スペインや中南米のラテン映画の〈今〉をどこよりも早く日本の映画ファンにアピールしてきた『ラテンビート映画祭』が開催。第8回目を迎える今回も、中南米諸国の気鋭の映画作家から大御所までが出品。まだ日本ではなかなか観る機会の少ないスペイン・ラテンアメリカの作品を堪能することができる。初日の9月15日(木)21:00からのペドロ・アルモドバル監督の最新作であり、今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、その怒涛かつ衝撃的な内容が話題を呼んだ『THE SKIN I LIVE IN(英題)』の上映も決定した。ご紹介する全14作品のなかには、あなたの琴線に触れる作品がきっとあるはずだ。
『キューバの恋人』[オープニング上映]
若き津川雅彦が恋の鞘当てを演じる日本キューバ合作
1959年に起こったキューバ革命から10周年を記念して製作された日本とキューバによる唯一の合作映画。主演のアキラを若き津川雅彦が演じ、その精悍なルックスで、革命と苦難の歴史が横溢するキューバで心奪われた女性マルシアを追う旅に出る船員を演じている。愛する人を探すロードムービーであると同時に、企画からロケまで10カ月を要して当時のキューバの現実をキューバ側の全面協力により撮影したドキュメンタリーの要素も多分に有しているのが見どころだ。カストロやチェ・ゲバラの演説や歓喜する群衆、道端で語らう市民など、当時のキューバの歴史的映像がふんだんに盛り込むなかで、日本とキューバの文化的な価値観の違いを見事に捉えている。
『キューバの恋人』
監督:黒木和雄
出演:津川雅彦、ジュリー・プラセンシア、フィデル・カストロ
1969年/日本・キューバ/95分
『キューバの恋人』
『THE SKIN I LIVE IN(英題)』[オープニング上映]
倒錯的世界に原点回帰したアルモドバルの話題作
フランスの作家ティエリー・ジョンケの『蜘蛛の微笑』を原作に、アルモドバルが20年ぶりにバンデラスを起用して制作した現実と妄想が錯綜するミステリー。形成外科医のロベルトは、交通事故で大やけどを負った妻ベラを再生させるため、新種の皮膚の開発を計画し、研究にのめり込むうちに、生身の人間を実験台として使うことを決断。2年後、ロベルトは、強靭な皮膚の培養に成功する。あっと驚くストリーテリングや鮮やかなカラーをこれでもかと使った映像の美しさを駆使し、初期アルモドバル作品に顕著だった倒錯的世界観が全開。今年のカンヌ映画祭でも論議を呼んだ話題作がいよいよ日本に上陸する。
『THE SKIN I LIVE IN(英題)』
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリサ・パレデス
配給:ブロードメディア・スタジオ株式会社
2011年/スペイン/117分
『THE SKIN I LIVE IN(英題)』
『BLACK BREAD(英題)』[プレミア上映]
一人の少年の視点を通して描くスペイン産サスペンス
スペイン内戦後のカタロニアを舞台に、フランコ政権による厳しい弾圧が行われていた冬の時代を一人の少年の目を通して描いたサスペンス。2011年のゴヤ賞最多9部門受賞をはじめ、数々の映画賞を受賞し、11歳の少年アンドレウは、森の中で崖下に転落した馬車を見つける。父親の遺体のそばに倒れていた幼子は森の洞窟に住むと噂される幽霊の名前「ビトルリア」を残して息絶える。警察は、事故は何者かに仕組まれた殺人と断定し、アンドレウの父ファリオルに嫌疑がかかる──。隅々にまで緊張感がみなぎった映像美、目の話せない語り口と、スペイン映画らしい魅力に満ちた作品だ。
『BLACK BREAD(英題)』
監督:アグスティ・ビリャロンガ
出演:フランセスク・コロメール、マリナ・コマス、ノラ・ナバス
配給:アルシネテラン 2012年、銀座テアトルシネマ他にてロードショー
2010年/スペイン・フランス/113分
『BLACK BREAD(英題)』(c) Massa d'Or Production Cinematografiques i Audiovisuals, S.A (c) Televisio de Catalunya, S.A
『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』
ボリビアの水戦争を描く社会派ドラマ
