骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-03-30 10:30


韓国インディーズアニメの今を伝える『花開くコリア・アニメーション2012』

「簡単で面白く制作するのがモットー」イ・ソンファン監督インタビュー
韓国インディーズアニメの今を伝える『花開くコリア・アニメーション2012』
『花開くコリア・アニメーション2012』長編上映作『家』

韓国のインディーズ・アニメーションを紹介する上映会『花開くコリア・アニメーション2012』が4月7日、8日の2日間、渋谷アップリンクで開催される。今年で5回目となる今回は、韓国唯一のインディペンデント映画祭インディ・アニフェストの作品の中からLife、City、Natureの3つのテーマで選んだ短編25作品と、フランスのアニメーション専門の国際映画祭・アヌシー映画祭招待作品の長編『家』が上映。
また、2011年に開かれた『10秒アニメーションフェスティバル』の企画者でもあり、アヌシー映画祭でノミネートされた『Ah』のイ・ソンファン監督と、アニメーション作家・水江未来によるトークイベントも行われる。
開催にあたり、イ・ソンファン監督にメール・インタビューを行い、自身の作品について、そして近年の韓国インディペンデント・アニメーションの潮流について解説してもらった。

観客と楽しさを共有できる韓国『10秒アニメーションフェスティバル』

──今回の『花開くコリア・アニメーション』で上映される『Ah』はどのような構想から制作されたのですか?

幼い頃レゴブロックが大好きで、いつかはレゴで作品を作らないと、という思いがありました。『Ah』は、実は材料を先に決めておいて始めた作品になりますね。〈Ah!〉という音がする状況や行動を集めて、ひとつの所に整列して見ようというコンセプトの作品でした。
『Ah』は、僕にとっては初めて作ったストップモーションでした。以前は主に2Dアニメーションの制作をしていたんです。ストップモーションは、はじめからコンピューターで制作されたアニメーションとは違い、直接手で触って動かして撮って行く方式が良かったです。ハンドドローイングという負担から脱して、純粋に動きだけに集中することができた作品でもありました。以前の作品と大きい違いがあるかと言われたら、パロディーや話の構造の破壊等、以前の作品との脈絡をある程度維持しているので、内容よりは形式での差がちょっと大きいですね。

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イ・ソンファン監督

──『Ah』の制作でいちばん苦労したのはどんなところですか?

そうですね、どうやったとしても作業が楽しくなければ、制作が長続きできない性格だから、これといって大変ではなかったようです。簡単で面白く制作するのがモットーなので、今まで苦労して制作した作品はほとんどなかったように思います。うーん…考えてみたら、制作している最中は大変だと言いふらしていたような気もしますが。

──イ・ソンファン監督がアニメーション作家を目指すようになったきっかけは?

最初は漫画家になりたかったんです。幼い頃、他の人達を楽しませる仕事は何か、考えていました。その時は、なぜか漫画家が人々を楽しませると思ったようです。今はアニメーションまで広がったけど、誰かを楽しませたいというのは変わりません。

──日本のアート・アニメーションやインディーズ・アニメーションから影響を受けていますか?

個人的に好きなイラストレータは空山基、作品では『つみきのいえ』(加藤久仁生)、『クジラの跳躍』(たむらしげる)等があります。

──企画・運営を行なっている『10秒アニメーションフェスティバル』は、どんなフェスティバルなのですか。

僕たちはアニメーションの制作がいつも大変で、退屈な過程を伴うということをよく分かっていました。『10秒アニメーションフェスティバル』は、そんな愛憎関係のアニメーションとアニメーションを制作する人たちの間の和解(中和)の場です。誰もが良い作品を作るために努力するけど、その作品がいつも良い評価を受けるわけではありません。韓国のことわざの中に、『苦労して立てた塔が倒れることがあろうか(積み上げた物はそう簡単には崩れない、の意)』というものがあります。しかし僕は、苦労して立てたのに崩れて行く多くの塔を見てきました。『10秒アニメーションフェスティバル』は、お手軽に、面白半分に作られた、10秒の簡単な映像物でもお互いに楽しさを共有することができます。

──『10秒アニメーションフェスティバル』が支持を集めている原因はどこにあると思いますか?

