骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-01-13 00:00


単なるオモシロ話に普遍性を与えるのが俺達の仕事

1/14(土)~『国道20号線』『雲の上』アップリンクで再上映!富田克也監督語る
単なるオモシロ話に普遍性を与えるのが俺達の仕事

フランス・ナント三大陸映画祭のグランプリに輝いた、映画制作集団『空族』の最新作『サウダーヂ』。渋谷オーディトリウムでは延長上映が続き、いよいよ全国各地での公開が順次スタートし始めた。渋谷アップリンクでは空族の映画『国道20号線』『雲の上』が1月14日(土)よりアンコール上映される。初日には上映終了後に富田克也監督と相澤虎之助さんによるトークショーも開催される。待望の再上映にあたり、富田監督にインタビューを行った。まずヨーロッパでの反響と彼らなりの映画祭に挑む姿勢について聞いた。

どんどん世界へ開かれていくことにしか、自分たちが生き残る道は見いだせない

「映画の作られ方、映画産業、社会状況も含め、あらゆる意味で日本に対する意識をあらためたよ、と言ってもらえたんです。これまでヨーロッパの人たちは『サウダーヂ』のような中途半端なローカルの日本を見る機会もなかなかなかった。そしてフランスは映画に文化的支援がついているし、助成金も出るから、僕らが他に仕事を持ちながら映画を作っているということさえ信じられないわけです。そんな日本から、誰に頼まれたわけでもなく、自分たちで金を集めて作っていく映画なんだから、これが今のリアルな日本に近い状況であることは間違いないんだということは伝わったんじゃないかと思います」。

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2011年末に渋谷アップリンク・ファクトリーで富田克也監督を囲み行われた「鍋会」で(中央)取材は行われた。

「ペドロ・コスタにしたってジャ・ジャンクーにしたって、外国に行くと当たり前のように自国の資本では撮れない監督さんってたくさんいらっしゃるわけですよね。彼らにとってヨーロッパの映画祭は、自分が外に出ていって、そこでプロデューサーを見つけて、作っていくための場。俺たちもちゃんと企画書も持っていって、なるべく次の作品を海外のプロデューサーと一緒にやれるような方向に持って行くべく、そういう意識で行ってきました。そんな風にどんどん開かれていったほうがやりやすいし、自分たちが生き残る道はそこにしか見いだせない、そういう意識はありますね」。

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映画『サウダーヂ』より

空族は映画制作と上映を中心にインディペンデントな活動を続けるなかで、自分たちなりの映画を取り巻く仕組みづくりに意識的であった。『サウダーヂ』制作の際のリサーチのための記録から誕生したドキュメンタリー『FURUSATO 2009』と『サウダーヂ』との相互関係についても空族の作品の複合的な面白さを端的に表していて、『FURUSATO 2009』の生々しい甲府のシャッター街に生きる人々の姿を観て、ドキュメンタリータッチの仕上がりを期待すると、より物語的に構築された『サウダーヂ』のフォルムに面食らうことになる。

「それは実はあまり言われないことで、『サウダーヂ』だけ観た人は、むしろひたすらぶった斬りの断片を延々と見せられてそこにストーリー性というものはない、という感想が多いんです。作り手としては、ある種の見せ方、モンタージュといったものをものすごくきっちり考えて構成して、ひとつの物語として緻密な計算の元にいたりする。『FURUSATO 2009』こそその場にあるものを撮りっぱなしの繋ぎっぱなし、起こったことを羅列していくまさにそれだけだったんです」。

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映画『FURUSATO 2009』より

『FURUSATO 2009』は1年間普段の生活のなかでリサーチをして、人の話を聞いて、そこから面白いエピソードを拾い集めていったんです。そういうことをぜんぶ総合して、僕らがひとつの映画を作ることにあたっては、ひとつのエピソードを映画のフィルターを通ったものにシナリオ化する。俺と相澤できっちりかなり詳細にわたってシナリオを書き上げる作業が背後にある。そのうえで、エピソードをくれた人たちにもう一度演じてもらうということになる。だから、彼らにとってみれば不思議な体験だと思うんです。僕らのなかで、エピソードをきちんと一本の映画のなかに入れこむということは、ひとつの普遍性を持たせる意味がある。単にオモシロ話であるエピソードを、いかに映画として、ギリギリフィクションとして成立するところまで持ち上げるか、というのが俺たちの仕事だと思うので」。

