今月19日に報じられた金正日総書記死去のニュースは、在日コリアン社会にも衝撃を与えたが、現在の在日3世・4世は、1世・2世が残した民族教育とコミュニティの中で、自らのアイデンティティをどこに置くのかというジレンマに直面している。在日コリアン3世として日本で生まれ育ち、朝鮮大学校体育学部を卒業後、2006年に川崎フロンターレに入団し、現在はドイツVfLボーフムに所属するチョン・テセ選手。ナショナルチームには北朝鮮代表を選んだが、去る11月に平壌で開催された2014年ブラジルW杯アジア3次予選の日朝戦で、「君が代」斉唱中の大ブーイングに対しツィッターで心痛をつぶやく彼の複雑な心境が報道された。そんなテセ選手を世界6カ国、1000日にわたって追いかけたドキュメンタリー映画『TESE』が現在公開中である。先日のカン・ソンミョン監督へのインタビューに続き、テセ選手のドイツからのメールインタビューをお届けする。
──『TESE』撮影中の3年間は、北朝鮮代表としてワールドカップ出場、川崎フロンターレ退団、ドイツリーグ移籍と激動の日々だったと思いますが、3年前と今とではどのような心境の変化がありましたか
とても大きな変化がありました。自分は何人(なにじん)なのか、自分の故郷はどこなのか、自分はどこへ向かっていくのか。そうした問いへのヒントをサッカーをプレイする中で得て、自分を取り巻く環境で考え直させられました。3年間の撮影中に、その時々の自分の本音が記録されてきたと思います。
©2011「TESE」製作委員会
──ヨーロッパにいると、日本・韓国・北朝鮮にいる時とはまた違ったマイノリティの視点を持つと思いますが、ドイツの住み心地はどうですか。
ドイツにいるとアジア人であることに特別な偏見も差別も無いので、すごく過ごしやすいです。ただ、やっぱり日本にいる時よりもさらにマイノリティなので、自分が何人なのかをより深く考えるようになりました。そして何より、同じ東アジアの国同士でいがみ合うことに、少し残念な気持ちになります。
──ドイツリーグに移籍して1年半近く経ちましたが、チームの居心地はいかがですか。チームメイトについて、監督について少しお聞かせください。
チームの居心地が良すぎて逆に良くないかもしれません。チームメイトともすっかり溶け込んでいるし、ドイツ語もそれなりには出来るようになったし、環境も日本とは比べ物になりません。とにかく、ものすごく快適です。新しい監督(※9月に新しく就任したアンドレアス・ベルクマン氏)が自分を使ってくれるかわからなかったのですが、蓋をあけてみたら僕を高く評価してくれていてました。選手として試合に出ることはこの上ない幸せなので、監督には本当に感謝しています。この間、クリスマス会をボーフムのスタッフ達とした時に監督が自分の席に来てくれて、結局2時間タイマンで喋りました。周りにはその後「またお父さんと話してきたのか?」といじられました(笑)。
©2011「TESE」製作委員会
──試合のない練習日の典型的な一日の過ごし方を教えてください。
練習時間は基本、決まっていません。ただ13時の練習だと少し夜更かししてしまうので、昼ご飯を食べるタイミングが難しいです。基本的に普段は12時前に寝るようにしてます。自分はかなりの引っ込み思案なので、予定の無い日はドロのように家にいます。
──ドイツで暮らしていて、不便・不自由に感じることはなんですか。
最近は不便に感じる事は特になくなってきましたが、いまだに実家から大量に送られてくる郵便物にいつも顔をしかめています。それと歯医者に行くときとかは本当に緊張します。あとは車が故障したときなど、自分の無力さを痛感して悲しくなります(笑)。
──ドイツのサッカーファンと日本のサッカーファンとの違いがあれば教えてください。
単純にこっちは感情むき出しですね。良いときはいいけど悪いときは交代の時にブーイングされます。少ししんどいときが多いですが。まぁ甘やかされない環境で自分で道を切り開く事を決心させてくれます。でもやっぱり優しく支えてくれる日本の雰囲気の方が僕は好きですし恩返しをしたいと思うし、うまくいったときは喜びを分かち合えます。
©2011「TESE」製作委員会
──来年の目標を教えてください。
イングランドorドイツの1部にあがります!!
──本作は全国順次公開していきますが、これから観に行く人たちに向けて何かメッセージをお願いします。
日本で在日というマイノリティとして育ってきて、子供の頃からそれなりに自分の運命を考え込むことが多かったのですが、サッカーでここまで上り詰めました。この映画で少しでも「在日」について知っていただけたら光栄です。
(インタビュー・文/隅井直子)
■鄭 大世 (チョン・テセ) PROFILE
1984年愛知県名古屋市で、在日韓国人2世の父親と、在日朝鮮人2世の母親のもとに生まれる。当時の日本の法律上、父親の国籍が子供の国籍となったため(現在は両親のどちらかの国籍を選択できる)韓国籍だが、母親の方針で朝鮮学校で教育を受け北朝鮮を祖国とみなし、2007年に韓国籍ながら念願の北朝鮮代表に初選出される。2009年6月には、北朝鮮代表として44年ぶりW杯出場を決めた。2010年W杯南アフリカ大会出場。その後、現所属のドイツ・ブンデスリーガ2部のVfLボーフムに移籍、アジア人離れした抜群の身体能力で高い評価を獲得している。
『TESE』
12月10日(土)より、渋谷アップリンクほか、全国順次公開
これまで数々の在日サッカー選手が北朝鮮代表に名を連ねたが、ほとんどの選手が「お客様」扱いで主力として考えられてこなかった。そんな状況下で現れた待望のストライカー、鄭大世。日本では攻撃的な重量型選手として、日本代表に彼がいればと願うサッカーファンは多かったはずだ。しかし、彼は北朝鮮代表を選んだ。スポットライトに照らされた日本代表選手たちの影で必死にゴールを求めてきた男を、カメラは深く見つめ続ける。日本・韓国・南アフリカ・ドイツ・ベトナム・北朝鮮。撮影時間1000日、世界6ヵ国で撮影された魂のドキュメンタリー。
映画公式サイト
12/24(土)テセ選手の舞台挨拶&サイン会決定!
◆10:45の回上映後 登壇:チョン・テセ選手
◆14:25の回上映後 登壇:チョン・テセ選手、カン・ソンミョン監督
詳細はこちらをご覧ください。
▼『TESE』予告編
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在日コリアン3世の若きストライカーを追ったドキュメンタリー : 12/10より公開の映画『TESE』監督インタビュー(2011-12-11)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3341/
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