『10秒アニメーションフェスティバル』の主な特徴は、
1.出品作品全作上映(作品の水準を論じない)
2.観客が直接準備した賞を授賞(自分が魅力を感じた作品に対して直接的に賞を授けることができる機会)
3.10秒ごとに変わる作品(監督も気楽に制作したし、観客も気軽にありのままの感じで)
等があります。

フェスティバルの「祭り」という意味とは違い、韓国の映画祭で作品を見ていると、観客たちの反応があまりなくて、何か重い雰囲気で進行される感じがしました。しかし『10秒アニメーションフェスティバル』での観客の反応は、一般的な映画祭とは完全に違いました。その時、初めて見た熱い拍手と歓声は、主催した僕たちにも驚きでした。既存の権威ある映画祭の形態から脱して、観客の参加度が高いイベントなので、良い反応を得ているようです。

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イ・ソンファン監督『Ah』

韓国のインディーズ・アニメーションは新しい形態の戦略が開発されている段階

──韓国のアート・アニメーションやインディーズ・アニメーションのシーンの状況についてはどのように分析していますか?

古今東西問わず、アニメーションをする友達の口からはいつもため息が出ています。韓国のインディーズ・アニメーションの状況も別段違いはありません。しかし、およそ10年前の後から多くのアニメーションの教育機関が生じ、幾多の失敗及び成功事例を作り出しながら、今は1人の作ったアニメーションがまずまずの劇場版アニメーションに批准するほどの密度を見せてくれたりします。既存のアニメーション業界の現実は似ているけれど、良い教育を受けた人才たちが輩出されながら、新しい形態の戦略が開発されている段階です。否定的な見方もあるけれど、若い作家たちがコミュニティを構成してネットワークを通じ、情報を共有しながら確実にポジティブな形態を作り出すはずだと信じています。

──監督自身にとって、そして周囲の作家たちにとって、映画祭での評価、そして商業的成功については、どのように位置づけていますか。

僕の作品の商業的な成功?それについてはまだよく分からないですね。作品は以前にも制作したけれど、世の中に出て人々の記憶に残ることができた最初の作品だというだけです。いろいろと評価を聞くことはあるけれど、まだ僕の作品の世界が認められるのには、僕の能力はかなり不足していると思います。もっと面白い作品をたくさん作って、僕と僕の作品を覚えてくれた多くの方々にお見せしたいです。

──Vimeoなどでネットワーク上で作品を発表することと、今回のようにリアルのイベントはそれぞれ異なる重要性と意味合いがあると思いますが、そのバランスはどのように考えていますか?

作品は誰かが見た時に、新しい価値を得ます。 監督が計画した意図とも意味が変わり、ネットワークにアップロードした時に、永遠の生命を得るようになり、僕の意志とは構わずに永遠に広大な海の中を泳ぎまわるでしょう。一番重要なのは誰かに見せることだからオンラインとオフラインの両方で露出されればもっといい。バランスと言うよりは、両方とも同じ考えが作り出した形態のように思います。

──イ・ソンファン監督が在籍するクリエイター集団、スタジオ・シェルターはとても自由でクリエイティビティにあふれた場ではないかと想像するのですが?

シェルターの環境が良いと言ったら嘘でしょう。しかし過ぎ去った何年間かの幾多の変化を繰り返えすシステムと少しずつよくなる環境は、僕に他の所では出会えなかった力を感じさせます。スタジオ・シェルターは何か面白いことなら全力で跳びこむチームです。また、上下なしに皆が水平な関係の中で自由に話します。『10秒アニメーションフェスティバル』を含めたシェルターの活動は冗談交じりの言葉で始まります。会議の時、または普段冗談で話したことが、メンバーたちの手を通じて実現します。まるで大人になってしまった子ども達みたいだけれど、僕はこんなシェルターとメンバーたちが大好きです。

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スタジオ・シェルターでの制作の様子

──最後に、今回の『花開くコリアン・アニメーション』のようなイベントでは、直接、日本の観客とコミュニケーションをとれる場になると思います。こうしたイベントについて、どのような可能性を感じていますか?

他の国の秀作を見られるし、監督に会える機会はそう多くありません。今もどれだけ多い秀作が世に出られずに消えていくのか、またそういう作家たちがアニメーションをあきらめるのか!!、惜しい事です。
この間、ソウルでも『日本映画祭』というイベントがありました。僕はそのイベントのパネラーとして参加したんです。本当にあまり見られない学生の秀作も見られたし、招待された監督たちとたくさん話をすることができました。大部分の作家たちは、時間や言語等の理由で自由に配給をしづらいです。作家は、結局作品制作に戻らなければならないでしょう。今回のイベントはインディーズ・アニメーションの発展に、もしかしたら一番重要な役目を果たしているかも知れません。韓国インディペンデント・アニメーション協会、UPLINKを含めた全ての関係者の方々に感謝します。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



