骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-11-26 14:00


「故郷から出て来て東京で生きて行くことにみんな一生懸命もがいてた」

バンクーバー国際映画祭招待作品『故郷の詩』嶺豪一監督が語る地元愛と自主映画の関係
「故郷から出て来て東京で生きて行くことにみんな一生懸命もがいてた」
『故郷の詩』より

大学の卒業制作として監督・脚本・主演と三役を務めた『故郷の詩』が、今年5月に開催された第24回東京学生映画祭でグランプリと観客賞の二冠に輝いた後、第34回ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞、バンクーバー国際映画祭の招待作品部門に出品されるなど大きな話題を呼んだ、嶺豪一監督。劇場公開中の『ニュータウンの青春』(森岡龍監督)での出演も評価が高く、俳優として数多くのインディーズ映画への出演が続いている。俳優としても監督としても活躍が期待される嶺監督に、半自伝的作品とも言える『故郷の詩』について話を聞いた。


自分しか撮れない作品と
自分にしか演じられない役


──作品を撮ったきっかけを教えてください。


学校の卒業制作で撮りました。これだけたくさんの自主映画が作られている中で、その中で飛び抜けた作品、かつ、自分自身の力を最大限を出せる作品を作ろうと考えた時に、まず“体を張ること”だったんですね。それで、スタントマンを目指す主人公を設定しました。自分が主演することになったのは、危険なスタントが多くて、とても他の人に頼めるような役じゃなくて、自分で演じるしかなかったから。
もちろん、どこまでが本当かわからないくらいのリアルさを出す作品を作りたかったというのもあります。だから自分自身を題材にした話で、映像もなるべくCGを使わないで、リアルにこだわりました。


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『故郷の詩』の嶺豪一監督

──ディティールにこだわっていると思いました。


美術がとても気になるんです。細かい四隅や美術が気になっちゃって。実際、寮ってゴミばっかりあって汚いんですけど、細かいゴミも、映画だとスクリーンで大きく映るじゃないですか。そこに映るゴミは何であるべきなのか、そういうことを、すごく考えましたね。例えば、わかめラーメンは、一番安いカップラーメンで、寮生ならではの食べ物です。タバコは、一番安いものを選んだりとか。撮影をしているときは、「絶対に妥協しちゃいけない」っていう気持ちで、ワンカットワンカット撮りました。一発で終るシーンもありましたけど、ラストはどう終わるべきか、すごく悩んだし、撮り始めてからも相当撮りましたね。


──自伝的な物語、かつ、フェイクドキュメンタリーを匂わせる作品ですよね。


“事実は小説より奇なり”という言葉がありますが、現実に起こったことで、映画みたいなことってあるじゃないですか。どちらが本当なのかということじゃなくて、これはどこまでが本当なのかと思わせるようなところを狙いたかったというのがあります。最後のカットも、どこまでが映画で、どこまでがリアルかわからないようにしたかったんです。


──実際、どこまでが事実なんですか。


半分くらいですね。有斐学舍という寮が舞台なんですが、実際あんな風に4畳半の部屋がたくさんあって、キレイな部屋もあれば汚い部屋もあって、それぞれの部屋に、いろんなドラマがあったというか、それを全部ひっくるめて、『故郷の詩』という作品にしたかったんですよね。


──最初に寮の一部屋一部屋が映し出されるカメラワークがインパクトがありました。


ひとつひとつの部屋を撮ってつなげて編集していったんですけど、撮影中はスタッフは、「これをどうやって使うんだろう?」と思っていたと思います。でも、一部屋一部屋を映像に残しておきたかったんですよ。現役寮生の部屋を撮らせてもらいました。


──宴会シーンも、実際の宴会を撮影したのですか?


はい、毎年1回寮で祭があるんです。その祭を撮影させてもらってから、本編の撮影に入りました。その祭をモチーフにした映画も撮ってるんですよ、『おてもやん』っていう作品です。大学時代は、寮を舞台にした映画ばっかり撮っていましたね。


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『故郷の詩』より

記録として残したかった
寮生と寮生活


──寮の魅力って?


