骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-03-23 13:55


物語の力とソウゾウ力で、思い込みから解放されろ!

映画は真実より奇なり!映画『暗闇から手をのばせ』『ぼっちゃん』Wレビュー
物語の力とソウゾウ力で、思い込みから解放されろ!
左:映画『暗闇から手をのばせ』より ©2013 戸田幸宏事務所 右:映画『ぼっちゃん』より ©Apache Inc.

TPP参加交渉決定!うおー!困ったなーと感じてる時に、映画『暗闇から手をのばせ』(製作・監督・脚本:戸田幸宏)を鑑賞したのです。お話は、健常者を相手するより楽かな……と感じて障害者専門デリヘルの世界に入る沙織(小泉麻耶)が主人公。沙織は障害者との仕事(コミュニケーション)にショックを受けるが、店長(津田寛治)の突き放しつつも優しい助言などのフォローを受け、少しずつ自分の価値観を再構築してゆく。そして思わぬ事が起る……。

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映画『暗闇から手をのばせ』より ©2013 戸田幸宏事務所

数々の原作・脚本を書き、NHKのディレクターをつとめてきた戸田監督は、障害者専門のデリヘルを取材し作ったドキュメントの企画がNHKに拒絶され、自己資金でフィクション化したのです。しかもこれが初監督作品!!

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映画『暗闇から手をのばせ』より ©2013 戸田幸宏事務所

障害者の性の問題は語ること自体が問題視されている。そして、ある意味、障害者は「ピュア」な存在として扱われる。しかしながら、それは大多数の健常者の思い込みによってイメージされたものだ。障害者とのベッドでの行為、会話はドキュメントタッチで描かれリアルで、観客の思い込みは沙織が経験するように壊れ、考えてしまう。心の思いや欲、そして生きていく事は障害者も健常者も一緒であるが、デリケートな距離感が存在するのです。その距離感を埋めようとする行為は逆に沙織を苦しめるのです。残酷なテーマ設定だが、後半には人間に対しての希望を見つめることのできる作品。戸田監督の物語る力を感じた映画なのです。で、小泉麻耶の体当たり演技は、エロイ!!ホーキング青山とのシーンはユーモアもあるし、全編を通して繊細で力強い演技なのでした。いろいろあるけど生きていく人間そのものを描いた、心に深く染みる作品なのでした。

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映画『暗闇から手をのばせ』より ©2013 戸田幸宏事務所

TPP交渉参加決定!うおー!まじで困ったなと考えすぎてる時に映画『ぼっちゃん』(脚本・監督:大森立嗣)を鑑賞したのです。秋葉原で派遣労働者として働き、インターネットの掲示板に孤独な叫びを綴っている梶(水澤紳吾)。派遣先の長野の工場で、突然気絶するように眠る奇病持ちの田中(宇野祥平)と出会い、田中の繊細な優しさに触れ初めて友情を感じる。しかし職場の同僚で元スピードスケートの国体選手だという岡田コウジ(淵上泰史)と名乗る男前は、暴力で梶を従えさせる。そして梶と田中は、彼から逃げてきたユリ(田村愛)という美人をかくまい、岡田の隠された秘密を知る。リストラ、裏切り、愛への渇望……。

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映画『ぼっちゃん』より ©Apache Inc.

2008年に起った秋葉原無差別殺傷事件をモチーフにして作られた映画なのです。しかし、実際の事件のインパクトと犯人の動機の「わからなさ」は大きくて、このシーンは笑っていいのか?と戸惑ったりしたのです。家庭環境が原因とか、精神疾患の疑いとか、事件の真相を思い込みで「わかろう」とするのでなく、そして「わからない」から狂人として描くのでなく、丁寧にキャラクターを設定し、物語を作っているのです。必死にもがき、叫び、生きて、とことんダメで、特に後半の修羅場では笑っている自分に気がついたのです。梶、田中、岡田の中にある友情に関する些細な誠実さは滑稽だけれども、だからこそ残酷であると感じたのです。

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映画『ぼっちゃん』より ©Apache Inc.

殺人事件という絶望の先にある事実は無くならないが、絶望の底に沈む梶の人間味のある描き方、ダメダメな人間関係の描き方の先に、こういう人であったならば、あの事件は起らなかったかも……と微かな光を感じたのでした。監督の表現欲は凄まじく、唐突だが効いてるアニメーション、大友良英の不思議なJAZZなど、相反するものを緻密に大胆に描く独特に表現された、力のある作品なのです。

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映画『ぼっちゃん』より ©Apache Inc.

