骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2012-08-06 16:48


豊田道倫が語る4days「ミッドナイト自由研究」予習編

「毎晩セットリスト変えます」8/10~13渋谷アップリンク・ファクトリーで多彩なゲストを迎えイベント開催
豊田道倫が語る4days「ミッドナイト自由研究」予習編

1年8ヶ月ぶりの正式音源『The End Of The Tour』発売を控えたシンガーソングライター豊田道倫が、渋谷アップリンク・ファクトリーで8月10日から4日間にわたりイベント「ミッドナイト自由研究」を開催する。各日、三上寛、スカート、工藤冬里、カンパニー松尾といったゲストを迎えて、予測不可能なステージが展開され、『The End Of The Tour』の先行販売も行われる。今回は開催直前、豊田氏から「自由研究」の途中経過報告ということで、ゲスト・アーティストの紹介とともに、4夜の見どころを語ってもらった。

アルバムを作る前にイベントをやることで自分を追い込む

── こういった数日間にわたるイベントは以前もやられたことがあるのですか。

4daysは2010年の秋に行なって、それ以来になります。オクノ修さん、前野健太くん、宇波拓くん、カンパニー松尾さんの上映というラインナップで、アルバムを作る前にやることで自分を追い込むというか、自分の体がほしがっているんですよね。自分の主催でアーティストを呼ぶと、気を遣ってしまって、ライブでは勝ち負けでいうと負けてしまいがちで。でもそれをやっておかないとだめというのがあって。そこからレコーディングに入るという癖があるんです。

今回のアップリンクのイベントもこれを指針にアルバムを作りたいなと思っているし、それだけじゃなくて、8月のいちばん暑いときに、渋谷で実験するというのがいい。

── 豊田さんとしてもどんな化学反応が起こるか楽しみなアーティストに声をかけているんでしょうか。

そうですね。あとアップリンク・ファクトリーは本来劇場だし、普通のライブハウスとは違うので。気を抜くと本当に中途半端な空間になってしまう可能性がある。だからよほど気持ちを入れてこの空間を作っていこうとしないと、難しいんです。だからこそ面白い。そういうなかで、いかに自分も興奮して、お客さんも興奮して、何か面白い空間を作りたいと思ったんです。

── 4日間が終わったときには新しい創作の意欲やアイディアが湧いているんでしょうね。

意欲というよりは、自己崩壊させたい。自分のビジョンや自分のプランに、ブレがほしいんですよ。

── ことあるごとに、自分が固まってしまっているもどかしさのようなものを自覚されたりするのでしょうか。

そうだね、やっぱり歳だから(笑)。固まっちゃうし頑固になっちゃうし。それはいかんなと思って。

── 豊田さんにはそれが作品にも如実に反映されると。

そこまでは考えていないですけれど、なんか退屈な感じがしてしまうんです。

── 今回、イベントで先行リリースされる『The End Of The Tour』についてはどんなきっかけで生まれたのですか。

この曲は去年の2月に曲を書きました。池袋のシネマ・ロサでカンパニー松尾さんの『豊田道倫映像集3』の上映のときに作って歌って、今思えば、そのときは自分も、すごい悲壮感というか「俺もういいかな」という気持ちだった記憶があって。周りからも「旅が終わったんじゃないか」という意見があったり。でも「この曲が好き」と言ってくれる人がちょこちょこいて、1年半経ってくると、だんだん曲の雰囲気も変わってきて、またずっと旅をしていく、そういう気持ちに変わっていったんです。だからもう一回デビューしたいという思いで作りました。

4daysの最終日のときに上映する『豊田道倫映像集3 無題(new version 84分)』にも入っているんですが、すごい僕の顔が辛そうなんですよ(笑)。それで今回のリリースをぶつけたかったんです。

三上寛さんほど自分の声とぴったりのギターを使っている人っていない

── それでは、4日間の予習として、豊田さんからご紹介していただきたいと思います。まず三上寛さんは?

