骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2013-01-08 13:05


「女子高生と言えばこんな感じ、という分かりやすい描き方はしたくなかった」

社会への憤りを淡いモノクロームで描く青春映画『ももいろそらを』小林啓一監督インタビュー
「女子高生と言えばこんな感じ、という分かりやすい描き方はしたくなかった」
『ももいろそらを』より (C)2012 michaelgion All Rights Reserved.

一昨年の第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞した『ももいろそらを』は、等身大の女子高生を、透きとおるような淡いモノクロームで描いた、異色の青春映画だ。
その静溢な映像美に反比例するかのように、強い印象を残すのは、子供から大人になる少女の多感で複雑な心象風景を、ビビッドに浮き彫りにさせているからだろう。

主人公の川島いづみは、下町人情に厚く、寅さんをこよなく愛し、“新聞記事を批評・採点する”という一風変わった趣味を持つ女子高生。ある日、大金の入った財布を拾ったことがきっかけで、彼女は新しい人や世界と出会う。そして、いまいる場所から一歩踏み出そうとする。

心や頭の中は、不条理な社会の仕組みに対する憤りでいっぱいなのに、まだ何をすべきかわからずに、自分自身を持て余してしまう時代。それは思春期に限らず、一生繰り返して訪れる季節のようなものだろうかと思う。

小林啓一監督は、これまでミュージックビデオなどを中心に映像制作してきたが、本作は初めて撮った長編映画になる。「この作品が受け入れられなければ、映像の仕事は辞めて、他の仕事を探そうと思っていた」という覚悟の上で撮られた作品だけに、この作品は“川島いづみ”という女子高生の成長物語であると同時に、監督自身、そして監督が拾い上げた社会の肉声が、モノクロームの映像とともに、しっかりと編み上げられ、スクリーンへと反映されている。

結果、本作品は、東京国際映画祭を封切りに、サンダンス映画祭やロッテルダム国際映画祭など、世界14ヵ国、20以上に及ぶ国際映画祭で上映され、好評を博した。11月に行われたスペインの第50回ヒホン国際映画祭では見事、グランプリを受賞。そしてようやく1月12日から、先月末にオープンした東京の新しいミニシアター・新宿シネマカリテで封切られることになった。オープン前の真新しい劇場内で、その製作過程や作品への思いなど、小林監督に話を聞いた。

“バカになって生きるのが
大事だなあ”って思うんですよ

── お金に翻弄される人々や、新聞を採点する評論家まがいの女子高生。全編にわたって、作り手である監督の、社会に対する憤りが聴こえてきそうな作品でした。

それはありますね。例えば、メディアにしても、嫌なことは、ぱっと報道されたり伝わっていきますが、いいことはあまり伝わらない。そういう世の中って、どうなんだろうって。いま振り返るとストーリーは、どう思いついたのかまったく憶えてないんですが、はじめから、「お金が回る話にしよう」とは思っていました。いづみの台詞でもありますが、お金って紙じゃないですか。それをみんなでありがたがっているというのは不思議だなあと思っていて。それで、お金に振り回されたりする人を描こうとは思っていましたね。

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『ももいろそらを』の小林啓一監督

── そうした状況下で、はじめは、いづみだけが冷静で、妙に達観しているというか、周りの人を俯瞰して見ていますよね。

登場人物の中で、いづみ以外は、みんな本能のまま生きている人たちとして描こうと思いました。お金に正直だったり、恋愛に生きていたり。その中で、いづみは、一生懸命に生きている人たちを、ちょっとバカにしているんです。いろいろキツいことも言うけれど、わりと受け身で、自分からは行動しないですし。

でも、これは映画の話ではありませんが、僕は、結局、自分が“バカ”になって生きるのが大事だなあって思うんですよ。自分を守ろうとすると、何かにしがみつこうとしたり、不本意に他人を傷つけることしがちですから。

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『ももいろそらを』より (C)2012 michaelgion All Rights Reserved.

── なぜモノクロームにされたのですか。

いまこの瞬間の“現在”も、時間の流れとともに、どんどん“過去”になっているじゃないですか。それが作品のテーマのひとつでもありますが、観ている人に、そういう感覚を伝えたかったんです。撮影された風景や登場人物は現代風なのに、どこか昔風という感じが伝われば、と思いました。

それから、きれいな映像を撮りたかったというのがあります。はっきりした白黒ではなく、淡い水墨画のような映像がほしかった。

── 毛筆の作品タイトルも印象的ですね。

これは、僕の祖父が書いてくれたんです。特に書道家という訳ではなく、学校の先生だったんですが、ずっと趣味で書いていたので、お願いしました。でも東京国際映画祭のちょっと前に亡くなったんです。祖母は、「この作品とともに、書道家として作品が世界をまわれたのだからよかった」と言ってくれましたが。

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『ももいろそらを』より (C)2012 michaelgion All Rights Reserved.

── それも作品のテーマにつながるようなエピソードですね。ところで、女子高生3人は演技経験がほとんどない方を役者に起用されていると聞きました。どのように演技をつけられたのですか。

とにかくリハーサルをたくさんやりましたね、1週間ほぼ毎日。20回ぐらい(リハーサルを)やって、さらに本番で20回ぐらい撮ったりして、1日1シーンという日もありました。何度も繰り返しやっていると、自然に台詞が出てくるようになります。台詞を“言葉”で語ろうとする力が抜けて行くっていうか。普段の生活で感情を込めて話をするってあまりないですから、いかにそこに近づけられるか、いわゆる感情表現や“我”を抜かせるのが狙いでした。現場では「演技の上に演技を重ねることを意識して」と、よく言っていましたね。

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『ももいろそらを』より (C)2012 michaelgion All Rights Reserved.

