った性的偏見、そしてそれをかたどった純朴さに気付いた。そして、マリリンは少なくとも、私たちと変わらない共感できる存在だったという事がわかったの。
映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』より ©2012 Diamond Girl Production LLC - All Rights Reserved
等身大の女性としてのマリリンを表現
── その資料から発見した新たなマリリン・モンローとは、どんな女性ですか?
彼女はプリマドンナで、すぐに不倫をして、力ある男たちの女で、気まぐれ屋という表向きのイメージがあった。けど、その裏側には、仕事と家庭の両立に悩む妻であり、キャリアをつかむためにセックス・アピールを利用する(ただそれを恥ずかしがらずにやってのけた)女優でもあり、自分の演技を磨くために休むことなく学び続ける役者であり、自分の利益のためにスタジオのシステムを操る手腕を持ったビジネスウーマンであり、誠実かつ寛大な友人のような存在だったの。すべてを通すと1人の人間として称賛すべき資質が見えてきたわ。
── この映画にもあるように、マリリンについてはこれまで数多くの書籍や映像作品が発表されてきました。そうした既存の作品とはどのような違いを生み出そうとしましたか?
マリリン・モンローについては既に映画、絵画、伝記、小説、写真、テレビといったほとんどのメディアで多くが語られていて、どうすれば私が体験したマリリン再発見の旅を観客にも体験させることができるかが課題だった。そこで、私でさえマリリン神話の裏に隠された部分に共感できたのだから、ハリウッドで活躍する女優たちはよりこの題材に強いつながりを感じることができる気がしたの。彼女たちの個人的な解釈で、マリリン自身の色々な面に命を吹き込んでくれるはず、と。
映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』より ©2012 Diamond Girl Production LLC - All Rights Reserved
── マリリンの語り部となった女優たちはどんな反応を示しましたか?
マリリンの“やることリスト”を見て、「女優はみんな同じようなリストを作ってるわ!」とユマ・サーマンが言ってたわ。マリリンと知り合いで一緒に仕事をしたこともあるエレン・バースティンからマリリンのイメージにファッション面で影響されているリンジー・ローハンや、マリリンのことを深く考えたことがなかったグレン・クローズやヴィオラ・デイヴィスまで、私は現代のこの女性たちとマリリンの間に深い共通点を目の当たりにした。それぞれの女優がマリリンの異なる要素に重なっていた。だから彼女たちが本を読む間、私はそのイメージを彼女たちから引き出したかった。
映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』より ©2012 Diamond Girl Production LLC - All Rights Reserved
── 他にも関係者やマリリンの評伝の著作者など多様な人物にインタビューしていますね。
このマリリンに関する新しい素材に命を吹き込みたかったの。これまでに嫌気がさすほど語り尽くされた、おそらく真相は闇に包まれたままのスキャンダルと同じものにはしたくなかった。
私たちみんなが知っているマリリンへの理解を変える要素を本から取り出したかった。トルーマン・カポーティ、ナターシャ・ライテス、エリア・カザン、リー・ストラスバーグのように彼女と交流のあった人から、ノーマン・メイラー(「マリリン その実像と死」73年、継書房刊)」、グロリア・スタイネム(「マリリン」87年、草思社刊)のように本人と一度も会ったことはないけど、彼女のイメージを作り上げるのに貢献した人までね。
── この映画の制作を通して、マリリンの新たな側面を映像化できたと思いますか?
つまるところ、この作品はマリリンからマリリンへのラブレターよ。この映画を観た人に、彼女をファンタジーの対象ではなく、一人の人間として捉えてもらいたい。ノーマン・メイラーが“性の天使”と捉え、グロリア・スタイネムが“愛想の良い半分人間(半分女神)”と捉えたように、彼らと同じ作家として私はただ彼女の中に恋人と仕事人のプロとしての葛藤を見つけたかっただけなのかもしれない。でも、何よりマリリン自身が彼女の人生をかけてやりたかったこと、等身大の女性としての彼女を表現したいと思ったの。
(映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』オフィシャル・インタビューより)
リズ・ガルバス プロフィール
1992年にブラウン大学を卒業。Open Society's Centerで犯罪、コミュニケーションおよび文化のフェローを務めている。処女作のドキュメンタリー映画"THE FARM: ANGOLA, USA"がサンダンス映画祭で審査員大賞を受賞、1998年のアカデミー賞Rにノミネート、そのほか10の映画祭や賞に取り上げられ一躍有名なドキュメンタリー監督の仲間入りを果たす。2011年" Bobby Fischer Against the World "がサンダンス映画祭で、プレミア・ドキュメンタリー部門でのオープニング作品に。そしてエミー賞のノンフィクション・スペシャル部門にノミネートされた。その他の作品には"The Execution of Wanda Jean"、スーザン・サランンドンやジュリア・オーモンドがナレーションを務めた"The Nazi Officer’s Wife"、"Girlhood"、アカデミー賞Rにノミネートされた"Street Fight"、"Xiara’s Song"、2007年のエミー賞でノンフィクション・スペシャル番組部門賞を受賞した"Ghosts of Abu Ghraib"、"Coma"、"Shouting Fire: Stories from the Edge of Free Speech"、アカデミー賞Rにノミネートされた"Killing in the Name"など。
映画『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』
10月5日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:リズ・ガルバス
出演:マリリン・モンロー
ユマ・サーマン/グレン・クローズ/マリサ・トメイ/リンジー・ローハン/
エイドリアン・ブロディ/エレン・バースティン/ベン・フォスター/ポール・ジアマッティ
2013/アメリカ・フランス/英語/ビスタ/5.1ch/108分
翻訳:伊原奈津子
原題:LOVE,MARILYN
配給:ショウゲート
©2012 Diamond Girl Production LLC - All Rights Reserved
公式サイト:http://marilyn-movie.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/marilynmovie1005
▼『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』予告編