「V.R.」2009年/原美術館
当たり前の話だが、美術作品がホワイトキューブの中でのみ展示される理由はないし、「音楽家の演奏はライブハウスやクラブで行われなければならない」というルールなどない。他者と十把一絡げに扱われ、既存のジャンルの中へと回収されそうになった途端にそこからはみ出してしまうような表現がある、と言い換えてもよいだろう。
蛍光灯が点灯時に発生させる微弱なノイズをピックアップで増幅し、アンプリファイし、空間を光と音で満たすことのできる装置(伊東は“音具”と呼ぶ)「オプトロン」の作者であり、その実演者として知られる伊東篤宏は美術家である。しかし、近年は彼の姿を所謂「音楽の現場」で目撃することが増えている。
東京のストリートを体現する音楽=ヒップホップと、(まるでキノコの菌糸のように)地下で広範なネットワークを築いている東京の“実験音楽”のシーンの共存をごく自然に実現させてしまっているレーベル 「ブラック・スモーカー・レコーズ」より、伊東のCD作品『Midnight Pharmacist』がリリースされたことは記憶に新しい。オプトロンのサウンドを軸としたトラックメイキングの独自性とその強度によって、耳新しい「音楽」を成立させてしまったこのアルバムは、ヒップホップのリスナーのみならず多くの熱心な音楽ファンにショックを与えた。これまでに数多くの音楽家とのセッションをこなしてきた伊東だが、セッションごとにその内容が異なるために、彼が関わっている音楽、或いは伊東自身の「音楽」について、特定のジャンルに紐づけて語ることは不可能だ。くどいようだが伊東篤宏はやはり美術家…なのだろう。
伊東は、蛍光灯のように日常生活の中に当たり前のように存在する「モノ」を用いて、ある時には思わず吹き出してしまうような間抜けな「モノ」に作り替えて提示したり、またある時には、それが使いようによっては凶器にもなり得る危険な「モノ」であるということを観客に知らしめるようなゾッとする空間を演出することを得意としている。観客の認識そのものの転覆を目論見ながら、同時に有り体なカタルシスへの耽溺を周到に回避し、オプトロンはライブハウスであろうがギャラリーであろうが、空間そのものを冷徹に照らす。音が飛び交うがらんどうの空間が照らされたとき、そこに映し出されるもの、そして映し出されないもの正体とは何か。
伊東篤宏がUPLINK FACTORYで敢行する一夜限りのエキシビジョン/パフォーマンス。伊東篤宏の表現を密室の中で体験的に鑑賞することの出来る、この「計画漏電」と名付けられた“夜のアトラクション”をご堪能あれ。照らされ、奏でられる宇宙の真っ只中で、どうぞ遠慮なく迷子になってください。
(文:倉持政晴)
「Audible Vision」2002年/多摩美術大学美術館
「目眩の装置」2006年/川崎市民ミュージアム
「目眩の装置」2006年/川崎市民ミュージアム
「Sound & Object」2008年/Bank ART NYK hall(撮影:Ryu Itsuki)
「Sound & Object」2008年/Bank ART NYK hall(撮影:Ryu Itsuki)
「Sound & Object」2008年/Bank ART NYK hall(撮影:Ryu Itsuki)
「Sound & Object」2008年/Bank ART NYK hall(撮影:Ryu Itsuki)
「Sound & Object」2008年/Bank ART NYK hall(撮影:Ryu Itsuki)
「V.R.」2009年/原美術館
「計画漏電」伊東篤宏 エキシビジョン/パフォーマンス
(UPLINK「夜のアトラクション」Part.1)
蛍光灯が放つ光とサウンドを同時にあやつることを自らの表現と定め、その活動領域を今なお拡張し続けている美術家の伊東篤宏が一夜限りのエキシビジョン/パフォーマンスを行います。観客は、開演と同時に完全暗転される会場の暗闇に身体を包まれ、伊東篤宏によってプログラムされたエキシビジョン/パフォーマンスを全身で体験的に鑑賞することができる……という、まさに夜のアトラクションというべき空間がアップリンク・ファクトリー内に現出します。ぜひご参加下さい。
(アトラクションの性質上、入場者数は50名限定とさせて頂きますので予めご了承下さい)
出演:伊東篤宏(美術家)
日時:2011年11月23日(水・祝)19:30開場/20:00開演
料金:予約2,300円(予約方法は下記をご覧下さい)
当日2,500円(予約・当日あわせて先着50名限定)
会場:渋谷UPLINK FACTORY(Bunkamuraより徒歩3分)
Tel.03-6825-5502 / http://www.uplink.co.jp
東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階
予約方法
このイベントへの参加予約をご希望の方は、
(1)お名前
(2)人数 [一度のご予約で3名様まで]
(3)住所
(4)電話番号
以上の要項を明記の上、
件名を「予約/11月23日『計画漏電』」として、
factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込み下さい。
伊東篤宏(いとう・あつひろ)
photo : Kerstin von Gabain
美術家、OPTRON奏者。1988年に蛍光灯音具OPTRONを創作。以後、改良を続けて現在に至る。国内・外の現代美術のフィールドからクラブミュージックの領域まで、美術、音楽、ダンス等のジャンルを横断した幅広い活動を続けている。最新音源は『Midnight Pharmacist』(BlackSmoker records/CD/2011年)。
http://gotobai.net/
UPLINK「NIGHT ATTRACTION」Part.1
ATSUHIRO ITO Exhibition / Performance?Planned-rolling Electric Leakage
Atsuhiro Ito defines his expression as simultaneously manipulating light and sound of the fluorescent lamps named "OPTRON". He has been expanding his field and will hold a one-night-only exhibition / performance. Once the show starts, the venue will turn for a total blackout and the audience will be wrapped in the darkness and their whole body will experience the exhibition / performance programmed by Atsuhiro Ito. A night attraction will emerge in UPLINK FACTORY. Please come.
(Please note: limited to 50 people only due to safety reasons.)
Date
Wed. 23 Nov. (national holiday)
Open 19:30 / Start 20:00
Tickets adv. 2,300 yen (accepting reservations at UPLINK FACTORY website)
door 2,500 yen (limited to 50 people including reservation)
Venue
UPLINK FACTORY in Shibuya, Tokyo (3min. walk from Tokyu Bunkamura)
Tel.03-6825-5502 / http://www.uplink.co.jp
1F, 37-18 Udagawa-cho, Shibuya-ku, Tokyo 150-0042
Atsuhiro Ito
photo : Kerstin von Gabain
The artist known as inventor of OPTRON, the fluorescent lamps instrument. Since 1988, he has been improving OPTRON until now. His field crosses boundaries of contemporary art, experimental music, dance music and performing arts. His latest work "Midnight Pharmacist"(CD) was released from Black Smoker Records which is a HIP-HOP label based in Tokyo. http://gotobai.net/