ニコニコ動画のクリエイターたちによるレーベルBALLOOMは2011年春の設立以来、コンスタントに作品をリリースしてきたが、今回第6弾として発表されるのは、アゴアニキのアルバム『アゴアゴーゴーゴー』。楽曲ごとに人気ボーカロイドを駆使しクリエイトしてきた彼の集大成といえる作品となっている。人を食ったアーティスト名とタイトル、そしてキャラクターだが、その奥にあるのは、ソングライティングに対するゆるぎのないモットーと、いまだに打ち込みが苦手でキーボードでビートを作ってしまうという、彼のバンドマンとしての心意気のようだ。
ここを直せばもっと良くなる、を組み合わせた曲作り
──このアルバムの制作についてはどんな課題を持っていたんですか。
『アゴアゴーゴーゴー』では、いままでの曲を全力で録り直してすことができたんです。いままで同人で出してきて、ミックスはひとりでずっとやっていて、マスタリングだけお願いをしたんです。他の同業者のPからも「ミックスなんとかしろ」と怒られ続けて(苦笑)、自分でもダメなところを感じていました。今回はエンジニアの人についてもらってミックスとマスタリングをお願いして、最初からスタジオでのレコーディングだったので、満足いくかたちでできたんです。各パートがしっかりパワーを持って聴ける音になっていると思います。過去の曲は、特にボーカロイドの曲は自分のアプローチがいま聴くといろいろできたんじゃないかという部分も細かくあったので、基本的に、大きいリアレンジを加えるのではなく、いまできるクオリティで仕上げるということで作ってみました。
──ミックスとマスタリングは、くるりやスネオヘアーを手がけたことで知られるカフェオ・レーベルの原朋信さんが担当していますね。
本格的なレコーディング自体ほとんど経験がなかったのですが、とてもやりやすかったです。原さんの人柄もありますし、スタジオ自体が大きいブースじゃなくて、ほんとうにワンルームで宅録の延長線上みたいだったのが、自分のやりかたにとても合っていたと思います。ギターの音色などについても、原さんに助けていただいた部分はとても大きいです。
──これまでというのは、ご自身の理想とするサウンドがあって、それに近づけていくような作り方だったんですか。
特別具体的にこのアーティストのこのアルバムという作り方ではなかったんです。でもその音のもとになったのは、今回ゲストアーティストで元センチメンタル・バスの鈴木秋則さんに参加していただいたんですが、自分のサウンドの重ね方とかコード進行、ちょっとうねるようなシンセとか、自分が音楽を始めたときにすごくセンチメンタル・バスに影響を受けたことがあると思います。今回アレンジしていただいて感無量ですね。これだけは他の曲のアプローチと違って、ムーグで大暴れしていただいています。
──センチメンタル・バスやリンドバーグといったJポップがアゴアニキさんの原点なんでしょうか。
曲がキャッチーというのは自分でもすごく意識している部分です。実は曲を作りはじめたのは遅くて、5年くらい前なんです。それまでいろんなバンドを組んでいて、それぞれのバンドにかっこいいところがあったのですが、ここを直せばもっと良くなるのに、というのを組み合わせた結果の曲作りになっていると思います。すごいキャッチーな曲を書くのに曲の長さが6分になるとか(笑)。長さ的には3分30秒を超える曲は作らない、それがニコニコ動画やライブ向けだったのかな。1曲スパッと聴いてちょっと物足りないかもと思えるくらいのサイズを意識しています。
テーマさえ決まってしまえば、歌詞も一気に作れる
──歌詞については?
音楽面は今までのノウハウがあるんですけれど、歌詞に関しては作曲を始めたとき、「HAKOBAKO PLAYER」がはじめての作詞だったんです。ライブハウスや対バンから曲については話が出てくるんですけれど、歌詞について触れられることってぜんぜんなかったんです。それがニコニコ動画に上げて、リスナーの人たちって歌詞を重要視して聴いてくれてるということを感じられた部分で、歌詞もがんばらないとなと。このまえ、今回のアルバムにも参加している、自分のバンドAGOBOTのギタリストのだいに言われたんですけれど「アニキの曲は企画力、テーマありきだから」と言われて、なるほどなと思ったんです。テーマさえ決まってしまえば、歌詞も一気に作れる。でもそこに、ちょっとふざけてんじゃねえのみたいなタイトルにしてしまったり(笑)。曲自体はまじめなんですけれど、そのまま書いちゃうのが恥ずかしいところがあって。自分で作っている動画も、へんなところを入れないと恥ずかしくて。
──すごくコンパクトなんですけれど、構成とともに、要素がギュッと詰まっている印象があります。
それも過去のバンドからの反省点で、「イントロなげえよ!」というのだけは回避したかったんです。ライブハウスで最初に聴くバンドで、イントロのフレーズでまずとりあえず最後まで聴いてみようかってなる。だから自分の曲でも、イントロはサビのフレーズと同じくらい悩んで力を入れています。イントロも長くせずにすぐ切って早く歌に入る構成にしています。CDショップの試聴機でもそうですが、20秒くらいでAメロに入らないともやっとするので、長くせず密度を濃く、という構成を意識しています。
──そして、アゴアニキさんの曲にはやっぱりバンドサウンドがベースにあるんだなと感じました。
今回のレコーディングでなによりいちばん変わったのは生ドラムになったことで、勢いとグルーヴ感の強みがあると思います。「わすれんぼう」のようなテンポの早い曲は、自分でもこんな曲だったんだと再認識しました。
──今回BALLOOMからメジャーの流通で出すことについては、どんな気持ちですか?
BALLOOMに誘われたとき、このメンバーなら安心というか、ぜったい楽しいレーベルだなと思ったので、それがこのレーベルで活動するときの理由として大きかったと思います。BALLOOMのアーティストの方はそれぞれやりたいかたちでテーマを持ってアルバムを作っているんですけれど、自分の場合は、ほんとうにベストアルバム的な、いままでニコニコ動画でボーカロイドを聴いてくれた人への恩返してとしてひとつかたちにできたらなと思って作りました。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
アゴアニキ プロフィール
VOCALOIDプロデューサーのひとり。明るいバンドサウンドに哀愁の漂う歌詞を乗せ、独特の世界観をかもし出している。歌詞は「駄目な自分を皮肉りながらも、前向きに生きようとする」という内容が非常に多く、まさに「兄貴」のような包容力をファンに感じさせる。2008年最初の作品「HAKOBAKO PLAYER」をニコニコ動画で発表。オリジナル5作目となる「よっこらせっくす」にて、初のVOCALOID殿堂入りを果たす。さらに6作目、自身初となる巡音ルカで制作した「ダブルラリアット」では、投稿2日目にして殿堂入りとなる。
BALLOOM公式HP http://balloom.net/
アゴアニキ公式HP http://agoaniki.blog57.fc2.com/
アゴアニキ
『アゴアゴーゴーゴー』
発売中
DGLA-10009
2,000円(税込)
BALLOOM
★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。
Amazonにリンクされています。