骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2013-01-16 13:06


無くなったものを埋め合わせる人との関係性、それが愛なのかも

『愛について、ある土曜日の面会室』『フラッシュバックメモリーズ 3D』Wレビュー
無くなったものを埋め合わせる人との関係性、それが愛なのかも
写真左:映画『愛について、ある土曜日の面会室』より 写真右:映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』より (C)2012 SPACE SHOWER NETWORKS INC.

色んな意味で負け犬感が残り過ぎた2012年の年末に一番苦手な「愛」がタイトルの『愛について、ある土曜日の面会室』(監督・脚本/レア・フェネール)を鑑賞したのです。お話は刑務所の面会室を中心として、3つの物語が交錯する。

サッカー好きのお嬢様の少女・ローラと自由すぎる不良な若者アレクサンドルと恋人になるが、アレクサンドルは逮捕され、未成年のローラは面会が出来ず思案するが、思わぬ現実がローラに起こる。金もない、恋人とも、親との関係も上手くいかず不器用なステファンに偶然にもピエールと知り合いステファンの外見がそっくりな受刑者と「入れ替わる」という多額な報酬を支払われる依頼を受ける。アルジェリアに住むゾラに息子が殺されたという知らせを受ける。ゾラは犯人の姉に偶然を装い交流を深め、姉の面会も拒否している犯人の弟に会いにいくことを提案する。ゾラは息子の知らない生き方を辿る……。

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映画『愛について、ある土曜日の面会室』より

レア・フェネール監督は女性監督であり28歳でこの初長編作品を完成させた若き才能の固まりであり、監督自身は刑務所の面会人のボランティアをしていたのでその経験がいかされ、面会室のシーンのちょっとした会話などドキュメントタッチでリアルである。

3つの物語の頂点を同じ日の同じ時刻で描くのは、かなりの表現としてのトリッキーな冒険であると思うのです。泣ける思い、ハラハラする思い、安心する思いなど3つの物語への心の動きで非常に忙しくなるのです。監督の表現への試みは凄く伝わったのですが、この話のラストはもー少し観たいとか、この映画は4時間ぐらい観たいとか思ったりしたのです。だが、28歳!!というのは凄い!細かいディティールが良かったのです。傷とか血のりとか……フランス現代社会(多分制作時はサルコジ政権で、新自由主義の弱者切り捨て……移民の問題とか……)の歪みも描き、人間の心の弱さ強さの対比を冷静に優しく描いてるのです。

しかしながら刑務所の面会室はまるで三途の川のような場所で、次の人生の為の約束を交わす(できない受刑者もいるが)場所で、存在、関係性の不在が如何に双方に深い傷を残すか?そしてそれを埋めていくのは時間の経過なのか?それを埋める関係性を築かなければいけないのか?と考えたりしたのでした。

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映画『愛について、ある土曜日の面会室』より

2013年になり初富士を観たので、今年は良い歳にするぞ!!と決意して、『フラッシュバックメモリーズ 3D』(松江哲明監督/主演:GOMA)を観たのです。自宅でDVDで鑑賞したので2Dなんですが……けど兎に角良かった!!良すぎなのです。

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映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』より (C)2012 SPACE SHOWER NETWORKS INC.

お話は、2009年11月26日にディジュリドゥ演奏者・GOMAが首都高速で追突事故に遭遇し、脳に障害が残り過去の記憶の一部がなくなったり、楽器も認識できなかったGOMAがリハビリ期間中に書いた日記、妻すみえの日記を交え、渋谷WWWでのライブ映像を基軸に過去の映像、GOMAが事故後作画した原始的な色の広がり、岩井澤などの手書きアニメーションなど多重に交錯する。これが3Dの脳内映像表現なのか!

生きる力と音楽の力、そして松江監督の映像表現のどん欲な力に圧倒されるのです。GOMAの事故後からの「覚えられない」という障害のリハビリを色んな苦労や苦痛もあったと思うのですが、それが全面に出ておらずシンプルなGOMA、妻の日記の言葉で表現されていて、その辛さよりそれでも「生きる」という圧倒的な力強さがあるのです。GOMAという音楽家を全面に出し、監督は裏方に徹しているのです。松江監督のGOMAという音楽家への愛情を感じたのです。

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映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』より (C)2012 SPACE SHOWER NETWORKS INC.