近年世界中で問題となっている水の利権争い。今作は2000年初頭に実際にボリビアで起こった水道事業を巡る「水戦争」と呼ばれる攻防をテーマとしている。ボリビアのコチャバンバを舞台に、そこで新大陸の発見者クリストバル・コロンを描く映画撮影のために訪れた映画監督とプロデューサーは、現地で欧米企業による横暴な水道事業の独占によって、多くの住民が水道料金の大幅な値上げに苦しめられている姿を目の当たりにする。エキストラに応募してきた先住民族のなかのひとりが撮影中に抗議運動に参加したことで、問題が勃発する。主演を務めるガエル・ガルシア・ベルナルのほか、コロンを演じたカラ・エレハルデは、2011年のゴヤ賞で助演男優賞を受賞するなど芸達者が重厚な社会派ドラマに仕上げている。
『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』
監督:イシアル・ボジャイン
出演:ルイス・トサル、ガエル・ガルシア・ベルナル、エンマ・スアレス
2010年/スペイン・フランス・メキシコ/99分
『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』
『うるう年の秘め事』
『愛のコリーダ』と並び称される激しい性描写を交えた物語
メキシコシティのアパートに一人で暮らす女性ラウラは、田舎の母親と電話で話したり、インターネットを利用して外の世界とつながりながら、平凡な生活をしていた。しかし夜になると彼女の生活は一変し、男たちを部屋に連れ込み、激しく身体を重ねるようになる。オーストラリア出身のロウ監督がカメラドール(新人監督賞)を受賞した2010年のカンヌ国際映画祭では、その激しい性描写で大島渚監督の『愛のコリーダ』と並び称されるほどの話題だった今作。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』や『ラスト・タンゴ・イン・パリ』をも思わせる退廃的なムードに彩られたうるう年に起こるこの物語には、孤独感や恋愛への飢餓感、やるせなさが充満している。
『うるう年の秘め事』
監督:マイケル・ロウ
出演:モニカ・デル・カルメン、グスタボ・サンチェス・パラ、アルマンド・エルナンデス
2010年/メキシコ/92分
『うるう年の秘め事』
『プールサイド』
16歳の少年と高校教師による異色の恋愛ドラマ
アルゼンチン映画界の気鋭マルコ・ベルヘール監監督による、怪しげな魅力を放つ16歳の少年と徐々に彼の虜になっていく高校教師を主軸にした異色の恋愛ドラマ。高校教師のセバスティアンは目を怪我したと言う生徒マルティンを病院に連れていく。治療後、車で自宅へ送ろうとするが、マルティンは「家のカギを失くし、親と連絡もとれない」と巧みに嘘をつき、セバスティアンの家へ上がり込む。人目もはばからず、裸で部屋を歩き回るマルティンにセバスティアンは戸惑いを覚えるが……。みずみずしいカメラワークとふたりの駆け引きが不思議な余韻を残す。2011年のベルリン国際映画祭ゲイ&レズビアン映画部門(テディ賞)大賞を受賞した。
『プールサイド』
監督:マルコ・ベルヘール
出演:カルロス・エチェバリア、ハビエル・デ・ピエトロ、アントネラ・コスタ
2011年/アルゼンチン/87分
『プールサイド』
『マルティナの住む街』
ダメな男たちの一夏の思い出を描くコメディ
『蒼ざめた官能』のダニエル・サンチェス・アレバロ監督がキム・グティエレスを再び主演に迎えたコメディ。結婚式当日に花嫁に逃げられてしまったディエゴは、いとこのフリアンそしてミゲルとともに、青春時代に素敵な夏の思い出を作った懐かしの村を訪れる。失恋のショックを振り払うかのように、羽目をはずすディエゴは10年前の彼女マルティナと再会。またミゲルはマルティナの幼い息子と意気投合する。そしてフリアンは、旧友のバチが、酒に溺れ落ちぶれている姿に心を痛め、彼の再起に一役買うことにする。オフビートなムードを貴重に、大人になりきれない男たちを温かい眼差しで捉えたバディ・ムービーだ。
『マルティナの住む街』
監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ
出演:キム・グティエレス、ラウル・アレバロ、インマ・クエスタ
2011年/スペイン/101分
『マルティナの住む街』(c) ONLY HEARTS CO.,LTD.
