骰子の眼

cinema

2012-10-24 22:54


50周年を迎えるストーンズが新作映画携えロンドンに降臨

三大映画祭とは異なるスタンスで魅了するロンドン映画祭が閉幕、佐藤久理子さんによるレポート
50周年を迎えるストーンズが新作映画携えロンドンに降臨
ザ・ローリング・ストーンズの新作ドキュメンタリー『クロスファイアー・ハリケーン』 (c)Rolling Stones Archive

ティム・バートンのモノクロ3Dアニメーション、『フランケンウィニー』で華やかに開幕した第56回ロンドン映画祭(LFF)が、12日間にわたる濃厚なプログラムを終えて10月21日に幕を閉じた。日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、LFFはヨーロッパ向けのプロモーションの場として、世界の業界人が注目する映画祭で、ハリウッドをはじめ各国からゲストが集って来る。今年は自信作『アルゴ』を携えたベン・アフレック、ハートウォーミングな初監督コメディ『Quartet』を出品したダスティン・ホフマン、ロジャー・ミッチェルの『Hyde Park on Hudson』でルーズベルト大統領に扮したビル・マーレイなどがスポットライトを浴びた。

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『フランケンウィニー』 (c)2011 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

一方、ロンドンっ子にとっては、カンヌやヴェネチア映画祭で話題になった作品をいち早く堪能できる機会でもあり、チケットがすぐにソールドアウトになることでも有名だ。ワールド・プレミアにこだわらず、良質な作品を少しでも多く観客に届けようという主催者側の意図が感じられる。「シネコンが増えているおかげでイギリスでは良質なインディペンデント作品をかける場所がどんどん減っている」と以前ケン・ローチが嘆いていたが、そんな状況を一挙に挽回してくれるのが本映画祭なのである。たとえば今年のプログラムでは、ジャック・オディアールの『Rust and Bone』、ミヒャエル・ハネケの『Amour』、カルロス・レイガダスの『Post Tenebras Lux』といったカンヌで評価された作品が、各部門で目立った。

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『Rust and Bone』

オディアールはカンヌでは無冠だったが、今回はコンぺティションでベスト・フィルム賞に輝いた。事故で車椅子生活を余儀なくされた女性と、息子を抱えながら生活苦にあえぐシングルファーザーの触れ合いを、肉体と魂のぶつかり合いとも言えるほど赤裸々に、ときにユーモアも交えながら語り、清廉な感動をもたらす。その力強い語り口がとくに評価されたようだ。

今年のサンダンス映画祭で審査員大賞を、カンヌではカメラドールを受賞した話題作『Beasts of the Southern Wild』も、初長編部門に出品され受賞を果たした。ルイジアナの湿地帯に住む6歳の少女とアル中の父親の絆を、ときに幻想的な場面を混ぜながら独創的に描く。まったくの素人であるヒロイン役の少女の演技も驚異的ながら、リアリズムと寓話性、厳しさと優しさ、自然界の神秘とそこに生きる矮小な人間たちのそれでもどこか美しい姿など、さまざま要素を巧みにまとめあげ、忘れ難い作品に仕立てた手腕はとても一作目とは思えないほどだ。

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『Beasts of the Southern Wild』

もっとも、今回一番ロンドンらしいサプライズとして話題をさらったのは、ザ・ローリング・ストーンズのドキュメンタリー『クロスファイアー・ハリケーン』である。今年でキャリア50周年を迎え、ベスト盤の発売と共に記念コンサートも決定し、にわかに活気づいてきたバンドの周辺。この絶妙なタイミングに合わせて制作されたのが本作だ。ストーンズのドキュメンタリーといえば最近も、『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』があったが、こちらが1971年の南仏滞在時代に絞ったものであったのに引き換え、新作はごく初期のクラブ演奏時代からスタジアム級バンドとして成功するまでのキャリアを振り返っている。豊富なアーカイブ映像に、現メンバーとミック・テイラー、ビル・ワイマンの最新インタビューを編集したナレーションが被せられている。特にブライアン・ジョーンズ脱退、死去までのバンド前半期にフォーカスが置かれた内容は、いまなお新鮮でエモーショナルな瞬間を垣間見せてくれる。つまりそれだけの歴史と幾多のエピソードを備えた世界最長、最大のロックンロール・バンドであるということを、あらためて理解させられるドキュメンタリーなのだ。