ずっと聴いているし、ライブも観ていました。ただ、去年の秋の震災以降のことを語ったeke-kingのインタビュー記事を見て、東北出身の人間だけあって、ちょっと普通とは違った視点もあったんです。それでもう一回三上さんを聴こうと思って、新譜と一番新しいライブ盤を買ってきました。最近は高知のレーベル(Chaotic Noise)からリリースしていて、CDにもメイキングが入っているのもかっこよくて、「何なんこの人は」と。それでお願いしたかった。あの人はロックでもないしフォークでもないし、三上寛としか言いようがない。やっぱりギターのトーンがすごい好きなんです。あそこまで自分の声とぴったりのギターを使っている人っていない。それから、言葉のセンスがおしゃれなんですよ。新しさを感じますね。あの歳でずっとギターゲースを背負ってツアーに行っちゃう、そのへんのフットワークもかっこいいし。自分が今の三上さんの年齢になった時、あのようにしなやかに活動出来るのかなと思うと、脅威を感じます。

── 続いて、スカートについては?

澤部(渡)くんは昔からよくライブに来てくれているし、昆虫キッズのサポートもしていて、あっという間に人気者になったから。デビューアルバムの音源をもらったときは、正直ピンとこなくて。ちゃんと勉強している子だなというところで終わってしまっていたんだけれど、そこからライブ活動をすごくやるようになって、メンバーも固まってきて、それで『ストーリー』というEPがヒットして、こう変わっていくんだと思った。澤部くんは僕の音楽をすごく良く知っているし、逆にそういう人と一緒にやるのは怖いんですよね。批評性を持ってくるから。

面白い話があるんだけれど、僕と昆虫キッズが2009年に作ったレコード(豊田道倫 with 昆虫キッズ『ABCD』)のときに、澤部くんもサポートメンバーとして参加して、ある曲でベースのピッチが微妙に不安定だったんです。パッと聴いた感じでは解らなくて、別にこれでいいじゃんという雰囲気もあったんだけれど、そこで澤部くんはゴネて「これはもう一回やったほうがいい」と言い出して。僕はどっちでもいいかなと思いつつも、ここは澤部くんのミュージシャンシップをとろうと、もう一回ベースを弾いてもらったら、一時的ではあったけど現場の雰囲気が悪化してしまって。でもそこで微妙な若干のズレを直していくことによってポップになりえるということがあるので、そのときのことはすごく残っています。だから彼はバンドマンでありつつも、ミュージシャン、ポップクリエイターなんでしょうね。

── スカートの楽曲を聴いて豊田さんっぽいと感じるところはありますか。

それはないけど、曲名は覚えていないんだけれど歌詞のなかに〈サブカルチャー〉という言葉があって。僕はその言葉を使うセンスは持っていないんだけれど、そういう実験というか、今の時代に喧嘩を売ってるところは感じるところがあります。

工藤冬里さんはいちばんエッジなところにいる

── 3日目は工藤冬里さんです。

工藤さんは去年の1月に六本木のSuperDeluxeで初めて一緒にセッションして、すぐはまったんです。僕は工藤さんのやっている音楽はすごく興味あるんだけど、マヘル・シャラル・ハシュ・バズはあんまり得意ではない。ちょっと退屈というか、謎が多すぎてよく分かってないというか(笑)。六本木で最初にちゃんとお会いして、そのとき工藤さんに、2005年に九州の小倉で一緒にイベントに出させてもらったときに、僕は「東京の恋人」という曲を作った頃で、歌っていたんです。工藤さんはその時のことを覚えてくれていて、それを会ったときに言われて。だけど、この前小倉に行ったら、「工藤さん、豊田さんがやっていた時、一番前のソファで思い切り寝てましたよ」という話を聞いて(笑)。

工藤さんはすごく男性的な感じなんです。強いというか、女の子だったら一瞬にして落ちるというか。僕は意外に女性っぽいんです。だからセッションのときに、普通のミュージシャンであれば喧嘩するんだけれど、僕は喧嘩をしなくて抱かれてしまおうかと。それがはまったのかもしれないです。この人男やわって。