『MISS BALA/銃弾』
メキシコの犯罪者界にメスを入れるバイオレンス作
2011年カンヌ国際映画祭ある視点部門出品作、実在するミスコンの女王ラウラ・スニガにまつわる事件をベースにしたハードボイルドなバイオレンス・ムービー。平凡な若い女性が、事件の目撃者となったことをきっかけに、変貌を遂げていく姿を描く。ミス・バハ・カリフォルニアになることを夢見る23歳のラウラは、友人と出かけた国境の町のナイトクラブで、ある凄惨な虐殺現場に鉢合わせる。ラウラは警官に助けを求めるものの、彼らは犯罪組織と深いつながりを持っていた。犯人グループのリーダー、リノは命を助ける代わりに、ラウラに犯罪に手を貸すよう命じる。銃社会や麻薬密売、警察の汚職といったリアルな描写に注目。
『MISS BALA/銃弾』
監督:ヘラルド・ナランホ
出演:ステファニ・シグマン、イレーネ・アスエラ、ミゲル・コトゥリエル
2011年/メキシコ/113分
『MISS BALA/銃弾』
『チコとリタ』
アフロ・ジャズをテーマにした傑作音楽アニメーション
40~50年代のアフロ・ジャズ・シーンを主題に、若きジャズ・ピアニストのチコと、美しいシンガー、リタというふたりの激動の人生を描く。米国に渡りミュージシャンとして成功したいという夢を持つふたりだが、キューバとアメリカの関係の悪化が恋人たちの前に立ちはだかる。まさにアフロ・ジャズを視覚化したかのようなリズミカルで躍動感に溢れた絵の美しさが秀逸。監督のフェルナンド・トゥルエバは『カジェ54』などラテン音楽をテーマに数々のドキュメンタリーを製作し、『ベル・エポック』でオスカーも受賞している。音楽監修とチコの演奏はキューバ音楽のベテラン、ベボ・バルデスが務めている。
『チコとリタ』
監督:フェルナンド・トゥルエバ、ハビエル・マリスカル
出演:リュイ・オマル、カルメン・マチ、イマノル・アリアス
2010年/スペイン・イギリス・キューバ/94分
『チコとリタ』
『人生は一度だけ』
スペイン+ポリウッドなエンターテインメント作
異なるキャラクターを持つ3人のインド人がスペインで過ごす休暇の途中で、新しい自分を発見していく物語を、ボリウッド映画の定番である歌と踊り満載で描く。結婚を間近に控えたカビールは、親友のアルジュンとイムラーンとともに、独身最後のスペイン旅行に出かける。旅先でも仕事に追われるビジネスマンのアルジュンは、魅力的な女性レイラと出会い、自分の生き方に疑問を持ちはじめる。その一方で、お調子者のイムラーンには、スペインへ来たもう一つの目的があった。スペインの陽気さとインドのエンターテインメント性という、これまでにない折衷を果たした、とにかく楽しめる作品に仕上がっている。
『人生は一度だけ』
監督:ゾーヤー・アクタル
出演:リティック・ローシャン、ファルハーン・アクタル、アバイ・デーオール
2011年/インド/155分
『人生は一度だけ』
『トレンテ4』
スペインのはみ出し中年刑事の珍道中を描く人気シリーズ
『ボラット』や『ブルーノ』でお馴染みのサーシャ・バロン・コーエンが2012年に本作のハリウッドリメイクを予定しているという、スペインの人気シリーズが登場。マドリッド警察のはみ出し者の中年刑事トレンテの周りでは、いつも珍事件が続発し、トレンテは否応なしにトラブルに巻き込まれていく。マドリッドを舞台に、彼とこれまた大ボケの相棒の珍道中は、どこを切っても楽しめるし、とにかくこのトレンテのお間抜けなキャラが最高。彼を演じ今作の監督も担当するサンティアゴ・セグーラは、スペインの国民的コメディアン。シリーズ4作どれもが高い人気と動員を記録しているのも納得の快作だ。
『トレンテ4』
監督:サンティアゴ・セグーラ
出演:サンティアゴ・セグーラ、キコ・リヴェラ、カニータ・ブラヴァ
2011年/スペイン/93分
『トレンテ4』
『カルロス』
