骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-09-16 12:37


「“蝶のように舞い蜂のように刺す”昔の映像を見て真似したこともありました」

映画『フェイシング・アリ』そしてアリの偉大さを世界チャンピオン内山高志選手が語る
「“蝶のように舞い蜂のように刺す”昔の映像を見て真似したこともありました」
映画『フェイシング・アリ』トークイベントに出演した内山高志選手

渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマにて現在公開中の『フェイシング・アリ』。8月26日、渋谷アップリンクにて、WBA世界スーパーフェザー級チャンピオンの内山高志さんと、ボクシング・ライターの原功さんをゲストに迎えて、トークイベントが開催された。本作についてのストレートな感想は勿論、ロンドンオリンピック後ということもあり、ボクシングで48年ぶりに金メダルを獲得した村田諒太選手についても話が及んだ。

みんなこの生活から抜け出すためにボクシングをやっている

モハメド・アリが一度目に引退を発表した1979年に生まれた内山さん。「これだけ(時間が)経っても、これだけ有名というのは、凄い偉大な選手ですよね。今までもアリの半生を特集した映像を見たことはありましたが、ここまで対戦者を追った映像は見たことがなかったので、興味深くて面白かったし、徴兵を拒否したり、差別問題に力を入れて取り込む姿勢に、あぁやはりこういう生き方だったんだ、と感動する場面が凄いありました!観てて、一番思ったのは、その当時はみんな稼ぐためにボクシングをやっていること。この生活から抜け出すためにボクシングをやっているというところが、カッコイイな、と思いました。」と、本作の感想を語った。

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映画『フェイシング・アリ』より (c)MMIX NETWORK FILMS INC.

原さんの「アリと聞いて何を真っ先にイメージしますか?」という問いに内山さんは、「僕はアマチュア時代にやっていたのが、アウトボクシング(*)なんです。ずっと足を使っているボクシングで、まさに“蝶のように舞い蜂のように刺す”というイメージでやっていたので、アリの昔の映像を見て真似したこともありました。今は、アマチュア時代とはスタイルが大分変わってしまいましたけど、ジャブの重要性は一番考えているので、アリから学んだ部分はありますね。」と、その影響力の大きさを振り返った。

また、ロンドンオリンピックに関連した質問も飛んだ。オリンピックでの金メダルの「価値」について、24歳までアマチュアでボクシングをしていた内山さんは、アマチュアボクシングの競技人口の層の厚さから、各大陸での予選で上位6人に勝ち残ることすらも大変であり、4年に一回というチャンスの少なさから「凄いですね。僕なんかオリンピックに出られなかったですから」と、18歳という若さで1960年のローマオリンピック・ライトヘビー級金メダリストとなったアリと、ロンドンオリンピックの金メダリストの村田諒太選手を褒め称えた。

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映画『フェイシング・アリ』より (c)MMIX NETWORK FILMS INC.

その村田選手との出会いについても触れ、最初の出会いは、サラリーマンをしながらアマチュアボクシングの全日本チャンピオンだった22歳の時だそうで、一方の村田選手は高校3年生だったとのこと。試合会場で、村田選手が「内山さん、今大会も楽勝で優勝っすね」と話しかけてきたそうで、全日本チャンピオンに初対面ながら気軽に話しかけて来た高校生に「面白いやつだな」と思ったそうだ。「物怖じしない、緊張しないタイプだから、オリンピックでも金メダルを取る心(の強さ)を持っていたのでは」と分析していた。

また、金メダリストとなった村田さんのボディブローは、内山さんが伝授したという新聞報道については、「伝授してないです。あいつの実力です」と笑いながら否定。当日、取材に来ていた最前列のスポーツ新聞の記者たちに「書いたのはこの辺の人たちですからね」と原さんがツッコミを入れると、会場の笑いに包まれた。

選手は常に自分が一番でありたいと思っている

観客とのQ&Aの中では、1980年のラリー・ホームズとのカムバック戦について「余計な試合だったのでは?」との観客からの問いに、世界の頂点にのぼりつめた人物だからこそ分かる悩みを次のように語った。

「ボクシングって、何百kgの衝撃で殴られるわけで、毎回交通事故みたいなもの。まだ反射神経がいい頃は、打たれる瞬間にかわせるけれども、反射が衰えてきて、反応が鈍くなると、まともにくらうことが、一番危ないと思います。ダメージが残っていたり、パンチをまともによけられなかったり、動きが悪い時は、周りの人たちがしっかりと受け止めて、助言をした方がいいと思います。でも、どんな選手でも『常に試合をやりたい!』と思うもの。ただ、それが事故につながることもあります。昔好きだったボクサーが、パンチドランカーになったり、体に障害が残ったりするのをみると悲しいですから、何かいい方法はないかな、と思いますね。選手は常に自分が一番強いと思っているし、周りがやめろといってもやめないですからね、絶対!自分の実力がどれだけのものか、自分でしっかり分かればいいんですけど、常に自分が一番でありたいとか、常に世界チャンピオンになりたいと思っているから、なかなか足を洗うことは出来ないんですよね。これは難しい問題ですよね」。

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映画『フェイシング・アリ』より (c)MMIX NETWORK FILMS INC.

また、「もしボクシング選手じゃなかったら?」の問いには、「僕、運動神経あまり良くないんですよ。水泳を習っていたんですけど、小学校の授業では泳ぎの下手なグループに回されたり、少年野球も三年間やっていたんですけど、入って一ヶ月の子に抜かされたり、中学のサッカー部も途中で諦めて……。(サッカーでは)フォワードだったんですよ。点が取れないフォワードってやつで(笑)。ボクシングもおそらく三年で止めるんだろうなってずっと思ってて、さらに弱かったんですけど、でも好きになっちゃって。他のスポーツは全然考えられないですね。多分プロに入らなかったら、アマチュア(ボクサー)の時、サラリーマンやってたんで、そのままサラリーマンをやってたのかな、と思います」と意外な過去を暴露。

本作で、人権運動や反戦運動に積極的に取り組むアリの姿に改めて刺激を受けた内山さん。「(今後は)社会的なボランティア活動にも携わっていけたらいいなと思います」との発言に、「政治家ですか?」と突っ込むスポーツ紙記者の質問に対しては、「いやいや(笑)。そのためにはもっと影響力のある人間になりたいと思います」と苦笑いしながらも落ち着いて切り返していた。

* アウトボクシング(Out Boxing)は、ボクシングの戦術の一つ。一般的にはフットワークとジャブを駆使し、打っては離れ離れては打つの、ヒット・アンド・アウェイを基本とした、一撃離脱の戦い方を呼ぶ。
(文:村井卓実)



映画『フェイシング・アリ』
渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマほか全国順次公開中

監督:ピート・マコーマック
出演:モハメド・アリ、ジョージ・フォアマン、ジョー・フレージャー、ラリー・ホームズ、レオン・スピンクス、ジョージ・シュバロ、ケン・ノートン、ヘンリー・クーパー、ロン・ライル、アーニー・シェーバース、アーニー・テレルほか
提供:キングレコード
配給宣伝:アップリンク
2009年/米国・カナダ/101分/英語
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/facingali/

▼映画『フェイシング・アリ』予告編



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