あとファクトリーに最近ピアノが入ったということで、工藤さんのピアノは素晴らしいので、弾いてもらいたかった。工藤さんのライブは毎回どうなるか分からないんですよ。あまり即興という感じでもないんです。かといってポップソングをいっぱい作る人でもない。パンクスなのかな、いちばんエッジなところにいる感じがあります。何かを企んでいるけれど、企みが失敗する可能性が高いのも工藤さんっぽい。マスター・オブ・ミステイクと呼ばれるだけはある。そういうところはたまらなく好きですね。

── 最終日はカンパニー松尾さんです。

松尾さんは、当日は来てくれると思いますが、去年の2月に上映した『映像集3』の完全版『豊田道倫映像集3 無題(new version 84分)』を上映します。「これは二回観てもいいんだよ」と松尾さんも自信を持っているんです。あと今回のイベントの特色として、金土日とやって最終日が月曜日、これもいいかなと思って。

松尾さんみたいにずっとAVを作っている人って意外にいないんです。ひたすらAVを作っている。ひたすらセックスしているって。人って必ずダウンするけれど、松尾さんは仕事はAVだけれど、工場の工員という感じがするんです。ひたすら仕事をしている。職人というか木こりというか、木を切るように女を斬っている。

この『映像集3』は、プライベートなシーンもあったりして、自分ではあまり……。結婚式に来て撮ってもらって、まあ、その後離婚してしまったんですが、「撮っておいてよかった、離婚したからこのシーンを使えるんだよ」と言われたんです。すごいですね。映像は怖いし、素晴らしい。

でも実は、それ意外に松尾さんとの付き合いや交流は普段はないんです。ふと電話して「ご飯行こう」とかはないです。お中元でカレーを頂いたり、去年、キム・ギドクの『アリラン』を観に一緒に東京フィルメックスに行きました。

── こういうところは撮らないでくれ、ということは言うんですか。

それはまったくないです。2010年の4daysの最終日に上映することになって、結婚式のシーンがあると電話で聞いたんです。一瞬ひるんだけど、ここで俺がどうこう言うことではないんです。でも、もし松尾さん以外だったら、「外してや」と言うかもしれないですね。

なので『映像集3』については2005年からの映像で、いろいろあったといえばあったけど、シンガーとしての自分は変わってないといえば変わっていないんです。ただ歌つくって、歌ってる男って感じで。それはひょっとしたら、松尾さんの見たい豊田道倫かもしれないと思ったりもします。で、今のところパッケージになる予定はないので、ぜひ今回スクリーンで観てほしいです。

── わかりました。4日間の成果を楽しみにしています。

いや、その成果もあまり期待せずに(苦笑)、ほんとうにその日一日一日をいいかたちに残したいです。後、毎晩ぼくのステージはセットリスト変えます。スニーカーも毎日違うので、よかったら着目してください(笑)。

(インタビュー:駒井憲嗣)



豊田道倫 プロフィール

1970年生まれ。1995年パラダイス・ガラージ名義で『ROCK'N'ROLL 1500』(TIME BOMB)でデビュー。その後、メジャー、インディーで多数のアルバムを発表。弾き語りソロ、バンド、セッションなど編成にこだわらず、強い歌をうたい続ける。
http://d.hatena.ne.jp/mtoyota2/




豊田道倫 4days「ミッドナイト自由研究」
2012年8月10日(金)、11日(土)、12日(日)、13日(月)
渋谷アップリンク・ファクトリー

第1夜
8月10日(金)19:00開場/19:30開演
LIVE(ゲスト:三上寛 blog

第2夜
8月11日(土)19:00開場/19:30開演
LIVE(ゲスト:スカート HP

第3夜
8月12日(日)18:30開場/19:00開演
LIVE(ゲスト:工藤冬里)

第4夜
8月13日(月)19:00開場/19:30開演
LIVE&上映(ゲスト:カンパニー松尾)

料金:予約/一回券 2,500円(+1ドリンク別)、当日/一回券 2,800円(+1ドリンク別)、通し券 9,000円(+ドリンク別/オマケ付き)
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2012/547




■リリース情報

豊田道倫『The End Of The Tour』
2012年8月15日リリース

HAPPENING
1,260円(税込)
HAPCD002

★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。




▼豊田道倫「The End Of The Tour」



レビュー(0)


コメント(0)