70年代に実在した伝説的テロリストの生き様
パレスチナ解放人民戦線(PFLP)のテロ計画に参加するなど70年代に暗躍したベネズエラ人の伝説の国際テロリスト、カルロス・ザ・ジャッカルことイリイッチ・ラミレス・サンチェスを主人公にしたテレビのミニシリーズ『コードネーム:カルロス 戦慄のテロリスト』を映画として再編集。実際のニュース映像を交えていく手法が功を奏し、1949年にベネズエラで生まれた彼が、過激派として資本主義社会を憂い次第にテロ活動に関わっていく生き様がリアルに伝わってくる。エドガー・ラミレス演じるカルロスのダークヒーロー的な佇まいとシャープなアクションにしびれる。
『カルロス』
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:エドガー・ラミレス、アレクサンダー・シェール、アーマッド・カーブル
2010年/フランス・ドイツ/165分
『カルロス』
『リオ!ブルー 初めての空へ』
華やかなサンバのリズム満載な青いインコの冒険
人気アニメ『アイス・エイジ』シリーズの監督である、リオデジャネイロ出身のカルロス・サルダーニャがジェシー・アイゼンバーグ、アン・ハサウェイ、ジェイミー・フォックス、ロドリゴ・サントロという豪華な声の出演を迎え運命に翻弄されるコンゴウインコのブルーの活躍を描く。雛のときに捕えられ、アメリカへ売られてしまったブルーは搬送中に逃げだし、心優しい少女リンダに助けられる。15年後、店に現れた鳥類研究家のブラジル人トゥーリオが現れ、リンダとブルーは、トゥーリオが連れてきた雌鳥ジュエルとともに、ブルーの故郷リオを訪れる。華やかなサンバの音楽と豊かな色彩感が高揚感をかきたてる。
『リオ!ブルー 初めての空へ』
監督:カルロス・サルダーニャ
声:ジェシー・アイゼンバーグ、アン・ハサウェイ、ロドリゴ・サントロ
2011年/アメリカ・ブラジル/96分
『リオ!ブルー 初めての空へ』 (c)2011 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『THE LAST CIRCUS (英題)』
仄暗いサーカス団のラブ・ストーリー
スペイン映画界のヒットメーカーであるアレックス・デ・ラ・イグレシアがサーカスを舞台に送るダークな色合いのラブ・ストーリー。道化師の中年男ハビエルは、同じく道化師として人気を博していた父に憧れていたが、回ってくるのはピエロばかりで人気も実力も父には及ばない。ハビエルは人気道化師のセルヒオの妻ナタリアと惹かれあうようになるが、暴力癖のあるセルヒオから嫌がらせを受けるようになる。2010年のベネチア国際映画祭ではコンペ部門審査委員長のタランティーノから絶賛され、銀獅子賞と脚本賞をダブル受賞。サーカス団に生きる人々の夢と悲哀を描くタッチは『ダークナイト』のスペイン版と形容したくなる仄暗い魅力がある。
『THE LAST CIRCUS (英題)』
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
出演:カルロス・アレセス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、カロリーナ・バング
2010年/スペイン/108分
『THE LAST CIRCUS (英題)』
第8回 ラテンビート映画祭
[東京]2011月9月15日(木)~9月19日(月・祝)新宿バルト9
[京都]9月22日(木)~9月25日(日)T・ジョイ京都
[横浜]10月7日(金)~10月10日(月・祝)横浜ブルク13
・当日券(1回券):一般1,700円/学生1,500円/小人、シニア、障害者手帳をお持ちの方1,000円
(前売券:一律1,500円)
・回数券(5枚綴り):6,000円(前売り券のみ)※枚数限定販売
※詳しくは公式ページまで!!