結論、両作品とも物語の力、独特な表現のソウゾウ力に溢れた問題作!いろいろ感じて、本当にいろいろ考え、思い込みから解放され、映画は真実より奇なりと感じた力品なのです。




【映画『暗闇から手をのばせ』を観て思い出したキーワード】
セックスボランティア
大森みゆき著『私は障害者向けのデリヘル嬢』
映画『おそいひと』(柴田剛監督)
映画『エル・トポ』(アレハンドロ・ホドロフスキー監督)
映画『オアシス』(イ・チャンドン監督)

【映画『ぼっちゃん』を観て思い出したキーワード】
映画『青春の殺人者』(長谷川和彦監督)
映画『ブルーベルベット』(デイヴィッド・リンチ監督)




松本章(まつもとあきら、音楽・ふーてんき)プロフィール

1973年生まれ、大阪芸術大学映像学科卒。本名松本章、伊勢男子、とあるバンドを脱退し現在高円寺当りに在住。ふーてんきの音楽担当。熊切和嘉監督作品、山下敦弘初期作品の映画音楽をプロデュース。熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』、内藤隆嗣監督『不灯港』、山崎裕監督『トルソ』、今泉力哉監督『こっぴどい猫』、内藤隆嗣監督『狼の生活』、吉田浩太監督『オチキ』などの音楽を手掛けた。
Twitterは @akiraise
blogは http://ameblo.jp/akira-toumei/




映画『暗闇から手をのばせ』
3月23日(土)より、渋谷ユーロスペースにてレイトショー

沙織は障害者専門のデリヘル嬢。軽い動機でこの業界に飛び込んだ彼女は出勤初日からショックを受ける。全身タトゥーの入った進行性筋ジストロフィー患者、自らの病気をネタに本番を要求する客、そしてバイク事故で自由を奪われ、殻に閉じこもる少年……。しかし“それでも生きていく”ことを選んだ彼らに接するうち、沙織の中の何かが音を立てて崩れ去っていく……。

出演:小泉麻耶、津田寛治、森山晶之、管勇毅、松浦佐知子、ホーキング青山、モロ師岡
監督・脚本:戸田幸宏(第一回監督作品)
プロデューサー:太田隆文、戸田幸宏
撮影:はやしまこと(J.S.C.)
照明:吉角荘介
録音:丸池嘉人
美術:竹内悦子
編集:坂本久美子
整音・音響効果:小牧修二
製作:戸田製作事務所
2013年/日本/68分/カラ―
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
宣伝協力:アムモ98
2013 戸田幸宏事務所
公式HP:http://kurayamikara.com
公式twitter:https://twitter.com/kurayamikara


映画『ぼっちゃん』
渋谷ユーロスペースにてロードショー公開中

秋葉原の歩行者天国。派遣労働者の梶知之は携帯の掲示板サイトに自身のコンプレックスや孤独な叫びを書き込んでいる。長野県佐久市の工場に勤務することになり、そこで出逢ったのが期間工の田中さとし。小心で孤独なふたりは空白の日々を埋め合わすように遅れて来た青春を謳歌する。ふたりを虐げる傲慢でイケメンの同僚・岡田コウジは、梶を下僕のように扱う。ある日岡田が連れていた美人の女ユリが岡田から逃げてきて、ふたりはかくまうことになる。少しづつ歯車が歪に軋み始めていくなか、梶の行き場はどんどんなくなっていき、追い込まれて行くのだった。

監督:大森立嗣
出演:水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、田村愛、鈴木晋介、遠藤雅、今泉惠美子、三浦景虎、日向丈
プロデューサー:村岡伸一郎、近藤貴彦
脚本:大森立嗣
共同脚本:土屋豪護
撮影:深谷敦彦
美術:黒川通利
編集:早野亮
音楽:大友良英
録音:島津未来介
製作・配給:アパッチ
2012年/日本/130分/カラ―
公式HP:http://www.botchan-movie.com
公式twitter:https://twitter.com/botchan_movie




▼『暗闇から手をのばせ』予告編


▼『ぼっちゃん』予告編


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