監督はロバート・エヴァンスの傑作ドキュメンタリー『くたばれ!ハリウッド』で知られるブレット・モーゲン。それだけに、小気味よいテンポによる、エンターテインニングな編集が冴えている。プレミア上映には、本作のプロデューサーであるミックとエグゼクティブ・プロデューサーに名を連ねたメンバー全員が参加。舞台挨拶に立ったミックは、「若い観客にとっては、俺たちのファッションはリディキュラスに映ることをあらかじめ断っておくよ」とジョークを飛ばし、「セックス、ドラッグ&ロックンロールが一杯詰まった映画を楽しんで欲しい」と結んで会場を大いに湧かせた。

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『クロスファイアー・ハリケーン』

ストーンズの“ハリケーン”が去った後、映画祭最後の週末を締めくくったのはヴィゴ・モーテンセンだ。初めてプロデューサーを務めたほど企画に惚れ込んだというスペイン語映画、『Everybody Has a Plan』の上映と共に、そのキャリアを振り返るトーク・イベントを開催した。彼が兄と弟の二役を演じるその新作は、アルゼンチンを舞台に、人生に行き詰まった弟が兄に成り済まし、新たな生活を生きようとする様をサスペンス仕立てで描く。性格の違うキャラクターを演じ分ける彼の熱演が見ものだ。トークでは、いまでは伝説となった『悪魔のいけにえ3 レザーフェイス逆襲』の出演から、ショーン・ペン初監督作として知られるカルト・ムービー『インディアン・ランナー』の思い出、さらに『ロード・オブ・ザ・リング』の体験やクローネンバーグとの絆について語り明かした。

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『Everybody Has a Plan』

ブリティッシュ・フィルム・インスティテュートが主催するロンドン映画祭は、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの三大映画祭とはまた違ったスタンスで、地元ならではの特色やカジュアルなイベントで楽しませてくれる。毎晩シアターに溢れるロンドンっ子の熱気を見るにつけても、もはやロンドンの秋に欠かせない行事であることを実感させられた。

(文:佐藤久理子/text by Kuriko SATO)

2012年(第56回)ロンドン映画祭受賞結果

■作品賞
『Rust and Bone』(ベルギー/フランス)
監督:ジャック・オーディアール

■サザーランド(新人監督)賞
『Beasts of the Southern Wild』(アメリカ)
監督:ベン・ザイトリン

■グリアスン(ドキュメンタリー映画)賞
『Mea Maxima Culpa: Silence in the House of God』(アメリカ)
監督:アレックス・ギブニー

■ブリティッシュ・ニューカマー賞
サリー・エル・ホサイニ監督/脚本
『My Brother The Devil』(イギリス)

■BFIフェローシップ(功労)賞
ヘレナ・ボナム=カーター
ティム・バートン

http://www.bfi.org.uk/lff/




『フランケンウィニー』
2012年12月15日(土)より公開

監督:ティム・バートン
声の出演:チャーリー・ターハン、ウィノナ・ライダー、マーティン・ランドーほか
アメリカ/87分
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/frankenweenie/

『クロスファイアー・ハリケーン』
2012年11月17日(土)より11月23日(金)まで1週間限定プレミア上映

制作総指揮:マーティン・スコセッシ
監督:ブレット・モーゲン
アメリカ・イギリス/111分
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
公式サイト:http://www.liveviewing.jp/rollingstones/




▼『フランケンウィニー』予告編


▼『Rust and Bone』予告編


▼『Beasts of the Southern Wild』予告編


▼『クロスファイアー・ハリケーン』予告編


▼『Everybody Has a Plan』予告編

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