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1月14日(土)より渋谷アップリンクにてアンコール上映される映画『国道20号線』より

『サウダーヂ』と『雲の上』は面白い比べ方ができる

彼ら自身としても、こうしたアンコール上映を歓迎し、同じトライブのなかで作り続けていくことから生まれるそれぞれの作品の繋がりを味わってもらいたいと語る。空族の原点とも言える『国道20号線』『雲の上』の2作品をはじめとして、作品の関係性を反芻するように楽しんでみてほしい。

「『国道20号線』のふたりの男、ヒサシと小澤は『サウダーヂ』にも役名を変え出てきますよね。いきなり冒頭のカットで空族おなじみのふたりが自己紹介をするところから始まるって、笑えるかなと思ったんです。『国道20号線』のときにヤミ金屋の小澤がタイへの夢を語っているのに、『サウダーヂ』ではヒサシのほうがタイ帰りの男としてそこに戻ってくるとか、入れ替わりが起こっていたり。よく観てもらうと、『国道20号線』のなかで言っていた登場人物の台詞のある一部分が映像化されていたり、『サウダーヂ』のあらゆるシーンのなかにそういう相互関係があるんです」。

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14日(土)から渋谷アップリンクにてアンコール上映される映画『雲の上』より

「『国道20号線』は、僕らの経験を元にある程度短い期間にギュッと凝縮していた。一方で、その前の『雲の上』は、未熟ながらにもそれまでの自分の人生をいかに映画化するか、そういうものをぜんぶないまぜにして作った処女作で、シナリオ化するのに2年、撮影に3年という時間をかけたんです。でもトータル5年の間に刻一刻とあらゆることが変化していくわけで、それには対応していかなければいけない。なので、リサーチというより、撮っていくなかで新しいことをどんどん映画のなかで次から次へと組み込んでいく。時間をかけることによって生まれるメリットを最大限に生かしたのが『雲の上』だし、『サウダーヂ』を撮り終わったときに、久しぶりに『雲の上』を撮っていた頃の感覚を思い出したんです。だから『サウダーヂ』と『雲の上』はそこらへんも踏まえてもらうと、面白い観比べ方ができるんじゃないかと、勝手にこちら側は思っているんです」。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



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富田克也 プロフィール

1972年山梨県甲府市生まれ。東海大学甲府高等学校卒業後、音楽の道を志し上京。音楽活動に出口を見いだせず映画を観まくる日々、いつしか自身で映画を撮りたいと思うようになる。都内で配送業に従事しながら、製作期間5年、上映時間 140分の処女作『雲の上』(8mm) を2003年に発表。監督、脚本、編集を自ら手がけたこの作品は「映画美学校 映画 2004」の最優秀スカラシップを受賞。この賞金を原資に『国道20号線』を製作し2007年に発表。同年10月に甲府の桜座で自主上映会を開催後、東京渋谷UPLINK Xにてロードショー公開。2008年に入り単館系劇場にて全国公開された。「映画芸術」誌上にて2007年日本映画ベスト9位選出、映画界に波紋を呼び、文化庁の主催する日韓映画祭を含む国内外の映画祭で多数上映されてきた。
空族公式ホームページ http://www.kuzoku.com/




『国道20号線』&『雲の上』アンコール上映

日時:『国道20号線』2012年1月14日(土)~1月20日(金)連日21:00
1月21日(土)~1月27日(金)連日18:45
『雲の上』2012年1月14日(土)・15日(日)・16(月)連日16:00
料金:当日一律1,200円

★1月14日(土)『雲の上』上映後、富田克也監督と相澤虎之助さんによるトークショー開催。
★上映期間中、『国道20号線』のパンフレットを劇場にて販売。
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F TEL 03-6825-5502)[地図を表示]

『国道20号線』

監督・編集:富田克也
脚本:相澤虎之助、富田克也
撮影:高野貴子
キャスト:伊藤仁、鷹野毅、りみ、村田進二、西村正秀、Shalini Tewari
2006年/16mm→DV/77分

『雲の上』

監督・編集:富田克也
脚本:富田克也、井川拓、高野貴子
撮影:高野貴子
キャスト:西村正秀、鷹野毅、荒木海香、古屋暁美、伊藤仁、相澤虎之助
2003年/8mm→DV/140分

▼『国道20号線』予告編



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