イ・ソンファン プロフィール

韓国芸術総合学校アニメーション学科卒。クリエイター集団スタジオ・シェルターのメンバー。韓国芸術総合学校の卒業作品として制作した『Ah』(2011年)は、アヌシー国際アニメーション映画祭をはじめ、プチョン国際ファンタスティック映画祭、ソウル国際ニューメディアフェスティバルなどに出品され、レゴ・ブロックとストップモーションを用いた斬新な表現が好評を博した。作品制作以外にも、インディ・アニフェスト2011の実行委員やスタジオ・シェルター主催『10秒アニメーションフェスティバル』の企画運営で活躍。




『花開くコリア・アニメーション2012』
2012年4月7日(土)、8日(日)
渋谷アップリンク・ファクトリー

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『朝の食卓』

短編Aプロ Life(78分/8作品)
『レオン』イ・ギヨン/13分/2010年
『ゾウ』イ・ミンギョン/9分15秒/2010年
『トト』イ・グナ、ホ・ジョンイム/8分25秒/2010年
『朝の食卓』キム・チェヒョン/7分55秒/2010年
『Tapis Roulant~人生のルーム・ランナ~』イ・ジュヒョン/7分45秒/2009年
『誰もが』パク・ヨンジェ/14分59秒/2011年
『RUKA』キム・ヨンオ、チェ・セヒ、チョン・スヨン/7分30秒/2010年
『男は泣かなかった』ムン・ヒョンイル/8分46秒/2011年
日時:4月7日 15:20/4月8日 17:00

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『City』

短編Bプロ City(81分/9作品)
『ソウルに暮らす子猫』スギョン、ホン・ウンジ/10分30秒/2011年
『善良な人々の町』ホ・ボムク/15分10秒/2011年
『ハトは飛ばない』ユン・イグォン/18分10秒/2011年
『片想い』ユン・ジナ/4分15秒/2011年
『LANGUAGE』キム・イェオン/3分30秒/2011年
『VIEWPOINT』ファンボ・セビョル/7分00秒/2011年
『ラクダたち』パク・ジヨン/10分30秒/2011年
『Ah』イ・ソンファン/5分14秒/2011年
『City』キム・ヨングン、キム・イェヨン/6分28秒/2010年
日時:4月7日 18:40(+トーク)/4月8日 20:20

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『Natural Urban Nature』

短編Cプロ Nature(78分/8作品)
『The Water~船頭多くして~』 ファンボ・クムビョル、カン・ヒジン、パク・キョンミ、シン・ヘジン、パク・ヘソン、パク・ソヨン、キム・ウネ、イ・ゴウン、チョン・ジュヨン、ソル・ジョンフン、ハン・アリョム、チョン・ダヨン、ユン・ソンヒ、キム・ソヨン、イ・スルギ、ナム・スジン、ヤン・ヨンモ、ハン・ジウォン、キム・ウンス、イ・ギョンファ/6分28秒/2011年
『キラキラ』オ・ジウォン、チャン・ナリ/7分17秒/2010年
『幽霊の記憶』チョン・ジュア/7分20秒/2010年
『Alone』イ・ヨンソン/12分09秒/2010年
『6月の山』キム・ドヨン/7分26秒/2010年
『春だから』パク・センギ/13分40秒/2010年
『淑女たちの一夜』ハン・ビョンア/18分38秒/2011年
『Natural Urban Nature』カン・ミンジ/4分32秒/2011年
日時:4月7日 17:00/4月8日 18:40

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『家』

長編『家』
パク・ミソン、パク・ウニョン、パン・ジュヨン、イ・ジェホ、イ・ヒョンジン/ 82分/2010年
日時:4月7日 21:00/4月8日 15:20

公式サイトhttp://anikr.com/2012/top.html

トークイベント開催

2012年4月7日(土)18:40の回上映終了後
『アニメーションの新しい動き』
ゲスト:イ・ソンファン、水江未来
http://anikr.com/2012/g_tokyo.html

期間中同時開催

〈原画特別展示〉追憶、または未来
参加作家:キム・ジュン、チャン・ヒョンユン、ヨン・サンホ、ホン・ハクスン
期間:4月4日(水)~9日(月)12:00~22:00 入場無料
会場:アップリンク・ギャラリー

▼『花開くコリア・アニメーション』傑作選 2011年のフェスティバル上映作の中から配信中


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