純粋なそぎ落とされた音楽は無限の広がりと響きをもたらし、細胞レベルで気持が良すぎるのです。音響も凄いのです。この映画は、ドキュメントなのか?音楽映画なのか?というカテゴライズはどうでも良くて、GOMA家族と松江監督の生きる事、音楽、ドキュメント映画への「愛」のある奇跡の作品!!フラッシュバックというネガティブな定義の言葉がポジティブに感じた映画のです。きっと3Dで枠からはみ出てるワクワク映画なのです。「これが映画だ。」というキャッチコピーをそのまま返答したい強度のある傑作!!

結論、両作品ともリアルな交錯がある作品で先端の感度が詰まった作品なのです。人は独りだけど、独りでは生きていけない、その関係性が愛なのかもな、と感じたのです。再生には、本人の気持ちも大切だが、独りきりでなく、人との関わりが大切なのです。
にしても『フラッシュバックメモリーズ 3D』は物凄い映画なのです。語りでしたら止まらない……もはや客観的に観られません……すみませぬ……。




【『愛について、ある土曜日の面会室』を観て思いだしたキーワード】
映画『ある子供』(2005年)
映画『刑務所の中』(2002年)
ミシェル・フーコー著『監獄の誕生―監視と処罰』
映画『バーダー・マインホフ 理想の果てに』(2008年)

『フラッシュバックメモリーズ 3D』を観て思いだしたキーワード
グレン・グルードの晩年のゴールドベルグ変奏曲のDVD




映画『愛について、ある土曜日の面会室』
シネスイッチ銀座にてロードショー公開中

フランス・マルセイユ―ロール、ステファン、ゾラは、同じ町に暮らしていてもお互いを知らない。 ──サッカーに夢中な少女ロール。ある日、初恋の人アレクサンドルが逮捕されてしまうが、未成年のロールは面会ができず、想いを募らせてゆく……。仕事も人間関係もうまくいっていないステファン。偶然出会ったピエールに自分と瓜二つの受刑者と「入れ替わる」という奇妙な依頼を持ちかけられ、多額の報酬に心は揺らぎ出す……。息子が殺されたとの訃報を受けたアルジェリアに暮らすゾラ。突然の死の真相を探るためにフランスへ渡り、加害者の姉セリーヌと接触し交流を深めてゆく……。──ある土曜日の朝、3人はそれぞれの悲しみや痛みを受け入れ、運命を切り開くために刑務所の面会室へと向かう……。

監督:脚本:レア・フェネール
出演:ファリダ・ラウアッジ、レダ・カテブ、ポーリン・エチエンヌ、マルク・ロティエ、デルフィーヌ・シュイヨー、ディナーラ・ドルカーロワ
原題:Qu'un seul tienne et les autres suivront
2009年/フランス/35ミリ/1:1.85/ドルビーSRD/120分

※詳細は公式HPにて

映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』
2013年1月19日(土)より、新宿バルト9にて、2週間限定3D上映他、全国順次公開

2009年11月26日に首都高速で追突事故に遭遇したGOMAは、記憶の一部が消えてしまったり新しいことを覚えづらくなるという高次脳機能障害の症状が後遺し、後にMTBI(軽度外傷性脳損傷)と診断された。一時はディジュリドゥが楽器であることすらわからないほど記憶を失っていたGOMAがリハビリ期間を経て徐々に復活する過程を、GOMAと妻すみえの日記を交えて振り返りつつ、突然異なる映像が頭の中に飛び込んでくる症状「フラッシュバック」をアニメーションで表現。WWWで行なわれたGOMAのスタジオライブの模様と過去映像、そしてフラッシュバックが共存する、文字通り「全く新しい形の3D 映像作品」であり、まぎれもない「家族愛の物語」である。

監督:松江哲明
出演:GOMA&The Jungle Rhythm Section
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
製作・宣伝:SPACE SHOWER NETWORKS INC.
2012年/72分/日本

※詳細は公式HPにて




松本章(まつもとあきら、音楽・ふーてんき)プロフィール

1973年生まれ、大阪芸術大学映像学科卒。本名松本章、伊勢男子、とあるバンドを脱退し現在高円寺当りに在住。ふーてんきの音楽担当。熊切和嘉監督作品、山下敦弘初期作品の映画音楽をプロデュース。熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』、内藤隆嗣監督『不灯港』、山崎裕監督『トルソ』、今泉力哉監督『こっぴどい猫』などの音楽を手掛けた。
Twitterは @akiraise
blogは http://ameblo.jp/akira-toumei/




▼映画『愛について、ある土曜日の面会室』予告編


▼映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』予告編



キーワード:

松江哲明 / GOMA / レア・フェネール


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