人をちゃんと描いた
青春映画が撮りたい

── これが初めて撮られた長編作品とのことですが、きっかけは何だったのでしょうか。

まずはじめに「自分で映画を撮るんだったら青春映画にしたい、そうじゃなきゃいけないんじゃいけないか」って気がずっとしていて(笑)。じゃあ、女子高生を撮ろうと思いました。

── でも異色のヒロインで、異色の青春映画ですよね。

女子高生って、わりと偏見の目で見られる典型的な存在だと思うんですよ。それを払しょくしたいというか。メディアがステレオタイプに描きがちな存在を、ちゃんと描きたいっていう思いから始まりました。いまの日本映画を観ていると、その中で出て来る高校生はやけに背伸びし過ぎているのに、観ている人にはそれがリアリティと思われている節があります。でも、僕は必ずしも、そうではないと思っていたんです。メディアって、どうしても(対象となる人を)ジャンル分けをして、アイコン化して描いてしまいがちなんですよ。

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『ももいろそらを』より (C)2012 michaelgion All Rights Reserved.

── 小林監督は、これまで制作会社でアーティストのミュージックビデオの映像制作などのお仕事をされていますが、メディアの作り手として、仕事をする上でジレンマをお持ちだったのでしょうか。

そうですねえ。例えば、“女子高生と言えば、こんな感じでしょう?”という風に描きがちになりますよね。撮影現場でも、“それがわかりやすい”っていうことだけの仕事が求められる。そういう中で僕は、「それでいいのかなあ?」って、なんとなくずっと思っていたんです。でも上手いこと出来ている人たちはいっぱいいるんですけど、僕は、どうしてもそつなく作ることができなくて。そうしたことを表現する才能がないと気づいて、上手に作ろうと頑張るのは、もうやめようと思ったんです。

── わかる気がします。メディアの仕事は“多くの人に伝わりやすいように”、型にあてはめて描いたり、伝えることを求められることって少なくないですよね。

例えば、僕の次回作は、おたくのカップルが1泊2日で東京に来る話なのです。おたくも女子高生も、本当はエネルギーがある人たちだと思うんですよ。なのに疲れている人たちとしてしか描かれない、メディアに現れないって、かわいそうだと思うってしまうんですよね、なんか。

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『ももいろそらを』より (C)2012 michaelgion All Rights Reserved.

── そういう違和感と、仕事の現場で求められるものの折り合いがつかなかったということでしょうか。

こんなこと言うのもあれですけど、今売れているものが100%いいと思えないんです。だから、仕事で撮影をする時に、「もう少し、売れ線っぽい感じで撮りたい」と思っても、どうしてもそこにいけないんですよ。それに、目を閉じることもできないし、でも、仕事をする上では、いろいろ勉強もしないといけないし。でも文句ばかり言っていても仕方がないから、もう自分で作品を撮って、それを世の中にジャッジしてもらおうと思いました。いま40歳なんですが、この作品を撮った時は38歳で、これで駄目なら、もう映像の仕事は辞めよう、違う仕事を探そうと思っていたんです。

── では本作が国内外の映画祭で上映されて大きな反響があって、これまでのお仕事で感じていた違和感や考え方は間違っていなかったんだという手ごたえを感じられましたか。

そうですね、でもまだ長編は1作しか撮っていないので、早く次回作を撮らないといけないなと思っています。1月末から、撮影に入る予定です。

(文:鈴木沓子、写真:駒井憲嗣)



小林啓一 プロフィール

1972年千葉県生まれ。明治大学卒。テレビ東京のオーディション番組「ASAYAN」のディレクターを経て、ミュージックビデオ界に進出。DA PUMP、Dreams Come true、ミニモニ。などの作品を監督。特にDA PUMPとは「Night Walk」から「Summer Rider」まで全ての作品においてタッグを組んだ。「アイフルホーム」などのCM、「秘密潜入捜査官」シリーズなどのビデオ作品を経て、『ももいろそらを』で長編映画デビュー。第24回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門で作品賞を受賞し、世界最大のインディーズ映画祭であるサンダンス映画祭からは、 「日本映画の新鮮で革新的な監督の誕生」と絶賛されている。現在、長編第二作目『ぼんとリンちゃん』を準備中。




映画『ももいろそらを』
2013年1月12日(土)より新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー

監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:池田愛、小篠恵奈、藤原令子、高山翼、桃月庵白酒
製作:michaelgion
プロデューサー:原田博志
マネージメント:宮崎紀彦
製作担当:松島翔
録音:日高成幸
題字:土屋浄
配給・宣伝:太秦
配給協力:コピアポア・フィルム
日本/2011年/113分/16:9/モノクロ

公式サイト:http://www.momoirosora.jp/
公式twitter:https://twitter.com/momoirosorawo
公式FACEBOOK:http://www.facebook.com/thePinkSky

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▼『ももいろそらを』予告編



レビュー(0)


コメント(1)


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