住んでみないとわからないところがあるのかもしれません。この作品(『故郷の詩』)を寮生に見てもらったとき、「これって他の人にわかると?わからんだろ?」って言われました。もちろん、多くの人に観て伝えたい思いはありますけれど、このシーンに限っては、仮に他の人に伝わらないとしてもそれでもいい、ここの寮生と寮生活のそのままを描きたいって強く思いました。
狭くてボロボロの寮の話なんですけど、ありのまま見せたかったんですよ。
記録として、残しておきたかったんだと思います。作品には、とにかく、寮生全員に映画に出てほしかったですし。


──それはどういう気持ちだったんですか。


あの時のメンバーは、あの時にしか集まらないし、あの時の時間は、あの時だけだと思ったから。この作品は卒業制作なんですけど、学校の卒業は、イコール、寮からの卒業でもあったんですよね。(※有斐学舍は、熊本出身の学生のみが入寮できる)だから、10年後に観た時に、自分的には『ニュー・シネマ パラダイス』みたいな作品になればいいなあと思っていました。


──最後にトトがフィルムを発見するところ?


はい、あんな感じになればなあって。
最後にトトが暗闇で、昔大切にしていたフィルムをみつけて、その頃の想いが蘇ってくるシーンみたいに。間違いなく泣く自信ありますね(笑)。


──前回の森岡監督との対談では、自らを“ノスタルジー男”と称していましたよね。


ありますねえ。最後、寮を卒業するときに、後輩のみんながバンザイ三唱して見送ってくれるんですけど、その後、電車に乗って、新しい家に向かうとき、泣いちゃったりして。泣きながら、みんなにメール送って。「いままでありがとうね」って。でも誰もメールの返信とかしてくれないんですよ!(笑)

確かに“ノスタルジー男”なんですけど、でも、それだけじゃだめだとも思っていて。映画を観て、頑張ろうって思える作品が作りたかったんです。訳もなく、力が沸いてきたり、気持ちが動く作品が作りたいです。
だから話もいきなり始まって、いきなり終るっていう、インパクト勝負みたいなところはありましたね。細かいつながりは考えずに、直球で勝負してやろうっていう。


『故郷』は誰にでもある、
“裏切れない何か”


──寮生からの感想は?


「だご(※熊本弁で“すごく”の意味)面白かった!」って言ってもらえました。実際の寮生のエピソードを使わせてもらった奴から言ってもらえたのは嬉しかったですね。


──さしつかえなければ、どのシーンか教えてください。


天志が、株のDVDを買ってしまうシーンです。このエピソードには、モデルになった寮生がいたんです。怪しげなセミナーにはまっちゃって、騙されて、50万円でDVDを買っちゃった奴が。そいつは、ほかの寮生からも「最近あいつおかしい」って言われてて。そいつが僕の部屋に忘れていった手帳を見たら、夢リストが書いてあったんです。
劇中で大吉が、寮の黒板に「寮で、セミナーの勧誘は禁止です」と書かれた文字を消しているシーンは、自分の実話です。あのシーンは、(前後の)流れとかを無視しても撮りたかった場面なんです。
そいつも映画を観に来てくれて、なんだか、すごく気まずかったんですけど、上映後に「なんやこれ、俺じゃねえや」って言われたんで(苦笑)、「もう(セミナーに)行くなよ」って言いました。そいつに観てほしかったので、嬉しかったですね。みんな、一生懸命もがいてたんですよ。熊本から東京に出て来て、ここで生きて行くっていうことに。


──その点では、主人公の大吉も他の学生もみんな一緒なんですね。


東京でひとりで生きて行かないといけないって、もがき始めると、逆に東京に染まらなきゃって思い始めて、へんに頑張ってしまうこともあるんです。でも僕は、全然そのままでいいんじゃないかと思う。けど、それを(友だちに)言葉で言っても、なかなか伝わらない。映画で観てもらって、少し伝わったかなって思えたのが嬉しかったです。


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『故郷の詩』より

──故郷から東京に出て来た若者の心もとなさがあるからこそ、寮生の結束感も生まれるんでしょうね。それから、音楽がとても印象的でした。


音楽は全曲、熊本の民謡や祭のリズムを生かして作ってもらいました。
『馬追い祭』という、馬を率いて街を練り歩く、地元の祭があるんですけど、その時の太鼓の音が、“デンデケデンデケ”っていうリズムなんです。(最初の曲は)そのリズムを使って作曲してくださいってお願いしました。
繁華街で大吉が殴られるシーンあるじゃないですか。あの男の人を演じてくれた人がバンドをやっていたので、エンディングの音楽を作ってくれないかと頼みました。
そうしたら「俺には故郷がないから、故郷の詩ってどんなのかわからないけど、横浜出身だから横浜ならではの曲を書く」と言ってくれて。
実際に脚本を書いている時は、真心ブラザーズの『明日はどっちだ』という曲を聴いていました。“俺はまだ死んでないぜ”という歌詞から始まるので、観ている人に、「どっちかな」って思わせたいなとか思いながら。


──嶺監督にとって故郷や地元愛って何ですか?


僕にとって根底にあるものは、熊本です。故郷と言うと、熊本のおばあちゃんだったり、叔父さんですね。『故郷の詩』でモチーフになっている”故郷”は、わかりやすく出身地の”熊本”となっていますけど、東京に来ると、東京生まれの人は「自分には故郷がない」って言う人もいますよね。でも東京出身の人にも、誰かに伝えたい気持ちや想いってあると思うんです。別に、生まれた出身地や田舎が、イコール故郷じゃないと思うんです。
僕の場合は、応援してくれている人が熊本に集ってる。寮生や後輩も。映画監督を目指そうと決めた高校生の時、叔父さんと約束したんです。「映画監督になる」って。だから(そういう人を)裏切れないなって思う。地元愛とか故郷って、“裏切れない何か”ですね。


──では今後、熊本に帰って映画を撮ることも考えていますか?


そうですね。でも、故郷って、いま僕が東京にいるから“故郷”だと思うんです。熊本にずっと居たら、それが日常になるわけで。だから、今の、そういう距離感が、逆に頑張れているのかなとは思いますけどね。


──室生犀星が言った「故郷は遠くにありて想うもの そして哀しく歌うもの」という感じですか。


そうですね。遠く離れていて普段会えないから、新聞とかで、何をやっているのか知らせれるようになりたい。だからもっと頑張らなきゃなって、すごく思っています。映画も撮り続けなければ、監督じゃなくなっちゃうんで、また次を撮らないと、と思っています。


──バンクーバー国際映画祭での反応は?


「あの主人公はすごく自虐的だし、バカなことばかりしているけど、君は実際にああいう人なの?」とか聞かれましたね(苦笑)。


──何て答えたんですか?


「また新しい大吉になります!」って答えました(笑)。

(文・写真:鈴木沓子)



嶺豪一 プロフィール

1989年、熊本出身。多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科卒業。『故郷の詩』が第30回そつせい祭でグランプリを受賞、第24回東京学生映画祭でグランプリ、観客賞をダブル受賞、その後、第34回ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞を受賞、第31回バンクーバー国際映画祭招待作品部門に前作『よもすがら』と共に上映される。大学時代の先輩である森岡龍監督や奥田庸介監督作品を始め、現在は俳優としても幅広く活動している。




『故郷の詩』

映画のスタントマンを目指す大吉は、故郷の熊本に彼女を残して上京。熊本出身の学生のための寮『有斐学舎』で学生生活を送っている。映画監督志望の寮生の友だち天志とも知り合い、一緒に作品を撮ろうとするが、東京での学生生活のほとんどは、酒やナンパに明け暮れ、気づけば卒業目前。何ひとつ上手くいかない毎日から一歩踏み出すために、大吉は一世一代のスタントを計画する──。嶺監督自身が学生生活を送った有斐学舎を舞台に、自ら主演し、等身大の若者の葛藤を演じた体当たりな演技も、高く評価された。

監督・脚本:嶺豪一
出演:嶺豪一、飯田 芳、岡部桃佳、林 陽里、広木健太
撮影:楠雄貴
編集:小野寺拓也
音楽:今村左悶
楽曲提供:SPANGLE
2012年/カラー/71分


▼『故郷の詩』予告編


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